バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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戦力の過剰投入

 

 今回のバロアの森での大木運搬任務は、相応の大所帯で行われる。

 

 まず、総監督役としてブリジット。お貴族様の登場だ。この時点で何かがおかしいがまぁひとまずスルーしておこう。

 次に現地までの道案内兼専門技術者として、ドワーフっぽい小さい木こりおじさんのヴィルヘルム。これはわかる。林業の専門家がいてくれるのは頼もしいからな。

 そして来賓ポジションとして外交官のアーレントさん。これはもうよくわからん。なんで来賓が林業に来るんだ。貴族街で筋トレしててくれ。

 あとは、レゴール領兵士が十五人。みんな装備は軽めで、だからこそ屈強な肉体がよく見える。どうやら力自慢を集めたようだ。彼らが今回の大木運びの主力メンバーだろう。

 あとはギルドマンが八人。俺、ディックバルト、アレクトラ、ルラルテ、マシュバル、ロレンツォ、ゴリリアーナ、イーダだ。錚々たる面々に見えるだろ。けど兵士達の方が普通に強かったりするんだぜ、これ。まぁ俺は最強だから例外だけどな。

 

 メンバー合計、二十六人である。クッソ大所帯だ。どんだけデカい大木を運ぶつもりだよ……。

 

 

 

「いざ出発! バロアの森へ!」

 

 ブリジットが剣を掲げて宣言すると、東門の城壁に控えていたらしい音楽隊が一斉に楽器を鳴らした。

 ラッパと太鼓。まるで出陣する兵士達を見送るかのように大げさな出発であった。……いやマジで大丈夫なのこれ? 本当に大丈夫? 別の仲悪い領地の農村を襲いに行くとかじゃないよね? 俺嫌だよそういう任務は……。

 

「いってらっしゃーい!」

「お、大木運びか! 頑張れよー!」

「良い材木を頼んだぞーっ!」

 

 ゆっくりと動き出す馬車達を押すように、何故か人々の声援を受けている。俺達ギルドマンは事情がわからず、呆気に取られていた。……いや。半分くらいはよくわかってないけど声援に気を良くして手を振っている。気楽なもんだなオイ。

 

 馬車は計三台に振り分けられ、俺達は一番後ろの馬車に乗せられた。これは十人が乗れる馬車のはずだが、屈強な男連中が乗っているせいでギュウギュウだ。定員に達していないからって兵士の方から二人ほどおまけで乗せられたせいでかなり狭い。だがこの場合、どちらかといえばギルドマンの馬車に乗せられた二人の兵士が可哀想と言うべきだろうか……。

 

「大木を運んでくるだけで大金が貰えるなんて、ボロい任務もあったもんだぜ。ヘッヘッヘ……」

「こら、ルラルテ。下品な笑い方するんじゃないよ。今回はお貴族様が同行している任務なんだ。変な軽口言ったら承知しないからね!」

「えぇ……アレクトラさん……それ俺に言うの……? もっと、こう……」

「――馬車の振動が、実に心地良い……――」

「……団長には常日頃から言い聞かせてるから良いんだよ……」

 

 “収穫の剣”は本当にどこにいてもいつも通りだな。安心感があるわ……業務上で同じくらいの不安もあるが。

 

「お久しぶりです、マシュバルさん」

「合同訓練以来でしょうか。兵団に入ってからご無沙汰で……」

「いやいや、君たちはもう立派なレゴール領兵士だろう。そう私に謙るものではない」

「それでもお世話になったのは事実ですから。こんな任務ですが、ご一緒できて光栄です」

「……そうか。私も久々に共に働けて嬉しいよ」

 

 どうやら“大地の盾”のマシュバルさんは兵士の二人と知り合いらしい。

 軍との繋がりが強いのは知ってたが、兵士達から尊敬されるほどだとは思わなかったな。

 

「……それにしても、なんだってこんなに大人数で材木を取りに行かなきゃいけないのかしら。お貴族様も兵士も大勢だし……新参の私でも、大げさだなって思っちゃうわ。アレクトラさん、実際のとここの任務ってなんなの?」

「アタシらもイーダと一緒だよ。よくわかってないんだ。……この任務、結局何なの? そこの兵士さんらは、何か知ってる?」

 

 アレクトラに水を向けられると、二人の兵士は顔を見合わせた。

 

「知らなかったのか。いや、後で森に着いたら聞かされることだったのかもしれないな。今回の材木は、レゴール伯爵家の調度品として加工されるんだよ」

「伯爵家! ほぉー、そりゃ大仕事だ。余計ヘマできないねぇ」

「それも普通の調度品じゃない。今年生まれる伯爵家の子のための調度品らしい」

「えっ!? ご懐妊!?」

 

 思わず俺も声が出てしまった。マジかよ、伯爵夫人おめでただったのか。ていうか本当に家具だったんだ……疑ってごめん、ジェルトナさん……。

 ギルドマンの皆も初耳だったらしく、それぞれ驚いていた。世継ぎだけが心配な伯爵様だったからな。これはかなりデカいニュースだぞ。……ええと、秋頃に伯爵夫人のステイシーさんが来たわけだから……いや、逆算するのはやめておこう。やめておくが、今は妊娠何ヶ月なんだ……? 出産予定は何月頃になるんだ……。

 

「じ、実は……私は、前からそれを聞いていました。はい……」

「――む、ゴリリアーナは知っていたか」

「ほう、そういえばゴリリアーナは“アルテミス”として貴族街の方に行くことも多かったな。……しかし、伯爵夫人がご懐妊とは。これは慶事だな……なるほど、記念の調度品。確かに良いものだ」

「ステイシー様は……い、今では屋内で安静にされています。ですが、元気を持て余しているようでして……今回の任務にも、同行したがっていたくらい、なんですよね……」

「身重でそれは無茶すぎる……」

 

 伯爵夫人アグレッシブ過ぎだろ。頼むからもう数ヶ月ほどは大人しくしといてくれ……。

 

 しかしなるほど、大体わかった。

 聞いた限りでは、今回の任務は伯爵夫人のご懐妊を広く知らしめるためのデモンストレーションみたいなところがあるようだ。

 アーレントさんのようなサングレール人を含む様々な人種を交えてバロアの大木を運び入れ、レゴール伯爵領は安泰であると喧伝する。そのための任務なのだ。

 

 そして兵士さんらが言うには、俺等が運ぶ大木は既に伐採済みで横倒しになっているらしい。既にヴィルヘルムらの手によって切り倒されているものを、マジでただ運ぶだけなのである。

 なんなら俺らが街へ運び込むその材木もかなり長期間の乾燥が必要だそうで、生まれてくる伯爵のお子さんの調度品に使われるのは既に乾燥済みの同じくらいデカい材木のストックを使うのだとか。……まぁ、本当にデモンストレーションって感じだな、これは……。

 

「……はぁ。そういうことか……俺等は見世物か……」

 

 俺の隣で“報復の棘”のロレンツォが呆れたように項垂れている。

 ま、気持ちはわからないでもないけどな。特に俺らが金銭面で割りを食っているわけでもなし、めでたい行事ではあるんだから、良いんじゃねえのかな。神輿を担ぐような感覚で祝ってもよ。

 

 

 

「これよりバロアの森へ入り、伐採済みのバロアの大木を目指し行軍する! 先導はこちらの木こり、ヴィルヘルム殿が行う! くれぐれも森の中ではぐれぬよう、しっかりついてくるように!」

 

 バロアの森の入口に到着した俺等は、ちょっとテンション高めなブリジットの号令で行軍を開始した。こう規律立った雰囲気で活動することなんてほとんどないから、徴兵を思い出すぜ。まあ、俺の徴兵はほとんど兵站部隊なんだけど。

 

「魔物と遭遇した場合、基本的にはギルドマンが対処に出るのでそのつもりで」

「――うむ、了解した――」

「よろしい」

 

 道中湧いて出た魔物退治は俺達の役目のようだ。特に異論はない。向こうとしても俺達を盾に使うようなつもりではないのだろう。単に俺らギルドマンの方が魔物に慣れているから出されるだけだ。それにこのメンバーの戦闘力は超オーバースペックである。今ならハーベストマンティスが相手でも普通に勝てるんじゃないだろうか……うん、勝てるなこれ。

 

 ……おや、先頭を歩くヴィルヘルムが俺の方に振り返って軽く手を振っていた。

 あいつは道案内だから一番前だ。俺と少し話したかったのかもしれないが、残念だな。さすがにお貴族様がいるようなポジションまで上がって旧友との雑談に興じるのはしんどいわ。休憩した時にでも話そうぜ……。

 

「いやー、兵士と一緒にバロアの森を進んでいくなんて、新鮮だな! 無敵って感じだ!」

「ルラルテもそう思うか。私もだよ。やはりレゴール兵は心強いものだ」

「な、何が出てきても平気そう、ですよね……!」

 

 確かに前の方でガチャガチャと鎧を鳴らしながら歩く兵士を見ていると、かなりの頼もしさを感じる。兵士は十五人ほどいるが、あれが全員アレックスと同じかそれ以上の実力の持ち主なんだからな。中にはディックバルトやマシュバルさんより強い奴も混じっている。そう、正規兵はファンタジーの噛ませ犬なんかじゃねえんだ……。こうして森を歩いているだけでもきっちり二列になっているし、バラバラに歩いている俺等とは練度が違うぜ。

 

「……モングレル。先程兵士から聞いた話なんだが」

「ん? なんだよロレンツォ。昼飯か?」

「知らねえよそれは。……大木を大人数で担ぐ際、担ぎ手の武器を預かる役が必要になるらしいんだが……ギルドマンはギルドマンで、俺等の中から一人を武器運び役として決めて欲しいんだそうだ」

「あー、なるほどね」

 

 大木を頑張って運ぶわけだから、そりゃもう運ぶ最中は重い武装など持っていられず、いっぱいいっぱいになるのは想像に難くない。

 なので、皆の武器を預かる奴が必要になると。確かにそうだな。

 

「お前の馬鹿みたいな力は材木運びでも頼りになるだろうが、武器運びも良いんじゃないか。全員分ともなると相当量になるし、俺の剣は扱いの下手な奴に預けたくはない。ルラルテに預けるとどこかへ吹っ飛ばされそうだ」

「俺にみんなの武器を運べってか。良いんじゃないか、それで。俺だけギルドマンでブロンズだしな。その方が収まりは良いだろ」

「すまんな。まあ、材木の場所に到着したらの話だ。今は……」

 

 森の左側。遠くの茂みから不自然な葉音が聞こえる。俺達ギルドマンは兵士達よりも先にその音に反応し、それぞれが武器に手をかけた。

 

「今に相応しい仕事でもするとしよう」

「痩せたクレイジーボアが一体、他は無しか。おーいマシュバルさん、お願い」

「左手側に魔物発見! クレイジーボア一体! “大地”、いや、ギルドマン部隊は戦闘態勢へ! 兵士諸君は周辺を警戒されたし!」

 

 ギルドマンを代表し、マシュバルさんが指示を出す。魔物が出たら俺らの仕事、というにはちょっと軍隊式っぽい色が強めだが、まぁこの方が格好良いか。

 

「うむ。ギルドマン諸君、露払いは任せた!」

 

 まぁ……さんざん格好つけといてなんだけど、弱めのクレイジーボアが一体だけなので瞬殺である。

 特に内容は語る必要もないだろう。昼飯の足しが出来たってだけだ。

 

 




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