バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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人々から見た新たな娯楽

 

 秋の終わりのレゴール。収穫祭を終え、バロアの森の魔物狩りにも区切りがついたこの頃、ギルドを中心に広がり始めた遊びがある。

 バロアソンヌ。それは一枚の革製のマットの上に簡素なマス目を描き、ダイスを振ってその数だけ進んでいくという、基本の動きとしてはシンプルなゲームである。

 しかしそこにモングレルが発案したマス目ごとの効果や、この世界においては全く真新しいと言っても過言ではないルールが合わさり、非常に画期的なゲームとして街の人々に受け入れられたのであった。

 

 それまでの盤上遊戯といえば、一対一の対面で行われるムーンボードやリバーシなどがあった。しかし戦略性という意味では両者ともに奥深いものの、娯楽としては神妙な顔を突き合わせる類の、知的競技に近いものだった。

 ところがこのバロアソンヌは、競技的な頭脳や高い戦略性などは必要ない。基本的にはダイスを振るだけであり、出目によっては幼子ですら勝者になれる簡素さ、つまり間口の広さがある。

 何よりも、神妙な顔を突き合わせる必要がない。運否天賦に任せた参加者たちはそれぞれダイスの目に一喜一憂し、楽しくはしゃぐことができた。

 これまでにない多人数参加型のゲームであることも、人気を後押しする要因だったのだろう。大きな目立つテーブルで楽しそうにゲームをプレイする者がいれば、当然気になるものである。

 レゴールギルド発祥のこのバロアソンヌは、ギルドによって販売されると共に爆発的な広がりを見せた。

 

「ギルドマンが考えたゲームだってよ」

「ほー? バロアソンヌ……バロアの森のゲームか」

「街とバロアの森……お、城門もしっかり四つあるぞ。俺たちの東門はここだな」

「おっ! これ知ってるぜ! 前に“大地の盾”の知り合いと一緒にやったんだ。面白えぞ。……おお、ちゃんと説明書がついてるのか」

「知ってんの? じゃあ次の交代までやってみるか」

「面白いぞー」

 

 門番や衛兵たちは、詰所や待機所で。

 

「おやっさん、向かいのとこが受注した細かい木製コインのやつ、このゲームみたいですよ」

「おお? なんだこんなのか……こんなオモチャのコインの何が良いってんだ?」

「いやヤバいですこれ。一度やってみてください。この仕事受けた方がいいってなりますよ、本当に」

「随分な物言いじゃねえの。そこまで言うなら、やってみっか」

 

 職人たちは同業者経由で、仕事の合間に。

 

「ギルドマンのゲームなんだってさ。バロアの森を舞台にしてるらしいよ」

「へー……うわ、なんか大きそうだな。うちのテーブルに乗るかぁ?床でならできるかな」

「叔父さんも呼んでやりましょ。結構面白かったのよこれ」

「王都から来た魔法使いのパーティーの人たちもやってたって」

「ほー」

 

 特に関わりのないような普通の人々の間にも、ゲームは広まっていった。

 参加しやすく、ルールを覚えやすい。そして娯楽の少ない世界である。

 様々な要因が重なって、バロアソンヌは冬の始めに差し掛かり暇になりつつある人々を夢中にさせた。

 

「金貨三枚! よし!」

「こっちは……んー、地味だ! さっさと追い抜きたいのに!」

「くっそー剣が無い! あと少しなのに……何度街を回ればいいんだ……!」

「おーい酒持ってきたよ。手前側に置いとくかい」

「ありがとう! いやー……ギルドマンってのは厳しいな!」

「はっはっは! 実際のギルドマンはここまで楽じゃないと思うけどな!」

 

 一本道の双六のようなものであれば存在した。だがそれも数十マスほどで、マスごとの効果なども無いような淡々としたものである。概念としてはないこともないが、人気の低い娯楽であった。

 それが盤面がループ状になり、勝利条件が設定されることによって大きく娯楽性が変化し、親しみやすいパーティーゲームに昇華した。これはハルペリアにとって非常に衝撃的で革新的ゲームであったことは間違いない。

 実際、このバロアソンヌやそれに類似するゲームにのめり込んだ人々の一部には仕事そっちのけで熱中するという者も現れたほどだ。俗に言うゲーム中毒というものである。

 気の合う大人数が屋内で集まれば、バロアソンヌをプレイする。モングレルの発案したゲームはレゴールの日常のワンシーンとして、大袈裟ではなく溶け込んでしまったのだ。

 

 そしてその波は決してレゴールだけに留まらない。

 “これちょっと勢いやべえな”と早々に感付いたギルドはバロアソンヌを更に増産し、王都やベイスンなど近隣の都市に出荷する分の在庫を整えた。

 その早めの対策は正解で、バロアソンヌを求める需要はレゴールのみならずハルペリアの多くの都市に及び、作れば作るだけ売れるどころか、類似品が氾濫してもなお売れるという異常事態にまで発展したのである。

 

 国全体のこのムーブメントを見るに、騒動はバロアソンヌ中心ではあったが、類似品やオマージュしたゲームによる影響も大きかった。

 パーティーゲームという新たなジャンルに目覚めた人々のうち、発想力のある者がこぞって自作ゲームを作り広めたことも大きく影響しているだろう。そんなこともあり、ベイスンや王都インブリウムなどではバロアソンヌではなく別の名称のゲームが主流となってプレイされていた。

 

 ギルドマンたちが生み出したゲーム、バロアソンヌ。

 それはなんだかんだで一強となることはなく、様々な後追い作品に並ばれる形でハルペリア各地に周知されることになったのである。

 

 

 

「うーむ。アーマルコよ、私はそろそろバロアの森へと進撃したいのだが」

「いけませんなウィレム様。伯爵家当主ともあろう者が軽率に魔の森に出て行かれては……はい、こちら看板でございます」

「ぐぬぅ」

「アーマルコの言う通りよ、ウィレムさん。バロアの森の平定は私達に任せていればいいの。はい、サイクロプス撃破」

「どちらかと言えば伯爵夫人の方が行っては駄目なのでは……?」

 

 そして、流行は時に貴き者たちの間にまで及ぶことがある。

 バロアの森を舞台にしたゲームが大流行していると聞いては知らないままではいられぬと始まったレゴール伯爵家でのバロアソンヌも、気がつけば時折開催される娯楽にまで大出世していたのだった。

 

「出目は……4。よし、皆様から金貨を一枚ずつ徴収させていただきます」

「ブリジット様、おやめください。仕える主から金貨を取るとは何事ですか」

「え? ではアーマルコ殿よりまとめて徴収しましょうか……」

「……いえ、やはりここは大人しくゲームのルールに従うべきでしょうな。続行致しましょう」

「アーマルコよ……」

 

 寒風に窓が揺れ、暖炉の中で爆ぜる薪の音が響く。

 角製のダイスが転がり、駒が進み、時折和やかな笑いとため息が漏れる。

 

 老いも若きも、富める者も貧しき者も関係なく、新たに生まれたゲームは全ての人々に親しまれているのであった。

 




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