バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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熟練ドワーフの来訪

 

 ギルドマンは荒くれ者ばかりで、当然そうなると力自慢の集まりとなるわけなのだが、上には上がいると言うべきか、ハルペリアで最強の戦闘集団というわけではない。

 あくまで最強は軍。国が主導して組織しているつえー奴らが一番強いに決まっているのである。国力すら左右するようなSランク冒険者なんて存在はいねぇんだ……。最高戦力にフリーターをさせる暇は平和な時代にだってないのは当然の話ではあるのだが。

 

 レゴールの競技場で時々行われている色々な大会でも、実力を発揮するのは軍に所属する強者達ばかりだ。一人一人が当然のようにシルバーランク並の実力を持っている上に対人戦に慣れているのでかなり強い。腕試しに意気揚々と大会に乗り込んでいった中堅ギルドマンが初戦で見どころなく敗退する姿など見慣れたもんである。そしてあっさり負けた奴が“いや、俺らは魔物討伐専門だし……”と震え声で言い訳するまでがセットだ。

 

 それでも、中にはそこらの軍人よりも遥かに強いようなギルドマンだって存在する。

 あ、俺は例外な。俺はもう最強だから殿堂入り枠よ。

 要するにそれがゴールドランクの連中である。レゴールを拠点にしている連中に限って例を挙げると……。

 

 バッファー兼正統派剣士のマシュバルさん。

 弓の名手というかほぼほぼ全ての矢が命中するシーナ。

 水魔法の天才らしいナスターシャ。

 狙った犯罪者はマジで生かして帰さないことに定評のある棘使いのローザ。

 男旱(おとこひでり)なこと以外に弱点の存在しない剣士のアレクトラ。

 噂によると強すぎる水魔法のせいで莫大な借金を背負って大変なことになっていたという魔法使いのアモクさん。

 なんかよくわからん凄みと強さを持つ前衛剣士ディックバルト。

 明らかに在野に居ていい強さじゃないけど在野にいるのも何故か半分くらい納得できる光魔法使いのサリー。

 

 引退した人らを除けば、パッと思い出せるだけでもこれだけだ。多いか少ないかでいうと、これでも多い方だろう。レゴールも結構な規模の都市だからな。

 ゴールドランクの持ち主はギルドマンにとって羨望や尊敬の対象であり、無条件で一目置かれるような実力者だ。

 強い奴の噂はギルドマンを通して国に広まり、遠い土地でもその名や所属パーティーを噂されることもある。

 俺? 俺はいいよ。知る人ぞ知る強者枠で遠慮しておくぜ。俺は陰の実力者になりてえんだ……。

 

 

 

「“船守のエイハブ”がまた海賊団を仕留めたらしいぞ」

「俺も今朝聞いたよ。向こうは派手だよなぁ。大帆船で大立ち回りなんて華があるぜ」

「ロングカトラスのエイハブか……姿絵で見たことがあるが、ありゃほとんどグレートシミターみたいな大きさだったぞ。それを両手で一本ずつ振り回すってな、化け物だよな」

「そのくらいでなきゃ海賊船ってのは落とせないのかねぇ」

「結構な歳らしいが、エイハブはまだまだ現役最強だな」

 

 今日もギルドの酒場は最強談義である。みんな好きだからな、最強談義。

 時間を止めたりだとか概念を操ったりだとかそういうインフレした最強談義じゃなくても楽しいもんである。

 

「まーた向こうのテーブルは強さについて話してるっス」

「えー? ライナはああいう話って嫌いなのー?」

「なんか嫌いって感じゃないんスけど……頻繁に話してると、飽きないのかなぁとは思うんスよね」

「ハルペリア最強のギルドマンは俺で決定してるもんなぁ」

「っスっス」

 

 今日、俺はギルドの酒場でライナ、ウルリカ、レオと一緒にボードゲームに興じていた。

 最近ギルドが仕入れたという娯楽用の貸し出しゲームで、知らないタイトルだったから試しに俺が貢献度を払って借りたものである。

 それを一人で広げてほうほうとルールを覚えていたら、“アルテミス”の若者三人がやってきて参加してきたのである。一緒にプレイしてくれる相手が欲しいタイミングだったからありがたい。

 ありがたいんだが、いまいち勝てねえ。そろそろ俺に二位より上を取らせてくれねえかな……最強の俺に免じてよ……。

 

「ドライデンのギルドでもその手の話は白熱してたなぁ……それがきっかけでよく喧嘩も起こってたから、僕もちょっと苦手だったよ。けど、レゴールのギルドは平和で良いね」

「あー確かにねー。ドライデンはそういうの殺伐としてたなぁ」

 

 ドライデン方面出身のレオとウルリカは、向こうのギルドにあまり良い印象は抱いていないらしい。なんとなくわかる。ドライデンの連中はあまり良い話聞かないからな。喧嘩っ早いというか、沸点が低いというか……。

 あ、その駒そこに置いたら俺次動けなくない? またパスかよ。

 

「ま、最強と言っても色々あるからな。俺は剣士としては最強だが、弓なんかはからきしだし、魔法も使えねえ。ギルドマンそれぞれ、適材適所ってもんがあるだろうさ」

「えーモングレルさん、そういう結論はつまんないよー。使ってる武器が違っても最強を考えるから面白いんじゃん」

「ウルリカはこういう話が好きなタイプだったか……」

「ま、弓使いの最強はシーナ団長だろうけどねー」

「それはそっスね。そこらへんの弓使いの何十倍もシーナ先輩の方が強いっスよ」

「どうだろうな。わかんねえぞ? お前たちが知らないだけで、シーナより強い弓使いがいるかもしれないぜ?」

「想像できないっスよぉ」

 

 弓使いなぁ。一応、シーナ以外にも色々と名前は聞くんだけどな。

 けど弓に関してはどっちかといえば軍属の方が耳には入るか。最近だと“竪琴のクーイン”、“鏑矢のハルト”とか……。

 

「私はこれからどれだけ頑張ってもシーナ団長には追いつける気がしないなぁー……」

「シーナ先輩を超えるのは……っスねぇ……」

「あはは。それでもとりあえず、僕らはゴールド目指して頑張っていこうよ」

「スゥゥ……」

 

 そんな話をしていると、ギルドの扉が開け放たれた。

 珍しい冬の来客。……それも、見慣れない顔である。

 

「おう? 中は随分と暖かいな。こいつは良い」

 

 ギルドに入ってきた人影を見て、酒場に妙な静けさが訪れた。

 その人物の姿が、あまりにも特徴的であったせいだろう。

 

「……うお、随分小さな」

「すごい髭だ……」

 

 子供のように低い背丈。しかし髭もじゃの顔を見ればどこか神経質そうな深い皺が刻まれており、その小男が相応の年齢を重ねてきたことがわかる。

 耐寒用の分厚い毛皮のコートに、背中には身の丈に合わない大きな斧。

 その男は、まるで前世でいうところのドワーフにそっくりであった。

 

 ……そして俺は、その男を知っていた。

 

「おーうい、受付さん。俺だ、ヴィルヘルムだ。話は通ってるかい」

「! はい、ヴィルヘルムさんですね? 遠方からご足労いただきありがとうございます。向こうのギルドから預かったものなどはありますでしょうか?」

 

 やっぱりそうだ。ヴィルヘルムだ。

 

 ヴィルヘルムは慣れた調子で荷物を床に下ろすと、それを踏み台にしてカウンターのミレーヌさんとやり取りをする。

 ミレーヌさんの対応はとても丁寧で、ヴィルヘルムに失礼のないように気遣っている様子が見て取れた。

 

「……なんだか、ちっちゃいおじさんが入って来たっスね? ギルドマンっぽいっスけど……」

「なっがい髭ー……いくつくらいなんだろ。背中の斧もごっついなぁ」

「あんな斧を軽々と操れるなら……あの小さな人、相当な実力者かもしれないね」

「お、人を見る目があるなレオ。そうだぞ、あの人はかなりの手練れだ」

「モングレル先輩、知ってるんスか?」

「ああ。知ってるも何も、昔は少しの間一緒に活動してたぜ。あの人の腕前は……俺でも真似できないだろうな。まさに匠って呼ぶに相応しいだろうよ」

 

 しばらくそんな話をしていると、受付での用事が済んだらしいヴィルヘルムが酒場を見回し……俺を見て止まった。

 

「……む? むむ? おおっ? お前さん……まさか、いやその剣の柄。間違いねえな。モングレルだな!?」

「よ、ヴィルヘルム。久しぶり」

「ははは! 本当にモングレルか! すっかり大人になっちまったなぁ!」

「痛っ、いてーって。叩くなよヴィルヘルム」

 

 あんたのその太い腕でバシバシ叩かれるとすげぇ痛いんだ。やめてくれ。

 

 ……けど、旧知の人間と会えると嬉しいもんだな。

 ヴィルヘルムもわずかに目を潤ませて、俺との再会を喜んでくれたみたいだった。普段は結構物静かな人なんだけどな。

 

「グレゴリウスとは何度か顔を合わせる機会があったんだが、お前さんとカテレイネはなかなか会えず仕舞いでな……そうか、ギルドマンになってたのか」

「ああ、もうすっかり熟練ギルドマンだぜ。ほれ」

「なるほどなぁ……ってブロンズ? 何の冗談だ」

「いやいや好きでやってるんだ。良いだろ別に。それより、カテレイネだったら最近何度か会ったよ。相変わらず元気にやってたぜ」

「おおそうか! それは良かった……」

 

 そこで、ヴィルヘルムの目がちらりと同じテーブルの連中に注がれた。

 

「ああ、こいつらは俺の後輩で友達な。若いけど、みんな腕の立つギルドマンだよ」

「ほう……」

「どうもー、ウルリカです!」

「あ、僕はレオです」

「うぃーっス。どうも、ライナっス。モングレル先輩にすごい良くしてもらってるっス」

「おお、そうか……モングレルにも、そういう仲間ができたか」

 

 なんかそういう親目線でしみじみされると恥ずかしいな。ギルドの中でやられるのはちょっとキツいぜ。会えたのは嬉しいけどさ。クラスメイトの揃ってる中で三者面談されてるみたいな気分になるからやめようぜ。

 

「……おっと、すまんなモングレル。もっと話したいが、これから顔を出さなきゃならんとこがある」

「ああ。……けど、ヴィルヘルムはしばらくレゴールにいるんだろ?」

「おうよ。切羽詰まってるらしいんでな。冬の間は居ることになるだろう。また今度、顔を合わせたら話をしよう。お前さんはここにいるんだろ?」

「そうだな、冬の間はだいたいいるんじゃないかね。……引き止めて悪いね、また今度」

「おう!」

 

 ミトンのような手袋を嵌めた腕をぶんぶんと振り、ヴィルヘルムは忙しそうにギルドを後にした。

 ……そうか、まだまだ現役で頑張ってるんだな。ヴィルヘルム。なんだか嬉しいね。

 

「……モングレル先輩、あのヴィルヘルムって人と仲良かったんスね。一体何者なんスか……?」

「大きな斧……それに、ミレーヌさんも丁寧に接してたし……もしかして、すっごく強い人?」

「かなり小柄だったけど、力がありそうだったね。……僕、何かの物語で見たことがあるよ。ああいう小柄な種族で、洞窟に暮らしている小人がいるって」

「あ、それ私もあるっス! 漂着者の書き記した神話にあるんスよね?」

「えーっ、それってもしかして、神話に出てくるような……!?」

 

 おいおい、さすがに神話は飛躍しすぎだろ。

 

「まぁ、神話は言い過ぎだけどな……その界隈じゃ知らない人はいないってくらいの達人ってのは間違いないぞ。ヴィルヘルムの斧さばきは誰にも真似できないって言われてるからな」

「……ゴールドランクのヴィルヘルム……聞いたことないっスね?」

「うん、私も。……モングレルさんみたいなタイプなのかな……?」

 

 いやいや、何を言ってるんだお前らは。

 

「ヴィルヘルムはただの木こりだぞ」

「えっ?」

「背負ってる斧見ればわかるだろ。木こりの達人だよ。あの人はすげぇ低い位置でサクサクと木を伐採できるから、歩留まりが良くて重宝されてるんだ。仕事も丁寧だし、林業関係の助っ人としてはかなり有名なんだぜ?」

 

 木こりのヴィルヘルム。昔はその特徴的な背丈のこともあって生きづらそうにしていたが、俺と一緒に色々と仕事をして回っているうちに腕の良い職人として認められていった男だ。

 別にドワーフとかではない。小人症なんだろう。つまり、普通の人である。

 斧を持っているからといって討伐任務を受けてるってわけでもないので、戦いで強いとか弱いとかとも無関係だ。斧さばきは正確だし、頑張ればやってやれないことはないんだろうけども。

 昔一緒に旅してた時は普通に非戦闘員として、魔物が出るたびに隠れてたからな……それから変わってるとは思えない。

 

「……ヴィルヘルムさんて、洞窟に住んでたりしないんスか?」

「しねぇよ。あの人をなんだと思ってるんだ」

「……神話では洞窟の小人は大酒飲みって聞いたんだけど、どうなの? モングレルさん」

「あの人は酒苦手だったはずだぜ。体が小さいしな。酔いが回りやすいんだろ」

「……あはは、僕の勘違いだったんだね。ごめん。神話の登場人物なんて、実際にいるわけないか」

 

 ヴィルヘルムがひょっとして神話的なすごい存在なんじゃないかと思い込んでいたらしいライナとウルリカは露骨にがっかりしていた。失礼なやつらめ。

 

 ……まぁ、俺も最初はドワーフかと思ったけどさ。ただの背が低いだけの髭もじゃのおっさんだよあの人は。

 

「けどな、あの人の伐採技術は本当にすげぇんだぜ……界隈じゃマジで最強だからな」

「うーん……」

「そういう最強かぁー……」

「レゴールもここしばらく建築資材や燃料がカツカツだったからな。それを手助けするために派遣されたんだろうぜ。いや本当にすごいぞ? あの人が伐採した後は抜根もすげぇ楽だしな……」

「……私、そういう最強はそこまで興味ないなー……」

 

 なんだよお前ら。良いだろそういう最強があったってよ……!

 もうちょっと色々な業種に興味を持て!

 




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