バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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本当のケンカがしたいのかい

 

 冬の間は修練場が人気スポットだ。

 体を動かしていると暖かいってのもあるが、何よりギルドマンが皆暇そうにしているからな。こういう時期は昇級試験やら昇格試験やらも多いし、それに備えた自主練も盛んである。

 ただ広いとはいえスペースにも限りがあるので、そこは譲り合うしかない。しかしギルドマンは皆見栄っ張りだから、譲り合いなんて優しいイベントは発生しない。睨み合い、縄張り争いによって強引に勝ち取るしかないのである。こういう時にデカいパーティーに所属してるかどうかで場所を使えるかどうかが変わってくる。悲しいね。

 まぁ、それでも隅っこで剣を振り回している分には文句も言われないから……レゴールのギルドはそれなりに治安が良いんじゃねえかなって思う。これがよそのギルドだと素振りしてるだけでもイチャモンつけられるからな……。

 

 さて、そんな修練場なのだが、今日は珍しく徒手空拳……つまり素手による戦闘訓練をメインにやる日のようだった。

 主に剣や槍で戦うギルドマンらにとって、ステゴロはメインウエポンには程遠いものである。それは武器に対応したスキルの存在とは無縁ではないだろう。ただ丸腰ってだけでも弱いのに、スキルの乗らない素手で戦うのはそれだけで対人戦でのハンデになってしまうからだ。せめてスラッシュ系のスキルが乗るような、長めの刃渡りのナイフを装備しなければ、同じスキル持ちの人間相手との戦いでは不利になってしまう。

 

 なので基本的に徒手空拳はあまり人気ではないのだが……徒手空拳にもスキルは存在する。こういったステゴロ専用スキルを使う場合、話は別だ。

 他の武器依存系スキルと違い、装備を必要としないステゴロ系のスキルは身軽に扱えるし、なかなか警戒もされにくい。

 まぁ取得したスキルがショボいとそもそもの威力が他の武器系よりやや弱めという大きな欠点を抱えているので、武器持ち相手とはいよーいドンで戦うとかなり不利であることには変わりはない。

 だがこの世界は取得したスキルをスキルポイントに変換して覚え直すなんてことができるような便利なシステムになっていないので、ステゴロスキルを手に入れちまったものはしょうがない。ぶつくさ文句を言いつつも、そいつを鍛えていくしかないのである。

 

 

 

「やあ。ようこそ、格闘講習会へ。この講習はギルド側からの無料サービスだから、お金の心配はしてもらわなくても大丈夫。私は今回の格闘講習で実演をすることになったアーレントだよ。知っている人も多いだろうけど、改めてよろしく頼むね」

 

 修練場の中央には珍しく、サングレール聖王国からの肉体派外交官であるアーレントさんがいた。

 まだ色々と国交のためにやらなきゃいけないことも多いだろうに、時間を作れたのだろうか。相変わらずしょんぼりした物悲しそうな表情と、物寂しそうな頭頂部が目立つお人である。

 そして今日のアーレントさんは上半身裸であった。筋肉モリモリ、マッチョマンのおじさんだ。その肉体の仕上がりようは、講習を受けに来たギルドマンたちよりも遥かに上だと断言できるだろう。

 徒手空拳スキル持ちは一際荒っぽい連中が多いが、そんな奴らが神妙な顔でアーレントさんの筋肉に気圧されているのだから相当なもんである。

 

 ……まあ、気圧されるのも無理はないか。

 “白頭鷲”アーレント。彼はサングレール聖王国において徒手空拳最強の戦士であるのだから、実質世界最強みたいなもんである。そんな人から教えてもらえるのだ。プレッシャーを感じるのは無理もない。

 

「よろしくね、アーレントさん! あんたの武勇は聞いてるわ! 後で私と試合してちょうだいね!」

「ははは、ありがとう。もちろん、私で良ければ訓練中はいくらでも相手になるよ」

 

 ……いや、“デッドスミス”の妻の方、イーダはかなりやる気のようだ。

 普段は両腕になんかイカした感じのゴツいガントレットを装着して戦っているらしい彼女だが、今日はバンテージを巻いただけの素手。気の早いことに既にシャドーボクシングを始めている。血の気が多い人だな……。

 

「……よう、モングレル。なんでお前も講習を受けてるんだ? お前こういうスキル持ちだったっけ?」

「おおルラルテ。いや、なんかこの道の達人から教えてもらえるのって貴重な機会じゃん。受講が無料だったからとりあえず受けてみたんだよ」

「変わり者だな……」

「お前にだけは言われたくねえんだが……」

「はあ? なんだよそれ」

 

 俺の隣にいるのはルラルテ。“収穫の剣”に所属するスキンヘッドな双子の片割れ、その弟の方である。

 見た目は兄弟そっくりだが、内面がまるで別なのも双子にしてはなかなか珍しい気がする。現に兄の方はこの場にいなかった。

 

「さて……この場にいる人達は皆それぞれスキルを持っていると思う。拳であったり、蹴りであったりだね。なかにはもっと変わったスキルを持っている人もいるかもしれない。格闘系のスキルは様々だから、全員が揃って同じ訓練をするのは難しいだろうから、まずはそれぞれが鍛えたいものに応じて分かれることにしよう。私は一通り教えることができるから、安心してほしい」

 

 なるほど確かにその通りだ。拳系スキルしかない奴もいれば、蹴りスキルしかない奴だっているだろうからな。ごっちゃになっても良いことはないか。

 

「拳スキルを扱う人は、まず効果的な突きの動きを練習するところから始めてみよう。握り方はこうで、足の開きはこう、肘はこう、で、突く時はブレないように、こう」

「おおー」

「すげぇ」

「殴るたびに空気の音がする……」

 

 アーレントさんの実演はそれはもう凄かった。漫画の擬音みたいにボッボッって音が鳴る。俺もできるかもしれないけど、なんていうか動きの流麗さは一朝一夕で真似できるもんじゃねえなってなるわこれ。

 

「ただ、この殴り方は路上の一対一で相手に隙がある時くらいにしか使えない。実戦ではもっと崩れた体勢から拳を突き出さなければならないこともあるだろうね。たとえば、こんな風に」

 

 その次にアーレントさんが見せたのは、腰を低く、上体を前方向に大きく寝かせるようにして打ち出すような……奇妙なパンチだった。少なくとも、俺の前世の格闘技でああいう動きは見たことがない。

 とにかく拳を前方向へ。……つまり、スキルの乗った威力の高い拳だけをより遠くへ突き出すための動きなのだろう。

 

「スキルを扱う場合、こういった変則的な動きをしなければならないこともある。強化やスキルが乗らなければほとんど威力が出ない型だから使い所は限られるけど、咄嗟に出せるか出せないかだけでも大きく変わってくるはずだよ。ちょっと練習してみようか」

 

 奇妙な動きの多い型ばかりだが、なるほど。当てれば良いってだけならこういう形にまとまるってことなんかね。

 動きのメリットは講習を受けたギルドマン達も理解したのか、各々練習を始めている。俺もちょっとやってみるか……スキル持ってないけど。

 

「ふんっ……うお、コケそうになるなこれ」

「やあモングレルさん。久しぶり……ああ、その時の脚の位置はこうだよ、こう」

「お、おお?」

 

 俺が無茶な体勢でローパンチを練習していると、横からやってきたアーレントさんが俺の体をひょいと持ち上げて、プラモでも調整するかのようにポーズの矯正を始めた。俺も別に軽くはないんだが……。

 

「そうそう、反対方向に脚を伸ばしてね、まっすぐに……突いた後は、バランスを崩した体を復帰させて、こうか、こう動かすように……」

「お、おお、なるほどな……」

「良いねぇモングレルさん。荒っぽいところはあるけど、格闘のセンスがありそうだ……私の大胸筋が思わずピクピクしてきたよ」

「あ、そうすか……」

「ムッ! そちらの蹴りも素晴らしいね! けど今のもう一度見せてくれないかな! 少し調整すればきっと更に美しい蹴り技に……」

 

 アーレントさんは十数人いる受講者の間を忙しく駆け回りながら、しかし熱心に、とても楽しそうに指導してくれた。

 やはり彼はこうして体を動かすのが大好きな性分らしい。まぁ、筋肉を見ればそれはわかる。外交官って体じゃねえもんよ……。

 

「フゥー……モングレルよ。俺は新しい技を身に着けてより強くなったぜ……生まれ変わった気分だ……」

「気が早いなルラルテ……」

「俺を今までのルラルテだと思わないほうが良いぞ、モングレル」

「ほう……? やるつもりかい、この俺と」

 

 アーレントさんに型を教わって数十分くらいしたルラルテが俺の前に立ちふさがり、異様に腰を落とした独自の構えを取った。

 驚いたねぇボウヤ……奇しくも同じ構えだ。

 

「いくぞぉ!」

「来いやぁ!」

「うおおおおっ……! いてっ、いてっ」

「くそっ、当たれっ、痛ッ! 待て今コケてるから!」

 

 お互いにリーチだけを意識した不慣れなクソ雑魚パンチを撃ち合う攻防……。

 型は学んだが実戦での活かし方を教わってないが故に変な体勢でノーガードの相手をペチペチ叩くだけの不毛なバトルが幕を開けた!

 

「おお、早くも組手を始めたね……! いいよいいよ、その調子だ!」

「良いの!? これ良いのかいアーレントさん!? いてっ」

「くらえモングレル! 俺の拳は誰にも止められ……いっで!?」

「拳は実戦で磨かれるもの……蹴り合い、殴り合い、そうすることで己の肉体は硬く、強くなっていくものなのさ……」

「うおおお! これが“白頭鷲”の極意ってわけね……! こうしちゃいられないわ! モングレルさん、ルラルテさん! 私も混ぜなさいよ! どりゃぁ!」

「うわあなんか来た!」

「乱戦だ乱戦! このルラルテ様が負けるかよ! 最後に立っていた奴が最強の格闘家だぁ!」

 

 泥仕合を演じているうちにイーダが乱入し、やがてその謎の熱気に当てられたのか他の連中も参戦し……全員で不慣れな動きでしばき合う謎のバトルロワイヤルが始まった。

 なんなんだこいつら……やっぱステゴロで戦ってる奴は全員どっかしら馬鹿だわ!

 

「おお、おお……ぶつかり合う筋肉と筋肉の交響曲(シンフォニー)……まさか遠い異国の地で、こんなに熱い魂のぶつかり合いが見られるとは……」

「最強は俺だ!」

「私が拳最強の女だよ!」

「ふざけんな俺はハルペリアで最強の男……いてっ!」

「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!」

 

 結局このバトルロワイヤルは復帰と再戦を繰り返すゾンビ野郎が多すぎて決着することはなかった。

 負けず嫌いで頑丈な連中はこれだから困る。

 




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