バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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未来を期待する言葉

 

 ギルドの資料室には色々な書物が置かれ、公共性の高いものに関しては俺たちギルドマンにも解放されている。

 もちろん本や資料を汚したり壊した場合は罰が下る。盗むなどは言うまでもない。本は貴重なのだ。

 前世の図書館と同じで、静かに大人しく綺麗に利用しましょうということだ。ルールを守れない連中は普通に出禁にされる。まあ、滅多にないけどな。なにせ不真面目な奴はそもそも資料室に入ろうともしないから。

 

「だからほらぁ、書いてあるじゃん。パイクホッパーは横からって。額を踏みつけてなんてどこにもないよ」

「けどベテランの人がそう言ってたんだぜ」

「それで前怪我したんじゃん。この本のやり方のが良いよ絶対」

「んー、そうかなぁ」

 

 魔物討伐の教本を読みながらボソボソ喋っている若者を尻目に、俺はレゴール内で発せられたお触れや知らせをまとめた資料を読んでいる。

 広場に掲示されるような貴族からの告知だとか、そういったものをまとめたものだ。お知らせのバックナンバーと呼んでも良いかもしれない。

 

 俺もちょくちょく広場で確認はしているのだが、見逃した知らせや見落としていた情報があるかもしれないので、たまーにここでこうして確認しているのだ。

 

 どこそこで工事が行われる。通行禁止、それに伴う作業員の募集……。

 工房向けの減税対象となる道具、設備類の導入……家庭教師の募集……冬季演習による競技場の貸切日……。

 まあ、結構見てるだけでも面白い。俺の住んでる街で何が起こっているのか、あるいは何が起こっていたのか……そういった情報をざっくりとでも頭の中に詰め込んでみると、案外面白い部分と繋がったり、発見があったりもするんだ。

 特にどこそこの工房や団体が悪事を働いたかってのは貴重な情報だ。ケイオス卿として手紙を出す相手を選ぶ際にとても良い参考になる。もちろん、こういった掲示物の発表を十割信じているわけでもないんだがね。まあ、参考資料の一つだ。

 

「ふーん、衛兵の増員……ああ、それでこの前あいつらぼやいてたのか……」

 

 レゴールは拡張したり工事を進めたりで急激に発展している。人が増えているので、当然人々を守るための衛兵も重要になってくる。おかげでレゴールを知らない連中にいろいろ教えてやらなきゃならないから面倒だと、衛兵の友達が愚痴ってたのを最近聞いた。

 衛兵とはいっても人間だ。誰も清廉潔白で仕事ばかりの人間というわけでもない。レゴールの治安を守る人々も不満を抱えることはあるし、それを酒場で溢すことだってある。まあ、喋っちゃいけないようなことを簡単にポロッと溢すのはどうかと思うけどな。

 

「粘土の掘削運搬作業……おー、これはまだギルドに回ってきてないやつだな……いや、なんだ。これは奴隷用のやつか……じゃあ駄目か……」

 

 面白そうな仕事の案内だなーと思ったら犯罪奴隷用の仕事だったりする。ちょっとはやってみてぇけども、居心地は微妙だからなんともな……それに、仕事上がりにちょっとだけ粘土を分けてくれる、なんてこともないだろう。

 俺も一度粘土で器とか作ってみてぇなぁ……工房の人と仲良くなれば試しにやらせてくれないもんだろうか。

 ジュリアと結婚した工房勤めのシモンは……いや、あそこはやめておくか……うん……。

 

「……お、“翌年の標語”だ。もう今年の出てたんだな」

 

 レゴールの広場には冬になると、翌年の心意気だかなんだか知らないが、伯爵自らが決めた短い標語を掲示する習慣がある。らしい。どうもこれはここ数年から、つまり現レゴール伯爵の代から始まったものだそうである。

 レゴールの住民は来年の標語を予想し、懸賞のように応募することができるのだが……これがまたなかなか当たらない。当たればそこそこ良い食い物だとか、貴族街の美味い店のチケットなんかが当たったりもするのだが、今までに当たった人はいないそうである。

 最初のうちは賭けにもなるだろうかと盛り上がったりもしたらしいのだが、毎年伯爵の投げつける標語がみんなの予想にカスりもしないので、今では年末にひっそりやってる、こう、新聞の隅のどうでもいいコーナーみたいな扱いを受けていたのだった。

 

「んー今年は“白銀”か……相変わらず当てさせる気がねえな」

 

 レゴールクイズに正答者はいない……いやいや。というか本当になんでこんなまどろっこしいクイズやってるんだろうな、毎年。

 レゴール伯爵も賢いお人だろうに、無意味なことはしないタイプだと思ってたんだがなぁ。まあ、けど洒落たことはする人みたいだしこういう、庶民にとってわからないジョーク的な……。

 

「……つまんねえジョークくらいには普通一年で気付くよな」

 

 ちょっと思うところがあって、俺は過去の告知を漁ってみた。幸いこの手の貴族の掲示物はしっかりと補完してあるようで、バックナンバーを漁るのも難しくはない。

 

「……“整然”、“熟成”、“選別”……んー……ん、ん、ん……」

 

 過去にレゴール伯爵が出した標語を見る。来年の抱負……にしては、何か……それぞれに、引っ掛かりを覚えるっていうか……。

 

「あっ」

 

 ……やべ、わかった。

 

 違う、わかった、やべえ。しくったわ。

 

「……め、メッセージじゃんこれ……」

 

 これはあれですわ。レゴール伯爵からの俺への……正確には、ケイオス卿へのメッセージだわ。俺が今まで伯爵に渡してきた発明のキーワードばっかりだこれ。絶対俺を意識してるやつじゃねえかよ。しくった。なんで気付かなかったんだ俺。

 いやいや、でも気づけってのは無理だろ……名指しもしてないのに……いや、そうじゃないのか。

 

「目的はなんだ……? いや、俺が気付けると思ってる……のか」

 

 標語の回答を募集する時はいつも“未来を見つめる貴方のために”って書かれてるな。

 ……“実名を添えて”……はあ、なるほど。理解した。多分、なんとなくだが……。

 

 ……レゴール伯爵は密かに俺とコンタクトを取りたがっている……気がする。

 それも、レゴール伯爵にだけわかる形で……かなぁ、多分……。

 

 当てさせる気のない標語はまさにその通り、回答者をふるい落とすためのもので……このクイズに正解するであろうただ一人、ケイオス卿からの便りを探し出すためのもの、なのかなぁ……全部予想だけども。

 レゴール伯爵、かなり警戒しているのかな……いやしてるわなこの感じだと。そして、他の誰からも悟られることなくどうにか……ケイオス卿と渡りをつけたかった、と……。

 

「……」

 

 俺はさりげなく資料室を見回して、ひとまず全てを棚にしまった。

 そして新たな資料を物色するフリをして、考え込む。

 

 ……ケイオス卿絡みの出題ではある。しかし、ケイオス卿だったら的中できるというクイズでもない。

 形式はただ単に来年の標語を求めているだけだからだ。知識もクソもない。

 

 それを承知の上で……あっ、もしかしてこれ。いや多分だけども。

 

 レゴール伯爵……ひょっとして、ケイオス卿のことを未来人か何かだと考えてねえ……?

 

「いやまさかな……いやでもこれ……うん、だとするとこの無茶苦茶な感じにも納得が……」

 

 俺はその日、ただひたすらに悶々として過ごし……結局この件については早急にどうこうすることもできる気がしなかったので、問題を先送りにすることにした。

 レゴール伯爵に対しても、まだノーコメントだ。しゃーない……仮に向こうがコンタクトを望んでいるとしても、正直こっちもまだなんというか、全幅の信頼を置くだけの勇気が出てこない。

 けど、ほんとすんませんレゴール伯爵……サインに気付けなかったのは、普通に俺の頭の落ち度ですわ……。

 

 

 

 

 

「ウィレム様、また今年も標語の確認をされておられるのですか」

「うむ、これは毎年の大事な作業だからね。アーマルコよ、これなど良いじゃないか。“黄金”だそうだ。実に惜しい」

「……ウィレム様の選ばれる標語は毎年いつも前向きなようでいて、かといって当てさせる気は無いものばかり。年々、参加する人々の標語も多種多様になってきますな」

「それでいいのさ。領民が未来に向けて、色々な形の希望を願っている……その片鱗が見えるのだから」

「未来、でございますか」

「うむ、そうだよ、未来だ。……未来から来た智者ならば、いつか標語を的中させるかと思ったのだが……うーん、私の勘違いかなぁ……でも、間違いなく未来的な気がするんだけどなぁ……こんな小さな催しだから、未来じゃ記録に残ってもいないのか……」

「ウィレム様?」

「ああいや、なんでもない。ただの考え事だから」

「は、左様でございますか……」

 

 




「バスタード・ソードマン」が次にくるライトノベル大賞2023単行本部門にて第2位となりました。
投票してくださった皆様、本当にありがとうございます。おかげさまでバッソマンが次の次に来ます。
(発表サイト*・∀・)

投票者の傾向としては、
20代読者ランキングでは8位
30代読者ランキングでは2位
40代読者ランキングでは2位
そして男性読者ランキングでは3位という結果になっているようです。
皆様のおかげで公式サイトの作者コメントににくまんを載せることができました。本当にありがとうございます。
今後もバスタード・ソードマンをどうぞよろしくお願い致します。

あと第一巻に二度目の重版が掛かりました。
そちらも重ねてお礼申し上げます。ありがとうございます。



「バスタード・ソードマン」のコミカライズの第二話が公開されています。カドコミ、ニコニコなどで掲載されているので、是非御覧ください。


(カドコミ*・∀・)

(ニコニコ*・∀・)


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素敵なイラストや新キャラたちのビジュアルがたくさんなので、ぜひともこの機会に29万冊ほど手に取っていただけたら幸いです。

ゲーマーズさんとメロンブックスさんでは特典SSがつきます。
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