収穫の時は近い。
これは“今年は無し”とはならないイベントだ。仮に戦争が起きたとしても、必ず収穫は行わなければならない。
巷の噂によると、今年は豊作だった去年を上回るほどの収量だろうとのことだ。なんだかどこぞのワインの品評みたいな言い方ではあるが、これはフカシでも間違いというわけでもない。農家だけでなく、国や権力者の主導で収量を上げる方法を実践している成果が出ているのだろう。
過去最大の豊作となっても不思議ではない。今年の収穫祭は賑やかになりそうだ。
で、豊作となると相応に収穫作業も大変になるわけで……。
ギルドマンにとってはお馴染み、収穫時期の警備任務が始まるわけだ。
「え? 収穫期は森に入っちゃいけないの?」
「結構ごっそりと人が減るからなぁ。何かと危ねぇから、レゴールからギルドマンが出ていく数日間は立ち入らない方がいいぜ。ダフネ達もまだ安全ってほど慣れてもないだろ」
「それはまぁ、そうだけど……うーん、人が減るなら猟のチャンスだと思ったのに」
「人が多いほうが安全だし、今のところはそういう時期に頼ったほうが良いと思うけどな」
今日はバロアの森でダフネ率いる“ローリエの冠”のメンバーの様子を見に来た。
というより、手伝いに近いだろうか。森の中に仕掛けた罠を確認し、掛かっていれば獲物に止めを刺して回収する。一連の作業にまだ慣れていないので、一緒に付いて来てほしいと言われたのである。
報酬は、クレイジーボアが取れた場合には格安でラードを譲ってくれると言われている。ラードはいくらあっても困らないので二つ返事でオーケーした。
「というより、あれか? ダフネはアイアンでもパーティーにローサーがいるよな」
「え? 呼んだ?」
すっとぼけた顔でパンを齧っているローサーが振り向いたが、こんなとぼけた顔をしている男でもブロンズランクだ。首に下げた認識票はウソをつかない。
「ローサーがブロンズならダフネ達“ローリエの冠”も警備に派遣されるかもしれないな」
「うそっ、……うーん、けどまあ儲かるならそれはそれで……」
「あ、モングレルさん。警備任務はあくまでブロンズランクかららしいんで、任務に出るのはローサーと俺だけらしいですよ。ダフネは街に残ります」
「まじか、パーティー同じでもそうなるのか。へぇ」
どうやらパーティーメンバーにブロンズが多くても、アイアンも一緒に……とはならないようだ。
まぁダフネも元々街で商人をやっていたのだから、その辺りは苦でもないのだろうが。
「うーん……いえ、行商するには良い機会だわ。任務は抜きで、私も二人について行くわよ」
「ええ……? それは難しいだろ、ダフネ。俺たちはブロンズだぞ?」
「……どうなんだろう、この場合。モングレルさんはわかりますか」
「ブロンズの任務に勝手にくっついていくってことか? あー……いや難しいな。馬車の護衛も兼ねてるから、お荷物が一人増えただけであってもトラブルが起きた時に責任を押し付けられるかもしれないぞ。向こうも面倒事は御免だろうしな」
「駄目なのね……わかった、私はレゴールで待っているわよ」
ダフネは目端の利く女だが、まだまだ実力不足だし経験不足感は否めない。
今はまだ地道に貢献度を稼ぎ、任務をこなしてランクアップに励むべきだろう。
ダフネも聞き分けの悪い奴じゃない。
駄目とわかれば落ち込んだ空気を引きずることはなく、目の前の仕事に集中を切り替えた。
そう、今は罠の確認が大事だぜ。
バロアの森に仕掛けた罠の確認。もちろん仕掛けたのは“ローリエの冠”の彼らで、設置したポイントは把握できている。
まぁ今のところこの設置作業は経験者のロディ頼りになっているが、ダフネやローサーもよく見て勉強しているみたいだし、パーティー全体で罠の扱いが達者になるのもそう遠い未来の話ではなさそうだ。
「こっちの罠も不発だなぁ。うーん……金具の臭いを警戒されたか。掘り返した土の臭いがまだ熟れてなかったか……また次回まで様子を見ておこう。ローサー、向こうの木にこっちの色紐くくりつけて来て」
「ああ、わかった」
「ダフネは地図のチェックを」
「ええ、ここの三本大樹よね? 収穫なし、次回確認……と」
罠猟は地道だ。
何が地道かって、罠の確認が何よりも地道だ。
仕掛けるのは良い。罠に掛かった獲物を仕留めたりもまぁエキサイティングだ。しかしそれらは実作業の中の一部でしかない。罠猟師にとっては、その作業のほとんどは設置した罠の見回りになる。
この罠っていうのは、近い場所にドンドンドンと密集させても効果は薄いもので、ある程度の距離を置かなければまともな成果は期待できない。
獲物の通り道を見極め、そこにピンポイントで仕掛け、入念に痕跡や人の気配を消す……それだけのことをやってようやく、罠にかかってくれるかもしれないというのがこの手の猟だ。
「こっちの罠も……外れだ」
「またかー」
「仕方ないわ……次よ次!」
基本はスカである。意気揚々と剣を握って設置場所に近づいても、大体獲物が掛かっていないのが罠猟だ。
「あーっ! こっちは掘り返されてるぅ!」
「……しかも紐が斬られてる。刃物だ……クソッ、誰かに盗まれた!」
「まじかよぉおお! 俺たちが必死に作った罠なのにぃ!」
そしてモチベーションに追い打ちをかけてくるのがこの“罠の盗難”だ。
獲物を引っ掛けた後、その獲物を盗んでいくだけならまだ良い。酷い時はある程度価値があるからって、設置してある罠を掘り返してパクっていく連中までいやがる。
しかも悲しいことにその相手はギルドマンだ。バロアの森に入り込んだら衛兵の目もないし、やりたい放題である。あまりモラルに期待するべきではない。
まぁそんな感じだから、罠猟はそこまで人気じゃないんだよな……。
「……まだよ、まだ終わってないわ! それにこれはただのくくり罠、価格も大したことない……! クレイジーボアを一体でも引っ掛けてれば黒字なんだから、次いくわよ、次!」
「お、おう!」
「それもそうだな……」
ところが“ローリエの冠”はへこたれない。
ダフネの持ち前のハングリー精神と商売精神は、二人の男ごと前へ前へと進んでいくだけのパワーがある。
すっかり姉御キャラが板についてきちまったな、ダフネは……。
「……あ! いたぞ皆……クレイジーボアだ!」
「おー、ほんとだ、かかってるな」
そして彼らの前向きな姿勢を神は見放さなかったのか、最後の方の罠でヒットがあった。
クレイジーボアである。まるまる太った立派なサイズだ。
どうやらくくり罠はクレイジーボアの前足に引っかかり、見事に奴の動きを絡め取る事に成功したらしい。
「うおおお……罠の周りやべえ、耕されたみたいになってる……」
「本当ね……ロ、ローサー。あまり怯えないでよ。あれはあんたが仕留めるんだからね」
「わ、わかってる……! 俺の槍に貫けないものはない……!」
前までソード系じゃなきゃ嫌だとごねていたのに、今ではすっかり槍好きになってしまったローサーである。使い慣れたらそれはそれで愛着が湧いたらしい。しかも今度は神話に出てくる槍使いのキャラの真似みたいなことも始めたとか……人生楽しそうな奴である。
「二人共落ち着け。罠はしっかりかかってるし、相手は動きの制限されたクレイジーボアだ。今まで通りやれば安全に仕留められる」
こういう時に頼りになるのは罠猟経験者のロディだ。
何匹か捕らえた経験もあるロディにとって、クレイジーボアの捕獲はさほど無理難題ってわけでもない。
「ローサー、大盾で前に出ながら注意を引くんだ……そう、そこの紐のある場所で……槍はまだ使うなよ」
「こ、こええ……!」
「……モングレルさん、危ないようだったら助けてもらえますか」
「ああ良いぜ。ていうかお前たちの罠猟を見てちょっと勉強させてもらうわ。なるほどね、こういうやり方するわけだ」
くくり罠は一本の樹木を支柱とし、獲物の足首を捕らえて抜け出せなくする。すると獲物は支柱とした樹木の周辺までしか動けなくなる。中には暴れまくって自ら足を切って逃げおおせる獲物もいるが、全部が全部そう覚悟が決まった奴らばかりでもない。
特にこの世界における罠用の紐は地味にみょんみょんと伸びたりしなったりするものだから、独特のクッション性によって足切れを起こしにくいと言われている。
「おーい、俺はローサーだ! かかってこい……!」
「ブモォ!」
「ひいっ」
「今よロディ、引いて!」
「よっしゃーッ!」
ローサーがタンク役としてヘイトを稼いでいる間に、地面に簡単なくくり罠を仕掛けてクレイジーボアの足に追加で引っ掛ける。
で、今度はそれを最初に引っ掛けた罠から離れる方向にグッとテンションを掛け、固定する。すると……クレイジーボアは別方向から引っ張られる二本のくくり罠によって身動きが取れなくなるわけだ。
こうすることでその場から動けない獲物の出来上がり。この状況にまで持ち込めば、止めを刺すのは楽になる。
「ブ、ブモッ……フゴッ!」
「よ、よーし……! わ、悪く思うなよ。おらッ!」
「ブッ……!」
あとは心臓を突いて終わりだ。ローサーの不慣れな構えから繰り出される刺突でも、動けないクレイジーボアを絶命させることはそれほど難しくはない。
一際大きな悲鳴を上げたクレイジーボアは心臓からドクドクと血を流し……やがて絶命した。
いっちょあがりである。
「やったー! 仕留めたぜー!」
「やったやった! クレイジーボア討伐よ! これでやっと良いお金になるわ! さっきの負債回収よ!」
「二人ともおつかれ! 前回よりも上手く出来たな!」
「おー……なかなかやるじゃねえか。おめでとう、良いサイズだな」
「早速内臓を出して沢まで運びましょ! 急いで冷やして解体しないと!」
この面子でパーティーを結成した時は何の冗談だと思ったもんだが……こうして三人がしっかり役割を担って動き、クレイジーボアを仕留めるところまでやってのけるとは……正直驚いた。
「どうかしらモングレルさん、私達の討伐風景!」
「俺が思っていたより十倍くらいまともでびっくりしたわ。経験者一人加えるだけでこれほど動けるもんなんだなぁ……」
「こらダフネ、内臓の切り分けの仕方勉強するんだろ。モングレルさんと話してないでこっち見ろよ」
「あ、ごめんごめん」
「……なあロディ、それ俺も見させてくれよ」
「ローサーもか、もちろん見といてくれ。皆できる方が良いしな」
火力系スキルを使って討伐するような華やかさはない。
しかし、三人がそれぞれ知恵と道具とコンビネーションを用いてしっかりと堅実に獲物を仕留める姿は……少なくとも俺にとっては、適当にスキルぶっぱで討伐している連中よりもずっとギルドマンらしく見えたのだった。
これからも堅実なままでいてくれよ……。
みんな変に火力系スキル覚えると雑な討伐を始めるからな……。
「モングレルさん、これ運ぶの手伝って貰っていいですか!?」
「おーそんくらいなら任せとけ」
「わ、力持ち」
「すげぇ」
この日、俺はちょくちょく獲物の運搬を手伝ったりして、そこそこの量のラードを手に入れたのだった。
一人でバロアの森に潜って適当に討伐したほうが美味い程度の成果ではあるが……まぁまともな罠猟も見れたし勉強にもなった。悪くない一日だったんじゃねえかな。
【挿絵表示】
「バスタード・ソードマン」書籍版第一巻のカバーイラストが公開されました。
タイトルが入って更にカッコよくなりましたね。
作者も実物が手元に届く日が待ち遠しいです。
【挿絵表示】
(ヽ◇皿◇)ひふみつかさ様より、モングレルのイラストをいただきました。ありがとうございます。
第一巻の発売日は2023年5/30です。
もう予約はできるみたいです。
また、ゲーマーズさんとメロンブックスさんでは特典SSがつきます。こちらは数に限りがあるかもしれないようなので、ほしい方はお早めにどおぞ。
KADOKAWA
(販売ページ*・∀・)
Amazon
(販売ページ*・∀・)
ゲーマーズ
(販売ページ*・∀・)
メロンブックス
(販売ページ*・∀・)
そして当作品の総合評価が95000を超えました。すごい。
いつも応援いただきありがとうございます。
今後もバッソマンをよろしくお願い致します。