バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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たまには下世話な話を

 クレイジーボアの脂肪は多い。

 バロアの森の厄介なお友達は色々いるが、その中でもかなりの脂をその身に蓄えている。

 これはもう、ギルドマンであれば誰もが解体する時に実感する常識だ。皮をザクザク切り開いて次の瞬間には皮下脂肪の厚さに驚くことだろう。チャージディアは全体的にヘルシーな肉質なのに、ボアは一際ブヨブヨしている。

 この脂身のせいでナイフが滑り、なかなか解体が進まない……という面倒臭さはある。しかしその脂身でラードが作れるのだから、これもやり甲斐の一つだわな。

 

「よっこいしょー」

 

 仕留めて内臓を取り出したクレイジーボアを小川にぶち込み、肉を冷やす。

 ジビエを悪くする要素は主に熱、血液、内臓だ。血液と内臓はなんとなくピンとくる人も多いかもしれないが、この熱ってやつもなかなか馬鹿にできない。ギルドマンによってはとにかく真っ先に川にぶち込んで冷やそうとする奴もいるくらいだ。

 この辺り、実際はギルドマンの中でもやり方の順序が色々個人差というか……主義が違うから、俺もあんまり“間違いなくこれが先! これからやったほうがいい!”とは断言したくないんだけどね。まぁとりあえず全部手早くやった方がいいのは確かだと思う。

 

「拠点は向こうだよな?」

「そーそー。増水したら怖いから、もうちょっと離れた所でね。けどこの川もちゃんと見れるから、冷やした獲物を取られるってことはないと思うよー」

「先に警戒網だけ張っておくね、モングレルさん」

「おう、頼むわ」

 

 ウルリカもレオも小さい頃から狩猟をやってるベテランだ。大体何をやらせても俺より上手くこなすだろう。俺なんか罠の設置場所も全然わからんしな。試したことはあるが、一ヶ月くらい何も掛からなかった上に最終的に罠を盗まれて止めた。

 俺はその時盗まれた罠がきっと獲物を引っ掛けたと信じているが、どの道盗まれているのでやりきれない思いしか募っていない。葡萄が甘かろうが酸っぱかろうが盗まれたら話が違うんだわ……。

 

「あとは薪集めて……とりあえずこんなもんでいいか」

 

 適当に使いやすそうな薪を拾ったら、二人のいる拠点予定地に向かう。

 既に二人はそれぞれ荷物を下ろし、野営用の寝床や作業場所を確保していた。鳴子付きの警戒網もしっかり完成している。仕事が早えや。

 

「見て見て、ほらっ。チャージディアのラグマット。モングレルさんが持ってきてた奴真似したんだー」

「お、良いよなそれ。俺も持ってきたぞ。寝る時にも座る時にも使えるし便利だ」

「僕はマントだけど……毛皮そのままも良さそうだね」

「マントも良いよな。裏地がしっかりしてて暖かい奴ならラグマットよりも良いんじゃねえの」

 

 秋から冬の野営は寒い。

 寝てる間は火を絶やさずにおくのが基本だが、それでも普通に冷える。森の中だから風はマシな方だが、それでも装備が舐めてると普通にしんどい思いをすることになるだろう。暗い話になってしまうが、ルーキーなんかはこのくらいの季節でも無茶な野営をやろうとして凍死してることも珍しくない。

 寒さは我慢できると思ってても気を抜いて眠ると普通にあっさり死ぬことがあるから注意だぜ! 

 

「けどさー、モングレルさん今日もアレ、持ってきてるんでしょ?」

「アレって……ああ、こいつのことか」

「やった! やっぱり持ってきてた!」

 

 大荷物の中から取り出したのは、金属の筒をスタッキングして収納しておいた薪ストーブだ。

 円筒状の煙突と、まぁ本体は省スペース化のために上の鉄板くらいしかないんだが……。本体は石とか土のかまどにすりゃ良いのさこんなのは。いつか本体も欲しいなと思ってはいるが、なかなかコンパクトにできる気がしない。

 

「話には聞いてたけど、へぇ……こんな感じなんだね。煙突を持ち歩くのって、なんだか贅沢だな」

「ま、煙突は代用もきかないからな。煙突は良いぞ」

 

 組み立て伸ばした煙突は紐でテンションをかけ、固定する。こうしておくと大抵の風に耐えられるし、何かぶつかっても倒れることはない。この作業もテントを張るついでみたいなものだ。ただし、夜に近くを通る時に足を引っ掛けないようにだけ注意はしておきたい。

 

「あれっ? モングレルさんその天幕さー……なんかいつもより大きくなってないー……?」

「お、気付いたか。アーケルシアで買った生地で新しく作ったんだよ。前のよりデカいけど重さは変わらないし、薄いから場所もそんなに取らないんだぜ」

 

 三角テントは今回新しいものにした。とはいえ自作だ。デカい生地を切って縫って、グロメットを打ちつけたシンプルな幕である。

 サイズは頑張れば三、四人用ってところかな。基本的にこの手の野営セットは一人でしか使わないから小さい方が良いんだが、広ければ広いで不意の雨の時でも中での作業がやりやすい。居住性が高いのは良いことだ。

 一部の布地を変形させてやれば、薪ストーブをテントの中に入れることもできる。おかげで厳冬期でも暖が取れるはずだ。

 

「へーすごーい……あ、ここにグロメットがついてるんだ、へー……」

「軍隊の人も似たようなものを持ってるって聞いたことはあるけど、多分これはもっと小さいやつだよね? けどこのくらいなら僕らでも頑張れば持ち運びできるかな……」

「雨風を防げるのは良いよねー。かなり暖かそうだし。魔物が近付いてきた時が無防備でちょっと怖いけど……」

 

 魔物はフィジカルでぶっ殺すからヨシ! 

 ……まぁ冗談抜きで、普通の人間がソロでバロアの森でキャンプするのは無理だわな。魔物除けのお香を景気良く焚くくらいしか方法がない。それはちと勿体無いし……。

 

「さて、拠点の設営も済んだし、とりあえず見回りか?」

「だねー。罠の巡回しながら索敵、そうしたら余裕持って明るいうちに戻って来るつもり」

「川のクレイジーボアもあるからね。なんだったら、誰か一人ここで見張ってても良いくらいなんだけど……」

「川のそばで小さいお香焚いてるから平気じゃない? それより罠に掛かってたとしたらそれを運び切れない方が厄介だと思うけどなー」

「ん、それもそっか」

 

 結局全員で罠の見回りをすることになった。

 荷物を下ろし、装備品がバスタードソード一本になった今の俺ならどんな魔物相手でも……だいたいどんな魔物相手でもなんとかなるぜ。

 

 

 

 罠の見回りは手早く行う。

 さっさと森を歩き、ポイントを通過するだけだ。一人とか二人とかなら不意の遭遇も怖いかも知れないが、戦闘要員が三人もいれば大抵の索敵のヌルさはどうにでもカバーできる。トリプルチェックヨシ! 

 

「んーゴブリンの痕跡かなーこれ、ホブかも」

「結構大柄かもね。オーガやサイクロプスとは違うかな。でも古いやつだし、近くにはいなさそうだね」

「良かったー。けど、罠の近くに痕跡があるのはちょっと不安だなぁー……引っかからないと良いんだけど」

 

 クレイジーボア狙いで仕掛けた罠だが、当然引っ掛かるのがクレイジーボアだけとは限らない。

 チャージディアが引っかかる場合もあれば、全く別の生き物がかかることだってある。マレットラビットが両脚を引っ掛けて餓死していることもあるそうだ。割と中型とか小型の生き物も引っかかるんだよな。

 

「ゴブリンが引っかかると罠が汚くなりそうだな」

「うん、それもあるね。あとは単純に、ゴブリンとか人型の魔物だと罠を壊して脱出する事も多いんだ」

「あー、聞いたことはある。けど人にやられたかもしれないだろ? 引っ掛かってるところをちょうど良く発見するってのはそう無いだろ」

「いやーけどなんとなくわかるんだよねー……ゴブリンが掛かってたんだなーっていうのは」

 

 なんてフラグになりそうな話をしてはいたが、見回りの罠にゴブリン系が引っ掛かっているということはなかった。

 むしろ何も掛かっていない。スタートは好調だったが、一気に何匹もってわけにはいかねえか……。

 

 たまに何かにいじられて金具部分が掘り返されてたり、偽装が足りないのかもしれないと落ち葉を被せ直したり、そのくらいの作業をやって次へ次へと進んでいく。

 合間にやるのは手頃に食えそうな木の実だとか野草の採取くらいで、実に平和な時間が流れている。マジでキャンプ気分だ。

 

「なあ、二人は結婚祭でどういうの買ったんだよ」

「えー? 踊りを見たり、店を冷やかしたりばかりだったしなー……買ったものかー」

「色々とご飯は食べたよね。あとはお守りとか、恋占いの道具とか」

「そうそう! なんか怪しいの売ってたよねー、お札とか人形みたいなの」

「やっぱそこらへん買ったのか。色々珍しいもんあったもんなぁ」

「でもそういう結婚祭で売りに出されるような物って、結構チャチなんだよねー。一応部屋に飾ってあるけどさ」

 

 祭りの雰囲気に浮かれると変なの買っちまうもんだからな。仕方ない。

 

「というよりなんだ、お前らも恋占いなんて興味あったのか」

「僕はまあ、一応お祭りだし……そういうのも良いかなと」

「私は別に興味ないんだけど、他人を占うのは面白そうだから買っちゃった。持ってきてるから後でモングレルさん占ってあげるね!」

「いやなんで俺に使うんだよ。自分を占え!」

「人を占った方が楽しいじゃん!」

 

 いやまぁ他人事で好き勝手言える分楽しいのはわかるけども……面と向かって言い切る事じゃねえだろそれは。

 

「ウルリカも二十歳だろ? そろそろそういう恋愛とか……」

「モングレルさんは三十一じゃん」

「この話やめようか」

「逃げた!」

「恋愛ってのは自由であるべきだと思うぜ俺は……まだまだ遊びたい盛りだろうしな……」

 

 畜生、俺のことを言われるとこの手の話は迂闊にできねぇな。けど気になるのは確かだぜ……。

 レオはまだ良いよな。ギルドでもちょくちょく女から声掛けられてるし、爽やかな王子様扱いされてるからよ。

 ウルリカに関しては普通に将来がな……大丈夫なのか? って心配になるんだわ……いや、ギルドマンとして安定して仕事できてるから心配する必要は無いんだけども。

 

「普段ライナとか女がいる時にはこんな話できないけどな。娼館に興味があるなら行ってみると良いぞ。“アルテミス”に居たんじゃこの手の店にも通い辛いだろ? なんなら俺と一緒に任務に出てるってのを言い訳にして娼館に泊まるのも悪くないぞ」

「娼館なんて……僕は行かないよ、そんなの。そういうのは誠実じゃないと思うし……」

 

 レオは固いな。この世界じゃ貴族ですら絶滅危惧種かもしれんぞそれは。

 

「私は別に良いと思うけどなぁー」

「えっ!?」

「だってさー……気持ち良いのを我慢するのってさ、ほら。みんな言うけどさー……大変なんだよね? だからほら、結婚とかお付き合いしてるならともかく、その前なら別にいくらでも通ってて良いと、私は思うんだけどなー」

「そっ、それはっ、ちょっと下品な話だよ、ウルリカ!」

 

 男目線のコメントだから別になんも変ではないんだが……見た目も相まってなんか男の風俗通いに理解がある悲しい女みたいな言い分になってるな……。

 

「けどそれもさー……モングレルさんも別に娼館通ってないんでしょ?」

「何回かはあるぞ? 風呂入るために」

「それ通ってるって言うかなー……」

「お風呂……そんな娼館もあるんだね」

「あっ、レオひょっとして興味出たー?」

「出てないよ!」

 

 王子様キャラっぽいくせに免疫というか下ネタ話に弱い……“アルテミス”で良かったな、レオ。お前が“収穫の剣”に入ってたら三日くらいで体調悪くしてたと思うぞ。あそこはギルドマンの煮凝りみたいなもんだからな。

 

 けど、こうしてこいつらと男同士らしい会話ができるのもなんか新鮮だから嬉しいね。

 俺は別にそこまで猥談好きってわけではないんだが……それはそれとして、普段猥談なんて話さないようなタイプのやつが話す猥談は聞いてみてぇんだ……。

 

 




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