バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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慎重を期して

 

 冬の間でも街と街の間で人の往来はある。

 当然だ。雪と言っても日本でいう東北とか北海道みたいなドカ雪が積もるわけでもない。その気になれば行き来はできるのだ。

 ただ、馬車の行き来は路面状況によって結構厳しくなるし、頑張ればいけるとはいえ相応にキツいのは変わらない。馬も長く寒い環境にいるのが厳しい品種もいる。行動範囲を広げないことが吉なのは変わらないのである。

 それでも少人数で往来する連中はいるので、遠くの情報を聞く時にはそいつらを捕まえるのが間違いない。

 

 さて。俺が欲しい情報はドライデン方面の噂だ。

 こういう噂話をキャッチするなら護衛から帰ってきたギルドマンを酒場で捕まえて“おう、向こうの湖の様子どうだったよ”と聞くのが一番なのだが、そう都合よく湖の情報を持ってる奴がいるとも限らない。その情報が正確かも微妙なところだ。

 だからって自分の足で現地に行くのは面倒だ。じゃあどうすればいいか。

 

「ラーハルトさん、依頼出したいんだけど良いかい?」

「はい、モングレルさん。今は大丈夫です。向こうの別室で伺いましょう」

 

 依頼を出して情報を持ってきてもらう……それが一番だ。

 

 

 

「ふむ。ザヒア湖の魔物に関する調査ですか。確かに、噂には聞いています。マーマンが出没することはほとんどない地域なのですが」

 

 受付のラーハルトさんは生真面目な人だ。

 俺みたいな木端ギルドマンの言うことでも真面目に向き合ってくれるのでありがたい。

 

「春の早い時期にそこで数日キャンプする予定なんすけどね。あらかじめ安全性がどんなものかを知っておきたいんすよ」

「となると調査、というほど本格的なものではないですよね」

「そこまで金は払えないなぁ。でもどうせ湖の中だって、ある程度はギルドも独自に調べてるんでしょう、こういうの」

「ええ、もちろんです。魔物はまずギルドの領分ですから。ただ冬季は……向こうでもさすがに、手の込んだ調査はしないでしょうね。春が近づいてからになるかと思います」

 

 冬の湖をダイビングして調査なんてそりゃ厳しいだろう。サウナおじさんじゃあるまいし。

 

「調査項目の一つとしてドライデンへ届けておきましょう。マーマンの有無、そしてザヒア湖周辺の軽微な安全確認。春の定期報告で調査結果が返ってくるように計らいましょう。となると……そうですね、この調査が一点、これが一点……元々ギルドが行う調査と食い合う部分も多いですから……費用はこの程度となります」

「少なっ」

「何かしらの調査の片手間で行えるものですからね」

 

 ザヒア湖でマーマンと出くわしたりはしたくない。

 かといって最初から諦めるのは嫌だ。けど向こうに着いてからマーマンだらけでしたってのも困る。

 旅行前に結果が来るよう調べておくのは大切だぜ。……まぁ多少いるくらいだったら討伐ついでに強行するけどな!

 

「仮に春にマーマンが残っているようでしたら、モングレルさんに討伐をお願いすることになるかもしれません」

「マーマンかぁ……湖の底にいたとして、剣の届く距離にいてくれるかなぁ」

「どうでしょうか……水中だとして、泳げばあるいは……?」

 

 真面目に考えてくれるのはいいけど、ラーハルトさん。これは冗談だぜ。

 

 

 

 マーマンはゴブリンの変種と言われている。

 そもそもゴブリンは変異しやすい種族と考えられており、その変化形態がマーマンであるとか、サイクロプスであるとか、オーガであると言われているのだ。実際にどうかは定かでないが、ゴブリンの神出鬼没っぷりを考えるにあながち間違ってもいなさそうである。

 だがマーマンはその中でもかなり希少というか、タイプの違った部類になるだろう。

 基本的に水中での活動を主としており、水気の少ない地上での活動はかなり苦手だ。ゴブリン以上に賢くはあるが身体は小さく、手足にはヒレがついている。……いやこいつやっぱゴブリン関係ない種族かもしれん。別種だろ多分……。

 

 海沿いの地域なんかだと、特にマーマンは嫌われている。網を破ったり、船を襲ったりするからだ。マーマン以外にもたくさんの厄介な魔物が海にはいるが、マーマン共がその一角を担っているのは間違いない。

 だが奴らの真価というか厄介さはアステロイドフォートレスといった大型の魔物と同時発生することで発揮されるので、単体ではさほど脅威にはならない。

 水中でも一対一なら負けることはないだろうが、アステロイドフォートレスはなぁ……。

 ……リュムケル湖の方で発生してたとか前に聞いたけど、それは大丈夫だったんだろうか……。

 

 ……今マーマンについてあーだこーだ考えすぎても無駄か。

 春になればわかることだ。それまでは普段通り過ごしていることにしよう。

 

 俺はギルドマン。ブロンズとはいえ、ベテランなんだ。

 何ヶ月も先に出会うかもしれない程度の小賢しい魔物なんて、気にする必要はない。ギルドにも調査は要請したし、最善は尽くしたんだ。後は結果を待てばいいだけのこと。

 

 どっしり構えてりゃ良いんだ。どっしりとな……。

 

 

 

「うおっ!?」

 

 夜。宿の自室で眠っていると、大きな物音で目が覚めた。

 バキッと、何か硬いものが折れるような音。金属のような……すぐ外の廊下から聞こえてきた。

 

「なんだなんだ」

「チッ」

「あ」

 

 何事かとドアを開けてみると、どう見ても客には見えない怪しげな男がそこに立っていた。

 フードを被って、手元にはピッキング用らしきツール。間違いない。盗人だ。

 

「なんだあの鍵穴は、ついてねぇ……!」

「待てこら! テメェ盗みに入っただろ! 逃がすかよ!」

「うおっ!? なんだこいつ、速ッ……!?」

 

 足の速さには自信があったのだろう。部屋から出てくる俺を見ても男は焦った様子はなかったが、俺がとんでもないスピードで追いかけてくるのを見て血相を変えた。

 だが遅い。俺は身体強化を込めれば初速も結構なもんなんだぜ!

 

「ぐえっ」

「確保ォ!」

 

 二階からバタバタと降りて宿の外までは出てしまったが、宿の正面口辺りで無事に犯人を取り押さえることができた。ざまぁみさらせ。俺の部屋を狙ったのが運の尽きだったな。

 騒々しくやったからか、宿の中からも女将さんの声が聞こえてきた。

 夜ではあるがこうもバタバタと人の気配が増えると、もう逃げ切ることもできまい。

 

「……降参だ。クソッ」

「潔いってのは美徳だな。ついでに、なんで俺の部屋を狙ったのか聞かせてもらおうか」

「……ふん…………いでっ、いででで!? や、やめろ! 捻るな! わかった言うから!」

「潔いってのは美徳だな」

「クソ、たまたまだよ! たまたま一番奥の部屋の扉だけ高級そうだったから、金目のものがありそうだから狙った! それだけだ!」

「……あー」

 

 扉か。なるほど。そういう判断基準もあるのか……。

 スコルの宿の俺の部屋だけは、俺が日曜大工で色々と弄ってあるからな……扉なんかは錠前も特別なやつに変えてある。変なピッキングとかで不用意に開けようとすると、仕掛けが外れて中で重い金属棒が落ちてくるようになってるんだ。ピックが壊れたのもそのせいだろう。物音もするので、それで俺が気付けたのだ。

 

「あら、モングレルさん! この人泥棒!?」

「そうだよ、俺の部屋狙ってたんだ」

「あらまー馬鹿ね! モングレルさんの部屋なんて狙って! まともな物なんて一つも置いてないのに!」

「それな。いや、それは言いすぎだぜさすがに。俺なりのお宝は多いんだよ一応」

「……クソッ、しかも外れ部屋かよ」

 

 男は忌々しそうに首を捻り、俺を見上げ……がっくりと項垂れたのだった。

 

 

 

 俺の部屋を狙った男はそのまま衛兵にしょっぴかれた。現行犯なのでこっちが深く追及されることもない。前世の日本だったらもうちょっと細かく俺らの証言とかそういうのも聞かれるんだろうけど、その点ハルペリアは緩めで楽ではある。冤罪を被せられたりしていない間は少なくともそう思えるものだ。

 やれやれ。時間も時間だし、終わったらまた眠気がやってきたぜ……。

 

「……あー、くっそ、あの盗人野郎め。鍵穴壊しやがって……これ直すの面倒だぞ……」

 

 俺の部屋は特注の鍵だってのに……くそ、駄目だ。暗くて今この場じゃ直せる気がしねえ……。

 セキュリティ面がいいけど、防犯機構が作動した後の処置どうすりゃいいんだ……。

 

「……はぁ……鍵無しで寝るしかねえのか……」

 

 結局この日の夜、俺は自分の部屋に鍵をかけずに寝ることになった。

 一応、いつどんな理由でガサ入れをされても大丈夫なように部屋の置物は工夫してはいるのだが……それでもセキュリティレベルが大きく下がった扉を意識しながらの睡眠は、あまり質が良いとはいえないものであった。

 

 幸い、あの男以降招かれざる客がやってくることはなかった。朝陽の昇った外を見て一安心である。

 

 ……ああ、やだやだ……。

 森の中で野営するよりも鍵のかかってない宿の方が安心できないなんて、文明的じゃねえよなぁ……。

 全くどっしりもしていない……。

 




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