バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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無法の焼き鳥

 

 込み入った事情が色々あって、俺はゴブリンの古巣破壊任務を受けることになった。

 理由は聞かないでもらって結構。俺にも止むに止まれぬ事情の一つや二つはあるってことだ……。

 

 現場はバロアの森。調べるポイントは六箇所もある。どいつもこいつも古巣を放置しやがって……と思う気持ちもあるが、なんだかんだ俺もこういうのは手出ししないこともあるからとやかくは言えない。正直に言って仕事じゃなかったらやりたくないタイプの作業である。

 破壊目標は多いが、それぞれ近い場所にあるものばかりなのでそれほどの時間はかからないと言われている。

 俺からすると簡易的な地図だけで探し当てるのも大変なんだが……どれも小川に近いからいけるかなぁ。まぁ頑張って一日中にクリアを目指してみるか。駄目だった時のために軽い野営用の装備も持ってはいくが、できればさっさと終わらせて宿で寝たいぜ。

 

 

 

 夜明けと共に馬車で出発し、バロアの森東部へと向かった。

 金にならない仕事だが貢献度は貰える。億劫ではあるが、やっていくしかないだろう。

 

「お、モングレルだ。どうした、討伐か?」

「いいや、ゴブリンの古巣掃除だよ。一緒に来るか?」

「ははは、バロアの森でも掃除やってんのか。俺は遠慮しとく」

 

 知り合いのギルドマンと軽口を叩き合いつつ、さっさと森の中を移動する。

 今日は討伐みたいに気を張っている必要は無いわけだし、仮に遭遇したとしても無視せざるを得ないから、足取りは軽快だ。

 

「お、ここだな」

 

 早速一つ目の古巣を発見した。森に入ってかなり近い場所にあるというのに、何ヶ月も残されている……なんというか、枝の塊みたいなものである。たとえ近くても壊すメリットが個人に無いなら手出しはされない。現実なんてそんなもんだ。

 

「……ま、枝ばっかりなら余裕だわな。バスタードソードで細切れにしちまうか」

 

 この古巣は密集した三本の樹木を支柱とし、枝葉をそれぞれに組み合わせて作った狭いシェルターだ。ぱっと見ると低木の枝葉がめっちゃ生い茂ってる場所という感じで、人も魔物も通ろうとは思わないようなもっさり感がある。

 実際、クレイジーボアの突進くらいだったらギリ受け止められるんじゃねえかな。一発くらいは……。

 

「ほいっほいっ」

 

 そんなデカいだけの鳥の巣も、強化を込めた剣でザクザク切っていけばあっという間に崩れてゆく。

 何度か切りつけてしまえば、残されるのは土の上に散らばった細切れの枝の山だ。そいつらも適当にブーツで外に蹴っ飛ばして散らせば、古巣の処理は完了である。

 こういう作業を何度もやっていくわけだな。

 

「移動が面倒なんだよなぁ……次は……川渡って……あー、あの岩あるとこね……」

 

 ぼやいていても仕方ないので、次行こう次。

 

 

 

 二つ目の古巣はちょっとした段差のある所に作られた、枯れ木の根の下に掘られた洞窟である。

 が、どうもそれらしい横穴は既に潰れてしまったようで、ポイントでは辛うじてその古巣だったものの名残を確認することはできた。

 これが跡形も無かったら調査にもう少し時間が掛かるところだったので、ちょっと運が良かったかもしれない。

 

 

 

「おー! なんだぁモングレル! やってんのかぁ! お前!」

「あ、やっべ、ブレーク爺さんじゃん……」

「おいこっち来いよ! 肉焼いてんぞ肉!」

 

 三つ目の古巣は最初のと同じ枝で作られたものだったのだが……その古巣は今、一人の小汚い爺さんによって景気よく燃やされていた。

 山積みになった枝はごうごうと赤い火に包まれ……よく見ると枝の中には何匹かの鳥だったものが突っ込まれている。

 

「メイルバードが三羽も取れてよぉ! 食ってけ! うめぇぞ!」

 

 小麦色に焼けたシワだらけの肌。短い白髪。半分近く歯の抜けた口は、何がおかしいのか常に笑っている。

 ……この非狩猟鳥獣を悪びれもせず丸焼きにしている爺さんは、ブレークさんという。

 一応“レゴール警備部隊”に所属しているギルドマンだが、あまりパーティー単位での仕事はやっておらず、むしろパーティーを飲み仲間の集まりか何かと勘違いしているタイプの人だ。

 レゴールのギルドにおいては隠居してる人らを除けば、多分この人が最年長なんじゃないだろうか。今は多分七十いってると思う。

 

「……ブレーク爺さん、メイルバード獲ったのかい?」

「おおよ! 動きがトロいからな! 美味いぞ!」

 

 まぁギルドマンが獲っちゃいけない獣とかを獲っちゃうのは決して珍しくはないんだが……他の奴にあけすけに打ち明けるタイプはさすがに結構珍しいとは思うぜ……。

 

「俺は腹いっぱいだからいいよ、ブレーク爺さん……まだ昼って時間でもないしさ」

「そろそろ焼けんなこいつ! お、引っ張り出してみっか! あちちち」

 

 ずるりと引き抜かれたのは、鳥をざっくりと貫いていた生木の枝だ。

 メイルバードは適当に内臓だけ引っこ抜かれた後、多分毛をむしられることもなく丸焼きにされたのだろう。外側はかなり悲惨な有様だった。少なくとも皮はもう駄目だろうなこれ。

 

「あちちち、ほら! 脚やる脚! 食え脚!」

「あ、どうも……アザッス……」

 

 熱がるわりに素手で掴みながらナイフで雑に解体していくブレーク爺さん。

 見ての通り、この爺さんはとんでもなく大雑把なお人である。

 俺も大概適当にやってるギルドマンだが、それを上回るのがバルガーであり、その更に上をいくのがこのブレーク爺さんと言えば伝わるだろうか。

 この人はとにかくやることなすこと適当で、まぁ悪い人じゃないんだけど……普通に普段の行動が法を逸することがちょくちょくあるというか……まぁそういうあれですわ。

 

 聞いた話によれば過去に結構な犯罪をやらかして犯罪奴隷になったことがあるだとか、つい最近も任務をすっぽかして大変なペナルティを食らったという話も聞いている。

 ギルドマンは真面目にやっていれば少しずつでもトントンとステップアップしていくものなんだが、ブレークさんはブロンズ1から3を行ったり来たりしているっていうからな……まあヤベェ人だ。レゴールに定住してるから根無し草ってわけでもないはずなんだが、そこらの根無し草よりも無軌道に動くタンブルウィードみたいな人間である。正直あまり関わりたくない。

 

「いただきます……うーん、まぁ美味い……皮焦げてるけど美味い……」

「ああ美味いだろ! メイルバードはな、美味えんだわ!」

「けどよぉブレーク爺さん……メイルバードって獲っちゃいけない鳥じゃなかったかな……?」

「おうよ! 獲っちゃいけねえ鳥は美味えんだ!」

 

 すげぇニッコリ笑ってそういう事言っちゃうんだよなこの人。

 

「まぁ確かに美味いけど……ちょっと塩味足すか……ていうかこれ、ゴブリンの古巣燃やしてんのかい?」

「なんかあったんでな、燃やした! いちいち薪集めるのも面倒だしよ、な! 良く燃えるんだこれが! 煙がちと臭いけどな! まあ良いだろ! ガハハハ!」

 

 豪快に笑いながら鳥の丸焼きに齧りつくブレーク爺さん。アウトローだぜ……。

 

「お!? なんだよ塩かよ! スパイス入りか! 良いもん持ってきてるじゃねえの! 俺にも使わせな!」

「あ、はい……」

 

 俺の手持ちのハーブ入りの塩がバッバッとかなり景気よく使われた。いや美味そうだけどね、いいけどね……。

 

「モングレルはなんだ、また討伐やってんのか!」

「いや、俺は古巣の破壊任務をやってるんだ。これだよこれ、今まさに燃えてるこいつ」

「お!? なんだ手伝っちまったな!? ガハハハ! モングレルから金でも取るか!」

「いやぁ、ははは……」

「冗談だよ冗談! ガッハッハッハッ!」

 

 はは……あ、じゃあもう帰っていいですか?

 

「金取るっていやぁな! 俺の兄弟から最近貰ったもんあってな! そいつがデカくてデカくて邪魔でよ! 俺にどうかっつうのよ! んで俺それ馬鹿野郎って言ってな! 馬鹿俺のこの部屋見ろよお前ってな! ガハハハ!」

 

 あ、ブレーク爺さん酒入ってるじゃん……任務中に普通に酒飲んでるよこの爺さん。

 

「どうだモングレル! 俺ぁいらねぇから要るか!?」

「いや結構です……」

「まぁ俺が死んだらな! その後な! あ、もちっと塩使わせろな!」

「はい……」

 

 それから数十分ほどブレーク爺さんの話に付き合って、適当に相槌打ったりスルーしたりしてどうにかキリの良いところで脱出することができた。

 思わぬところで時間を食ってしまったが、意図せず昼飯の補充はできた。ちょっとばかし罪の意識が芽生えてしまったが、仕事で挽回していこう……。

 

 

 

 四つ目と五つ目はほとんど同じ場所にあったのですぐに終わった。

 ひとつはツタ系植物でグルグルと木々を囲むように縄張りした変な場所だったが、センス自体はゴブリンにしては悪くなかったと思う。俺だったらロープみたいに渡したツタの合間合間に枝の柵を挟んで強化するけどな。

 

 最後の六つ目は一番遠かったが、川沿いで目印用の石碑も傍にあったので探す労力はかなり少なく済んだ。

 

「これで最後、っと」

 

 バスタードソードで枝造りのあばら家をぶっ壊し、任務は完了である。

 幸いにしてどのねぐらにも他の野生生物は住み着いて居なかったので、本当に平穏な任務で終わってくれた。バスタードソードが汚れずに終わって何よりだぜ。

 

「……ここまでずっと静かだったんだから、逆に帰り道では何かしらに出くわすんじゃねーか? ワンチャンあるな」

 

 さすがにもうじき日暮れとなる時間だが、ひょっとすると帰りがけに幸運が舞い込んでくるかもしれない。

 しょっぱい任務で終わるかと思ったが、さてどうだろうか。一発クレイジーボアとかを仕留められればありがたいな。

 

「って言ってると何も出ないんだけどな……さて、帰ろ」

 

 と、自分からフラグに折り目を付けたのが悪かったのか、帰りがけに遭遇したのはゴブリン二匹であった。

 ……まぁついでに何か討伐できればとは思ったけど、お前らではないんだよな。

 

 一応二匹とも討伐したけどさ……どうせなら食えるものが良かったわ。

 食えるもので……法的にも食っても良いやつな。

 

 




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