バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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埋まる墓穴と掘られる氷室

 

 それからは特に何も事件らしい事件が起こることもなく、無事にスタンピード騒動は沈静化した。

 城壁の上の兵器も定位置に収容され、仮設された救護所だの炊事所なども解体された。その作業の手伝いだけやって終了だ。楽なもんである。

 

 だが、犠牲者がいなかったかというと全くそんなことはない。

 情報が錯綜しているし俺みたいなとこに正確な話が入ってくるわけでもないのであくまで噂の域を出ないのだが、この騒動に関わる死者や怪我人の数は少なくとも五十人を超えているそうだ。

 咆哮が響いた際に運悪く街道を進んでいた商人などは制御不能になった馬を落ち着かせている間に魔物に襲われたり、街道沿いの一部の農家にも被害が及んでいる。

 バロアの森に居たギルドマンなどは特に災難だ。森の中の魔物が一斉に恐慌状態に陥り暴れ回ったりするのだから、普段の森でのセオリーなど全く通用しなくなる。結果として何度も戦闘に巻き込まれ重傷を負ったり、そのまま勢いに圧されて死んだ者も多い。

 命からがら樹木の高い場所まで避難できたギルドマンは生き残れたが、そういった訓練や練習を積んでこなかった奴なんかは……まぁ、それなりに無惨な姿で発見されたそうだ。

 秋の狩猟シーズンっていうのも良くなかった。直前の塵雪を避けるためにさっさとバロアの森を退散する選択をしたギルドマンは安全圏に避難できたが、森でやり過ごす事を決めたルーキーなんかは、大変な目に遭ったことだろう。

 

 友人と呼ぶほど親しい間柄じゃなかった。

 けど、言葉を何度か交わす程度には知り合いで、使ってる武器と好きな食い物を知ってるくらいには、他人ってほどでもなかった。

 そんな奴が六人、今回だけで死んだ。

 

「月の神ヒドロアよ。冥府をゆく彼らに暖かな端切れを……」

 

 親しかったギルドマン達が集い、葬儀を行っている。

 遺体の上に小さな何枚もの様々な布の端切れが置かれたそれらは、これから燃やされる予定の犠牲者達だ。既にアンデッド化しないように背骨が折られ、あとは火葬するだけ。

 

 金のないギルドマンは身寄りがいればパーティーの手を借りて故郷へ、そういった帰る場所がなければギルドが管理している区画の集団墓地に埋葬されることになっている。

 しかしその集団墓地というのも非常に質素なもので、言ってしまえばまとめてザッと火葬した上で郊外の墓地の片隅にポツンとある石造りの井戸のような墓穴に廃棄するというものだ。

 その墓穴だって、定期的に墓守が石製の墓穴から中身を掘り返しては、どこか人気のない場所に埋め直してるって話である。

 人間、金を持ってなきゃまともに弔って貰えないのはどこの世でも同じだな。この世界ではアンデッド化を防ぐためにしっかり火葬してもらえるだけ逆に手厚いかもしれないが……。

 

「ギド……俺たちこれからだっていうのに……なんで先に死んじゃったんだよ……」

「ギドさん……」

「……大丈夫、きっとヒドロア様が導いてくれるさ」

「うん……」

 

 まとめて火葬され、混じり合った骨片となった後はもうどれが誰だったかなどわからない。

 ただただ、残されたパーティーメンバーや友人たちは見送り、別れるだけである。

 

「運が悪かったなぁ、あいつも」

「しょうがねえ。ほとんど苦しまなかっただけマシさ。……けどあいつの故郷、エルミートの方だったよな。届けてやらなくてよかったのかな」

「本人が別に良いって言ってたんだ、レゴールで埋葬された方がマシだったんだろ」

「兄貴の悪口ばっか言ってたもんなー」

「ははは! 酒飲むといつもな!」

 

 若いパーティーなんかはしんみりした別れ方をしているが、ギルドマンとしてある程度やってきた者達は慣れたものである。

 手続きも空気感もなんとなくわかっていて……嫌な慣れ方をしてるって言えばいいのかね。仲間の死をしっかりと受け止めた上で、次の日からはすぐに切り替えていけそうな調子を保てている。

 ギルドマンは、どんなパーティーでも死と隣り合わせ。バロアの森もただ美味しい肉や素材が転がっているだけのフィールドではない。ちょっとした何かが起こるだけで人が死ぬ、危険な場所なのだ。こういう葬儀は、俺たちにそれを思い出させてくれる。

 

 火魔法によって燃やされた遺骨が石造りの墓穴にザラザラと滑り落とされ、墓石という名の蓋をされる。

 これでおしまい。質素なもんだ。

 

「ギドさん……」

「チェル、もう行こう。僕らには仕事があるんだから」

「……うん」

 

 今まで何人もの若いギルドマンが、この共同墓地の軽い墓石にすがりついて泣いてきた。

 やるせねえよな。若い連中が死ぬのは、特によ。まだやりたいことがいくらでもあっただろうに。

 

「あ、モングレルさん……それは」

「餞別だ」

 

 俺は花屋で買った一輪の青い花を墓前に供え、墓石の上に酒を垂らした。

 ポーションの空き瓶程度の小さなものだ。我ながらケチだとは思うが悪く思うなよ。

 

「ウイスキーだ。高いんだぜ。……少しはこいつらの慰めになると思ってよ」

「……ありがとうございます」

 

 死者への慰め。同時にこれは、俺の死生観の再確認だ。

 人が死んだら悲しいという当たり前の事実を噛み締めておきたかった。そのための、まあ、自分の都合だよ。

 

「もうちっと色々教えてやれてたら、違ってたのかもと思ってな」

「……モングレルさんは僕たちに色々教えてくれてます。僕たちは僕たちで、未熟なりにやってきたつもりですよ」

「はは、そうか。そうだな。いつまでもお前らを半人前扱いしてちゃ失礼か」

 

 “最果ての日差し”のフランクとチェルの兄妹。こいつらもギルドマンになって二年か。その上、仲間の死まで経験したら……もうルーキーとは呼べねえよな。

 

「よし。ゴーストが出てくる前にさっさと帰るか」

「え、ゴースト出るんですか!?」

「聞いたことないですけど……!」

「どうだかな。さ、早く行こうぜ。お前らも仕事があるんだろ。悲しいなら忙しくしとけ。その方が気が紛れるぞ」

「……はい」

 

 出会いもあれば別れもある。しかも突然にやってくる。

 なんだかんだで命の軽いこの世界。転ばずに生きていくつもりなら、とにかく仕事して金を稼がなくちゃな。

 

 

 

「ブロンズ3向けの依頼は、今のところ……モングレルさんの好みのものは少ないですねぇ」

「マジかよぉミレーヌさん」

「数日は馬車の護衛要員に多少の増員がありますので、そちらが多いですね。バロアの森の行方不明者捜索はレゴール伯爵軍の方々が率先してやっていますし……」

「馬車の護衛は嫌だなぁ」

「でしたら、はい。ありませんね」

 

 ミレーヌさんはニッコリと笑ってそう断言した。くっそー、いい笑顔だな。

 でも仕事が無いんじゃしょうがねえわ。タラタラと馬車の護衛につくのも嫌だしな……。

 

「じゃあもう好みの仕事ねぇし休むとすっか! 仕事なんかよりやっぱ酒だわ。さて、今日はどんな酒を飲もうかな……」

「別に仕事が無いわけではないのですが……あ、そういえば」

「ん?」

「ライナさんからお聞きした話を思い出しまして。“アルテミス”のクランハウスに関わる話で、相談を受けていたことを思い出しました」

「“アルテミス”のクランハウス? 相談?」

 

 なんのこっちゃ。流れからして仕事の話なんだろうが。

 

「“アルテミス”のクランハウスは地下に小さな氷室があるんですけど、ご存知でしたか」

「なにそれ初めて聞いた。良いなぁ氷室」

「ええ。……しかしその氷室が狭く、冷蔵性能もさほど良くないことに不満があるそうでして。少し前に地下拡張工事の申請を出して、つい最近受理されたそうなのですが……工事に際して、力のある信頼できる人手が欲しいそうなのですよ」

「気は優しくて力持ちな奴ってことかい?」

「モングレルさんにはまさにぴったりかなと」

 

 ミレーヌさんはいつものようにニッコリと笑っている……。

 

「うーん……俺、向いてると思う?」

「はい。“アルテミス”の信頼も篤く、力持ちですから。これ以上ない適役かと。報酬は、まぁこのくらいで。相場通りですね」

「んー……適役ねぇ……けどなぁ……地下の工事ってのもなぁ……」

「ちなみに、向こうのご厚意で作業者は“アルテミス”のクランハウスにあるお風呂を利用できるとか……?」

「ミレーヌさんにそう言われちゃしょうがねえなあ。よし、良いぜ。その仕事、俺が受けてやるよ」

「あら、どうもありがとうございます。私も、きっと“アルテミス”の方々も。とてもお喜びになると思いますよ」

 

 なんだかまんまと誘導されて乗せられた感はあるが、風呂に入れるのであれば仕方ない。

 御社の企業理念と福利厚生に惹かれて来ましたモングレルです。よろしくお願いします。

 




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