バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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今日の目玉は恋愛一色

 

「なんか串揚げの匂いばかりずっと嗅いでると揚げ物が嫌になっちまうな」

「そっスか? 良い匂いだと思ってんスがね……」

「ライナは揚げ物に飽きが来ないタイプか……まぁそういうわけじゃないけど、せっかくの祭りなんだから何か珍しい物を食いてえわけよ。屋台手伝ってくれたお礼に何か奢ってやるから、遠慮なく言えよライナ」

「わぁい」

 

 中央の広場を目指しながら、店を見て回る。

 秋も本格的になり肌寒い季節だが、人の多さやそこらじゅうでやってる煮炊きのおかげか、結構マシに感じるぜ。

 

「お、見ろよライナ。酒売ってるぜ酒。ベリーエールだってさ。珍しいな」

「じゃあこれゴチになるっス!」

「決断がはええなぁ……すんませんこれ二つ」

 

 仕事の休憩時間に飲酒なんて前世じゃとんでもないことだったが、この世界では許される。いや許されないところもあるが、結構大らかに受け入れられている仕事は多い。

 軍とか衛兵とかそこらへんのキッチリしてる所はまず駄目なはずなんだが、それでも合間に飲んでる奴がいないでもないってのが恐ろしいところだ。

 

「うまー……」

「酸っぱくて良いな。つまみが無くても酒が進むぜ」

「っスねぇ……こういうお酒も悪くないっス」

 

 と、こうしてライナと一緒に飲んでいると気分良くなって店のこと忘れそうになっちまうな。

 水分と元気の補充くらいに考えて、色々見て回るとしよう。

 

「お、やっぱ結婚祭ってだけあって変な物売ってるなぁ」

「なんなんスかねあれ」

 

 貝で出来たなんだろう……コイン? お守り? みたいなものがちょくちょく売られている。

 よくある二枚貝の周囲を丸く削って、真円に近づけたようなものだ。サイズは手のひらくらい。ホタテサイズだな。

 内面は螺鈿細工のような上品な光沢がそのままだが、外面にはカラフルな色がつけられている。

 

「お? そっちの兄ちゃんは知らんかね。こりゃ貝占いをするための道具じゃ」

「貝占い……ってなんスか?」

「この貝は直火で炙ると真っ赤になっての。それからしばらくするとパキッっといって割れるんじゃ。その割れ方を見て、恋の行方を占うんじゃよ」

「こ、恋占いっスかぁ」

 

 へー。熱すると赤くなるのか。変な貝殻だな。後で調べておこう。

 

「この色がついてるとこをな、こういう銅貨で色を削って名前を書くんじゃ。一つの色にひとつの名前じゃぞ。そんで、割れが名前と名前を伝うように入っていたら恋が成就する。逆に、名前と名前の間を隔てるように割れると恋が破れる……ってわけじゃ。ほれどうじゃ、気になるじゃろ! 一枚買ってきな!」

「え、えぇー……いやぁでも……うーん……」

「なんだよ、悩むくらいなら買っちまおうぜ。ばあさん、二枚くれ」

「はいよ、400ジェリー!」

「結構たけぇな!?」

「っはぁー……あんたね、これは良ーく当たるって評判の占いだよ? アタシが入念に選んだ貝だけを使った、すっっっごい良く当たるやつなんだ。高いと思うならさっさと帰んな」

「いやいやわかったよ、疑ってねえって……」

 

 なんかチャチな割にたっけぇしぼったくり感の強い占いグッズだが、せっかくの祭りなので買っておいた。

 ここで悩んでいられるほど休憩も長くはないしな。ちょっとでも迷ったら買いだ。そのために金を稼いでるとこあるしな!

 

「ほれライナ、これ一枚取っとけ」

「あっ……はい。あざっス……」

「次あれ行こうぜあれ、チーズクッキー。やっぱ酒だけじゃなくて飯食いてえよ」

「……モングレル先輩、めっちゃお祭り楽しんでるっスね」

「そりゃお前この日のために金を貯めてたんだしな。気になるものにはどんどん金使ってくぜ俺は」

 

 そんな感じで、ライナを引っ張るようにして色々と見て回った。

 軽めの珍しい屋台飯はちょくちょく買い食いして、普段市場にも並ばないような面白グッズなんかも買っていく。

 歴史があるんだか無いんだかわからんお守りとかアクセサリーとかも買っちゃうぜ俺は……。

 

「……なんだか、恋愛とかそういう物扱ってるお店多いっスね……」

「結婚祭だからかね。まぁそういうもんだろ。男と女がくっ付くお祝いをしてるんだから、それにまつわる商品だって売れるだろうさ」

 

 この祭り特有の品としては、恋占いとか恋を成就させるためのお守りだとかが特に多い。

 お守りはマジで腐るほど売っている。さすがの俺でもこういうのは興味無いな。

 

 あとは……ちょっと奥まった場所にこう、わりとアダルトなグッズが置かれているのがね。すごいね。

 被せるものだとか、相手を魅了する香油だとか、実際に効くのかどうかもわからん惚れ薬だとか……淡い恋愛だけでなく、濃いドロドロしたリアリティのある恋愛グッズも結構多い。祭りってすげぇな……。

 

「やあ、少年」

「……うお、カテレイネも居るのか」

「ウフフ、もちろんいるさ。収穫祭も終わって、稼ぎ時だからね」

 

 そんなアダルトコーナーを流し見していると、しれっとカテレイネの出している店に遭遇した。

 なんかすごい古代の力を持っていそうな雰囲気のある、昔なじみの金髪オッドアイダークエルフである。しかしてその正体はただの農家の娘だ。今言った言葉も全て本当だろう。

 

「あ、カテレイネさん。おっスおっス」

「やあ、キミはライナだったかな。また会ったね」

「……このお店は……なんスか?」

「見ての通り、薬草売りさ。いつもは野菜ばかりだけど……こういう日だし、恋に効く妙薬ってやつを、ね」

「またけったいな薬を売ってるわけか」

「ウフフ、これがまたよく売れるのさ」

 

 カテレイネは本当に手広く商売をしているな。

 どれどれ……うーん、俺もこういう、生薬系は詳しいわけじゃないからな……しかし少なくともどれも見たことのない植物だ。簡単にそこらへんの森を探して見つかるような物ではないのだろう。

 

「この根はすりつぶして飲み干せば、異性を見た時に胸が高鳴るという薬だね」

「強心薬か。なんか危ねえな……」

「こっちの木の実は精力剤。男の人に食べさせるととても興奮するらしいよ」

「ま、マジっスか……なんかどれも怖いっスね……」

 

 精力剤はともかく、惚れ薬なんかは相手に飲ませる所から始まるからなぁ。その時点でちょっと事件性が出てくるよな。

 

「うーん、そうだね。では怖くないものだと……これかな。このピンクリリーバルブを食べるとね。自分にとって相性の良い人がわかるようになるそうだよ」

「ほう?」

 

 カテレイネが手に取ったものは、薄ピンク色の球根だった。

 リリーバルブ……つまり、百合根だろう。ふかして食うと上品な甘さの芋みたいで美味いんだよな。

 

「わあ、これなんか可愛いっスね」

「ウフフ、だよね。綺麗な色だし、蒸し焼きにするととても美味しいそうだよ。売り物として優秀だから、私は食べたことはないけどね」

 

 税で収める米は食わない昔の農民みてえな事言ってんな。

 

「……これを食べると、どうやって相性の良い人とかがわかるんスか?」

「聞いた話で、匂いなんだって」

「匂い」

「食べてから暫くの間は相性の良い人に近付くと……その人の香りが、とても惹かれるものに感じるんだとか。噂によれば、その香りだけでクラッと一目惚れさえするそうだよ? ウフフ……」

「ちょ、ちょっと怖いじゃないスか!」

「そうかな? 気軽に一目惚れできるなんて、素敵な根菜じゃないか。……まぁ、効果が解けた後どうなるかはわからないけどね」

 

 ふーん、匂いねぇ。フェロモンの感じ方が変わったりするのかね。

 こう、ミラクルフルーツ的な……そういう言い方をするとちょっとショボく感じるな。

 

「うーん……でもなんか気になるっス。これ二つ欲しいっス」

「まいどあり」

「じゃあ俺も一つもらうわ。あとこっちの心臓バクバクする方」

「モングレル先輩、それ買うんスか」

「なんかで使えそうだしな」

「なんかでって……」

「ウフフ、何かの薬に使うつもりだね。まあ、そういう使い方をする医者もいるらしいし、間違ってはないのかも」

「……マジっスか」

「二人が買ってくれて嬉しいよ。また今度、会おうじゃないか。できれば次も、店主と客人として……ね」

 

 無駄に後々の伏線を匂わせているようでいて実際は何も含みのない別れを告げ、カテレイネとは別れた。

 

 

 

 それから再びお菓子を買い食いしたり、玩具の弓で遊んだりして、なんだかんだでもうすぐ中央広場に出るところだ。

 

「人すごいっス!」

「いやーこれもう進めねえな」

 

 もうちょい前に行ってレゴール伯爵の姿を見たかったんだが……。

 中央広場に隣接する屋敷? のバルコニー? でお披露目するらしいレゴール伯爵とステイシー伯爵夫人の姿は、ここからでは見られそうもない。なにせ広場に行けるほど道が空いてねえんだ。人がぎゅうぎゅうに詰まっていて連続チョップでも通れそうにない。来るのが遅いやつが悪いと言わんばかりの過密度である。

 

「……あ、でもなんか聞こえるっス!」

「……おおほんとだ、何か挨拶……してるな。うっすらと……」

「歓声ばっかりで声が聞き取りづらいスけど……うーん……」

「……」

 

 それから押し寄せる人が続々とやってきて窮屈になりつつある。

 ……このままでは俺らも人混みの中に封印されちまうんじゃないか?

 

 さすがにそれはまずいな。

 

「……残念だけどもう戻るかぁ」

「っスねぇ。姿見られなくて残念っス」

「くっそー、今日こそはレゴール伯爵の姿を見られると思ったんだがなー」

「あれ? モングレル先輩は見たこと無いんスか」

「いや普通にねえよ。ライナはあるのかよ」

「はい、“アルテミス”の仕事で貴族街に行った時に……話したりはしなかったスけど、何度かちらっと」

 

 ま、マジか……すげーな“アルテミス”……。

 

「で、どうなんだよレゴール伯爵様のお姿は。噂だと悪い言い方結構されてるみたいだけど。その、腹が出てたり、髪が薄かったり、背が低かったりとか言われてるが……」

「……まぁ、はい。噂がどんなのかは詳しくないスけど、結構その通りスよ」

「ええ、そうなのか……」

「ショックなんスか?」

「いや、この手の醜聞って政敵が勝手に流してるもんだと思ってたから……本当ってこともあるんだなぁ……」

 

 レゴール伯爵、噂がドカ盛りの悪い噂ばかりで実際はかなりイケメンなんじゃないかくらいに思ってたんだが……はー、本当の話だったのか。

 

 でもまぁ嫁さん貰えたんだからもう見た目なんて関係ねーよな。

 おめでとさん、レゴール伯爵。姿を見れないのは残念だったが、贈り物は既に送ったからな。それ活用して、色々役立ててくれ。

 




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いつもバスタード・ソードマンをお読みいただきありがとうございます。

これからもバッソマンをよろしくお願い致します。



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