バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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相打ち試合

 

 騎士と常備軍の枠が拡張されるらしい。

 まぁつまるところ軍人さんである。今まではほぼほぼ一定だったその枠が、来年からは広がってより大人数を受け入れるようになると。そういう話なわけだ。

 去年のサングレール聖王国の侵攻もあるだろうし、近頃はハルペリア全体が潤っていることもあるのだろう。余裕のあるうちに軍備を整え、有事に備えたい。それは国にとって真っ当な感性だろうと思う。

 

 “大地の盾”副団長のマシュバルさんなんかはこれを機に新入りの育成をより重点的に行うつもりらしく、ブロンズに上がった連中の中から有望なルーキーをパーティーに取り入れるつもりのようだ。

 アレックスはそこにウォーレンなんかはどうだと推薦しているようだが……さて、どうなるかな。ウォーレンも真面目にやっているが、“大地の盾”はとことん実力主義だからなぁ……。

 

 

 

「お願いしますよモングレルさん。俺に対人戦の稽古つけてくださいよ」

「いやお前なぁ……俺は魔物専門で対人は詳しくねえって。アレックスとかロレンツォに聞けよそういうことは」

 

 修練場で久々に弓の練習をしていると、ちょくちょく新米から声をかけられるようになった。

 ほとんどは相談事だ。対人戦を教えて欲しいだとか、コツとかないですかとか……まぁそんなもんだ。けどこっちは矢を的に当てるだけで必死なんだよ。

 

「ほら、向こうに暇そうなロレンツォが型稽古やってるぞ。あいつから基礎を教わってこい」

「聞こえてるぞ。別に暇じゃない」

「ロレンツォさん教えてくれるんですか!」

「お願いします!」

「……あのな。……はぁ、わかった。だが一度しか教えんぞ。よく見て覚えろ」

 

 “報復の棘”のロレンツォは対人戦に特化した剣士だ。

 所属パーティーそのものが人対人メインでやってるところだから当然ではあるが、その中でもなかなか腕が良い。

 

 ハルペリア軍の扱う剣術とはちょっと違った我流っぽい動きではあるが、ロングソードの扱いは非常に優れている。

 

「違う、脚を先に出すな。こうだ」

「こ、こうですか!」

「悪くはないが、もっとこう。体に動きを覚え込ませろ」

 

 若者たちが汗を流して必死にやっている。殊勝なこったぜ。

 俺はこの秋、もうちょいマシな弓での狩猟を目指しているからな……なんとか形にしたいもんなんだが……なーんか上手く当たらん。三発に一発当たるようになったけど、三発に二発外してる時点で実践向きではない。もっと良い弓でも買うべきなんだろうか。俺は自分の実力よりも先に道具を疑うタイプだぞ。

 

「よし、そうだ。それを重点的に覚え込ませろ。話はそれからだ。以上!」

 

 おいおいロレンツォ、途中で教えるの面倒になったか?

 まだ十分も経ってないぞ。もうちょっと手取り足取り教えてやったらどうなんだ。

 

 と俺が思っていると、ロレンツォがこっちにやってきた。

 随分と疲れた顔をしている。

 

「……はぁ。教導役を俺に擦り付けるなよ……」

「いやいや、そんなつもりはねーって。実際俺よりも剣術わかってるだろ、シルバーランクなんだから」

「また調子の良いことを……」

 

 ロレンツォはあまり社交的なタイプではない。だいたい常にムスッとして黙っているタイプというか、朗らかに笑ったり盛り上がったりはしないタイプである。

 武人という言葉が似合うんだろうか。常に自己鍛錬と任務に精を出している。

 

 まぁこうやって修練場で自己鍛錬してるせいで色々なやつから声をかけられたりもするから、“報復の棘”の中ではまだ話す機会が多いんだが。

 

「なあロレンツォ。引退したネッサの様子はどうだよ」

「あ? ……ああ、ネッサか」

 

 ネッサはこの前まで“報復の棘”に所属していた女ギルドマンだ。

 歳は俺と同じくらいだが、任務中に負傷したことをきっかけにギルドマンを引退したことだけは知っている。彼女は“報復の棘”の中でも明るく社交的な方だったので、結構話す機会もあったんだが。

 

「治療を受けた後は、恋人のところに嫁いだよ」

「え、恋人? マジで? 知らなかったわ。いたのかネッサに」

「らしい。俺も知らなかった」

「ロレンツォもかよ」

「任務以外ではほぼ話さないからな……」

 

 辛気くせえパーティーだな本当に。こんなんでもある程度人が集まって離れていかないってんだから不思議なものだ。

 所属メンバー全員が悪人に対して何かしらの特別な敵意を抱いているっていうのがそもそもおっかないよな。雰囲気的には暗殺ギルドって感じがする。

 

「そんな話より、モングレル。俺に子守をさせたんだ。少し剣の打ち合いに付き合え」

「ええ? ……今は弓の気分だったんだけどな」

「向いてないんだから諦めろよ。何年やってるんだそれ」

「なかなか挑発が上手えじゃねえかロレンツォ……」

「事実を言ったまでなんだが……」

 

 適度な長さの木剣を手に取り、構える。防具はいらない。ロレンツォもつけてないし、お互いそこまで軟弱でもないしな。

 互いに身体強化が使えるとわかっているなら、目にさえ入らなきゃだいたいはセーフだ。

 

「いつでも来い」

「ふん、油断しやがって……いくぞ!」

 

 ロレンツォが素早く踏み込み、突いてくる。

 相変わらず突き技の好きな男だ。こっちの木剣の方が短いんだからもうちょいリーチ差が公平になるように剣を使ってくれよ。ガチバトルばっかりだと友達なくすぞ。

 

「よ、ほっ、……相変わらず厭らしい剣技だな。突きばっかやりやがって」

「洗練された剣技と言え! クソ……いつも余裕そうに弾きやがって……!」

 

 ロレンツォはそう言うが、さほど余裕ってわけでもない。無茶な体勢でも俺の肉体が持つ理不尽パワーで無理やり弾きにいけるっていうだけで、剣技という点で見れば俺のはお粗末な方だ。

 こうして自分の技量の無さを直視すると、ちょっと凹むな。剣術だけはそれなりに鍛えているつもりではあるんだが。上手いやつにはとことん敵わない。

 

「ま、その分パワーで補ってやるんだけど、な!」

「ぐっ……!」

 

 だがわざわざ同じ土俵に立つ必要はない。

 俺には俺の肉体があって、こいつに合わせた技術が備わってさえいればそれで良いんだからな。

 無駄を省いた技巧はたしかに素晴らしいもんだが、無駄を伴ったままパワーで押し通る剣術が扱えればなんてことねーのよ。

 

「ぐおお……馬鹿力め……!」

 

 鍔迫り合いにまで持ち込めたらもうこっちのもんだ。

 上から思い切り刃を押し付け、相手の体勢を崩しながら押し込んでゆく。

 

「ネッサのお別れ会はやったか?」

「やっ……て、ない……! 今それどころじゃ……!」

「はいドーン!」

「うおっ!?」

 

 上から押さえつけられる競り合いに甘えて握りが弱くなった時点で模擬刀を弾いて吹っ飛ばし、おしまい。

 途中で蹴りも入らなかったし実に平和な模擬戦だったな。

 

「はい俺の勝ち。どうしたロレンツォ、調子よくないな」

「だークソッ……またやられた……ああ? 調子は……どうなんだろうな。悪く見えたか」

「いつもだったらもっと足癖悪くなってそうなもんだけどな」

「ああ。脚は今、病み上がりでな。ナイフにやられた部分は完治しているんだが、まだ本調子まで戻ってないだけだ」

「うぇ、マジかよ。なんだよそれじゃあ素直に勝利を喜べねえな。全快してからまた挑んでくれ。その時はまた叩き潰してやる」

「ふざけろ。次は俺が勝つ」

 

 普段はあまり社交的なやつではない。だが、こうして戦いのことになると饒舌になったり、ムキになるところが面白いんだよな。

 

「……ネッサも、怪我を治せばまだ続けられたんだがな。ちょうどいい機会だからと、家庭を持つことにしたようだ」

「まあ、賢明な判断なんじゃねえの。お前らのとこのパーティーはいつどんな大怪我をするかわかったもんじゃねえからな」

「それはまあ……な」

 

 団長のローザは常に対人系の任務に挑み続けている。当然、任務のターゲットは人間なのだから相応の抵抗をする。腕の立つ連中であれば武器を持って。数が多ければ物量に任せて……。とてもではないが命がいくつあっても足りるもんじゃない。

 

「それでもうちの団長は今の方針を崩さんだろう。俺たちも、それを承知でついていってる。ネッサは……良いショテル使いだったが、俺たちのように暗い部分のない女だった」

「だな。タイプが違う」

「俺たちのようなパーティーは長くやっていると、ならず者共から逆恨みを買うからな。そういう連中に狙われにくくなるって意味でも、早めの離脱は正解だったのかもしれん。ネッサには陽の当たる場所で過ごしていて欲しいものだ」

「寂しくなるだろ」

「……まあ、静かになったよ。あいつがいないだけで、随分とな」

 

 ロレンツォが木剣を布で拭い、樽に戻した。

 今日のトレーニングは終わりのようだ。

 

「また明るい新人が入ると良いな」

「はっ。明るい新人ね……さて、どうだか……うちのパーティーに入るような奴が明るいだなんて、なかなかあることじゃないからな……」

 

 少し離れた場所では“大地の盾”入団志望の若者たちが、軍隊式らしい型訓練に励んでいる。

 パーティーの人気で言えば、まあ向こうみたいなところが一番だわな。こればかりはしょうがない。

 

「モングレル。お前もそろそろどこかに入団したらどうだ」

「おいおい、俺は“報復の棘”だけは勘弁だぜ」

「いやだから、俺たちの所というわけじゃなく、だ。……どことも仲が良いし……“アルテミス”ともよく任務を受けているんだろう。そういう所でも良いだろう、お前は」

 

 それはそれで勘弁してほしい話題だな……。

 

「ロレンツォみたいなガチガチに固めてるパーティーにいたんじゃピンとこないかもしれないけどな。いつでも一人で勝手にふらふらと任務ができるってのは何にも代えがたいメリットなんだよ」

「……そういうものかね」

「そういうもんさ」

 

 後ろ盾も柵も紙一重だ。俺としてはどっちも無い方が気楽でいい。人には勧めないけども。

 

「……ネッサのように、さっさと身を固めるのも一つの人生だと思うがね」

「俺のことはいいだろ。というかロレンツォも独身だろうが」

「俺はまだ良いんだよ、俺は……」

 

 よし、結婚の話はやめよう。はい! やめやめ。

 




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いつもバッソマンをお読みいただきありがとうございます。

これからも当作品をよろしくお願い致します。


ヾ( *・∀・)シ フニニニ…
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