バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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ナイトから踊り子へ

 

「我が名は慈雨の聖女ミシェル!」

「我が名は蝋翼の審問官ピエトロ!」

「「二人合わせてサングレールの白い連星、ミシェル&ピエトロ!」」

 

 聖女と審問官が高らかに名乗り上げ、ポーズを決める。

 彼らの前に立つ年老いた神殿長は、満足そうに“うむ”と頷いた。

 

 聖堂騎士団に所属するミシェルとピエトロは、ヘリオポーズ教区における個人単位での最高戦力と呼んでも差し支えないであろう。

 実際のところは聖堂騎士としての使い勝手の良さから選出されている部分はあるのだが、ミシェルもピエトロもそういった事は全く気にしていない。

 彼らにとって、神殿長イシドロの決定こそが全てであり、絶対なのである。

 

「うむうむ……白い連星は今日も燦爛と輝いているね……実に素晴らしいッ!」

「おお、イシドロ神殿長!」

「ありがとうございます!」

「だが……」

「だ?」

「が?」

「君たち白い連星は今日付けで……聖堂騎士を、解任とするッ!」

「「えっ……ええええええ~!!??」」

「はーい、お疲れ様でしたァーッ!」

 

 迫真の悲鳴を上げる二人を前に、イシドロ神殿長は耳を塞いでアーアーと言っている。

 三人のやり取りは、日頃からこのように騒々しいものであった。

 

 

 

「えっ!? 芸人として派遣ですか!?」

「しかもハルペリアに!?」

「そうッ! もはやサングレールとハルペリアとの間に戦争は不要! これより必要なのはそう、愛と平和なのだよ君たちィ!」

 

 ヘリオポーズ大神殿の祭壇に上がったイシドロは、ステンドグラスより降り注ぐ神々しい輝きを受けながら、政治家のような調子で演説していた。

 聴衆は白い連星、ミシェルとピエトロの二人のみ。常に信徒のいるこの大神殿においては、非常に珍しいことであった。

 

「恨みというものは連鎖するのだ、ミシェル……そしてピエトロよ……誰かが恨みを晴らすべく棍棒を振るう時、同時にまた新たな恨みがこの世に生まれるのだ……」

「悲しいですわ……」

「人間は愚か……」

「つまり! 恨みの連鎖はどこかで断ち切らねばならないのだッ! わかるね!?」

「はっ! わかります!」

「愛と平和ですわ!」

「その通ぉーっり! 愛と平和の世界に格式張った武力など無用! 必要なのはそう、舞台上で繰り広げられるような驚き、喜び、そして悲しみ……感動なのだよ!」

「さすがはイシドロ神殿長!」

「私たち、必ずや舞台上で輝いてみせますわ!」

 

 ミシェルとピエトロが手をつなぎ、歌いながら踊り始める。

 曲目は“我が世の春”。即興で始まった歌だというのに、二人の息は驚くほどぴったりと噛み合っていた。

 

 イシドロ神殿長は二人の歌声をBGMに、顎に手を当てて考え込んだ。

 

「……タカ派は大きく崩れ、地盤も不安定……急先鋒は独断専行に走り、報告では“断罪”が行方知れずときた……脆くなったものだな」

 

 タカ派。ハト派。そしてカッコウ派。

 サングレール聖王国における派閥は大きくその三つに分けられるが、近頃はそれらの力関係も偏ってきた。

 特にハルペリアとの徹底的な戦争と領土侵略を是とするタカ派が大きく弱体化した。侵攻作戦の度に損耗する兵力が大きすぎるのだ。

 正面玄関たるトワイス平野でも負け、裏口でも苛烈な消耗を強いられた末、幾度も計画の見直しを迫られている。ここからサングレールが勝ちの目を拾うのは、あまりにも現実的ではない。

 反してハト派は大きく勢力を伸ばしている。元々サングレール聖王国も一枚岩ではない。侵略に否定的な派閥も存在するし、交易によって十分な利益が得られることも確かだ。

 これまでは複数の勢力の顔色を窺うことしかできなかった聖王が、ハト派寄りとして存在感を表しつつあることの影響も軽視できない。

 ハルペリアの交易品の甘さを知り、聖王のお墨付きまで与えられてしまえば、いよいよ民意も動き始めるであろう。

 

「……ですが、イシドロ神殿長。私達二人の後任はどうされるのでしょうか?」

「うむ、私も気になっておりましたぞ。聖堂騎士団は常に十二の座が埋まっていなくてはなりませぬ。我々の後任は、一体誰となるのやら」

 

 歌い終わってしばらく余韻に浸っていた二人が、我に返ったように当然の疑問を投げかける。

 聖堂騎士団はサングレールの中でも最高の組織である。後継もそう簡単に決められるものではない。

 

 だが、神殿長であれば自由に指名が可能だった。

 

「気になるかね?」

「はい! どちらかといえば!」

「それはもう!」

「うーん……お前たちは口が軽いからダメッ! 教えないッ!」

「「そんなーっ!?」」

「はいはい! それよりお前たちは二人とも芸人なのだからね! 早速今日から幾つかの芸を学んでもらうよ! ワシは元聖堂騎士の肩書なんて使わせないからねッ! 芸術には真剣に向き合わなきゃ駄目よ!」

「確かに!」

「その通りですわ!」

「なにせこれから向かうのはハルペリア王国……我々サングレール人の美的感覚の通じない、異国なのだ。台本の準備は入念に、しっかりとだよ」

 

 イシドロは胸元に揺れる四本爪跡の金飾りを愛おしそうに撫でた。

 

「ヘリオポーズ教区の“劇団閑古鳥”の名を、歴史に刻むくらいの気概で行こうじゃないか」

「劇団閑古鳥!?」

「神殿長! その名前はどうなのでしょうか!?」

「だまらっしゃい! はい、練習練習! さっさと湖まで走るぞ! 駆け足ッ!」

「「ひえーっ!」」

 

 この日からそう間を空けずして、サングレール聖王国における聖堂騎士の入れ替わりが公となった。

 最高戦力の入れ替わりはヘリオポーズ教区においてはちょっとした話題となったが、冬の寒さと雪崩の話題によって、すぐに耳にすることもなくなった。

 




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