バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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ドキドキ魔物当てクイズ

 

 

 ギルドにはいくつも小部屋がある。

 依頼者があまり大っぴらにしたくない話だとか、込み入った依頼内容だとかを聞くための部屋だ。ギルド職員はその辺りの話を詳しく聞いて、内容を精査したり報酬金額などを詳しく決め、俺たちギルドマンに割り振るわけだ。

 他にも貢献度を支払うことで一定時間この個室を借りるということもできる。できるがあまりそういった使い方をしてる奴はいない。別に何が置いてある部屋でもないしな。ただ、防音性は良いしギルド内にあるものだから、パーティー加入に際した面談とかで使われることはあるようだ。

 まぁ、色々と使い道のある部屋なわけ。

 

 そしてこの個室は、ギルドマンの昇級試験なんかにも利用されることがある。

 

「ほーい、じゃあ五問出すぞー」

「いつでも大丈夫よ」

 

 机を挟んで向こう側にダフネが座っている。

 今この部屋には他に、俺の横で受付のラーハルトさんがメモを片手に待機しているだけだ。

 回答者、出題者、そして採点者である。

 

「はい、この羊皮紙に描かれている生物はなーんだ」

 

 俺は一枚の古ぼけた羊皮紙を机の上に出して見せた。

 どこか味がありつつもよく特徴を捉えて描写された、デブな鳥である。

 

「……これはマルッコ鳩、動物ね」

「よし、じゃあこいつは討伐していい動物か?」

「してもいい奴ね。けど討伐証明は必要ない奴よ」

「お、先に言われちまったか。よし正解だ」

 

 隣のラーハルトさんがメモに何かを書き込んだ。悪いことではないだろう。

 

「第二問、この生物はなーんだ」

「イビルフライ、魔物よ」

「よし。じゃあこいつは討伐していい奴か?」

「ええ。討伐証明は右の複眼だったはず」

「よーし正解だ。……討伐しても良いけど、もしこいつと出会ったら慎重になれよ?」

「わかってるわよ。今はテストでしょ。続きをお願い」

 

 そう、今はテスト中である。

 内容は魔物や動物の知識テストだ。バロアの森などでよく出現する身近な魔物についていくつかの種類からランダムに出題し、ギルドマンの狩人としての知識を試すものである。

 森の中には狩っても良い奴もいれば、狩っちゃいけない種類の奴もいるからな。討伐任務に当たる奴もそうでない奴も、最低限の知識は備えていなくちゃならない。

 特に討伐証明の部位を間違えて持って帰ったなんてミスをやらかしたら大損になってしまうだけでなく、パーティーを組んでいたら人間関係まで大変なことになるだろう。

 ブロンズを目指すギルドマンにとっては必修科目のようなものだ。

 もちろん、罠による狩猟を目論むダフネにとっても例外ではない。

 

「よし次の問題、この動物はなーんだ」

「チャージディア。討伐可能で証明は尻尾」

「まぁここらへんはわかるか。次四問目……せっかくだし難しい問題選ぶか」

「ちょっと!」

「モングレルさん、公平にお願いします」

「あ、すんません」

 

 ラーハルトさんは真面目な男である。

 ……しょうがねえ。まぁダフネに出す問題だし、これから出会うかもしれないタイプの魔物を選んでいくとしよう。

 

「気を取り直して四問目。こいつはなーんだ」

「……シルバー……じゃない、えっと、ホーンウルフね。討伐可能で証明部位は角よ!」

「正解。なんだよ危なげなくてつまんねぇな。最後の五問目だ」

 

 テーブルの上に置いたのは一際手垢で汚れた古い羊皮紙。

 こいつを間違えたら落第点だぞ。

 

「クレイジーボア、討伐可能で証明部位は尻尾!」

「正解!」

「はい、五問全て正解しましたね。問題ないでしょう。……別日に実技の方も及第点に届いているようですし……ええ、アイアン2への昇級も問題なさそうですね」

「私、もうこれで昇級したってことですか?」

「はい。手続きはこちらの方で行わせていただきます」

「やった!」

 

 おめでとうダフネ。まぁ普段から真面目にやってたからな。トントンと上がっていくのはわかっていたぜ。

 サボらず腐らずアイアンの地味な依頼を何個もこなしていれば上がるのは早い。

 それに身元もはっきりしているしな。流れの根無し草な奴だと信用を得るまでに時間がかかるが、街の中にちゃんと居を構えている人間ならそのあたりは自動でクリアになる。とはいえ、ブロンズに上がるまでにはさすがに時間がかかるだろう。

 それまでに戦闘能力ももうちっと磨いておかないとな。

 

 

 

「モングレルさん、今日はお手伝いいただきありがとうございます。結局五人分の試験を手伝っていただいて……」

「ああ、別に構わないよラーハルトさん。暇だったし、タダでやってるわけでもないからな」

 

 とはいえ数百ジェリー程度の子供のおつかいレベルの報酬である。

 けど絵の描かれた羊皮紙を見せてクイズを出題するのってそれだけで結構面白いからタダでも喜んでやるんだけどな。

 

「しかしいつも問題出すのに使ってるこの羊皮紙、古い奴はヘタってきてるなぁ……クレイジーボアなんて触られすぎてちょっとツルツルしてるよ」

「それらの古い絵は昔、この支部に務めていた絵の上手い方によるものだと聞いています。捨てるほどでもないので、もう何年も使い続けていますね……」

「うん、確かに上手い。俺にはこういう、わかりやすい絵ってのは描けないな……」

 

 俺も絵心が無いわけじゃない。実はそこそこお絵描きができるタイプの人間だ。

 長いこと漫画研究部に入り浸って漫画をダラダラ読んでいただけじゃないんだ。たまには思い出したようにイラストを描く練習もやってたんだぜ。

 アニメっぽい女の子の描き方を教えてくれた副部長には感謝だ。時々アミュレット作りに使わせてもらってます……。

 

「ですがまだこれでも、バロアの森にいる魔物を全種類網羅しているわけではありません。本当であれば、もっと多様な鳥類も問題として用意しなければならないのですが……」

「鳥は出題されても難しいなぁ……俺でもちょっと自信ない」

「はい。以前はあったのですが、正答率が著しく低かったのと、絵の出来栄えが微妙で経験者の狩人でも誤答していたことから使われなくなったそうです」

「うわ、そりゃ絵師の責任が重そうだ」

 

 鳥の見分け方なんて難しいからなぁ。フラッグバードとかセディバードとか色々並べられても困るもんよ。

 ライナみたいに飛び道具で鳥を狩るようなタイプのギルドマンだったらアリかもしれないが……絶対に獲っちゃ駄目ってやつを覚えるくらいしか俺たちには難しい。

 

 それにギルドマンなんて、結局獲っちゃ駄目な奴でも獲っちゃうしな。

 誰も見てなきゃみんな勝手に仕留めるし、その場で焼いて食ってしまうのだ。

 たまに殺しちゃいけない鳥の死骸が焚き火跡の近くに落ちてたりする。

 

「しかし今では資料室の図鑑本も充実してきましたので、ブロンズ向けの問題としてマイナーな魔物の絵も揃えようかという話が、我々の中でもありまして」

「ほー」

「鳥はさすがに、失敗の前例があるので及び腰になるでしょうが……判別しやすい魔物であれば、いくつか追加しようかと」

「そりゃ面白いね。あ、魔物の絵だったら簡単な奴なら俺も描けるぜラーハルトさん」

「それは……いえ、専門の方にお任せしますので」

 

 断られた。おのれラーハルトさん、俺の画才を信用してないな?

 良いのかよ。俺は見なくてもハルヒの制服姿を描けるんだぜ?

 

 ……しかし改めて考えてみると俺、犬とか猫とか多分描けねえな? あぶねえ、安請け合いするところだった。

 

「レスターっていう奴は王都で書生やってたおかげか結構絵が上手いんだけど、やっぱりこういうのって画家さんとかに頼むのかな」

「書生ですか。ふむ……いえ、それくらいであれば、都合が良いかもしれませんね。レスターさんですか。代筆や写本はよく手伝っていただくのですが、彼にそのような特技があったとは」

「動物系が得意かどうかはわからないけど、声かけてみるといいよ。よそに頼むより安上がりになったりして」

「そうですね。費用は可能な限り抑えたいので……一度、彼に声をかけてみようと思います。情報提供していただき、ありがとうございました。モングレルさん」

「いやいや、良いってそんな」

 

 ラーハルトさんはほんと生真面目なお人だわ。

 長くやってる同僚や年下の部下に対してもこんな感じなのはなかなかすげーなと思う。

 もっと気楽に仕事してたほうが健康には良いと思うけどな。

 

 

 

 その日、俺は宿に戻ってから試しに犬や猫のイラストを描いてみたんだが……うん。

 あの出題用の羊皮紙に魔物の絵を描いた人たちは、みんな上手かったんだなと再確認しただけであった。

 

 動物描くのむっず……。

 

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