バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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ハイ・アンド・ロー

 

 風呂とは……体の洗濯である。

 命とか心とかそういう大それたものを洗う前に、きったねぇ体を洗い流すのが先だ。いやぁ本当にもう、風呂だけはどうしようもねえわマジで。

 

 だが風呂さえあればこっちのもんよ。

 こういう時のために作っておいた自分用の無駄に良い香りのする石鹸の出番だ。よく泡立ててシャワシャワと……桶でお湯を貰っただけではこういう洗い方はできないもんな。

 そこにアーケルシア産の海綿(スポンジ)が加われば無敵だぜ。

 

「ぉぁぁ……」

 

 湯船に入ると三十歳増しくらいの声が出た。いや、実質俺の実年齢みたいなもんか……。

 

「あー良い湯だ……毎日入れるならな……」

 

 毎日風呂。最高だな。できないこともないだろう。

 クランハウスに風呂がついてる“アルテミス”か“若木の杖”に入れば良い。それだけで俺も無条件に風呂を楽しめるだろう。

 だが、時々勝手にどこか遠くへ遠征に行くだとか、ちょっとした状況の変化で勝手にパーティーを抜けて拠点を変えるだとか、そういうことを抱えたまま組織に所属したくはないんだよな。

 そこそこ自由に生きてはいるが、秘密が少ないわけじゃない。ケイオス卿としての活動をするのにも、ある程度の自由がないと難しいからな。

 

「……けど風呂はやっぱ良いな。回数券やってもらえるかどうか聞いてみるか……?」

 

 わりと真剣にそう考えながら、久々の長風呂を楽しんだのだった。

 

 

 

「あるわけないでしょ、回数券なんて」

「マジかよ」

 

 風呂上がり、さっぱりしたこの姿でスルッといけねえかなと思ったけど無理だった。シーナは融通が利かねえな。いやダメ元だったけどさ。

 

「クランハウスの設備を使いたいなら“アルテミス”に所属しなさい」

「それは嫌だなぁ」

「……うちの設備はそこらの宿よりも整っているし、ライナもいるわ。個室だってまだ余ってるのよ。本当、何が不満なのかしら」

「やめておけシーナ。何度も誘っても時間の無駄だろう」

 

 後ろからやってきたナスターシャがシーナの肩に手を置き、きっぱりと勧誘をやめさせた。

 いつもは色っぽいローブ姿でいることの多いナスターシャだが、クランハウス内では更にラフでいるらしい。ほぼネグリジェじゃん。胸でっか。

 

「ていっ」

「いっった。なんだライナ、居たのか」

「ていっていっ」

「痛っ、ローキックやめろ」

 

 いやガン見するだろあんなん。しょうがねえだろ眼の前にあるんだから。

 

「ナスターシャ先輩、来客中はちゃんとした服着なきゃ駄目って言ってるっス!」

「ああ、そうか。そうだった、すまない……」

 

 ライナに注意されてようやく自分の格好が駄目なことに気付いたのか、ナスターシャが奥の部屋に引っ込んでいった。

 ……天然というかなんというか。

 

「ライナ、ナスターシャはいつもああなのか?」

「……ナスターシャ先輩目当てで入るつもりっスか……?」

「いやちげぇって。いやそういう手もあったか……?」

「ていっ」

「いっって、いやそうじゃなくてな。ナスターシャとかがクランハウスでいつもあんな感じだったらウルリカとレオは大変じゃないのか。目に毒だろ」

「いやー……まぁ、レオ先輩は恥ずかしそうにしてるんスけど、ウルリカ先輩はそうじゃないっスよ」

「マジかよ……」

 

 鋼の精神を持っているというより女への耐性がすげえ高いのか……?

 育ちを思えば有り得なくはないだろうが……。

 

「ちょっとモングレル。ナスターシャを邪な目で見るようなら尚のこと回数券なんて使わせてあげられないわ」

「いや今のは例え話だし……」

「じっと見てたくせによく言うわね。ほら、荷物はそっちよ。帰りなさい!」

「すまんて。はいはい、また次回の仕事でな」

「時間に遅れないように!」

 

 出ていけと言ったりまた来いと言ったり忙しい奴だ。

 わかりましたよ。また出直してきますって。

 うん、やっぱ女所帯に交じるのは厳しいわ。入るとしてももうちょっと気楽なところが良いぜ……。

 

 

 

 さて。地下工事というのはそう簡単にいくものではない。

 何もないところを露天掘りして作って良いならまだマシなんだろうが、既に建っている建物の地下を工事するとなると一気に難しくなってくる。

 今回の場合は、土砂と石材の排出が一番の難所だった。

 とにかく掘ったら掘った分だけ、というより気持ち掘った分以上の土砂が出てくるので、そいつをどうにかして地上に運び出さなくてはならない。

 幸い“アルテミス”の台所は裏口と庭に繋がっているので、こっちに土砂の類を放棄すれば良いだけなのだが、それでも億劫になる量の土砂の運び出しは非常に困難を極める。

 

 “アルテミス”も最初は身内だけでやっていたが、掘り出しに一人、土砂のまとめ役に一人、階段の下に一人、上に一人……と人数を多くすれば効率的ではあるのだが、これがまた人数を分けても重労働な割に進みが早いわけでもなく、結局一人の力持ちにどうにか全部やらせるべきなんじゃないかという結論に落ち着いたそうである。

 実際、間違っていないと思う。大人数でやっても氷室のショボい階段が耐えられないだろうし、はっきり言って身体強化が使えない奴には難しい仕事だ。手作業でやるもんじゃない。

 しかしこんな時“アルテミス”の頼みの綱である超ギルドマン級の狂戦士ゴリリアーナさんは不在であるという。近頃は貴族街の方で色々と剣術指南や訓練に混じっているそうで、シーナが言うには“大事な時期”とのことであった。よくわからんけど修行パートに入ったらしい。ビジュアル面では既に最強にしか見えないのだが、まだまだ強くなれるのだろうか……。

 ゴリリアーナさんがいないと、もう“アルテミス”で身体強化を使えるのはレオしかいない。そのレオもその身体強化の質で言えばかなり低めだ。スピードタイプの剣士だからしょうがない。

 そんな感じで、俺にお鉢が回ってきたというわけ。事情を詳しく聞けば俺が選ばれたのもそれなりに納得できる話だな。

 

「今日からの作業では、この魔導松明を使うと良い」

「おー、すげぇ。高いんだろこれ」

 

 ナスターシャが俺に渡したのは、松明……というよりは、二メートルほどの高さのある篝火のような魔導具だ。松明というよりはポールの上に光源が備わっているライトに近いだろうか。光魔法使いがこの魔導具に術を込めることにより、そこそこ長時間周囲を照らすことができるという優れものだ。

 メンテナンスが非常に面倒なのと光魔法使いの世話にならないと利用すらできないという欠点はあるが、四時間以上は連続で周囲を照らしてくれる優れものである。貴族の家とかでは置いてあるところも多いそうだが、魔法使いだけでなく別の消耗品によるランニングコストもかかるそうで……蝋燭と値段を比べられるあたり、結構なものなんだろう。

 

「ギルドで灯りは補充されている。今日からはこの光源が尽きるまで作業をしてもらおうと思う」

「おう、助かるわ。暗いと変な所削ったりするかもしれないからな。あとこっちも専用の道具を使わせてもらうぜ」

「それは?」

「滑車だ」

 

 氷室の入り口あたりから吊るす滑車である。動滑車ではないただのカラカラ回るだけの車輪だが、俺が下からロープを気合い入れて引っ張って袋詰の土砂を上げれば良いだけなので問題はないだろう。

 入り口まで滑車で持ち上げた袋詰の土砂はレオにでも運んでもらう予定だ。俺一人でも土砂の運び出しはできるが、俺が無駄に動き回っても良いことはないんでね。こっちはこっちで、地下の人として専念させてもらう。

 

「なるほど。土砂の運び出しを容易にしたということか」

「必要になったらレオも呼び出すから、その時は手伝い頼むわ」

「ああ、呼ぶようにしよう」

「今レオは何を?」

「ライナと共にシーナから勉強を教わっている」

「そりゃ忙しいな」

 

 まだバロアの森の様子は少々浮ついているらしく、セオリー通りにいかない魔物の分布になっている恐れがあるそうだ。そんな状況だと近場の討伐任務もやり辛いので、こうしてメンバー全体が暇しているのだろう。

 いや、中には貴族街の方で仕事をしてる奴もいるから全員ではないか。

 

「ところで、モングレルよ」

「ん?」

「お前が前に風呂場に置かせてくれと言ったあの石鹸、なかなか良いものだな。少しだけ使わせて貰ったぞ」

「ああ、良いだろ。油も香油も良いの使ってるからな」

「うむ、シーナも喜んでいた。私個人としても、綺麗好きな男は嫌いではない。……ところで、あの石鹸の在庫はないのか?」

「ねえよ。デカい業者ってわけじゃねえんだから、自分用だけだぞ」

 

 俺が作った石鹸は既存のショボい石鹸を溶かして良さげなもんを足して改良したものでしかない。

 一から作ってみたことはあるが、面倒くさいし出来も悪かったのでやめた。別に石鹸が無い世界ってわけでもないしな。あるもん使っとけ。

 

「そうか……」

「あからさまに残念そうにするな……また見つかったら取っておくぞ。タダではやらないけどな」

「……回数券か……」

「そこらへんはシーナとよく相談してなんとかしてくれると俺も嬉しい」

「ふむ……」

 

 無駄に真剣に悩み始めたナスターシャを横目に、俺は地下に潜って作業を開始した。

 今日も一日ご安全に!

 




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今後ともよろしくお願いいたします。

ヾ( *・∀・)シ フニニニ…
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