異世界版双六、またの名をバロアソンヌは酒場のギルドマンたちに歓迎された。
盤上遊戯そのものはいくつかあっても、ゲーム性やらゲームバランスやらについて詳しく研究されてこなかった世界だ。そこに俺の無駄なオリジナリティが加わっているとはいえ、前世のボードゲームに近い楽しさがあることを考えればまぁ、流行るのは当然だったのかもしれない。
最初にやり始めたのが“アルテミス”と“若木の杖”ってのも良かったな。大手パーティーが中心になって楽しそうにプレイしてれば良い見本になる。多少プレイングで諍いが起きても殴ったり蹴ったりの喧嘩になることがない連中だから最初のテスターとしては最適だ。
何度かプレイしてもらう途中で“ここらへんの調整どうした方が良い?”とか色々聞いておくのも忘れない。ゲームそのものの完成度を高めるのも主目的ではあるが、“俺だけで作ったわけではない”ということを周囲に印象付けたかったからな。皆の意見を取り入れながらゲーム内容を微調整していき、製作の中心は俺であっても、多くのギルドマンの協力によって作られたゲームであるというイメージは皆の中に広まっていたと思う。
「よしっ、よしよし3が出たぞ! アレックスが落とした剣は俺が大事に使ってやるからなぁー」
「ぐっ……バルガーさん、その武器ちゃんと持ち主に返してくれませんかね……!」
「ククク……なあ、このゲーム脱獄とかってない?」
「ない」
「そうか……ククク……」
流行った理由の一つに、三人以上でやるパーティーゲームってのもあるかもしれないな。
これまでハルペリアで主流だったボードゲームは二人対戦モノばっかだったろうからな。複数人でワイワイやれるゲームってのが新鮮だったのかもしれない。
“金を賭けない遊びは本気になれない”という駄目人間らしい格言でお馴染みのあのバルガーでさえ酒飲みながら楽しげにプレイしているのだからよっぽどだ。今はギルドの酒場だけで流行っている感じだが、そう遠からず……いや、もう今日とか明日にでも広まりだしてもおかしくはないはずだ。
……しかし、そう考えるとあれだな。電気も複雑な加工技術も必要ないボードゲームってのはやっぱ、こういうローテクな異世界でこそ輝くんだろうな。
紙とかカードが大量に必要なものはちとコストが嵩んでくるが、駒とかダイスを使うタイプのゲームだったら色々と流行らせていけそうだ。
流行らせていけそう、だけども……。
「俺もうプレイマット作りたくねえよ……」
「そう言うなよモングレル。お前が作ってるゲームなんだろ。ほら、金は払うんだからよ。俺らのパーティーにも一枚作ってくれって。な?」
「そりゃ作るけどよぉフリード……意外と面倒なんだぜこれ……?」
「見れば面倒なのはなんとなくわかる」
問題は俺が主導で作ったゲームなせいで、流行り始めの現状俺一人だけが量産でひーこら言ってることだった。
まぁ、作るの自体は難しくはないんだ。ただ作業量と必要な素材がどうしても多いんだこれが。
プレイマットは綺麗な白っぽい革を選んで適当なサイズに端をカットする。
盤上のマス目はマットの上にコインを配置して場所を仮決めし、マス目によってそれぞれ違うスタンプを押印することで描いていくわけだ。
このスタンプを押す作業が結構神経使うんだわ。失敗できないしな。押す方向もちゃんと綺麗に揃えないといけないし、一回で綺麗にインクを乗せないといけない。
また、スタンプの絵柄だけでなく金貨トークンや武器トークンなどが変化するマス目の場合はプラスマイナスや数字のスタンプも変えなくちゃいけない。
そんなの手書きで良いんじゃね? と思われるかもしれないがどうせならスタンプの綺麗な文字で統一したいからな。面倒だがこまめにスタンプの種類を切り替えながらやっている……というか最初に作ったプレイマットがそうだったせいで今更他のパーティーのプレイマットだけ適当にできねえ……。
それに各種トークンの用意も含めると……いや俺一人じゃどうしようもねえって。
「……よし、こんな仕事やってられるか! 人任せだ! 人にやらせよう! どうせ俺じゃ綺麗な文字書けねえしな!」
「おおお? なんだよモングレル作らないのか」
「ギルドに頼んで代わりに作ってくれる人用意してもらうわ。てかギルドマンのゲームなんだからギルドに作ってもらおうぜもう」
「おいおい、良いのかそれで。このバロアソンヌって結構儲かるんじゃないのか? 他のパーティーからも欲しいって言われてるんだろ?」
「あー。どうせ既存の遊びのいいとこ取りしたようなゲームだからなぁ。真似する奴だって後々出てくるだろ。良いよ別にめんどくせえ」
というかもう俺一人で抱え込むにはちと規模がデカくなりすぎちまった。
商売の規模でいったらこれはもうケイオス卿レベルだろ。俺の見込みが甘かったといえばそれまでだが、舵取りが難しくなってきた以上他にハンドルを委ねるしかねえ。
何より、俺一人が利益を手にしても良い事はないからな……。
「おーいラーハルトさーん、ちょっとギルドに相談したいことがあるんすけどー」
「ん……はい、なんでしょうかモングレルさん」
「任務とは関係無くて申し訳ないんだけども、あっちでやってるゲームについてちょっと助言が欲しくてですね……」
「ああ、昨日から何か盛り上がっているようで。であれば、別室でお聞きしましょう」
そんなこんなで、俺は受付……というかギルド職員であるラーハルトさんに色々と相談し、バロアソンヌの扱いについて色々と話を詰めていった。
俺からの要望は、バロアソンヌの量産や商売の丸投げだ。製造から販売まで面倒なことは全てギルドにやってもらい、俺はちょっとした金だけ受け取る。そんな商談である。
真面目過ぎて遊び全般に疎いラーハルトさんはバロアソンヌの価値や伸び代について最初は懐疑的だったが、酒場で遊んでいる連中から聞き込みしたり調べるうちに“どうやらこれはいけるものらしい”と判断したようで、俺からの依頼を受理してくれた。
「ジェルトナ副長らと相談してからになりますが……内部でもおそらく通るでしょう。いくつかの工房に掛け合ってみますが、難しい作業でもないようなので、そちらも断られはしないはずです。数日後には着手できるかと」
「おー」
この世界は“やる”と決めたらマジで爆速で動いてくれるから好きだぜ。
前世だったら色々な会議に回されたり回されなかったりして商品化するまで無限に時間がかかるだろうからなぁ……。
「……しかし、よろしいので? ゲームの発明にモングレルさんの名前が使われなくても……」
「良いんですよ、俺がやったのなんて最初の原型を考えただけだし。大事な部分はギルドの皆に手伝ってもらって作られていったんだ。俺だけで発明できたものじゃない。何より、作業もテストプレイもさんざんギルドのテーブルとか道具を使わせてもらったしなぁ……」
「……ですが、主な発明者がモングレルさんであることに変わりはありませんからね。販売権利の譲渡による報酬は受け取っていただきますが」
「あ、それはもちろん喜んで! へへへ」
バロアソンヌの発明者はギルド、そしてレゴールギルドマン名義ということになった。悪目立ちして恨みを買いたくないと付け加えれば、その辺りはラーハルトさんも納得してくれた。実際変な奴に絡まれたくねーしな。
報酬も特許料とかそういうもんでもなく、ただの買い切りだ。それでいい。俺は大金持ちになるつもりはないからな。
「よーし、これで手に入った金を使ってまた新しいゲームを開発するかぁ……次は最初から俺の名義で出せる最高に面白いゲーム出すぜ……」
「……あまり身を持ち崩さないように気を付けてくださいよ」
「わかってますって、ヘッヘッヘ」
バロアソンヌの製造をぶん投げた後は、そこそこ他人事の体で流行り廃りを観察できるから気が楽だった。
俺の予想通りバロアソンヌの面白さはすぐさま街に広まったらしく、“ギルドマン達が作った盤上遊戯”という触れ込みで家庭レベルにまで伝わったようだ。
とはいえ、この手の作ろうと思えば作れてしまうボードゲームの宿命として、パチモンも大流行した。プレイマットのマス目が全部手描きのものはまだ良いとして、マス目の効果がほとんどオリジナルに改変されたバッタモンも大量に作られたようである。
しかしそこはそれ、俺も前世のノウハウがあるのでね。ゲームバランスやデザインで言えば一朝一夕でパクられるものでもない。遊んで楽しいバランスとしてはオリジナルのバロアソンヌが良いんじゃねえかってことで、それなりにブランドは確立しているようだった。
もちろん他の人が考えた双六も色々面白い奴はあったりして、それはそれで名前を変えて商品化されたりなどしているらしい。レゴールにボドゲブームが来ているのかもしれんね。
このちょっとしたブームによってプレイマット用の白っぽい革の相場が上がり、何よりも六面ダイスの注文が増えて木細工師がちょっとうんざりしているという噂を聞いたりしたが……まぁ、恨むならギルドを恨んでくれよな! 俺はもう関係ねえからよ!
「いやー、臨時収入で市場にあったギガントクラムの殻を買っちまったよ。見ろよライナ、このでっかい貝殻。すげーだろ、こんなのがサングレールの海にいるんだってよ」
「なんでまたすぐにそんな買い物しちゃうんスか!?」
つい最近買った一抱えもある巨大シャコガイの殻を見せびらかすと、ライナから渋い反応が返ってきた。
ギルドにいる連中からも苦笑いが漏れているのがわかる。
「いやでもこれ元々お貴族様の観賞用だったのがな、ほら、ここがちょっと割れてるからって安売りだったんだぜ?」
「んー……まぁモングレル先輩が稼いだお金っスから……とやかくは言い辛いんスけどぉ……!」
「触ってみろよこの内側、すっげぇ滑らかでスベスベしてる。このキラキラした部分で何か作れそうな気がするんだよな」
「……スベスベっスけどぉ……!」
まぁそう言うなって。近々こいつを原料に石鹸作りに着手するんだからよ。
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