バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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男だらけのキノコ狩り大会

 

 旨味が欲しい。

 これは、単純に美味しいものを食いたいという欲求とは少し違う。

 

 旨味とはつまり……昆布とか魚介類とか、キノコとか……そういった特定の食品に含まれている成分のことである。旨味調味料なんかがまさにそれだな。わかりやすく表現するなら、出汁と言っても良いだろう。

 

 しかしハルペリアにおいて、旨味の強い食材というものはそんなに多くない。

 鰹節なんて聞いたこともないからな。似たような干物はあっても、さすがに鰹節は無かった。フィンケルプ(ヤツデコンブと呼んでた海藻)などはあるにはあるが、こいつもさほど流通量は多くなさそうだ。

 今に始まったことでもないのだが、流通がトロくて保存技術もショボい異世界では特定の珍しい何かを欲しがった時に壁にぶち当たる。歯がゆいもんだぜ……。

 

 しかし、ここレゴールでもわりと簡単に入手できる旨味豊富な食材は存在する。

 それこそが、キノコだ。

 

 

 

「ウルリカ……キノコに興味はあるか?」

「え……えっ!?」

「キノコ、食べたくないか?」

「ど、どう……どういうキノコ……?」

「そりゃあもう、とびきり旨いキノコさ……」

「へ、へぇー……」

 

 ギルドで暇そうにしていたウルリカを見つけた俺は、早速声をかけた。

 今回はウルリカがいたほうが間違いなく捗りそうだからな……。

 

「ウルリカも詳しいんだろ? キノコのこと」

「えー……うん、まぁ……詳しい、よ……?」

「おお、さすがだな……じゃあ、どうだ。これから二人でバロアの森でも行かないか?」

「二人きりで……? ……ふーん、わかった……じゃー、行こっか……」

 

 話が早くて助かるぜウルリカ……。

 それじゃあ、一緒に楽しむとしようじゃないか。キノコ狩りをな……。

 

 

 

 冬の終わり。こんな時期にキノコが生えているのかっていうと、実は生えている。

 もちろん秋ほどポコポコ生えているわけではないのだが、特定の種類はしっかりと冬の寒さに耐えている。まあ、それでもいたるところに生えているわけではないので、そこそこ頑張って探し出す必要はあるのだが……。

 

「さあ、バロアの森で食えるキノコを探すぞ!」

「あ、本当にキノコ探すんだー……」

「いやキノコ食うから一緒に行こうぜって話しただろ」

「うん、したねー。その通りです……」

 

 二人でバロアの森へとやってきた。まだちょっと雪が積もっているが、この方がむしろ都合が良い面もある。

 ウルリカの装いは冬装備だ。武器もあるので、万が一魔物が現れても心配はいらないだろう。冬は魔物と滅多に遭わなくなるとはいえ、準備を怠ってはならない。

 

「それでー? 食べられるキノコを探してるんだっけー。となるとあれかなー……この時期だし、ジェリールームかなー?」

「お、さすが良く知ってるな。そう、そのジェリールームを採りに来たんだ」

 

 ジェリールーム。それは寒い時期にのみ生えてくるキノコだ。

 浅い雪や霜を突き抜けて、白くてテラテラした質感の傘を開く。傘と繋がる柄が数本、あるいは十数本に分岐している姿から、森のクラゲと呼ばれている。それってただのキクラゲなんじゃねーかと思うが、生える場所は木ではなく土である。

 さっき説明した通り見た目が特徴的なものだから、他のキノコと間違えることはない。そして嬉しいことに食用にできるキノコだ。食感はプリプリしており、歯ざわりが滑らかで様々な料理に使える。お前やっぱりキクラゲだろ。

 

「スープにたくさん入ってるのがまた旨いんだ。キノコの旨味ってのは馬鹿にできねえよな。キノコと塩だけで最高のスープになってくれるしよ」

「まあねー。……けどさー、モングレルさん。採った後のことばかり考えてるけど、ジェリールームはそう簡単には見つからないよー?」

「……まぁ、そこはほら……ウルリカの観察眼でな」

「私だってジェリールームを探すのは大変なんですけどー」

 

 そう、ジェリールームを見つけるのは非常に難しい。

 雪や霜の上にしか生えてないくせに、色が真っ白というのがまずひどい。視認性がカスである。パッと白っぽいところを探しても一目では全くわからない。ジェリールームかなと思って触ってみたらただの雪が積もった下草だったなんてことも普通にある。自生する数そのものもあまり多くないこともあり、食用にできるキノコなのに出回る数は少ないという食材なのだ。……あと、やっぱキクラゲっぽいせいなのか、旨味も驚くほどではない。ちょっと物足りねえんだよな……。

 

「だから今回、ウルリカには他のキノコも探してもらいたいんだ」

「えー……まあ、冬とはいえいくつかは当てがあるけどさー。そっちはたまーに毒があったりするから、安全じゃないよ?」

「……今回は目を瞑る! 毒だったらそれはそれで仕方ない!」

「なんでそんなにキノコ食べたくなってるのモングレルさん……」

「俺の味覚が求めてるんだ……」

 

 キノコはほとんどカロリーのない食材だ。正直、キノコで腹を満たすということはどれだけ山盛りにしても難しいだろう。

 そしてこの異世界において、キノコというものは“毒があったりなかったりする食材”として認識されているところがある。

 というのも、ジェリールームのように他に見間違えるものがない種類の場合はそこそこ受け入れられているのだが、他のキノコと見間違えたりするような種類になると、取ってきたは良いものの毒に当たったりするわけだ。そういうこともあって、“毒があったりなかったりする”という奇妙な認識が広まっている……のだと、俺は思っている。

 実際、ネットが発達した前世であっても、素人がキノコを採るのは大変リスキーなことだとされている。キノコの見た目は段階によって大きく変化するものもあるし、似たような姿になるキノコも多いからだ。安全にキノコを味わうには深い知識が必要なのである。

 

 カロリーも多くない。ビタミンもまぁそれなり。下手したら腹を壊すし、運が悪ければ死んでしまう。リスクばかり大きくてリターンの少ない食材。それが異世界におけるキノコといえよう。

 それはわかった。それをわかった上でだ。

 

「俺の味覚が……! キノコの旨味を求めてるんだよ……!」

「わ、わかった! わかったってばー、もぉー……しょうがないなぁ……良いよ。他のキノコも探してあげるから」

「ありがとな! 助かるぜ!」

 

 そんなわけで、俺とウルリカによるキノコ狩りが始まった。

 

 

 

「ジェリールームどこだぁ……これか? ……雪だ」

「こっちは日当たり強くて難しいかなー……向こうの木陰とかかなー……」

 

 葉も落ち、下草もほとんどない。そんな中では目に付くものも限られているので、探す作業もそこまで難しくはない。ただひたすら雪から食えるものを探そうとしているので、虚無感はすごいけどな……。

 

「あっ、やっぱり見つけた! モングレルさん、一個あったよー!」

「おお! でかしたウルリカ! 小さめだけどまぁ良しだな!」

「ちっちゃーい、かわいー。プルプルしてるー……じゃあこれ、袋にしまっちゃうねー」

「袋一杯にして帰りてえな」

「うーん、できるかなー……」

 

 ちょっと移動して捜索。ちょっと移動して捜索。その繰り返しだ。

 日陰がちで、薄暗くて残雪の多い場所が見つけやすそうだ。

 しかしあまり雪が深いとジェリールーム自体が雪に埋もれて見えない場合がある。そうなると探しようがない。面倒なキノコだぜ本当に……。

 

「あ、また隠れてるの見つけたー! へへ、逃さないよー……」

 

 そしてさっきからずっとウルリカだけキノコを発見している。

 俺はキノコっぽく盛り上がっている雪の塊をいじってるだけのおじさんと化していた。

 

 ……なにか、なにか役に立たなければ……自分から誘った手前、ただの雪いじりおじさんで終わるわけにはいかねえよ……。

 

「あっ! ウルリカ見ろこれ、別のキノコあったぞ!」

「えー……っと、それなんだろう……」

「知ってる?」

 

 木の根元にぽつんと生えていた茶色い無個性なキノコを見て、ウルリカは首を捻った。

 傘の裏側を確認してみたり、表面を爪で引っ掻いてみたり……そうして色々調べるうちに、納得したのかウルリカは頷いた。

 

「うん、毒だねー。ダストルームかなー」

「毒かよ!」

「引っ掻くと紫色になるから、多分ねー。けど、毒は毒で調合で使えるかもしれないし、持って帰るよ。ナスターシャさんに色々質問しなきゃ」

「勉強熱心だなぁ……」

「えへへ、でしょー?」

 

 もはやウルリカは毒でも食用でもなんでも採取するってことか。だったら俺も適当なキノコを見つけまくれば良いな。

 いやでもできれば食用キノコを見つけてぇわ。

 

 

 

「これは違う、これも毒、向こうに生えているのは……」

「おっ、向こうのは……見間違いか。ただの綺麗な白い花だった……」

「あ! 私ジェリールームみっけ!」

「ぐっ……またウルリカが見つけたか……! ふざけんな、そんな白いとこばっか探してらんねえぞ……!」

 

 二時間ほど探し続けて、キノコは幾つか集まった。

 ジェリールームもほどほどに。俺も小さいのをなんとか一個見つけられたが、ウルリカはその十倍は見つけている。圧倒的なスコア差だぜ……。

 

「モングレルさん観察眼が足りてないなー……ざこ♡」

「このガキ……! いや足りてないのは認めるしかねえけどさ、土のとこで普通のキノコ探してるとどうしても雪の上とか見なくなっちゃうんだよこれ」

「あー、ちょっとわかる」

 

 やっぱりキノコ狩りは冬にやるもんじゃないのだろうか……。

 秋だったらもっと生えているし、そういう時にしっかり選別して採取しておくのがベストなんだろうけども……くそぉ、まだだ、まだどこかにキノコが……。

 

 ……ん!?

 

「この朽木……空洞になった中で、何かあるぞ!?」

「え、なにそれ」

 

 その枯れ木が目についたのは偶然だった。立ち枯れてガサガサになった折れた樹木……。その空洞の内部に、何か大きなシルエットが見えたのである。

 横から見ただけではわからない、上から空洞を見下ろして初めて発見できる……そんな場所に、奴は居た。

 

「なんか……なんか名前知らないけどでっかいキノコ入手だぜ!」

「うわ、すっご……ナニそれ……」

 

 空洞にあったものを根本から千切って取り出してみると……それは、二十センチ以上はあろう長さの茶褐色のキノコであった。傘は半開きの蕾のような状態で、柄の部分はバキバキに太く、手首くらいある。傘が開いたら一体どれほどの直径になるのだろうか。

 

「どうだ見てみろウルリカ! わかるかこいつが!?」

「な、なにこれぇ、大きすぎでしょ……ね、ねえモングレルさん、ちょっとこれ触らせて……?」

「おう、しっかり確認してくれ」

 

 ウルリカは謎の巨大キノコを恭しく手に取って、隅々までじっと眺めた。

 時々半開きになった傘を指で捲ってみたり、柄の部分に軽く爪を立てたりして……ゴクリと喉を鳴らした。

 

「これ……レッドムーンルームだと思う……」

「おお! 高級キノコじゃねえか!」

 

 レッドムーンルームは俺でも知っている。薄暗い環境でしか育たないお高いキノコだ。味は良く、スープでなら俺も飲んだことがある。

 まさに今の俺が欲しいタイプのキノコだ……!

 

「すっごい……こんなサイズ見るの、私初めて……形も綺麗だし……美味しそう……」

「どうだウルリカ、わかったか。これがベテランギルドマンの実力ってもんよ……もう雑魚なんて言わせねえぞ!」

「ぐっ……こ、こんなに大きいの、勝てるわけないじゃん……!」

 

 やれやれ、生意気な後輩をまた一人わからせちまったか……。

 

「……じゃあ量も質も良いのが集まったし、そろそろ街に戻るか。ウルリカ、帰ったらお前にも旨いキノコ料理奢ってやるぞ!」

「え、ほんと!? やったー! 美味しいの作ってね!」

「当然よ……旨いもの食うためにわざわざ冬の森を歩いてたんだからな……」

 

 さて、レゴールに戻って飯を作るか。

 旨味の強い料理が待ってるぜ……。

 




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