バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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怪奇! 大自然サウナおじさん

 

 結局、初日は設営と簡単な飯で腹を満たすだけで終わった。

 サウナも作りかけ。薪や枝などの資材も中途半端。それも午前中にやっておかなくちゃいかんな。

 

「ふぁー……さっみぃー……」

 

 朝起きてまずやることは、焚き火への火入れだ。昨日の夜のうちに消えた火を復活させ、暖を取りたい。

 

「おー灰ができてる……灰……まぁ後だな、後……」

 

 固いパンを薄くスライスし、温めた燻製肉を乗せ、チーズと一緒に焼いていく。

 なんちゃってピザトーストと言うのも烏滸がましいレベルの低クオリティな惣菜パンだが、温かい飯ってだけで悪くない。というより、とろけたチーズが乗ってるだけで全てを許せる気がする。これはそういう朝飯だ。

 

「炭水化物、タンパク質、脂質が揃った完全食だぜ……」

 

 さて、飯を食ったら仕事の時間だ。仕事っつっても趣味のための仕事だけどな。

 朝のぼんやり明るいうちに動いて身体を温めて、昼の一番暖かい時に少し休憩するとしよう。

 

 

 

 メインで行うのは石鹸作りだ。この作業は分量の比率を色々と試さなきゃいけない都合上、結構な数の容器を使う。色々な荷物を強引に持ち運べる俺でも、持てる道具の数には限りがある。早めにこの作業を終わらせて、凝った料理を作りたいもんだね。

 

「“アルテミス”からのご要望は良い匂いのする石鹸だもんな。焼肉臭い石鹸にするわけにはいかねぇ」

 

 石鹸の作り方は簡単だ。雑な言い方をすれば、灰と油で石鹸は作れる。

 そもそも前世では、石鹸の始まりは動物の肉を焼いていた時に出てくる油が焚き火の灰に落ちて石鹸となった……なんて言われている。実際にそれを石鹸として利用したかどうかはさておき、“知らないうちにできちゃった”というパターンとしては十分ありえることだろうと思う。

 まぁしかし、獣脂を使って作った石鹸は臭いんだ。獣臭いっていうより、焼肉臭い。汚れは確かに落ちるっちゃ落ちるんだが、汚れをラードで上書きしてる感が強くてな……これだったら多少汚れたままで良いんじゃね? と思っちゃうくらいには臭い。

 

 なので、石鹸を作る場合は植物油がマストである。灰も元の植物を選ぶべきだろう。

 貝殻を焼いて作った炭酸カルシウムも……いやこれは物の善し悪しとかわからんけども。

 とにかく洗浄力、香り、まとまりの良さがここらで大きく変わってくる。ここでベストな配合を目指すのが俺の仕事だ。

 

「うーん……良いんじゃね?」

 

 目に入ったら確実に失明する劇薬に少々ビビリながらの作業だったが、油と合わせて反応させていくと固まり、一般人が想像するような石鹸らしい姿になってくれた。

 香油入りで香りも悪くない。……これ“アルテミス”に渡すより自分で使いたい……いや、やめておこう。個人的には風呂の方がずっと価値がある。こいつは作ろうと思えばいつでも作れるアイテムだしな。

 

 ……けど出来栄えを確認するために一度使ってみなくちゃな!

 

「よし、サウナ入ろう」

 

 下手なものをお出しするわけにはいかないのでね……自分で試しておくのは大事だよ、うん。

 

 

 

 宿屋から貰った古いシーツを組み合わせると、デカい三角テントになる。

 一人用だったらそんなにデカくなくても良いんだが、なんとなくのびのびとサウナを楽しみたかったのでデカめの内装にした。

 川の近くなので床は丸石。中央にテントのための長いポールを立て、そこからシーツが三角テントを形成している。ラグマットでも敷けば寝れそうな設備だが……いや、外壁がちょっと寒々しいか。

 

 あとは中央に焼石を置くスペースを作り……後はそこに水をボタボタ垂らしていけばサウナの出来上がりだ。

 

「椅子は……丸太でいいか。あとあれだっけ、枝葉があると良いんだっけ……?」

 

 俺はサウナおじさんではないので詳しくないんだが、確かあれだよな。なんかタオルとか葉っぱ付きの枝を使って扇いだりするんだよな。それでより熱風とかそういうのを楽しむとか……。

 けどこれ一人じゃできないから無理か。……まぁ別にサウナにそういうブースト効果みたいなのは求めてないしな……長めに入ってりゃ十分だろ。

 

「……よーし、焼石もいい感じにできたな。こんだけ大量に作っておけば十分だろ」

 

 大量の薪を使って焼石を作る。意図せずこの暖かな周辺一帯が脱衣所になってくれた。寒空の下で脱いでもそこそこ平気だぜ。

 あとは枝で作った火ばさみを用いて焼石を鍋に移し替え、サウナの中へと移していく。

 うわっ、もうこれだけで結構暖かいな。水蒸気が出たらもっと暑くなるんだろ? こいつは期待できそうじゃないか……。

 

「さてさて、あとは早速中で……って」

「……」

「嘘やん……」

「……」

 

 俺が最後の焼石をサウナ内に運び込むと、林の中に怪しい影が見えてしまった。

 木陰から身体半分を出し、いかつい顔でこちらを見つめている……存在感バリバリの威容。

 

 魔物である。しかも、そこらへんの雑魚魔物ではない。

 他のギルドマンが遭遇したら死を覚悟しなければならないレベルの超危険な魔物……オーガだったのである。

 

「……いや、どう見てもあれだな。見覚えしかないな……」

「……」

 

 オーガだ。筋肉質の浅黒い巨体には幾つもの古傷があるが、それよりも身にまとっている人間の装備の方に目が行ってしまう。傷みの激しいズボン、ボロボロのマント、そして……荒っぽい研ぎ方をされているが確かに手入れの行き届いたロングソード。

 

「グナク……お前まだ生きていたんだなぁ」

 

 剣持ちのオーガ、グナク。

 昔バロアの森を騒がせた、しかし今や人前に出ることもなくなり手配すらされなくなった超危険な魔物……なのだが、俺からすると妙な愛嬌のある現地人に近い。

 去年の冬に俺はこいつと出会い、短い間だが共に過ごしていた。

 ホットサンド食われたり、せっかく作った風呂を先に入られて駄目にされたり、……あれ? ロクな思い出が無いな? やはり魔物か……。

 

「……剣の研ぎ方、覚えちまったか……そいつで人を殺してなけりゃ良いんだけどなぁ」

「……」

 

 グナクの剣には真新しい研ぎ跡が残っていた。

 それはつまり、最近までそれを研いでいたということである。まさか鍛冶屋に持ち込んだわけでもあるまい。自分で研いだのだろう。一年前、俺がこいつに刃物の研ぎ方を教えてから……それを覚えているということだ。すげぇ学習能力だと思う。

 

「魔物の考えることなんて俺にはわからないからな。自衛の武器は持たせてもらうぜ」

 

 大きな焚き火の中からちょうど良い枝を一本取り出して、焼け焦げた端を石に擦り当てるようにして削っていく。

 するとしばらくして炭化した枝の先端が尖り、短い槍と言えなくもない代物になってくれた。

 ……まぁ、これなら十分に装備品の範疇だな。こいつを護身用に持っているか。

 

 なんてことをしていると、グナクの方は俺を警戒しながらも近づいて来ていた。

 剣こそ構えていないが、顔だけはすげぇ臨戦態勢なのでかなり恐ろしい。

 それでもなんとなくだが、俺を害そうという気配は感じない。知的好奇心で来ているんだろうなという……いや、これはそうであって欲しいなという俺の希望なのかもしれないが。

 

「丸石焼いてるんだよ、これ」

「……」

「ほれ、こうして火ばさみで挟んでな。サウナの中に持っていく」

「!」

「危ないからどいてろよ」

 

 かまってやりたいところだが、既に焼石をサウナに運び入れている最中なんでね。悪いが今は俺のやりたいことを優先させてもらうぜ……。

 

「……んで、後はサウナに入るだけよ」

「……」

「……ついてくるなよ……」

 

 グナクはサウナに入ってきていた。というより、風除けがあって焼石で暖かくなっているこの空間が良いなと思って入ってきただけなんだろうが。

 半裸の格好も相まって、見た目だけなら俺と一緒にサウナを楽しみにきた爺さんって感じである。銭湯で熱い湯船を水で薄めることを許さなそうな顔をしてるからなんとなくこの場が似合っている……。

 

「オーガをテントの中に招待するギルドマンなんて聞いたことねーよ……多分俺が世界初なんじゃねえか」

「オァアア……」

「そうか。温室は心地良いか。……おいグナク、そのロングソード外に置いておけ。錆びるぞ」

「?」

「剣、外」

 

 片言で言っても通じるわけではないし、実際に通じなかった。グナクはロングソードを持ったままサウナに入り、そのままだ。まぁ俺はどっちでも良いんだけどさ……。

 

「……じゃ、ロウリュさせていただきますんで……」

「……」

「……暑くなったからって暴れるなよ? 嫌なら外に出ろよ?」

 

 念のために燃えさしの短槍を手にしたまま、俺は焼石の上に水を垂らしていった。

 すると即座に激しい音がして、水蒸気が立ち上る。うわっ、熱気やべぇ。

 

「……!」

「こっちもやべぇ顔してる……」

 

 グナクは“え、インドカレーのナンってこんなデカいの?”みたいな顔で驚いていた。

 目を見開いて驚く様はサウナが始まっただけにしては驚きすぎだが、逆にこの程度で抑えてくれててありがたくも思う。これならグナクはサウナの暑さにも適応するかもしれんな。

 

「グナク、そっち座れ。俺はこっちだからな」

「……」

「あ、ちゃんと座るんだ」

 

 地べたに座っても尚、背丈はデカい。相変わらず貫禄のある魔物だ。皺の感じからして爺さんのようだけど、実年齢はどれくらいなんだろうか。

 気になりながらも、焼石に水を注ぎロウリュを続けていく。もうもうと蒸気が立ち込め、熱気がサウナ室全体に広がっていく。うおお、すげぇ温室だ。冷えてた身体が一気に暖まっていく……。

 

「ォオオオ……」

「俺よりサウナおじさんの素質があるかもしれないなコイツ……」

 

 正直言って野生のオーガと一緒に入るサウナはちょっと臭かった。が、それでもレゴールの公衆浴場やサウナよりはマシだろうと思えてしまう。というより、あんまりこのグナクの臭いがキツくないのかもしれない。

 ……まさか前回の風呂で自分で風呂作りを覚えたってことはないよな?

 

「ふー……久々のサウナだが……良いな。汗が汚れを浮かしてくれそうな……そうでもないような気がするぜ……」

「ォオオー……」

「お前服脱げよ。多分お前の臭さの五割はそれだろ。外に置いておけ」

「?」

「肝心なところで通じねえのな……どっこいせ」

 

 かなり暖まってきたところで、外に出る。ついでにグナクも出てきた。なんでだよ。

 

「うおー風が結構寒いな……良いかグナク、本場ではな。サウナの後に川に入るんだが、今回俺は水桶でちょっと身体を流すだけに留めて……」

「グォオ」

「え、おいおい」

「ォオオオッ」

 

 そうこう言ってるうちに、グナクは近くの川へと突き進んでいき……躊躇なくドボンと飛び込んでいった。

 レミングかな? なんて思ったが、すぐに起き上がって身震いしている。

 

「ォオオオー……」

 

 ……わかんねぇけど、なんかあいつ本場っぽいサウナムーブしてる気がするな……。

 

「いや、俺はああいう心臓に悪そうなのは無理だわ……手桶で流す程度で……ひい、冷てぇ」

 

 こっちは抑え気味に桶一杯分で、なんて思ったが一杯分も水を被れば普通に超寒かった。

 舐めてたわ。これだけで普通に凍え死にそうだ……。

 

「さ、サウナサウナ……! あ、あと焼石もう一つ追加だ……!」

「グギギギ……!」

「お前もすげぇ寒そうにしてんじゃねーかよ……!」

 

 俺とグナクは揃って身震いしながら、再びサウナテントの中に入っていくのだった。

 




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