バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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塩辛い異文化メニュー

 

 レゴールの色々な店で歌祭りが開かれるらしい。

 まぁよくあるお祭りというか小さな催しのひとつで、レゴール全域を巻き込んでって程ではないが、興味ある人らは結構楽しみにしてるみたいな感じの不定期イベントだ。

 

 開催場所は酒場とか飲食店とか。

 その日は歌祭りに参加する店内には雇われの吟遊詩人やら演奏家やらが常駐し、一日中ずーっとBGMに徹してくれる。しかし店によって歌祭りの概念が異なるせいか、雇われた演奏家がずーっとワンマンライブをやってる所もあれば、名乗りを上げた素人がBGMを借りてのど自慢してる所だとかで結構まちまちである。

 レゴールで一番歌の上手い奴を決めるっていう催しでもないし、もらえるおひねりの量がめっちゃ増えるわけでもない。

 なんというか、全体的に芸術に疎いハルペリアらしい、とても地味な感じのお祭りなのである。

 

 が、今回の歌祭りはどうも拡張区画の意気込みが強いらしい。

 レゴールの拡張区画は新しい店が入ったりだとか、それまで店らしい店を持てなかった人たちが自分の城を持てるフレッシュな場所である。

 そこに幾つかの土地を有するハーフの互助会“ロゼットの会”の店が、今回の歌祭りで一際大きな催しをするのだそうだ。

 

 開催店舗はロゼットの会の一員が経営する、サングレール系の食材を使った新しい料理店“蔦の輪亭”。

 木材の匂いが芳しいこの新築店舗で、開店記念を兼ねて祭りに参加しようという話であるらしかった。

 

 まぁ色々ここまで言ったが、別に新しい店だとか歌だとかは俺にとってそこまで重要ではない。

 重要なのは、開店記念のこの“蔦の輪亭”で料理が半額だってことなわけよ。

 

 

 

「へーい、いらっしゃい! 奥の空いてるテーブルどうぞ!」

「タンポポのサラダ美味いよー」

「ヒマワリ油を使った美味い料理だよ! 安いのは今日だけだよ!」

 

 店に入ると、明るい曲調の演奏に元気の良い店員の声が賑やかな声が出迎えてくれた。

 店の人らは金髪だったり白髪だったり、サングレールのハーフらしい特徴を持った人が何人かいる。レゴールではかなり珍しい景色と言えるだろう。

 一人で街中を歩いていればろくでもないことばかりが起こるが、こういうロゼットの会のように同じような境遇の連中で寄り合いを作っていると、それなりに堂々と過ごせるものなのである。

 ……もちろん、この手の異国の人間の集まりというのはあまり良い風に見られないけどな。

 

「いやー、賑やかな店だなぁここは」

「なんだか良い雰囲気ですね」

「お、向こう空いてるぞ。あっちのテーブル行こうぜ」

 

 今日は俺とバルガーとアレックスの三人で飲み会だ。

 そこそこ新しい建物が出揃ってきた拡張区画を見て回るついでに、サービス価格の飯を食いながら酒をやろうという、まぁ金のないギルドマンらしい遊び方である。

 

「あーどっこいせ。いやぁ新品の椅子ってのは良いな! テーブルもサラサラだ。けど飯はどうなんだ? 俺はサングレール風の料理なんてほとんど食ったことねえんだよな」

「バルガーさんもですか。僕もないんですよね……食材そのものは時々市場で見ることはありますけど」

「あれ? なんだよ二人とも食わず嫌いなのか? いや、けど何かしら食ってると思うけどな。ヒマワリの種なんか色々使われてるしよ。ま、とにかく色々頼んでみようや。悪くはないと思うぜ」

「モングレルは悪食だからなぁ……」

「いつも変なもの食べてますからねモングレルさん……」

「そんなことねえよ! お、ヒトデの卵の塩漬けだって。これ頼んでみるか」

「言った傍から変なものを食べようとしている!?」

 

 サングレールの食材というのは、正直俺もあまり馴染みがない。

 別にサングレールに行って向こうの郷土料理を食ってきた経験があるわけでもないからな。ただ元サングレール人の母親持ちだったから、そこらへんで他のハルペリア人よりは詳しくなっているとは思う。好き嫌いもしないしな俺は。

 

「はいよー、ヒトデ卵の塩漬け、それとタンポポサラダに豚の甘煮ね!」

「おおー……なんだこのツブツブしたの。美味いのか……?」

「サラダはまぁ普通ですが……豚肉は良さそうですね、いい香りがします」

「おーマジだ、美味そう。酒も頼むか酒。すんませーん、この酒三つください」

 

 タンポポのサラダはまぁ、そのまんまタンポポの葉っぱやら茎やらを使ったサラダだ。柔らかい葉っぱを使ってはいるんだろうが、俺からするとちと硬そうに見える。

 ヒトデの卵の塩漬けは、なんだろうな。エノキの頭だけをたくさん集めて塩漬けにした感じ……? 顔を近づけても匂いがしないので不気味だ。

 豚の甘煮はなんかすげぇ角煮みたいな匂いがしてビビった。食材はありふれてるけど俺の中では正直これが一番気になる。

 

「どれどれ……ん、これはあれか、八角か」

 

 豚肉を食ってみたら、なるほど懐かしい味がした。

 甘いような香り高いような……そんな八角の風味を感じたのだ。しかも煮物のスープ自体も結構甘く仕上げてある。豚肉は残念ながら角煮ってほど柔らかくないしむしろ硬いが、味付けは俺の好みだ。醤油ってわけでもないからコレジャナイ感は強いが……うんうん、悪くない。

 

「エール三本お待ち!」

「おーどもども」

「よっしゃ、こいつがなきゃ始まらねえ……うん、何が来るのかとヒヤヒヤしたが、この豚肉はとりあえず大丈夫だな!」

「サラダも悪くないですよ。この葉っぱ、時々見かけることありますけど普通に食べられるんですね」

「タンポポは全草食えるぞ。花から根っこまでな」

「ええ、本当ですか。便利ですね」

 

 エールをごきゅごきゅやりつつ、サラダをつまみ……さて、誰も冒険にいかなかった一品に目線をやる。

 

「ヒトデの卵ってどんな味なんだろうな……」

「モングレル、お前自分で頼んだんだから最初にいけよ」

「美味しかったら僕も食べます」

「毒見役か……? まぁ食うつもりだったから良いんだけどな……」

 

 小鉢のような慎ましい皿に盛られて出てきたこのヒトデの卵の塩漬け。

 塩漬けもクソもヒトデの卵自体食ったことないからまるで味がわからん。サングレール人はいくつかの種類のヒトデを食うとは聞いていたが、卵は正直全く聞いたことがなかった。

 

「……どれどれ……まずは一口……」

「不味くても吐くんじゃねえぞ?」

「一応僕の方ガードしておこう」

 

 匙でヒトデの卵を掬い、取る。塩漬けしてあるだけあってちょっとネトッとしている。いや、フレッシュな状態のヒトデの卵をそもそも知らんけど。

 ……眺めていてもしょうがない。食ってみよう。

 ムシャァ……。

 

「……」

「モングレルが止まったぞ」

「表情が変わらない……どうなんですか、美味しいんですか」

「んん……ちょっと口濯がせてくれ……」

「不味いんですか……!?」

 

 ちょっとエールを何口かごくごく。

 

「ちょっともう一口食べてみるわ」

「……? こいつ……まさか」

「うん、酒で口濯ぐわ。うーん、まだわからんな。もう一口……」

「ああ!? モングレルさんこれ美味しいんでしょ!? ひたすらおかわりしようとしてますね!? させませんよ!」

「グッ、バレたか!」

「俺にも食わせろ! ……結構美味いじゃねえか!」

「本当だ、美味しいですね。お酒が進む……!」

 

 ヒトデの卵の塩漬け、こいつがなんとも美味い。あまりの美味さに思わず独占しようとしてしまったほどだ。

 味の傾向としては……瓶詰めのウニに近いだろうか。それにちょっと風味が弱くて磯強めのカニ味噌っぽい感じを足したような不思議な味わいである。

 あとなんか塩辛い他にミョウバン臭さもある。保存料の香りはちょっとあれだが、強い塩気と旨味のおかげで何杯でも酒が飲めそうなおつまみだった。

 

「いやーゲテモノってイメージあっけど悪くないな、サングレールの飯も!」

「サンセットゴートの肉もあるみたいですね! 結構高いですけど……あ、でもこれ割引されてるなら行くべきですよ。頼みましょう!」

「俺ヒマワリ入りのミックスナッツ頼むわ」

 

 とりあえず悪くない初動で飲みを始めた俺たちは、次々に料理を注文していった。

 産地が遠いのもあって割高なメニューも色々あったが、今日は安い日なんでね。俺たちを止められる奴はいねえよ。

 

 

 

「あー食った食った……今更だけど演奏も良いよなぁこの店は」

「ですねぇ……ほんと今更ですけど」

「サングレールの吟遊詩人は上手いからなぁ。バルガーとは大違いだ」

「なんだぁ? 俺に歌わせたら曲の最中に泣けるぞ? 俺が」

「バルガーさん自分で歌ってて一人で感じ入って泣きますもんね……」

「その没入感は良いんだけどな……もうちっと演奏上手くなってくれ……」

 

 この店は参加者を募って歌わせる店ではなく、雇った演奏家たちに順々に披露させているタイプの店だった。

 バルガーは自分でもちょっと歌いたかったのか残念そうにしているが、正直こっちとしては良い曲の方が聞きたいからこの形式で良かったと思う。バルガーが歌い始めるとめんどくせぇからな……。

 

「……はい、今のは父から受け継いだ曲“渓谷の秋”でした。みなさんどうもありがとう!」

 

 曲が終わると、店内のどこかからかヒューヒューだのパチパチだの聞こえてくる。多分、ロゼットの会とも関わりのある人だろう。結構明るいノリの人が多いんだよな。そういう陽気さは嫌いじゃないんだが。

 

「これから冬になり、寒くなります。ですが、この“蔦の輪亭”ではこれから先も暖かな料理で皆様を歓迎します。外れの大天幕では我々の演奏もやっているので、拡張区に来た方は是非!」

 

 どうやら演奏していたのは店の身内だったらしい。なるほど、宣伝も兼ねているとはなかなか強かだ。

 

「ああ、そういえば聞きましたね。冬場は空き地に大きな天幕を設置して、劇や演奏をやるらしいですよ」

「はー……なんだかお貴族様みてぇなことするんだなぁここらへんの奴は。モングレルもこういうの好きか?」

「いーや、俺はそうでもないよ」

 

 物珍しさに見たい気持ちもなくはないが、そこまで娯楽に飢えているわけでもないからな。

 けど冬場もやっているとなると、暇つぶしに訪れてみる価値はありそうだ。

 やることがなさすぎて死にそうな時は顔を出してみようかね。

 

「なあ、さっきのヒトデの卵の塩漬け、もう一度三人で食わないか?」

「良いですね、食べましょう」

「あの塩味は食い過ぎると絶対に身体に悪そうだが……食うわ。頼もうぜ、酒も一緒にな」

「へっへっへ、身体壊すのが怖くてギルドマンなんてやってられっかよ。おーいそこの姉ちゃん! 注文よろしく!」

 

 それから陽気な曲と一緒に酒をグビグビやり、バルガーが勝手に演奏し始めようとした辺りでお開きとなった。

 

 この日の飲みで肝臓と腎臓にちょっとしたダメージが入った気もするが、時々だからセーフということにしておこう……。

 




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(投票ページ*・∀・)

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