バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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単独冬キャンのはじまり

 

 ギルドでは暇な連中が屯し、酒を飲んだり他愛もない話をしたり、ボードゲームに興じたりと、ちょっと目新しい娯楽はあれど例年とさほど変わらない日々を過ごしていた。

 真面目な連中やルーキーなんぞは修練場で技を磨いたり、世話好きの先輩から戦い方を教えてもらったりしている。

 

「おいローサー! びびってんじゃないよ! 盾持ってる奴が一番危険なとこに居ないでどうする! 盾役は度胸! 死ぬ気で前に出て盾を構えな!」

「ひっ、ひぃいい……! イーダさん、もっと手加減を……!」

「魔物や賊が手加減してくれんの? ふざけてねぇでさっさと来いや!」

 

 ……まぁ、一部世話好きというより“かわいがり”になってるところもあるようだが。あれもひとつの愛だろう……。

 

「ロディは振り下ろしに変な癖がついてるが、その鉈を使うなら良いだろうな。魔物の骨を断つこともできるだろ。ダフネは……まだまだ要練習だな」

「はい! フーゴさん!」

「ううー……戦闘訓練、大事なのはわかってるけど……やっぱり私こういう才能って無いわね……!」

「練習だよ練習。繰り返しやっていきゃ身につくさ。冬のうちにもっと鍛えておけ!」

 

 ダフネ率いる“ローリエの冠”は、この秋に何度か夫婦二人組の移籍パーティー“デッドスミス”と共にバロアの森に潜ったらしい。俺が紹介して、引き合わせたやつだな。

 “ローリエの冠”は決定力に不安があり、“デッドスミス”は索敵能力に欠けていた。両者を引き合わせることでお互いにそこそこなバランスになるのではないかと思ったのだが……実際、俺の思いつき半分な目論見は上手く当たったらしい。

 罠を大量に仕掛けて多くのポイントを見て回るダフネのやり方は“デッドスミス”という攻防一体のベテランパーティーを加えることで安定感が増し、狩りの速度も飛躍的に上がったそうだ。

 分け前の分配も揉めることなく納得のいく落とし所を見つけられたようで、秋の終わり頃まで一緒になって任務をこなしていたそうである。今ああして仲良さげに訓練しているのも、討伐を通じて良い関係が築けたからだろう。

 

 どこのパーティーも各々よろしくやっている。

 ……バロアの森に潜るような連中はもういなくなったし、そろそろか。

 

「……冬のソロキャン……するか……!」

 

 前にウルリカとレオを連れて行った時はあまり良さを伝えられなかったが、今回は一人だ。一人で行って一人で楽しんでやることにする。

 これはもうあまり深い考えのない、ただの俺の趣味だ。誰もいない場所でのんびりと過ごし、孤独を楽しむ……。

 あとはついでに色々実験したりだな。専用のテントを張ってサウナを試したいし、石鹸作りもやっておきたい……ま、のんびりとだな。

 

 

 

 必要な荷物は多い。豪華な野営セット、食料、防寒装備、素材……フルセットだとまるでレゴールから夜逃げするかのような姿になってしまう。

 一応、可能な限り素材も前々から処理して嵩を減らしてはいるが、見るからに変な格好なのは誰から見ても明らかだ。宿の女将さんも俺のこういう行動を何度も見て知っているはずだが、毎回しっかり“あら、旅にでも出るの?”とか聞いてくるしな。それはギルドに行っても変わらない。

 

「あれ、モングレル先輩どうしたんスか。護衛か何かに出るんスか」

「おうライナ。これはいつもの野営だよ。七日ほどじっくり、バロアの森に泊まってくるだけだ」

「あー」

 

 そういえばそんな習性があったな、みたいな顔をされた。

 ミレーヌさんは俺の外出について粛々と手続きを進めてくれている。ありがてぇ。

 

「……冬場の長期野営なんて軍人さんでも滅多にやらないんスから、凍死しないように気をつけて……」

「わかってるって。暖を取ることだけは徹底してるからよ」

「いや本当に……モングレル先輩こういうのでうっかり失敗しそうだし……」

「俺はハルペリアで一番野営の上手い男だぜ?」

「ふふふ、ライナさんはモングレルさんのことを心配しているんですよ」

 

 心配と言われてもな。……まぁ確かに、ウイスキー飲んでぐっすり眠って凍死……なんてこともあり得ないではないが……そうならないようにしっかり装備整えてるから大丈夫だって。いや本当に。

 

「……じゃ、とりあえず七日間。まー前後するかもしれないけど、そのくらいでよろしく頼むよ、ミレーヌさん」

「はい。ごゆっくり過ごされてください」

「心配っス……」

「なんだよ、ライナも来たいのか?」

「それは嫌っスけど……前にウルリカ先輩から話は聞いてるんで……」

 

 チャレンジ精神のない奴だぜ。

 まぁついてくって言われても困るけどな。今回は一人でやりたいんだ、一人でな。

 

 

 

 門番に札を見せ、毎度お馴染み“また冬の野営か”と笑われながらも、特に問題なく街を出る。

 木材運搬のために辛うじて残っているバロアの森方面の馬車に乗せてもらい、入り口まで来たら後はひたすらに奥地へ進む。

 人が居なくて、魔物も出なくて……そんな場所が理想だ。まだ俺も見たことのない所も多いはず。そういう新しいポイントを探すのも悪くない。

 

「水、水……川か、沢か……お、ここらへんが良さそうだな」

 

 朝に出発し、誰も居ないのを良いことに早足で歩き続け、昼過ぎ。ようやく良い感じの場所を見つけることができた。

 

 そこそこの川、平らの地面、そして浅い場所じゃ全く見ることのできないほどにまで大きく育った、太いバロアの樹木たち。

 古く深い森の中にひっそりと存在する……なんていうか、癒やしのスポットって感じがするぜ。まぁ今が冬だからってのもあるんだろうけどな。夏とかにこの辺り来たら下草ボーボーで風情はなさそうだ。冬だからこそ良い景色なのかもしれん。

 

「よーし、ここをキャンプ地とする!」

 

 肩に食い込んでいた荷物をドカッと降ろし、伸びをする。

 野営道具が色々あるもんで、設営はちと面倒だが……なあに、これから長々と居座ることになる場所だ。ゆっくりじっくり、居心地の良い城を作っていくさ。

 

 テントや薪ストーブはいつもの物だ。

 今回はラグマットも豪華に何枚か敷いて、地面からの冷えを抑え込むつもりでいる。一応その下に枝も噛ませて、と……うんうん、寝床はまぁこんなもんか。

 

「あとは石だな、石。焚き火が長持ちするように盛大に燃やせるサイズにするから……ああ、そうだ。サウナ用の石も取っておかなきゃいけないから、もっと余分にだな……」

 

 川辺に転がっている大きめの石を回収し、ポーンとテント側へ投げる。

 前世だったらポーンとなんて投げられない重量の石でも、今生であれば気軽に放り込めるから楽なもんだ。誰も見てないし運搬が捗るぜ。

 

「あとはひたすらに薪を切って用意して……あ、サウナテント立てるの忘れてた! いっけね、あぶねえあぶねえ」

 

 材料を集めて、運んで、整えて。こうして自然の中で自分に必要なものを集めていると、なんというか心が癒やされていく。

 ちまちまとタスクを埋めていく達成感……ってのかな? ジワーっと目標に向けて進んでいるのが嬉しいんだよな。

 

「……ウルリカ達にはこういう事を言ってやればよかったか?」

 

 なんて思ったが、やめた。こればかりは言葉ではなく、実際に体験してみるのが一番だろうからな。

 なぁに、ウルリカもレオもライナも、いつかはわかるはずだぜ……。

 

 俺みたいに歳を重ねれば、きっとな……!

 




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