バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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塩漬けの依頼、失礼しました

 

 “ローリエの冠”はまだまだ若いパーティーである。

 結成からの日数も浅ければ経験も浅い。しかも若年のメンバー三人だけという、そこらへんにいる厨二な名前のパーティーとほとんど似たような構成だ。

 だが、パーティーとしての有り様や活動内容は大きく違う。

 

 “ローリエの冠”はとにかく金を稼ぐことに熱心だ。

 金にがめついのは他のギルドマンでも変わらないが、パーティーを率いるダフネの金銭に対する嗅覚は鋭いもので、打ち出す指針はかなりセンスが良い。

 一言で乱暴にまとめてしまえばケチと言えるような稼ぎ方をする事も多々あるようだが、市場の需要はしっかり注視しているし、無駄な金の使い方もしない。パーティーの運営に関わる経費を厳しく管理した上で無駄なく稼ぐのだから、ダフネはそれはもう理想的なリーダーと言えるだろう。

 

「あーもうっ! 結局あの騒動のおかげで罠が八割方壊れちゃってるし! ただでさえ金具は高いっていうのに……!」

「落ち着けよダフネ、罠なんて仕掛けなくても俺の盾と槍さえあれば討伐なんて楽勝だって。見てろよ、俺の槍は古今東西あらゆる魔物を撃ち貫き……」

「そんな稼ぎ方じゃ儲けにならないって言ってんのよ! バカローサー!」

「痛っ!? な、なんだよ!?」

 

 酒場の隅でやいのやいのやってる“ローリエの冠”は今日も賑やかだ。

 どうやら連中はスタンピードの際にバロアの森に設置していた罠の多くが魔物にぶっ壊されてしまったらしく、現在絶賛大赤字なのだそうだ。

 まぁ大赤字といっても短期的なもので、既にダフネらは冬を越せるだけの稼ぎを蓄えているのだが。どうやら金はいくら稼いでも足りないらしい。

 

「しかし、実際困ったもんだよな……罠を新調したは良いものの、もうじき冬がくる。それまでに全部設置して、何日か回って討伐してとなると……かなりハードだぞ」

「そうね……ロディの見立てではどうなの。私達ならどれくらいの数の罠が適正だと思う?」

「……難しいな。正直今のバロアの森はわからないよ。騒動のせいで魔物の痕跡も探しにくいし、群れの溜まり場もかなり変わってるって話だから。ポイントを探している間に、不意の遭遇が増えると思う」

「そんな時は俺の大盾がな……」

「森の散策はまだリスクが多いか……けど、やらなきゃ慣れないし……今の時期のボア肉は逃したくないし……せっかく買った罠は使いたいし……ん、そうだわ。他に何か任務をうけておいて、それと並行して小規模な罠を仕掛けて……そうね、それくらいがバランス良いかしら」

 

 しばらく悩んでいた様子のダフネだったが、ふと思いついたように受付へと歩いていった。

 

「……あのー、ミレーヌさん。何かバロアの森で任務とかって出てたり……」

「んー、バロアの森の任務ですか。アイアンからブロンズ向けのものとなりますと今は……そうですねえ……伐採作業の警備などが主なものとなりますが……」

「うっ……できれば伐採警備以外でお願いできますか……」

「そうですよね……あ、少々複雑な内容の任務があるのですが、そちらでしたらご紹介できますよ」

「本当ですか! 教えてください!」

 

 あ。ミレーヌさんまさかあの任務をやらせるつもりじゃないだろうな。

 

「では、任務の説明をさせてください。この任務は秋季の常設任務になります。内容は、バロアの森の指定された地点に赴いてゴブリンの古巣を破壊、掃除することです」

「ゴブリンの古巣の破壊……?」

「はい。バロアの森には掃討されたり使われなくなったゴブリンの巣がいくつもあります。それらのほとんどは粗末な作りなのですが、あまり放置したいものではありません。厄介な魔物が冬を越すためのねぐらにする可能性もありますし、春などに再度魔物が住み着く可能性もありますからね」

 

 ゴブリンなど多少の知能を持つ魔物が遺した巣の破壊任務。

 こういった遺構はバロアの森の中にあちこちあって、たまーに思いがけない魔物が住み着いたりして問題になることがある。

 だいたいは木の枝や丸太を雑に組み合わせて作ったシェルターだったり、スカスカの天幕モドキだったりする。別に小屋だとかそんな上等なものではなく、鳥の巣をデカくしたようなものと考えればいいだろう。

 

 ギルドではこういったねぐらを見つけた際には魔物の掃討と巣の破壊を推奨しているのだが、討伐証明を切り取って持って帰れる魔物とは違い、巣の破壊は証明が難しい。

 無駄に巣材の多いねぐらは破壊しようと思うと結構疲れるし、燃やしきるのも大変だ。解体中にゴブリンのうんこを踏みそうになったりすることもあるし触りたいものでもない。正直、“ギルドマンとしての心がけ”程度のもので破壊するにはなかなか面倒なものなのだ。

 だからギルドマンがねぐらを発見した場合にはギルドに報告だけして、その情報を集積した後に改めて“古巣の破壊任務”として処理するわけだ。

 要するに、秋までに後回しにされ続けた面倒臭い任務なのである。

 

「……と、こんなところでしょうか。今の“ローリエの冠”の皆様であれば、決して難しい任務ではないと思いますよ」

「んん、そうですか? ……古巣の破壊……古巣の破壊かぁ……貢献度が高いのは魅力よね……ああけど、貢献度だけあってもなぁ。確かに貢献度が高ければ色々と良い扱いされるのは知ってるけど……報酬がこれ、うーん……」

「レゴール支部ギルドは“ローリエの冠”の皆さんの勤勉な姿勢を高く評価しています。更に貢献度を高めて、ギルドとの繋がりを強くする好機です。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが……」

 

 ミレーヌさんはこの手の仕事を振るのがマジで上手い。

 何が上手いって、冬に餓死するかもしれないような奴には振らないんだよな。ちゃんと相手の懐事情を看破した上で、相手が素寒貧にならない絶妙なラインで勧めてくる。

 いやまぁ、ギルドも俺たちに金稼ぎさせるだけじゃなくて、こういう雑用を処理していかなきゃならないわけだからな……わかるぜ、必要なのは……。

 

 だが、そいつはあくまでギルドの事情。

 俺は一人のギルドマンとして……今は“ローリエの冠”に味方するぜ!

 

「悩んでいるようだな……ダフネ!」

「……さっきからお酒片手にこっち見てたのは知ってるけど。何? モングレルさん」

 

 エールを飲みながらずっと見守り続けていたのはちょっと不気味だったのか、ダフネがジト目を向けてくる。

 甘いぜダフネ……そんなジト目じゃいつまで経ってもライナを超えられないぞ。

 

「貢献度が高いだけで超絶不人気の任務よりも美味い話があるんだ。聞くか?」

「モングレルさんを疑うわけじゃないけど、言い方だけなんだか怪しいわね……」

「そもそもお前ら罠を仕掛けながら任務もやりたいってんだろ。ゴブリンの古巣が多くある場所なんてだいたい罠猟に向いてないぜ?」

「えっ、そうなのミレーヌさん!?」

「あら。罠猟をしながらの任務でしたか。そうですね、そうなりますと確かにモングレルさんの仰る通り、今ご紹介した任務は向いてはいないかもしれません」

 

 ミレーヌさんが俺の方を向いてニッコリと微笑んでいる……。

 怒っている……“余計なこと言いやがって”と怒ってやがるミレーヌさん……。

 で、でも俺は真実を明らかにしたかっただけだから……。

 

「うーん、そっかぁ……え、モングレルさんの美味しい話って何?」

「まぁお前らのパーティーのいるテーブルに戻ってから話そうぜ」

「良いけど」

「お? モングレルさんだ」

「あ、どうもです……」

 

 “ローリエの冠”と同じテーブルに座り、ついでにテーブルの上のナッツをさりげなく一粒いただいた。うん、美味しい。

 

「さっき森に罠を全部仕掛けたいけど、危ないし難しい……って話をしていたよな?」

「うんまぁ。全部聞いてたのね……」

「俺らが用意した罠は結構数があるから、仕掛けるのも大変で……かといって罠間の移動を急ぎすぎると魔物との遭遇が怖いし……ダフネはその辺り勘が良いんだけど、戦力的に不安がちょっと……」

「そんな時、俺の大盾と短槍が輝くんだ」

 

 ローサーが目ぇ開けながら寝言ほざいてんな。疲れてんだろ。ゆっくり寝とけよ。

 

「そんなお前らにちょっと引き合わせたい人達がいる。お前ら、“デッド・スミス”って知ってるか?」

「ああ、最近ギルドでも見かけるようになったっていう夫婦のパーティーね? 私からするとそうでもないけど」

「二人なのにすごい強いとは聞いてます。シルバー3で、けどゴールドにも引けを取らないとか……」

「その“デッド・スミス”が一緒に森を散策してくれるパーティーを探しているんだ。向こうも色々と思惑があってな。お前たちみたいに器用に色々できる小規模パーティーと短期で組みたいんだとさ。お前らの様子じゃ、まだ向こうからのお誘いは無いんだろう? 対等な条件で組めるんだったら良いんじゃないか?」

「えっ、本当に!? 私達が強いシルバーランクの人達と一緒に……それなら、罠の見回りも強行軍でいけるわね……!?」

 

 ダフネが頭の中でそろばんを弾いている。

 ロディも口に手を当てて考え込み、ローサーは大盾を磨いていた。……装備のメンテを欠かさない心がけは悪くないけどな。

 

「……正直、すごい助かるな。ダフネ、この話は飲むべきだぞ」

「当然よ! ありがとうモングレルさん、とても嬉しい提案だわ。……これで罠を設置して、冬までになんとか討伐で稼げるわね……!」

「なに、良いってことよ。そういうわけでこの燻製ナッツ二つもらうな」

「良い人だけどケチだなぁモングレルさんは」

「はははローサーお前面白いやつだな。そのピカピカな盾に俺の手脂付けてやるよ」

「うわーっ! やめろぉ!?」

 

 こうして“ローリエの冠”と“デッド・スミス”は短期間の同盟を組み、冬までの間は共にバロアの森を散策することになったのだった。

 この二つのパーティーの相性が良いかどうかは……しばらく様子を見ていけばすぐにわかるだろう。

 まぁ多分、そう悪いもんじゃないはずだぜ。

 




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