バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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独立と加入

 

 冬になり、道行く人々の装いが少々厚ぼったくなる頃。

 俺は久々にケンさんのお菓子屋に立ち寄って、未だ律儀に俺限定半額セールをやってくれてるタンポポコーヒーを楽しんでいた。

 

「うーん……心のカフェインが補充される……」

「ぬふふ、こちらの焼き菓子も良いですよ、モングレルさん。新作です」

「お、どれどれ……なるほど、こういう味か……良いねぇ、美味いよケンさん」

 

 ケンさんの店はもはやレゴールで最もデカい菓子屋と言っても過言ではないだろう。本人の性格に若干の難はあるが、菓子そのものは美味いからな。忙しそうに黙って菓子を作っている間はどんどん良い評判だけが積み重なっていく。

 ケンさんのお菓子工場はあまりに有名になりすぎて、別の都市からもお客さんが来るレベルにまで育ってしまった。かつては通りで一人だけシャッター街やってたケンさんのお店も、今では商店街で一人だけ空気の読めない高級店出してるような感じになってしまった。

 そんなケンさんのお店だが、近々貴族街の近くにも新たな店舗を構えるらしい。

 

「今の店も拡張したり改築したりとしたのですけどねぇ……私の才能を納めておくにはそれでも手狭なようでして……ここで働いている弟子の一人を独立させて、そちらに第二店舗を開かせるつもりなのですよ」

「すげぇ……言ってることもやってることも……いやぁーケンさんも出世したなぁ」

「ぬふふ。まあ、最低限のものは覚えたという感じですな」

 

 ちなみに独立するのは日頃ケンさんの手伝いをしている若い女の子である。この店で一番最初から働いている、パティシエ志望の努力家の子だ。

 日々ケンさんのビッグマウスや異常に高い意識によって腕前も精神も鍛えられ、ついにいくつかの菓子のレシピを貰っての独立である。おめでたいことだ。

 

「なーにが最低限よ……絶対に向こうで大成してやるわ……」

 

 おめでたい……けど店の奥でうっすらと闘志を立ち上らせている彼女は、巣立ちというよりは出奔に近いのかもしれない。

 まぁけど、ケンさんも大概反骨精神の塊だからな……そう考えると似た者同士の師弟関係なのかもしれない。

 

 

 

 師弟関係。親方と独立。それはここハルペリアにおいてよくある事だ。

 工房なんかだとまさにこれで、弟子入りして何年も下働きをし、技を伝授され、親方の認可を得てようやく独立が許される。

 暖簾分けと共に道具をくれたりだとか一部の顧客も任されたりだとかもあるが、ひどい所だと何も分け与えずに出ていけと言ったりもするらしい。

 だが普通の場合は、お互いに困った時には力を貸すなどといった繋がりが残るし、良きライバルとして関係を変えていくものである。持ちつ持たれつ。そんな間柄だ。

 

 屋内作業の多い工房なんかだと冬場の時期でも問題なく稼働するので、ちょっとだけ暇になるこのタイミングを見計らって暖簾分けする所も多い。

 ケンさんのお店の他にも俺の知っている限り装飾品店が一つ、木工屋が一つ、金物屋が一つ独立するらしい。レゴールの盛況ぶりを見て、今がチャンスだと考える人らも多いんだろうな。

 

 しかし、なにも独立するだけが一人前の証というわけでもない。

 世の中には、独立ではなく弟子入りすることが一人前と見做される業種だってある。

 そのひとつが、ギルドマンだと言えるだろう。

 

 

 

「ウォーレン、今までよく頑張ったな。……今日からはお前も俺たち“大地の盾”の一員として認めてやる」

 

 今日、昇格試験にてシルバー1の認識票を手に入れたウォーレンがついに“大地の盾”への加入を許されたのである。

 以前から“大地の盾”への加入を目標に精力的に頑張っていたからな。ウォーレンの頑張りは誰もが知っている。

 

「おめでとう、ウォーレン」

「よくやった! シルバー1も早かったな!」

「これからは仲間だ。よろしく頼むぞ!」

「おっ? ウォーレンが“大地の盾”入りかい! こいつはめでたいね!」

 

 直接関係はなくとも、ウォーレンを知っているギルドマン達は皆祝福の拍手を贈っている。

 そして当のウォーレンはというと、ちょっと涙ぐんだ顔で笑っていた。

 

「……はい! これから俺、“大地の盾”で頑張るよ! いや、頑張ります!」

 

 初めて見た頃から背も伸び、体格もがっしりしたウォーレン。

 二つ目のスキルはまだ入手できていないが、それでもパーティーメンバーのお墨付きが貰える程度には仕上がっているようだ。

 結構前から“大地の盾”の連中から色々と教わってはいたし、予備役として目をかけられてたもんな。多分即戦力としてやっていけるんだろう。

 

「そうか、ついにウォーレンもシルバー1か……ついに俺に追いついたってわけだ」

「モングレル、追いついたってよりも追い抜かされてるぞ」

「そういう説もあるな……」

「まさか俺がモングレルさんより先にシルバーに上がるとは思わなかったよ……」

「俺はウォーレンが先に出世するって信じてたぜ」

「そりゃお前はそうだろが」

 

 “大地の盾”はハルペリア軍人に近い戦術を学び、訓練をする。心構えもまさに軍人のそれであり、ギルドマンにあるまじきキビキビした規律が特徴だ。

 まぁ中にはミルコみたいなよくわからん奴もいるが、概ね軍人みたいなもんである。このパーティーから実際に軍属になる者もいるので、剣士系のギルドマンとしてはかなりのエリートコースだと言える。ウォーレンはその一歩目を踏みしめたわけだな。

 

「しかしアレックスよ、“大地の盾”ってのは乗馬ができなきゃいけないんだろ? ウォーレンはそこらへん大丈夫なのかよ」

「それは追々ですかね……馬の世話を続けて慣れさせて、次第にといったところです」

「俺何度か乗馬させてもらったよ! 結構人懐っこくて可愛いんだぜ」

「苦手ではないんだな。だったら覚えも早そうだ」

「ええ、ウォーレンさんは覚えが良いので助かりますよ。僕の次の雑用係として頑張っていただきます」

「うぇえ……」

 

 アレックスは腕は立つが、若いってだけでどうしても下働きを多くやらされてたからな。

 その役目がウォーレンになると、もうちょっと楽になるかもしれない。良かったなアレックス。

 

「なあモングレルさん」

「お? なんだウォーレン」

「今ちょっとさ、修練場で稽古とかやってくれないかな」

「お、なんだ。腕試しか」

「ああ。別に、“大地の盾”に入ったからって自分が強くなっただなんて思わないけどさ。一回だけ、ちょっと頼むよ」

 

 ウォーレンはちょっとだけ真剣そうな雰囲気を漂わせている。

 別に俺はウォーレンの師匠ポジでもなんでもないんだけどな……まぁ、ご指名をいただいたなら良いだろう。

 

「わかった。試合形式で一回だけな」

 

 

 

 修練場に移動し、いつものバスタードサイズの模擬刀を手にとって何度か振るう。

 ウォーレンはロングソードを一本手に取っていた。

 

「おいおい、そんな長さの得物が持てるようになったのかよ」

「うん、なんとか。結構様になってるって言われるよ」

「ほぉー? ショートソードからバスタードソードを飛び越してロングかい。こいつは世間の厳しさって奴を教えてやらなきゃいけねえようだな」

「お、俺が何したんだよぉ?」

 

 考えてみれば、ウォーレンがシルバー1になったということはもうこれからは俺がウォーレンの昇級試験を面倒見ることはないってことなんだなぁ。

 ちょっと感慨深いぜ。こうして面と向かって模擬刀を打ち鳴らす機会もめっきり減るんだろうな。

 

「モングレル、ウォーレンにやられたら降格な」

「ブロンズ2からやり直せよ! ハッハッハ!」

「ふざけんな、なんの権限があって降格されるんだ」

 

 酒場からついてきたギャラリーはちらほらといる。ま、ウォーレンの晴れ姿を見たいって感じなんだろう。

 ……けど俺の降格がかかってるとあっちゃ、手を抜くわけにはいかんね。

 

「よーし、かかってきなウォーレン。シルバー1なりたてのお前と、ブロンズ3で一番強い俺。どっちが強いのか……はっきりさせようじゃねえか」

「そりゃブロンズ3で強いのは知ってるけど……行くぜ、モングレルさん!」

 

 ウォーレンはお手本通りにロングソードを構え、手堅く距離を詰めてくる。

 一気に前に飛び出してドン、ではない。自分の武器のリーチ有利を自覚した、堅実な動きだ。

 

「さあ、慎重なのは良いが……果たして俺のバスタードソードに対応できるかな?」

「……!」

 

 俺は剣を片手で握り、レイピアのような動きで前に突き出しつつ、ゆらゆらと動かし続ける。

 時に下側を、時に顔へ。刃先を忙しなく動かしつつ、同時にステップを刻みながら近づいていく。

 

「モングレルめ……半分遊びが入ってるな」

「あれやられるとムカつくよな」

 

 確かにロングソードはリーチに優れるが、素早く動く剣に対して一方的な有利が取れるほどではない。確かにリーチ差は有利だが、それは一撃目だけだ。初撃を外せば身軽なこっちに分が出てくる。

 ウォーレンも一応はロングソードを扱えるようになったのだろうが、軽々と使いこなせるって次元でもないんだろう?

 

「くっ……」

 

 だからちょっと翻弄されただけで、駆け引きに消極的になる。

 動きに騙されまいとひとまず距離を置こうとする。

 

「……ッらぁあああッ!」

 

 そして焦れた後は突っ込んで、有利の一撃に全てを賭けようとする。

 ロングソードの長さを生かした勢いのある突き。まぁ悪くはないんだが……。

 

「“強斬撃(ハードスラッシュ)”持ちが突きに逃げるなよ」

「うぁッ!?」

 

 動きは速い。腰も入ってる。だがそれでも俺がちょいっと剣の横面をぶっ叩いてやれば、突きは容易く狙いを明後日の方向へと逸らしてしまった。

 

「ウォーレンアウト! ケツバット!」

「いっでぇーっ!?」

 

 そのまま模擬刀で勢いよく尻をバシーンとぶっ叩き試合終了である。お疲れ様っした。

 

「ぐぁあああ……ちょ、超いてぇ……!」

「まだまだ弱いなウォーレン。パーティーに入ったんだから、これからは“大地の盾”の連中に鍛えてもらえ」

「お、オッス……! ありがとうございました……!」

「やっぱり負けたかー……けどウォーレン、あの突撃はさすがにねえだろ。雑すぎか」

「入団はおめでとうだが、いきなり反省会だな。対人訓練を日課にしてやる」

「覚悟しろよウォーレン。うちは厳しいからなぁ……」

「ひぃいい……」

 

 入団早々、ウォーレンには体育会系のシゴキが待っていそうである。

 冬の訓練は痛いぞぉ……。

 




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