バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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和風っぽい旨味のスープ

 

 大量のキノコを持ってレゴールへと帰ってきた。袋の中には各種キノコがゴロゴロしているし、それなりの重さも感じるのだが、こいつら全てを食ったところで摂取カロリーはたかが知れているのが悲しいところだ。まぁ、食料の豊富なレゴールではカロリーよりも味の方が重要かもしれない。俺にとっても味のほうが重要だ。味が全てだ。味は全てに優先する……。

 そんなわけで、久々に屋外調理場でメシを作るとしよう。

 

「モングレルさんがキノコを食べたいのは聞いたけどさー。結局どう料理するんだっけ?」

「スープだな。味付けは塩だぞ」

「あれ意外。いつももうちょっと手の込んだもの作るのに」

「今日の俺はキノコの旨味に殴り倒されたい気分なんだ。だから他の味付けはなるべく排除して、じっくり旨味を取ったキノコのスープを作る。……まぁ、それだけだと腹は膨れないからな。パンくらいは用意しておくか」

「お肉とか入れない?」

「入れたいなら良いぞ。鶏肉くらいなら良いんじゃないか」

 

 そういうわけで、一旦各々買出しに。

 メリルさんのパン屋で味も素っ気もない硬いパンを二本ほど購入した。

 鶏肉は近くの市場では売っていなかったのだが、ウルリカがクランハウスの氷室に保存してあった肉を持ってきてくれた。ありがたいことである。

 

「レッドムーンルームがあるって話したら、ライナも食べたいってさー」

「ゴチっス」

 

 そして食う人数が一人増えた。おいおい。俺とウルリカが頑張って集めたキノコだぞ。ライナといえども、食う時だけ参上ってのはどうなんだ。

 

「ライナお前な。こういう鍋はな、狩りに参加した奴に振る舞われるもんなんだぜ」

「最後のキノコがなかったらモングレルさんほとんどゼロだったじゃん……」

「あ、この鳥の肉私が獲ってきたやつっスよ」

「マジか、だったら良し!」

「わぁい」

「ライナはこまめに獲ってくるから偉いねー。これなんの肉だっけ?」

「アッシュバードっス。厩舎に住み着いてた奴を仕留めたんスよ」

「ああ、これアッシュバードか。食ったことねえや」

 

 アッシュバードは家畜の餌をついばんだり糞で汚したりする迷惑な小鳥だ。

 サイズ感はハトよりも少し小さいくらい。食えることは知っていたが、美味いと聞いたことはない。

 まぁ、キノコの旨味を邪魔するほどの個性もないならむしろ好都合かもしれん。その方が純粋な旨味を楽しめるからな。

 

「とりあえず鍋に水を張って、適当に切ったキノコをぶち込んでいくぞ」

「わぁ、これがレッドムーンルームっスかぁ。他にも色々なキノコがあるんスねぇ」

「あ、そっちのは調合で使う毒キノコだから触っちゃ駄目だよー?」

「ヒエッ」

 

 キノコ相手に面白リアクションを取っているライナはさておき、鍋に水を入れて最低限の準備は完了だ。

 これからこの水が全て旨味で染まることを思うとテンションが上がってくるぜ……。

 

「パッと見た感じ、よくあるスープの作り方っスね。……おー、ジェリールームいっぱいあるっス。美味しそう」

「くんくん……すぅー……はぁあ……このキノコ……大きさもだけど、匂いも最高……ねぇモングレルさん、これどうやって切る?」

「それなんだよな……レッドムーンルームもここまでデカいとセオリーが通じないっつーか。まぁ、口に入る程度のサイズにカットしていけばいいだろ。野菜と同じようにやっていけば良いんじゃないか。傘はケーキを切り分ける感じで」

「ケーキを切り分けるなんて例え方初めて聞いたっス」

 

 ちょっと大きすぎるエリンギを切るような感じにレッドムーンルームをカットする。キノコは素直に切れるから楽でいいぜ。物によってはそもそも切らずに千切ったっていいんだけどな。

 

「あとは適当に材料と塩入れて……待つ!」

「簡単っス。これなら私でも作れそうっスね」

「安い食堂とか宿屋の飯なんかはこんなもんだしな。けど、今回は美味い高級キノコが入ってるんだ。質素な作り方だが、味は期待できるぞ」

 

 とはいえ、キノコの味を引き出すためにしばらくは放置だ。

 じっくりコトコト煮込まなければならない……。

 

「けどキノコなんて危ないもの食べるんスね、モングレル先輩」

「俺か? 俺は美味かったらなんだって食うぞ」

「いや、なんかこういう毒のありそうなものはそこまで食べないイメージあったんで……」

「あーちょっとわかる」

 

 二人してうんうん頷いてるけど本人である俺が一番ピンときてないやつか?

 

「そんなこと言ってもな……毒っていうなら酒だって毒みたいなもんだろ」

「えー! 酒は身体に良いっスよ! ほぼ薬っス!」

「……私はどっちかというとモングレルさんの方に賛成かなー。ライナは飲み過ぎ」

「そうだぞライナ。シルバーランクになって稼げるようになったからって、酒ばっか買って飲んでるんじゃないだろうな?」

「いや私のことなんだと思ってるんスか! そこまでは……あんまり……使ってないっス!」

 

 本当かぁ? ……まぁこの様子だとライナも“アルテミス”のお節介な面々から言われてるだろうし、あえて俺から言ってやることでもないか。

 そもそも俺より酒に強い奴に身体に悪いだの言っても説得力はないしな……。

 

「……よし、そろそろ鍋も良い感じだろ。どれどれ……うおっ、すげぇ匂い」

「おー……蓋開けたらキノコのこう、独特な匂いがしてきたっス」

「うわ、くっさぁ……けどこれ、結構クセになるかも……」

 

 今回のスープはキノコが主役なので、一応肉と根菜もちょっと入っているが、ごちゃごちゃするほどは入れていない。だからこの複雑な匂いもキノコが醸し出しているものなのは間違いないが……やっぱ独特だ。香りだけなら舞茸っぽい感じがする。

 

「いい匂いも凝集されるとこんな匂いなのかもな。よし、じゃあ早速飲んでみるか……塩足りなかったら後で足していくからな」

「あざーっス」

「どれどれ、どんな味がするのかなー……」

 

 三人揃ってスープをよそい、まずは一口。ゴクリ……。

 

「わぁ……匂いのクセは結構強いっスけど、それ以上に濃厚な味がして美味しいっス!」

「美味しいー……こう、味のね、濃さが……うん、良いよこれ!」

「……」

 

 ゴクリゴクリ……ゴクリ……。

 

「なんかモングレル先輩めっちゃ無言で飲んでるっス」

「……お気に入りなのは伝わるねー」

「っスね。あ、根菜も味が沁みててうまぁ」

「ほんとだー」

 

 キノコ……お前は素晴らしい……。肉や魚で出しても満足することのなかった旨味成分が、なぜだろうか。キノコからはグッと出てくるというか……。

 美味いぜ……日本には絶対にいるはずのないキノコなのに和風出汁っぽく感じるのも良いな……ああ、今度昆布出汁と一緒に合わせてみてぇなぁ……。

 

「ふぅー……やっぱ人生の半分はキノコだな……」

「前モングレル先輩の人生の半分がエビだって聞いたんスけど」

「じゃあもう人間じゃなくない?」

「エビキノコ……良いな。心躍る響きだ……アヒージョにしたい……」

「……いつになくモングレル先輩が感じ入ってるっス」

「うーん、まぁ確かに美味しいスープだけど……もうちょっとお肉ある方が好みかなー。三人でアッシュバード一羽は少なかったかもねー」

「アッシュバードを狙い撃つのは大変なんスよ……」

「小さいし、いる場所も場所だもんねー……」

 

 おでんに入っている大根が輪切れ一つだけで驚くほど高価だが、大根を食わずしておでんは成らない……それが俺の持論だ。

 味のよく染みた根菜は、それだけで美味い。このスープに入っているラディッシュも、普段はカチカチの固くて繊維質な厄介野郎ではあるが、旨味がしみしみになっているとこう、一気に素晴らしいものに変わってくるな……。

 そしてコリコリしたジェリールームの食感もまた楽しい……。ブヨッとした肉厚の傘が特に素晴らしい。中華スープとかでも合いそうな食感だ。

 

 ……今が冬ってのも良かったな。冬に飲む温かなスープはそれだけで特別に美味い。

 

「だから、“照星(ロックオン)”は無風の場所ならわざとバイタルを外したってさぁー」

「いやースキルがあってもさすがにそこまで冒険するのはどうなんスかねぇ……難しいっスよぉ……」

 

 ……そう、束の間意識がグルメ作品の空間に送られる程度にはすげぇ美味いと俺は思っているんだが……何故か二人の反応は“確かに美味いけど……”って感じがするな。

 

 まぁこのあたりは、勝手に和風っぽい出汁の雰囲気を感じ取っている俺が温度差を作っているだけなんだろう。

 ……感涙一歩手前くらいには美味いんだけどなぁ。

 

「乾燥キノコもたまに市場にあるらしいんだよな……今度はそれ買ってみるか……」

「あーやめといたほうが良いよー? ああいうの時々毒入ってたりするからさー」

「らしいっスね。毒が入ってるかもしれないって考えたら、楽しく食事はできないっス」

 

 ……やっぱり異世界のキノコ事情は厳しいぜ。




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