バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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鎚と鉄床

 

 久々に討伐のためにバロアの森へとやってきた。

 近頃荷物を運んでばかりで、まぁそれでも良いんだけども、ここらで軽く何体か魔物を仕留めておきたかった。俺としては珍しくそこまで金に困っていないのだが、またいつ財布から金が発射されていくか俺にも分からないからな。

 

 装備は久々に弓剣とチャクラムを持っていくことにした。

 金を稼ぎに来たくせに若干遊びが入っているのは、やっぱり余裕があるせいだろう。まぁでもこういう時くらいじゃないと使えないんでね……。

 

「おー、伐採区画が広がってる」

 

 馬車に乗って森の入り口から奥へ入っていくと、前に見た時よりも更に拓けた感じになっていた。

 広場のちっこい砦も増築作業中のようで、何人かの屈強な男たちが汗水垂らしながら煉瓦を積み上げている。

 いや、ひょっとするとあれは補修工事かもしれない。前のスタンピードで壊れた可能性は高いな。

 

「おお、モングレルさんじゃないか」

「ん? ああ、“デッドスミス”の二人か」

「どうもー」

 

 ぼんやり工事風景を見ていると、二人組の男女が声を掛けてきた。

 アマルテア連合国の人間らしい赤系の髪を持つ夫婦のギルドマン。比較的最近レゴールへやってきたフーゴとイーダのペアだった。

 夫のフーゴは物騒なバトルハンマーを担ぎ、妻のイーダは両手にデカい丈夫そうなガントレットを装備している。ソロでバロアの森に潜る俺も結構なアレだが、二人だけで潜るのもさほど危険度に変わりはない。それでもやっていけているのは、この夫婦に相応の実力が備わっているからだろう。伊達にシルバー3の認識票を付けてはいない。

 

「二人とも討伐で?」

「ええまあ、しばらくは俺とイーダで資金稼ぎだよ。この森は冬には狩りができないって話だからね」

「モングレルさんも討伐に? あ、弓持ってる」

「もちろん。軽くボア辺りを二匹くらい持って帰ろうかなと」

「おー、じゃあ狙いは同じだ。俺たちもボア狙いなんだよ。脂も高く売れるみたいなんでね」

「バロアの森は稼げて良いねー。ほんとレゴール来て良かったよ」

 

 俺たちはどちらもバロアの森でやっていけるだけの実力を備えているが、なんとなく話しながら行こうぜってことで一緒になって潜ることになった。

 肉の分け前で揉める可能性もなくはないだろうが、“デッドスミス”の夫婦は悪い人らじゃないし、まあ大丈夫だろう。

 なお、向こうはそんな心配など欠片もしておらず、“逆に人数多いほうが獲物を沢山持って帰れるから!”とすげえ前向きだった。逆に今そんなにボアと遭遇できるんだろうか。

 

 

 

「え、もう二人でそんなに仕留めたのか。まだレゴールに来て何ヶ月も経ってないだろ?」

「頑張ったんすよーほんと。いやー、バロアの森は豊かだなぁ」

「私達のスキルの相性も良いみたいだしね!」

 

 歩きながら二人の話を聞くに、“デッドスミス”はもう二十体近くの魔物を仕留めているらしい。しかもゴブリンとかそこらへんの連中ではなく、ボアとかディアといった連中だけをカウントしてそれだ。ここまでスコアを出されると、もうペアでの討伐が安定していると言っても問題ないだろう。

 

「でも楽勝ってわけじゃないんだこれが。二人でやって丁度いいくらいの相手っていうか」

「うんうん。こっちも結構本気でオリャッって受け止めないと無理な魔物達でね。なんていうのかな、実力に見合った相手?」

「楽ってほどではないけどしっかり勝てるし、稼ぎも良い。レゴールは良いね!」

 

 なかなか珍しいことではあるが、どうやらこの秋のバロアの森は二人にとって適正レベルの狩り場だったらしい。死の危険は無く、かといって力を持て余さない狩り場。なるほど、そういう討伐が出来ると楽しいかもしれないな。

 

「けど二人だけで潜るのは危ないかなーって思いもやっぱあるんだよなぁ……」

「というと?」

「私もフーゴもやられるつもりはないけど、もしもってことはあるじゃない? そしたら娘のラーラのことを考えちゃうとねぇ」

「あー……万が一にも片親にするわけにはいかないか」

「まして二人とも死ぬなんてことになったら、無茶はできないんだよな」

 

 子持ちのギルドマンは案外珍しくない。が、しっかり育ててやれるギルドマンは残念ながら珍しい。ギルドマンという仕事自体、それなりのランクでなければ安定して稼げないというのもあるし、不慮の事故で働けなくなってしまう危険が高いせいだ。

 膝に矢を受けて衛兵をやっていけるほどこのレゴールは甘くない。片足が不自由になるだけでも討伐どころか体力仕事全てに差し支えるのが現実だ。

 だからギルドマンは過剰なくらい安全を取るのが賢い生き方と言って良いだろう。その辺りのことを、彼ら“デッドスミス”はよくわかっているらしい。

 

「だから潜る時はブロンズ辺りの人を一人か二人連れていくようにしようかと思っていてね。できれば遠距離役が良いかな」

「おお、それは名案かもな。そのくらいの人数になれば安定感も出てくるんじゃないか」

「やっぱモングレルさんもそう思うかー。だよな。バロアの森だと二人は厳しいぜ」

「だから今日はモングレルさんも交えて、三人での討伐をちょっと試してみようかなってね」

「そういうことなら喜んでだぜ。まぁ俺自身も普通に戦力に数えてくれて構わないけどな」

 

 という流れで、俺たちは臨時の三人パーティーとして討伐してみることになった。

 

 

 

 しかしここでひとつ大きな問題がある。

 それは、ここにいる誰もがまともな索敵能力を持たないことであった。

 

「見つからねえなぁ」

「ははは、バロアの森って足跡全然わからないな」

「私達適当に探して適当にやっつけてを繰り返してたもんねぇ」

 

 そう……彼ら“デッドスミス”は、奇しくも俺と同じような狩猟スタイルだったのである。

 つまり、適当にブラついて見つけたら張っ倒すというストロングスタイルだ。誰も獲物の探し方なんて実践レベルのものは持ってないし、長年通ってる俺もマジで良くわからん。適当に音出しておびき寄せるくらい適当にやってたからマジでわかんねえんだ。少なくともライナやウルリカほどの技能は無い。

 

「あれだな。臨時パーティーを組むなら俺みたいなただの剣士じゃなくて、索敵技能を持った奴を入れたほうが良いなこれは」

「確かに……危険を避ける意味でもその方が良いか」

「索敵技能かー。まだレゴールのギルドマンの人らに詳しくないから、仲良くしながらになるわね……おっ?」

 

 そんなことを話していると、前方からガサガサと気配が。

 結構大きいぞ。これは小動物じゃないな。

 

「……グギッ?」

「ギャッギャッ」

「ゴブリンかぁ」

「ハズレねー」

 

 と思ったらゴブリンの群れだった。その数四体。それぞれ棍棒を握り、敵意剥き出しに俺たちを睨んでいる。

 

「未来の話をしたら鬼が笑いに出てきたってか」

「ははは、なんだいそれ。レゴールのジンクス?」

「いや、俺の故郷で言われてただけ。多分有名じゃないよ」

 

 俺も嫌々バスタードソードを抜き放ち、戦闘態勢を取る。

 いや、バスタードソードはやっぱやめておこう。せっかくだし弓剣だ。これで練習しよう。前にライナも人型は当てやすいって言ってたし、いけるだろ。

 

「よし、いくぜイーダ!」

「任せてフーゴ!」

 

 フーゴが鉄槌を構え、イーダがガントレットを打ち鳴らす。ゴブリン達はその音に反応し、三体ほどは二人の方へ敵意を向けた。

 

「で、お前の相手は俺になるわけだ」

「ギャッギャッ」

「距離も近いんでな。悪いが外す気はそんなにしないぜ」

 

 絶対に外さないとは言えない。多分10%の確率でスカる気はする。

 でも当ててやるぜ……お前が俺のファーストキルになるんだよ!

 

「“咆哮(シャウト)”いくよッ! かかって来ォおいッ!」

「ギッ!?」

「ギッ……!」

「先手貰ったァ! “鉄壁(フォートレス)”! どりゃぁああッ!」

「えっ」

 

 俺が弓を構えようとしたその瞬間、イーダが吠えて突撃し始めた。

 魔力を帯びた叫びを真正面から受けたゴブリン達は怯み、俺の方に注目していた一体も気を取られ、イーダの方へ向かっていく。が……彼女の手を覆う大きなガントレットにぶん殴られて吹き飛んでいった。

 

「ギャッギャッ!」

「ギイイッ!」

「おうそうだ、こっち来な! 全員纏めて相手にしてやるよッ!」

「あっ、狙いが……人近くにいるとちょっと……」

「こっちも動くぜイーダ! “地鍛打(ガイアフォージ)”ッ!」

「ギャッ!?」

 

 懐に潜り込んでぶん殴ってくるカチカチの拳闘士と、それに狼狽える所に容赦なくハンマーを叩き込んでくる戦士。

 ガントレットはゴブリン達の攻撃を苦もなく受け止め、スキルの乗ったハンマーは振り下ろされる度にゴブリンの軟弱なガードをぶっ壊して土の染みへと変えてゆく。

 まさに槌と鉄床。息の合った二人の前では、ゴブリンなど薪割りされる前の薪のように儚い存在であった。

 そして俺はというと、ひたすら弓を持ったままポカンとしているだけだった。寄生か?

 

「ふー……いやー良い運動になった」

「えへへ、誰か見てると張り切っちゃうわね! 思わずスキル使っちゃった!」

「お、俺も。逆にちょっと格好悪かったな今の」

「いやいやいや……二人ともすげーよ。そりゃ二人だけでもシルバー3まで行くわな」

「そうか? そう褒められると嬉しいな」

 

 仮に今の敵がクレイジーボアであっても難なく戦えてたはずだ。イーダが受け止め、フーゴが叩き潰す。手数の違いも無いだろう。この二人だったらサイクロプス相手でも普通に討伐できそうな気がする。

 

「いやー……でもねぇモングレルさん。私達今みたいな戦いだったら平気なんだけどね。強い相手が複数来たらどうなるかわからないのよ」

「まぁ確かに」

「そうそう。俺らもやっぱ二人だけなのは間違いないからさ。多勢に無勢でやられるってことはあり得るわけよ」

 

 となるとやっぱもう何人か同行するメンバーが居たほうが安心ってことに変わりはないか。

 うーむ。しかし同行ねぇ。ブロンズくらいで、防御力も高くて、索敵もできて、遠距離攻撃もできて、バロアの森で索敵ができそうな……あ。

 

「……あー、だったらあれだな。“ローリエの冠”の連中とか良いかもしれないな」

「“ローリエの冠”?」

「知らないわね」

「アイアンとブロンズの三人パーティーでな。そいつらだったら組むのに悪い顔しなさそうだし、互いを補えるものを持っていると思う」

「ほー……?」

 

 リーダーのダフネは多分感知系のギフト持ちだし、不意の索敵に関しては他にないものを持っているはずだ。飛び道具でサポートもできる。

 ロディは罠猟に詳しいし、森の痕跡を探すのは上手いだろう。

 ローサーは……まぁ……盾役としてはピカイチだから……まぁ、使えなくもないだろ、うん。武器もショートスピアに変えたし……。

 

「そうか、“ローリエの冠”か……面白そうだ。今度ギルドで話をしてみるか」

「ええ、良いんじゃない? モングレルさんの紹介だったら大丈夫でしょ」

「まぁ悪い……奴ら……ではもうないと思うから、うん。大丈夫だよ」

「ちょっと自信なさげなのが気になるな……」

 

 少なくともダフネだけは全く問題ないと断言できる。

 そんなダフネがついてりゃ他二人も平気だろ。

 

「でも二人だけじゃない、複数人のパーティーか……うーん、楽しみになってきたな」

「ええ、きっとこれまで以上に安心して討伐ができるわね!」

「おっと、まだまだ今日の狩りは終わってないぜ。“デッドスミス”のお二人さん、明日以降の事も良いけど、今日は俺と一緒の任務で結果出して行きましょうや」

「あ、それもそうだ。悪いね。ついつい僕らの話ばっかりで」

「あはは。よーし、続けて狩り、やっちゃいますかぁ!」

 

 三人でニヤリと笑い、討伐再開である。

 

 しかし今日はこの流れでまさかのボウズであった。

 マジで索敵できる奴は入れといたほうが良い。その結論がより強化された形である。

 




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いつもバッソマンを読んでいただきありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願い致します。
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