バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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若気の至り

 

 噂によると、レゴール支部のギルド長がご機嫌らしい。

 レゴール発のギルドマンをテーマとしたボードゲーム、バロアソンヌに端を発する流行が色々といい方向に作用しているのだそうな。

 なんだろうね。地元の名産品が生まれたから面映ゆい的な感じなんだろうか。

 

 正直ギルド長のラムレイさんはほとんど会わないからよくわかんねえんだよな。

 レゴール支部に常にいるのはジェルトナさんだし。貴族街とか王都で色々働いてるとは聞くけど、常に多忙に見えるジェルトナさんとどっちが苦労してるかはわからんね。

 

 そんなギルド長ラムレイさんが珍しくギルドに顔を出して、上機嫌な雰囲気で宣言した。

 

「レゴールのギルドマン達よ! 秋の多忙な狩猟期間、そして突発的なスタンピードも乗り越え、今年も良く働いてくれた! お前たちの働きによってレゴールはより良く発展し、治安が保たれている! 支部の代表として、お前たちの勤勉さを誇りに思うぞ!」

 

 その日、酒場にいたギルドマンはそこそこの数だった。

 ギルドマン全員ってわけではないが、暇な期間なので昼間からそこそこ集まって暖をとっていたのである。

 だからラムレイさんが現れると、全員そこそこに居住まいを正して聞き入っていた。

 

 いい話をしているんだが……まぁ、普段あまりみない人だからありがたみは薄いな!

 視界の隅で新入りのアイアンクラスの若者がボソリと“あの人誰?”つってベテランに引っ叩かれていた。気持ちはわかる。

 

「そこでだ! お前たちの働きを労うために、こんな物を用意した! ……ラーハルト、ミレーヌ」

「はい」

「こちらですね」

 

 受付にいるラーハルトさんとミレーヌさんが机の下からそれを取り出すと……酒場はどよめきと歓声に包まれた。

 まるで大量の甲類焼酎でも入りそうな大きなガラス瓶。それが二つもある。しかも中に入っているのは……間違いねえ。あれは酒だな! しかも蒸留酒! ウイスキーだ!

 

「これは王都の蒸留所より生まれた高級蒸留酒、ウイスキー……ジュールの四年物である! 数ある蒸留酒の中でも、このジュールはハルペリア国内でも最高品質……つまり、最も高く、価値のある酒だ!」

 

 おおー……! 酒の名前にジュール……国王の名前が入ってるってそりゃ随分気合入ったブランドだな……!

 つかこれあれだな。良い流れだな。いや一人につきボトル一本なんて夢は見てないが、どうなんだ。タダか? タダなのか……!?

 

「レゴールを拠点とするブロンズ以上のギルドマンを対象に、この酒を一人一杯ずつ振る舞おう! 量のある酒を飲むのも良いが、最も良い酒の味というものを知っていても損はあるまい!」

「うおおおお! ギルド長最高!」

「やったぁあああ! タダ酒だぁああぁッ!」

「ラムレイ様万歳! ジュール国王万歳!」

「あざーっス!」

 

 よっしゃタダ酒だ! しかも最高ランクの蒸留酒! 王都産かぁ……買ったら絶対に高いやつだろ!

 まぁ高級とはいっても四年の熟成だし蒸留技術も前世と比べたらショボいだろうから、美味さでいえば大したことはないのだろうが……蒸留酒文化の最先端を味わえるとなればそれだけでテンションも上がるってもんだぜ!

 

「ついでに料理一品もタダにしておいてやる! ……犯罪に手を染めず、これからも真面目に働くように! 励めよ! 以上!」

 

 最後にそう言い残して、ラムレイさんはさっさとギルドを出て行ってしまった。

 相変わらずギルドに留まらないお人である。いやまぁあんまり偉い人に居座られても心が休まらないから、下っ端な俺たちとしては良いんだがね。

 

「いやーまさかこの時期にこんなプレゼントがあるとは……」

「クランハウスから仲間呼んでくるわ。いや、椅子がねえか?」

「アイアンは貰えないのか……ちくしょー」

「拠点にしてれば俺も飲めたのかな……くっ、拠点を移すか……?」

「早速飲むぜ! ミレーヌさん、お願いします!」

「ラーハルトさん、一杯注いでくれ! あとはえーと、料理も!」

 

 おうおう、ギルドがいきなり賑やかになってきた。

 タダ酒をみんなで飲もうと仲間を呼びに行った奴も多い。これからギルドが騒がしくなるぞ……一人でテーブル席を占領してるわけにもいかなくなったな……。

 

「俺も仲間に入れてくれよー」

「なんか来たわね」

「モングレル先輩、おっスおっス」

 

 というわけで一人欠けてる“アルテミス”のテーブルに避難することにした。

 シーナの眼光が強いから他所の連中は絡み辛いんだよな。俺も前まではそう思っていたし……最近じゃもう慣れたもんだけどな。

 しかし今日は他にちょっと珍しい女も同席しているようだ。

 

「なんだいモングレル。あんたもこっちで飲むの?」

「ようアレクトラ。一人でテーブルを占領してたら悪いだろ? そっちこそ“収穫の剣”の連中とは一緒じゃねーのかよ。向こうで猿のおもちゃみたいな動きして盛り上がってるぞ」

「猿のおもちゃってなんだい……ふん、今日のアタシはあんなむさ苦しい連中と違うんだよ。ねー、シーナ」

「ふふっ。まあ、良いんじゃないの。たまにはそういう日があってもね」

 

 前から思ってたがアレクトラは“アルテミス”の連中と仲良いよな。妙に教養深いところがあるからそこが合うんだろうかね。

 

「それよりモングレル先輩、お酒っスよお酒! なんか王都の……ウイスキーっスよ!」

「ジュールとか言ってたな。国王陛下の名前を冠してる辺りまず間違いないもんだろうぜ。……今はまだ行列できてるからやめとけライナ。お前があれに巻き込まれると踏み潰されちまうぞ」

「シーナ先輩と同じこと言ってるっス!」

「いいじゃない、もうちょっと落ち着いてからで。あれだけの量があれば全員に振る舞ったところで無くなりはしないわよ」

 

 ライナは酒飲みだからなぁ。俺も結構好きだけど、ライナには負ける気がするわ。

 

「今まではワインなんかが高級酒として扱われていたんだけどねぇ。ライナは飲んだことあるかい?」

「え、無いっス。美味しいんスか」

「俺もねぇや」

「一本一本がクレイサントの良い造りの酒瓶に入れられててね。ガラスも中身が透き通ってて良いもんだけどさ、陶器ってのもなかなか雰囲気があって良いもんだよ」

「はえー、すっごい……クレイサントの陶器って良いものばっかりなんスよね」

 

 なるほどねぇ。まぁ高級酒を入れる容器も相応に高級仕様にするよなそりゃ。

 そういう容器専門の物好きなコレクターとかもいそうだな。

 

「クレイサントの陶器はハルペリアで……周辺国を見ても一番だもの。男爵家に選ばれた工房では、少しでも下手なものを作ればその場で砕いて捨てるとまで言われているのよ。ちょっとした歪みや欠けなんて当然、僅かな模様のズレでも弾いてるわ」

「もったいねえけど、ブランドを保つにはそんくらい厳しくないと駄目なんだろうなぁ」

「あら、よくわかってるじゃないの。モングレル」

「でも割っちゃうのはやっぱりもったいないっスね……」

「……ええ、だから失敗作はまとめて射撃訓練用のクレーにしている……らしいわ。上空に向かって投げて、それを撃つ……みたいなね」

 

 シーナは随分とクレイサント家に詳しいな。まるでクレイサント博士だ。

 ……クレイサント領近くのご出身かい? いや追及はしないけどな。

 けどどこか自慢げなシーナの様子を見るに、間違ってもなさそうだな……。

 

「あ、そういや俺なんかクレイサント産の花瓶持ってるぞ。高級そうなやつ」

「……本当? まあ、良いものもあれば安いものもあるからモングレルが持っていてもおかしくはないけれど」

「なんだいなんだい、モングレルもそういう良いものがわかるようになったのかい」

「俺はハルペリアで一番目利きができる男……ってわけじゃねえな。いやけど、実際に良いもんだとは思うぜ? ちょっと知り合いから譲ってもらった品でな。そいつもクレイサントの高級品を集めている奴だから、物としては間違いないはずだ。裏側に刻印もあるしな」

「……ふうん。刻印ね……菊の花に杯のやつかしら」

「そうそう、それだ」

 

 なんかシーナが怪訝そうな顔してやがる。こいつあんま信じてねえな?

 

「モングレル先輩のごちゃごちゃした部屋に花瓶なんて想像できないっスね」

「置く場所がなぁ。今は窓際に置いてるぜ。結構良い色合いしてるんだよ。たまーに花をいれてるんだぜ」

「……一度その花瓶を直に見てみたいものね。偽物だったら私が割ってあげるわよ」

「いやいや俺は気に入ってるんだって。偽物でもやめろや」

 

 しかしシーナの目つきはちょっと凄みを増している。偽物だったら存在を許すわけにはいかない……そんな目つきだ。

 いや別に良いんだよ俺は偽物でも。見た目が良いから飾ってるんでね……だが、偽物だと決めつけられるのもちょっと癪だ。

 

「いいだろう、じゃあ宿から持ってきて見せてやるよ。なんだったら鑑定して値段でもつけてもらおうじゃねえの」

「あら、任せなさい。私は結構こういうの詳しいわよ」

「面白いねぇ。アタシもちょっと知ってるから、鑑定の真似事しちゃおうかな」

「花瓶なんて全然わかんないっス」

 

 というわけで、俺は一旦スコルの宿に戻って花瓶を取りにいくことにした。

 ついでにその間に料理と酒を注文してもらっておいた。

 

 

 

「さて、問題の品が……これだ!」

「おー……花瓶っスね。白黒模様なんスね」

「はぁー、結構珍しい色使いじゃないのさ? アタシも皿と壺は知ってるけど、花瓶はそこまでだからなぁー……偽物なんじゃない?」

「おいおい、いきなりご挨拶だな」

 

 家から持ってきたのは、以前ユースタスから譲ってもらった細長い花瓶だ。

 黒地の上に白い釉薬がかかっており、白黒のコントラストがなかなかモダンでおしゃれな奴なんだが……まぁ確かに、ユースタスの持っていたコレクションの中ではちょっと浮いていた気はするけども。

 

「さあどんなもんだよシーナ……シーナ?」

「……」

 

 おそらくここで一番詳しいだろうシーナを見てみると、なんかものすごい顔で花瓶を見つめていた。

 “え、だれお前?”みたいな……“嘘、え、お前!?”みたいなそんな顔である。

 驚いているのはわかるがなんで今そんな顔してるんだ。……頼むから割るのはやめてくれよ?

 

「んー、アタシ的には裏の刻印は本物っぽい感じするけどねぇ……シーナはどう思……シーナ?」

「……ああ、いえ……まぁ……花瓶、花瓶よね、ええ……裏面もね……ええ……まあ、本物よ。それはそうだわ……」

「色合いがモングレル先輩っぽいスね」

「だろ?」

「いや……確かにお父様と見学した時に色付けの時だけ口出しはしたけど……そんな色使いはしないと後から言われもしたけど……破棄されたと思ったのに、なんで残ってるのよこれ……」

 

 ボソボソ喋ってどうしたよ。本物の良い物を目の当たりにしてバグったか……?

 

「私は値段の付け方わかんないっス」

「んー、アタシから見ると色使いがやっぱりクレイサントっぽくないんだよねぇ……近い領地で似た土と窯を使った別物って線もあるかもだけど……いいとこちょっとセンスのない弟子が戯れに作ってみた習作ってとこじゃないかねぇ? 色付けさえまともだったら高そうだけど、この色だとちょっと値段は落ちるんじゃないの?」

「うっ」

「アレクトラは辛口だな……シーナ、お前はどうよ。お前ならいくらの値をつけるんだ」

 

 プルプル震える手で持っていた花瓶を置いて、シーナは深く息を吐き出した。

 

「……ほ、本物……ではある……けど、……色合いが、そうね、駄目よねっ……! こんな色を塗ったのは、あまりにも若すぎるというか……幼い感性だと思うわ……!」

「……そんな嫌そうな顔して言うことある……?」

「私はそこそこ良いんじゃないかと思うっス」

「お、ライナお前はよくわかってるなぁ。そうだよ、誰がなんと言おうと良いんだよこれは。けど骨董趣味に手を出すと金が飛んでいくからな、歳取ったら気をつけろよ」

「っスっス」

 

 それから肉料理についてきたローズマリーの葉っぱを花瓶に活けて遊んでたらローズマリーが中に落ちて出てこなくなって、何故かシーナがキレた。

 

 帰ったらなんか細長いやつで取り出しておこう……。

 





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