バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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新たな油の需要

 油が値上がりした。

 具体的には食用油全般が値上がりした。どうやらレゴールに新しく出来た飲食店の影響らしい。

 なんでもその新しい飲食店では肉やら野菜に衣をつけて油で揚げるという、そこそこ目新しい調理法を採用したらしいのだが……。

 

 いやー、案の定真似されたな。

 いつかはされるだろうと思っていたが、商品として取り入れるまでが爆速だ。しかも添え物ではなく、揚げ物メインという思い切りぶりである。思い立ったらすぐ実行ってのはこの世界の美徳だけどもよ。

 

 これは結婚祭の時に出した俺の串揚げ屋台の影響で間違い無いだろう。調理風景はオープンにしていたし、客にそれはなんだと訊ねられれば隠す事なく答えていたしな。

 このくらいならウチでもできるなと考えた飲食店が取り入れるのも不思議では無い。実際、揚げ物のような調理法は広まって欲しいと思っている。俺が食いたいので。

 

 揚げたての揚げ物を食うのであれば、ラードの油が一番だ。植物油とは違った美味さがあるし、この国では結構入手がしやすいというのもある。

 揚げ物がブームになれば、豊富とはいえいずれラードの供給も追いつかなくなるだろう。いや、それより先に獣脂蝋燭やランプが作られなくなるか。それでも揚げ物によって消費量はどんどん上がっていくはずだ。

 市場もそんな未来を予見してか、ラードを求める声が大きくなっている。

 

 そしてその流れを最も歓迎しているのは、クレイジーボアの討伐に関わるギルドマンたちであろう。

 

 

 

「クレイジーボアを仕留めるぞー!」

 

 ウルリカが弓を掲げ、鬨の声を上げている。一人で。

 

「まぁやること自体はいつもと同じなんだよな」

「うん、そうだね。罠の見回りをしながら、クレイジーボアの討伐だ。合間に採取できるものがあればそれも、ではあるけど……多分そんなに持てないよね?」

「どうだかな。まぁ俺がいれば大丈夫だ」

「……モングレルさんもレオもノリ悪いなー」

 

 クレイジーボアの買取価格が上がった。

 しかも今は獣脂、ラードとなる部分もそこそこの値がつく。これは秋の狩猟シーズンに入った俺たちギルドマンにとって、素晴らしいニュースだった。

 おかげで、ただでさえ肉の食味で元々差をつけられていたチャージディアが更に不人気になってしまった。チャージディアは脂身が少ないからな。毛皮は良質なんだけども……。

 

 今日、俺はウルリカとレオと一緒にバロアの森にやってきている。罠を仕掛けたポイントを見て回るので、一緒にどうかと声をかけられたのだ。

 俺の仕事のメインは荷物持ちだろうが、おこぼれに与れるのであれば喜んで与るのがこの俺だ。せっかくだし俺にもラードくれよラード。

 

「冬に備えてクランハウスで美味しいご飯食べたいじゃない? そういう時こそさー、ほら。ラードで揚げ物作ったりとか、そういう幅が欲しいでしょ?」

「ウルリカお前ほんと揚げ物好きなのな。レオは?」

「そうだね。僕も肉料理は好きだから、美味しく食べられるならそのための準備はしたいと思ってるよ。去年は“アルテミス”のクランハウスで色々とご飯のお世話になっちゃったから、今年は恩返しも兼ねて、色々と蓄えておきたいんだ」

「真面目だなーレオは。みんなそんなの気にしてないって言ってるのに。冬の間だって色々と仕事してたんだからさー」

「それはそれだよ、ウルリカ」

 

 なるほどなぁ。“アルテミス”のクランハウスも大所帯だからな……まとまった量の食料調達は大事か。

 

「もちろん、多く獲れたらお金に変えちゃうけどねー。今はクレイジーボアすっごく高いし」

「値上がりしたよね、びっくりだよ。毛皮以外はどの部位も無駄にならないから、稼ぎ時だよね」

「ま、俺は食うのも好きだがジェリーだったら何をするにも使えるからな。換金もありだろ。ところで、罠の巡回は結構時間かかるんだよな?」

「まとめて設置したからねー、見て回るのはそれなりに時間かかるよ。途中でトドメとか解体が何度かあるのを見越して少しは余裕持たせてるけど、ダラダラ歩いてたら厳しいかなー」

 

 “アルテミス”は魔物と正面からガチンコバトルできる力を持ったパーティーだが、こうして罠を利用した狩りをすることもある。

 理由は簡単。闇雲に歩き回るよりも手っ取り早いからだ。罠を基準に森を歩いていればその分魔物との遭遇確率が上がる。

 とはいえ、罠も安くはないし壊されたり盗まれたりするので、安牌ってわけでもないのだが。ミドルリスクミドルリターンって感じだな。ただ、罠にかけた分より安全ではある。

 

「モングレルさんはまたすごい荷物を背負っているね……」

「そりゃ本腰入れて魔物を狩ろうってなったら俺も本気で装備を整えるさ」

「普通真っ先に防具の方を整えるんだけどなー……モングレルさんの背負ってるそれ、ほとんど調理器具とかでしょ?」

「野営用品も多いぞ!」

「旅装みたいだ……」

 

 気分は完全にキャンパーである。

 だが大量のクレイジーボアが獲れる(願望)ことを考えると、このくらいの装備は整えておかなくちゃ現地で作業なんかできんだろう。

 最近は祭りやら何やらで人と関わることが多かったが、ここらで閑静な森でアウトドアを楽しみたいところだぜ。

 

 

 

 森に入り、奥へと進んでゆく。

 ウルリカ達が仕掛けたくくり罠はバロアの森のちょっとだけ奥まった方にあり、他のパーティーがおいそれと手出しできないようになっている。

 とはいえ俺が冬の間キャンプする時みたいな奥地って程でもないから、誰も通らないってわけじゃない。そうなると罠を発見され、盗まれている可能性はある。ちょっと覚悟はしておけ。

 

「ベースは川の近くに作りたいよねー」

「そりゃあな。解体、燻製、調理、睡眠その他色々。全部そこでやらなきゃいけないわけだから、水辺は近い方が良い。今はナスターシャもいないしな」

「あ、そういえばモングレルさんは魔法を勉強してたんだよね。それはどうなったのかな」

「魔法はすごいぞレオ、知れば知るほど難しさに直面するんだ」

「全然ダメって事だよこれ。魔法も弓もすぐ飽きるよねー。モングレルさんってば、今日くらい弓持ってきて練習すれば良いのにさー……」

「いやだって荷物がいっぱいだし……」

「他に持ってくるべきものあるでしょー」

「まあまあ……」

 

 そんなこんなで歩いていると、近くから同業者の気配も薄れはじめ、辺鄙な場所に入った……のをなんとなく実感した。

 そしてウルリカが仕掛けた罠を見つけ、移動しながらの確認作業に入っていく。

 

 具体的には仕掛けた罠に獲物が掛かっているか、あるいは破損や盗難に遭っていないかを確認し、次の罠に移る感じだな。

 

「あと三……いや二個先の罠の近くに良い感じの沢があるから、その辺りを拠点にしちゃおーよ。モングレルさんもその荷物を降ろさないと獲物とか運べないよね?」

「だな。いやまぁ少しくらいならいけるが……」

「拠点を整えて、残りの罠の見回りをしたらひとまず今日はおしまいかな?」

「そうなるかなー。暗くなる前に済ませちゃわないとだね!」

 

 事前に罠を仕掛けて臨む、本腰入れた討伐である。

 当然、無手で帰るつもりは全くない。三人で持ちきれないほどの肉塊と脂身とあわよくば森の幸を抱えて凱旋する予定(願望)だ。

 しかし最初の何日かで躓くと……その日食う飯が無くて辛いから撤退、なんて格好つかない結果になってしまうおそれは、無いでもない。

 だからなるべく早く最初の獲物に当たって欲しいものだが……。

 

 

 

「ブゴッ」

「うわぁ」

「いきなりかよ」

「大物だね」

 

 拠点予定地に到着して荷物を下ろす前に、罠に掛かった第一クレイジーボアに遭遇してしまった。

 いきなりの当たりだ。幸先が良いぜ。

 

「えーっと……ど、どうするモングレルさん? 今のままじゃクレイジーボア……持てないよね?」

「あー、天秤棒で吊るせばいけるだろ。拠点にする場所は遠いか?」

「ちょっと歩くけどそこまで離れてはないよ。ほんとにいける……?」

「重いなら僕も手伝うから、このボアはここで仕留めた方が良いんじゃないかな」

「だな、往復するのは手間だ」

 

 そんなわけで、クレイジーボアはここで速やかにくたばってもらうことになった。

 早速拠点でやる仕事が増えたな。

 

「じゃあ、このボアは僕が仕留めるよ」

「お、大丈夫か?」

 

 レオが一歩前に出て、二本のショートソードを構える。

 そのまま“風刃剣(エアブレイド)”を発動し剣に風を纏わせると、レオは俺に向かって微笑んだ。

 

「心配しなくても、慣れっこだよ」

 

 強く地面を踏み込み、一瞬でクレイジーボアの正面まで駆ける。

 クレイジーボアは野生の動体視力でレオの動きを目で捉えることはできたかもしれない。だが、くくり罠によって動ける範囲を制限された状態では、反撃に転ずることはできなかった。

 

「やッ!」

「ブゴッ」

 

 一発の剣撃がボアの横っ面を叩きつけ意識を奪い。

 次の瞬間に放たれた二度目の剣撃が、喉をバッサリと切り裂く。

 実に鮮やかだ。こういうの見ると俺も二刀流をやってみたくなる。

 

「うん、いい感じに血が出てるねー。じゃあ放血しながら内臓取って……軽くしたら運ぶ準備しようか?」

「いや、このままで良いぞ。棒に吊るして放血しながらさっさと川を目指そう」

「えっ……それはちょっとモングレルさんでも重くない?」

 

 俺はクレイジーボアの脚を手頃な棒にくくりつけ、荷物と一緒にそれを担いだ。

 よし、問題なく持てる。問題はこのボアの血が俺の服や荷物にかからないかどうかだけだ。

 

「うっわぁ……すっごい力……モングレルさんってやっぱり、見た目よりずっと……逞しいんだね……」

「そんな大荷物を持ったまま、よく丸々一頭を持てるね」

「お前らとは鍛え方が違うんだよ、鍛え方が。ほら、さっさと川いくぞ」

 

 まぁ自分の力ってよりは生まれ持った力だから、自慢げにするものでもねーんだけどな。

 そういう感じで納得しといてくれ。

 




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