バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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興味本位の餌付け

 

 オーガは、はっきり言って超凶悪な魔物である。

 クソ強いし知能も高い。個体数が少ないということだけが唯一の良心で、あとは悪意をもって作られたモンスターと言っても過言ではないだろう。

 オーガが一体いればちょっとしたパーティーなら壊滅に追い込めるし、運が悪ければ集落さえ……そんなレベルの相手だ。本来であれば、見つけ次第ギルドに連絡。戦力が十分に整っているのであれば即座に討伐……が当然なのであるが。

 

「ォアアアー……」

「……なんだかなぁ。駄目なことやってるってわかってはいるんだけどなぁ」

「!」

「いやなんでもねーよ。こっち睨むな」

 

 今、俺はそのオーガと一緒にテントサウナに入っている。

 

 ……まぁ、あれだ。情が移ったってやつだ。

 普通のオーガとは違う、慎重でより知的な個体。だからといって、こうして野生動物にエサをやるように一緒に過ごすってのは……やっぱいけねえんだよな。

 人に慣れた影響でどうなるかわかったもんじゃない。ここで殺さなかったことで、人が犠牲になったら……想像するだけで恐ろしいことだ。

 もちろん、俺は魔物と人とがわかりあえる世界を……なんて考えちゃいないし、動物愛護に熱心なわけでもないんだが。

 目の前でこうして、まるで人のようにリラックスしている姿を晒すオーガを見てしまうとな……不意打ちで仕留めて、って気持ちには、どうもなれねぇんだよな。

 狩人としては間違いなく失格なんだろうぜ。俺みたいなのは。

 

「フゥー……」

 

 グナクは丸石の地面に座り込んだまま、身体から流れる汗をじっと見つめている。

 垂れる汗の動きを観察でもしているのか、俺の方にはあまり注意を向けていないようだ。

 

「……ロウリュ追加するか」

 

 とはいえ、俺が何か動こうとするとさすがに視線がこっちを向いたりはする。

 多分、俺が手元の槍(木製)で何かしようとすればすぐさま厳戒態勢に移れるとは思う。

 だが今、俺が欲しているのは熱と蒸気だ。

 

 積み上げた焼石の隣に置いた小鍋には川で汲んだ水が入っている。それを調理用のおたまで掬い上げ、石の上にそーっと垂らす。

 すると、焼石の予熱で水が一瞬にして蒸発し、煙となってテントに充満する。

 蒸気は熱いそよ風となり、心地良さが広がっていく……。

 

「フゥー……」

「あー……ドライサウナよりこういう方が俺は好きかもしれんな……」

「?」

「こっちの話だよ」

 

 日本だとドライサウナがほとんどだった気がする。旅館やホテルの大浴場についてるサウナなんかはそうだな。ムワッとして熱いが、その暑さもなんというか、一分もいられない感じのやつだった。

 今俺のやってるサウナはそれと比べると低温だし、蒸気が多くてしっとりしている。息苦しい感じがなくて結構楽だな。

 まぁサウナとは関係ない息苦しさは対面から感じるんだが……前回の露天風呂に引き続いてサウナまで譲ってやるつもりはねえよ。もう意地だよ。

 

 俺はサウナを楽しんでやるんだ……老いぼれたオーガに遠慮はしねえぞ……。

 

「さて……ここに枝がある」

「……」

 

 いい感じに暖まってきたところで、テントの隅に置いておいた枝を取る。

 一年中葉を付けている瑞々しい樹木の枝だ。

 

「サウナ用語でなんて言うのかは知らねえが……これを、こうして……」

 

 それを手にして、テントの上側……頂点部分をそっと扇いでやると……。

 

「!」

「おー……! 熱気が来たな! やっぱり上の方に溜まってたのか。良い感じだ」

 

 三角テントの上側に滞留してた熱気がかき混ぜられ、また一段と体感温度が上がってくれた。おお、あったけぇ……。

 

「フォオ」

「おい、立ち上がるなよ。熱気を独占するんじゃない」

 

 グナクが三角の上の方に溜まっている熱気に顔を突っ込んで妙に興奮しているが、もうちょっと人間との距離感を考えて欲しい。

 こっちはいつでもお前と遣り合う心構えを崩してねえんだぞ。

 

「……よし、この暑さならいける」

「?」

 

 俺は外に出て、焚き火の前に移動した。

 全身から湯気がもうもうと立っている……外気はまだ涼しいレベル。このくらいの状態なら、身体を洗えるはずだ。

 

「まさかこんな風にダッチオーブンを使うとは……」

 

 焚き火の中に突っ込んだダッチオーブンにはお湯がたんまりと入っている。

 そのお湯を良い具合に川の水で温度調節し、海綿を使って身体を洗っていく。

 

 石鹸を使いながら全身をゴシゴシ……うんうん、これよこれ。これをやりたかったんだ。

 いやまぁさすがに手早く洗わないと寒いけどな。冬場でもサウナ上がった直後だったら結構いけるもんだわ。

 

「……」

「なんだよ」

「……」

「アメニティはフロントで受け取ってくれ」

 

 さっきから俺が身体を洗っている間、グナクがじっと見つめてくる。

 俺がサウナに入ると一緒にサウナに来るし、川に行って恐る恐るちょびっとだけ水を浴びるとそれを真似しようとする。

 知的好奇心……なんだろうな。やっぱりこの老オーガを観察していると、学習意欲の高さを感じさせる行動が節々に見られた。

 こっちはオーガを観察しているつもりだが、向こうは俺のことをもっと注意深く観察しているのだろう。

 

「……あのなぁ……」

「……」

 

 いやもう、本当に危険な魔物だし。魔物に知恵を与えちゃいかんし。リスクは当然あるんだけども。

 

「……まぁ海綿は幾つか買ってきたやつあるから良いけどさ……ほらよ。使えよ」

「!」

 

 駄目だとわかっていながら、俺はさっきまで自分が使っていた海綿をグナクに渡してやった。

 野生動物に餌を与えてしまう馬鹿の心理そのまんまで本当にアレなんだが、俺も俺でオーガの生態観察をしたい欲が抑えられなかった。

 

「……」

 

 オーガは地面に置かれた海綿(スポンジ)を見つめ、時々鼻をフンフン鳴らしながら観察している。

 だが特に害のないものであろうことはわかっているようで、それを手にとってニギニギしたり、軽く伸ばしてみたりして……やがて何かを思いついたように服を脱いでいくと、川へと歩いていった。

 

「……すげぇ。やっぱわかるんだな」

 

 素っ裸になったオーガが、海綿を片手にゴシゴシと身体を洗っている。

 川の水は冷たいだろうに、あまり気にした様子がない。それよりはむしろ、身体を拭った後のスポンジを絞った時に出る濁った水を見て“オー”と変に感動しているようだった。

 魔物なんて汚れていてもあまり気にしていないんじゃないかと思っていたが、綺麗になれるもんなら綺麗になりたいのだろうか。

 まだまだわからない部分は多いな。……まぁあのオーガに関しては完全にイレギュラーだろうし、他のオーガでは全く違うなんてこともあり得るんだろうけども。

 

 それから一通り身体を洗った俺は再び冷えた身体をサウナで温め直したり、まったりと外気浴したり……グナクもグナクで、身体を洗った後はまたサウナと川を往復したりと、二人して野生のサウナおじさんを満喫したのだった。

 いや、なんなんだろうねこれ。俺もよくわかんねえけど。

 でもサウナは普通に気持ちよかったわ。下準備は色々と必要だが、身体も無理なく洗えるし、どうしてもって時には選択肢に入るかもしれんね。

 

 ちなみにそれからしばらくして、ピカピカになったグナクは濡れた服を抱えたまま森の中へと去っていった。

 

 ……姿が見えなくなったらそれはそれで次のアクションが読めなくて恐ろしい。

 と思いつつも、わざわざ構築した拠点を動かすのは面倒だったので、特に何もしないことにした。

 

 まあ、寝る時にバスタードソードが近くにあれば問題ないだろう。

 




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