バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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男三人、天幕、スワンプタートル鍋

 

 さすがの俺でもパワーや持久力に限界はある。

 すげー重い。何が辛いって、身体強化を天秤棒の方にも回さないと棒がボッキリ折れそうだから余計に魔力を消費してる。これが本当にキツい。

 安請け合いしたが、俺の素の力じゃわりとこんな荷物で限界だったらしい。

 

「モングレルさん、本当に平気ー?」

「持ち運べている時点で凄いんだけど、無理は良くないよ……?」

「平気平気」

 

 だがそれはそれ。ウルリカとレオの前で弱音を吐くのは躊躇われる。

 これはいい大人の格好つけでしかないが、拠点の川までは頑張ろう。

 

 

 

「ふー、なかなか重かったわ……」

 

 と、大荷物を川に下ろしつつ“ちょっと疲れたなー”みたいな顔して言う俺だったが、内心はすげぇほっとしている。

 ああ、肩が……肩に食い込んでいた天秤棒の重さが無くなって、逆に空に飛んでいきそうだぜ……。

 

「お疲れ様ーモングレルさん……ちょっと休憩してていーよ! 後の処理は私達でやってくからさ!」

「うん。あれだけのすごい大荷物を一度に運ぶなんて……本当に力持ちだね。僕よりもずっと……」

「まぁな。鍛え方が違うぜ、鍛え方が」

 

 と言いつつありがたく休憩はいただきます……魔力が……魔力が久々に削れまくってつれぇ……。

 

「これだけの肉となると、あれだろ。解体も大変だろ」

「今日は暗くなっていくし、厳しいねー……明日も作業する感じになるかなー……」

「しばらく川で冷やしつつ、毛皮の汚れを洗って、内臓を取り出して……あとは一頭くらいなら僕とウルリカで進められるかな?」

「うん、時間的にもそんな感じかなー……今日は内臓パーティーだね!」

 

 肝臓、心臓、脾臓、腎臓……と肺は別に良いや。食いきれん。猟師の特権は美味いものだけ食っちまえば良いんだよ。

 

「じゃあ俺はちっと休憩ついでに薪でも拾ってくるぜ」

「えー働いてるじゃん。けど、助かるかな。お願いしまーす」

 

 というわけで、俺は拠点から少し離れた場所まで移動した。

 周囲に人の気配はなく、川沿いに穏やかな風が吹いているだけ。火照った体が冷えて癒やされるぜ。

 いやぁ、寒い季節だってのに汗をかいちまった。でも普段ほとんどやらない筋トレをこの機会に出来たと思えば、無駄な見栄っ張りではなかったはずだ。

 しかしそれにしても魔力が尽きかけで、仮に今日魔物が襲ってきたとしたら不安があるレベルだ。

 こういう時はどうするべきか。簡単な解決方法がある。

 

「さて……“(イクリプス)”」

 

 人気が無いことを確認したら、まず俺のギフトを発動させます。

 

『“坩納堝(コンセントレイト)”』

 

 次にスキルを発動させます。

 

「……ふー」

 

 で、解除します。

 するとびっくり。俺がさっき消費した魔力がほぼ全回復しました。やったね。

 

「よし、休憩終わり。戻るかー」

 

 みんなも魔力欠乏症に陥ったら試してみてくれよな!

 

 

 

「内臓はすぐに駄目になっちゃうから、大部分は今日まとめて調理しちゃおうか。僕らの村でよく作ってた内臓の保存食があるから、それを作ってみるね」

「あー、クランハウスでは時々作ってたけど、モングレルさんは食べたことなかったかな? すっごく美味しいから、楽しみにしてて!」

「おーマジか、そいつは期待できるな」

 

 腐りやすい内臓は、冷蔵技術が低いこの国においては最も早めに処理しておきたい部位だ。氷室では冷えも悪いから、内臓系は本当に日持ちしないんだよな。

 だからこうして大猟だった時なんかのために、内臓をまとめて調理する方法が確立されているんだろう。多分俺も食ったことのあるようなものだとは思うが、楽しみにしておくとしよう。

 

「いや本当に解体早いなお前たち……もう一体終わりそうなのか……」

「今日はねー、私達の本気モードだから!」

「モングレルさんが用意してくれたお湯のお陰で刃物の通りも良くて助かるよ」

「そりゃどうも。脂は滑るもんな」

 

 今のウルリカとレオは服もちょいちょい脱いだり裾を縛ったりして、見た目からして解体業モードに入っている。俺が持っていないような形のナイフでショリショリと手際よく色々な部位を切り離しているが、俺もあのナイフを買えば似たようなスピードに……はならないんだろうなぁ、多分。

 

「さて、外も暗くなってきたしこっちも急ぐか」

 

 今日は揚げ物をやる日って決めてたからな。俺はそっちの準備もしないといかん。

 もうこれだけたくさんのクレイジーボアを獲ったなら、今日使う分のラードは自重しなくても構わないだろう。

 どんどん抽出してどんどん揚げていくぜぇ……。

 

 ケースに入れておいた卵を割り、水と小麦と混ぜてバッター液を作る。

 卵も値上がりしてるらしいんだよなぁ。卵の生産効率が上がる小ネタもケイオス卿としてチラッと公開してはいるが、ほとんどの所で平飼いしてるうちは誤差みたいなものだろう。こればかりはしょうがない。

 

 で、今回は色々捕獲した小動物や昨日捕らえたクレイジーボアの肉を中心にやっていこうと思う。

 まぁ内臓がめっちゃあるからあまり肉を食えないかもしれないんだが、そこはそれ、工夫すれば良い。

 今日の料理はやることが多いぞー……真っ暗になるまでに食えれば良いんだが。

 

 

 

「あー疲れた! もうお腹空いて死にそうだよぉ」

「今日は重労働だったね……けど、いいサイズの獲物が手に入って本当に良かったよ」

「うん、それはね! ……ところでモングレルさん、もうこれは……?」

「おー来たか。食っていいぞ。準備はだいたい出来てるからな」

「やった!」

 

 テントを張った拠点では、どうにか二人が戻ってくるまでに飯の支度を整えることができた。途中で何度か二人がやってきて内臓を色々やってたからそっちの料理もわかってはいるが、さてさてどんな仕上がりになっているのやら。

 

「じゃーん。私達が作ったのはこれ、クレイジーボアのハギス!」

「おー……内臓の、なんだ。蒸し焼きにしたやつか」

「本当は腸詰めにして作るんだけどねー、そこらへんは時間がないから省略! 適当な膜とか皮で包んで縛ってあるけど、味に違いはないはずだよ!」

「うん、いい香り。レバーを沢山使えるとやっぱり違うね」

 

 ウルリカ達が作った内臓料理はハギスだった。

 肝臓、心臓、肺などを刻んで香草や小麦を混ぜ、塩とスパイスで味を整え蒸し焼きにした料理である。

 

「おお、うめぇ。こいつは良いな。俺は肺とかはあまり好きじゃないんだが、これなら普通にイケる」

「ふふー、でしょでしょ?」

 

 色合いは内臓のミンチって感じでちょっとアレだが、味はかなりこってりしていて美味い。ウイスキーが進む味だ。さすがに今日は飲まんけど。

 

「モングレルさんの串揚げはー……わっ、これ心臓?」

「本当だ。クレイジーボアの心臓だね。串揚げにしたんだ」

「ああ。心臓はでっかい筋肉みたいなもんだからな。ボアのハツ……心臓はそこまで硬くねえし、適度な歯ごたえがあって美味いぞ」

 

 串揚げ用の肉はハツ、そして頬肉を使った。

 クレイジーボアのこの頬肉が、切り出すのは面倒だがなかなか絶品なのである。そいつを串揚げにすればもう文句は言わせねえ。

 

「んー! この油と、お肉の汁が、これ……本当に美味しい……!」

「うん、これは……良いね。元気が出てくる味だ」

「心臓は良いよな。鉄っぽい味を食ってると、活力がみなぎってくるっていうか」

「わかるわかる。あー……うちのクランハウスでも揚げ物作れるようにしたいなぁー」

「火事には気をつけろよ……? あ、野草とかも揚げてあるからちゃんと食えよな」

「はーい」

 

 正直レゴールに新しくできた揚げ物専門店もそこらへんが心配である。

 まぁ人のやってる商売だし口出しはできないが……。

 

「それでそれで? モングレルさん、そっちの鍋は何?」

「さっきからずっと、その焚き火ストーブにかけてるよね」

「ああ、こっちはな……もう大丈夫か? 加減がわからねえけど多分いけるか……どれどれ……」

 

 蓋を開けると、もわっとした蒸気から上品な香りが漂ってきた。

 

「今日獲ったスワンプタートルの鍋だ。あまり扱ったことのないタイプの奴だから自信は無いけどな。長々と煮込んだから食えなくはないはずだぜ」

「ああ、そういうのも作ったんだ。へえ、楽しみだな」

「わぁ……うん、なんだかいい香りがする……」

 

 亀っていうかスッポン鍋と同じような感じで作ってみたが、どうだろうな。コラーゲン鍋っていうのかね、こういうの。

 スワンプタートルはやたらと硬くて骨格もよくわからないしで解体に苦労したが、食えそうな所はだいたいこういうのだろって感じでブチ込んで煮込んであるので、まぁ大丈夫だろう。多分。

 

「こってりした串揚げとハギスが辛くなってきたら、こっちのあっさりしたスープで口直しだ。悪くないだろ?」

「うんうん! 今日は豪華なご飯で楽しいなー」

「だね。本当に色々獲れて良い日だったよ」

 

 それから俺達は男三人らしく、脂っこい料理をガツガツと楽しんだ。

 全員それなり以上の運動をこなした日だったので腹も減っている。俺でさえ今日のこってりしたメニューを大量にバクバク食えたのだから、若い二人も相当美味しくいただけただろうと思う。疲労と空腹は最高のスパイスってやつだな。

 

 スワンプタートルのプルプルした肉の入ったスープも適度な塩加減とあっさり感で、締めには悪くなかった。

 なんだかんだ言って、秋や冬に飲むこういう汁物が一番美味え。寝る前や冷え込む朝方なんかは特にな。

 

 一通り食って満足して、食器類を洗って、テントに入り、さて眠ろうとなって……そこで気がついた。

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 なんか……俺の息子が元気になっちまった……。

 

「……はぁ……今日はちょっと、あっついねー……」

「う、うん……そうだね……」

「スープが温かかったからな……まぁ、早めに寝ておけよ」

 

 澄ました声で引率の先生っぽくそう言ってやる俺だったが、いかんせん股間が張り切っている。

 いや眠いよ? 眠いんだけどね。なんか俺のモングレルがね。中学校の頃の修学旅行の夜みたいな盛り上がり方してるんだよな……。

 

 これあれか。スワンプタートルのせいか。絶対そうだろこれ。確か精力剤にもなるって話あったもんな。すっかり忘れてたわ。

 張り切ってるところ悪いが息子よ……ここにお前が討つべき敵はいないんだ。どうか抑えてくれ……。

 

「ん……ねえ、夜更かしするならさー……もっと、ほら……」

「いいから、さっさと寝なさい。今日はもうみんな疲れてるんだから」

「……はぁい」

 

 こんな状態かつ今日の疲労度で夜更かしなんてやってられるか。俺は寝るぞ!

 久々に魔力も肉体も使ったせいで眠気がやべえんだ……しかも飯食った後で余計に睡魔が……スヤァ。

 

 

 

「……ふーっ……ねえー、もう寝ちゃったー……?」

「ん……僕はまだ起きてるよ、ウルリカ……駄目だよ、今日はもう寝ないと……」

「……はーい……」

 




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