バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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串揚げチーム始動

 

 結婚は人生の墓場だ。

 と、俺の前世では言われていた。これは結婚した人々が口にするありきたりな言葉なわけだが、正直言って未だに俺はこの言葉をどう受け取ったらいいものかわからないでいる。

 言葉の通り墓場だなって感じなのか、それとも照れ隠しなのか、冗談交じりの自虐ネタなのか。前世でも現世でも結婚したことのない俺にとっては、わりと本気で未知の世界なんだよな。

 特に貴族の結婚なんてのはほぼ全てがお見合い結婚。いや、家によってはお見合いですらなく親の都合で勝手にマッチングされるものでさえあるだろう。

 レゴール伯爵にとって、今回の結婚が良いものであれば何よりなんだがな。

 

 

 

 精霊祭の時のように飾られた町並みは、多くの人でごった返している。

 普段はそう一般人の通らない東門付近にまで人が行き交い、路肩に出された店を横目に眺めながらのろのろと流れていく。

 秋にこの観光客の多さ。そして喧騒。目が回るようだ。

 

「ついに伯爵様も結婚かぁー、めでたいねぇ」

「これでレゴールも安泰だ。拠点を構えるのに及び腰だった連中も腹括るだろ」

「お酒が配られるんだろ? やっぱ中央広場の方か?」

「翌年の標語ってのはまだないのか……」

「宿取れねえのかよ。他どっか探すしかないか……?」

 

 人、人、人。まだ早朝間もなくだってのに人だらけだ。行き交う人の半分くらいは祭りの準備をする側の連中だろうが、既に観光してる連中の姿も多い。

 もう既に屋台の準備に取り掛かっているとこも多い。ぼーっとしちゃいられねえな。

 

「さて……ライナ、モモ、ミセリナ。まずは良く来てくれた。お前らが手伝ってくれるおかげで今日の俺らの屋台の売上はレゴール最大を記録するだろう」

「大げさっスね……」

「まあ、どうせやるのであればたくさん売りたいですけどね!」

 

 モモは随分とやる気のようだ。よしよし、やる気がないより百倍良いぞ。

 ……その後ろで佇んでいるミセリナは、やる気があるのかないのか……まぁただ大人しいだけなんだろうな多分。

 

 聞くところによれば、ミセリナは21歳なのだという。ライナほどではないが、実年齢より幼く見えるな。

 

「ミセリナは突然の誘いで悪かったな」

「私も突然でしたけど!?」

「そうだなすまんな」

「い、いえ。お祭りの最中は、特に予定も無かったので……大丈夫です、はい」

「一応早めに切り上げても良いようにはするからな。疲れたり休憩入りたかったら言ってくれよ」

「はい」

 

 今回俺達が出す屋台飯は……串揚げだ。容器を必要とせずそのままサッと提供できるので、シンプルに楽。かと思いきや串揚げ用の竹串を大量生産するはめになったので手間がかかってないってのは大嘘である。クソほどかかってるわ。しかし他にやりようがないのだから仕方がない。

 

 揚げ係は調理にそこそこ慣れた俺が担当する。もちろん暇があれば他の作業もやる。

 串打ち係はライナ。肉の処理に慣れているので任せることにした。地道だし根気のいる作業だが、我慢強いライナが合っている。

 会計はモモ。お金の受け渡し、商品の提供など、ハキハキ喋るモモなら適役のはずだ。

 ミセリナは洗い物、食材の切り分けその他色々だ。専門は色々と割り振ってはいるものの、どうしてもボトルネックになる工程が出てくるはず。そのカバーをやってもらうことにした。

 俺も初めての屋台だからな。トラブルは絶対に起こるだろうし、全部が全部上手くいくなんてこともないはずだ。けどそれを少しでも緩和するために、ミセリナには頑張ってもらおうというわけ。

 

「すまんミセリナ、最初の火起こしだけちょっと手伝ってもらっていいか? 火付けにちょっと風が欲しいんだわ」

「あ、はい。わかりました。大丈夫です」

「モングレル、水はこっちに入れますよ!」

「おー、頼んだぜ。やっぱ魔法使いがいると便利だなぁ」

 

 そして魔法使いってのはこういうところが便利だ。ちょっとした水の準備、火起こしの補助。それをかさばる道具を使わず魔法でやってのけてしまう。

 特に水をその場で用意できるってのは最高だな。この人でゴミゴミした通りを重い瓶担いで歩かなくて良い。……また魔法の勉強でも始めようかな?

 

「モングレル先輩、今日は最初から色々な物を揚げていくんスよね」

「ああ。どれが売れるかわからんからなぁ。とにかく揚げて揚げて揚げまくるぞ。冷めても良い。温め直すついでにちょっとまた油につけてやれば良いだけだしな」

「モングレル。私達はまだ試作を食べてませんよ。作ってくれる約束でしたよね?」

「おおそうだった。まぁちょっと待っててくれ。油が適温になるまでな」

 

 今回はとにかく大量の食材や燃料を用意した。

 形を整えた炭のブロック、クレイジーボアとチャージディアの切り分けた肉、ついでにライナが持ってきてくれた鳥肉、溜め込んだラード、各種野菜などなど。

 木箱に氷室の氷を詰めて一日くらいは使えるクーラーボックスなんかも用意した。

 揚げるための液と粉も不足の無いよう過剰に準備したし、食べ終わった後の串を回収する入れ物や串を洗うための専用の器具もある。

 屋台の裏スペースには休憩用の椅子も複数完備だ。飲み物だってある。

 思いつくだけのものは全て用意した……あとは売り出してみて、どう転ぶかだな。まぁ外れるとは思ってないが。揚げ物だし。

 

「モングレル先輩の作る揚げ物は本当に美味しいんスよ。今日は沢山売れるはずっス」

「それは楽しみですね……あ、串打つの私も手伝いますよ!」

「モモちゃんあざっス! 手、気をつけてやるんスよ」

「わ、私も何か手伝います」

「おーすまんな皆。もうそろそろ油も準備できるから、頼んだわ。その調子で山のように串を用意しておいてくれよな」

 

 既に木製クーラーボックスには串打ちした肉が何十本も入っているが、これもいつまで持つかわかったもんじゃない。売れる時は飛ぶように売れていくはずだ。

 串の数に限りがあるし、保管する場所も限られているから俺だけじゃ事前の串打ちが間に合わなかった。やってもらえると本当に助かるわ。

 

「あらあら……本当に随分と近い場所に店を出したのね、モングレルさん」

「! お前は……ダフネ!」

 

 覚えのある声がすると振り向いてみれば、なんと隣にダフネのパーティーがやってきていた。しかも屋台付きである。まさかのお隣さんであった。

 あ、下準備は“ローリエの冠”の男二人がせっせと進めてら。こいつらもすっかり使われるようになっちまったなぁ。

 

「ダフネちゃんおっスおっス」

「おはようライナ。そちらは……“若木の杖”の子まで手伝っているの? なるほど。そっちも本気みたいね」

「ダフネですか……おはようございます。そちらも串料理らしいですね!」

「ええそうよ。シンプルかつ王道の串焼きで勝負するわ! 私達が獲ってきた肉を焼いて売る! それだけで莫大な利益になるはずよ!」

「こっちだって同じだぜ。肉は自分で獲ってきたもんだ。肉の質なら負けねえからな」

「ふふ……良い商売敵になりそうね。楽しみにしているわよ!」

 

 いつもはギルドマンとしての先輩後輩の関係だが、商売となると向こうは自分の土俵だからかとても元気そうだった。

 よほど自信があるのだろう。そしてそれは的外れでもない。……気合い入れて売っていかないと、大変だな。

 

「商人のダフネが隣……しかも似たような料理を出して……モングレル、大丈夫ですか? 用意した食材、ちゃんと売れるんでしょうね!?」

「も、もし余ったりしたら……どうするんですか……?」

「おいおい不安になってるんじゃないよ。けど余ったらまぁ……その時は各々クランハウスにお土産として持たせるなりして、どうにか処分はするけどな」

 

 炭火で熱されたラードの海。そこに落とした衣用の雫が、いい感じの音を立てている。

 適温だ。このまま炭火の高さを下の段で調整して温度を保ちつつ、だな。

 

 さて……準備が整ったここに串打ちされたボアの肉を四本、ドーンとぶちこむ!

 

「いい音っスねぇ……」

「何か液と……粉をつけるんですね?」

「パ、パンですか?」

「まぁな。……よし、そろそろか。……モモ、ミセリナ。屋台の商売が上手くいくかどうかは、こいつを食ってから判断するんだな。売れない心配よりも先に、食材の準備が間に合うかどうかを心配したほうが良いぞ?」

 

 出来上がったクレイジーボアの串揚げを三人に渡す。

 ライナは手渡された瞬間に嬉しそうな顔で齧り付いたが、モモとミセリナはしばらく観察するように眺めていた。

 

「まあ、食べてみればわかりますか」

「いただきますね」

「おう、食え食え」

 

 さて、準備はできたしどんどん揚げていこう。どうせ作ったそばから売れていくだろうし、大量の在庫を作るつもりで揚げていくぜ。

 

「んっ! 美味しいですね!」

「……! ですね……! これは、売れそうです!」

「あー……やっぱ良いっスねぇ……」

 

 よし、好感触だ。やっぱ油で揚げるのが最強なんよ。この手に限るわ。

 あとはひたすら商品を捌きまくって……祭りで豪遊だな!

 

 ……いやなんかあまり過剰に自信満々だと失敗フラグが立ちそうだな。

 普通に粛々と頑張っていこう。

 




なんと早くもバッソマン第一巻の重版が決定したそうです。はやい。

皆様の応援のおかげで第一巻は飛ぶように売れています。本当にありがとうございます。

より多くの人にバッソマンの魅力を知っていただけたら、作者としてはこれ以上嬉しいことはありません[※要出典]。

これからもバッソマンをよろしくお願いいたします。



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