バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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柔らかな猫に湖畔

 

 ベースに戻ってくると、レオがカリンバの練習をしており、ウルリカは小さな木製の器をひっくり返して即席のドラムにしてリズムを取っていた。

 なんだよバンドでも組むのか? バンド組むなら俺も呼んでくれよ……ギターボーカルなら完璧だからな……。

 

「私達はちょっと舟に乗って釣りと狩りを試してくるっス」

「新しい獲物が捕れると良いわね。私達は、そうね。せっかくだし貰った山菜を使って料理を作ってみようかしら」

「お手伝いします!」

「あら、助かるわ。じゃあ色々試しながら作っていきましょう」

 

 そうしてシーナやモモは即席の燻製器のようなものを作ってもくもくと何かを燻し始めた。

 創作料理の好きそうな二人が組んで何ができるのか、気になるが不安もある。どうか食えるものではあってくれ……。ベタな炭の塊とか紫色の謎ペーストになることはないだろうが……。

 

 

 

「それじゃあ早速……装着っス」

 

 釣り竿やら何やら色々準備を整え、再び出港。

 そこからしばらくして、ライナは猫耳を装着した。……改めて見るとシュールな光景だわ。せめて陸地でやるべきだわ。

 

「実際これ伏せた状態だったら耳しか見えないから、気配を誤魔化せたりできないスかねぇ」

「狩人目線ではどうだと思うよ」

「絶対効果ないと思うっス」

 

 自分から完全に否定していくやん……。

 

「でも魔物とか動物って、何考えてるのかよくわからない動きをすることもあるんスよね……駄目そうでも一度くらいは試してみてもいいかなーって」

「まぁ確かに、そうだな。予想外の効果があるってパターンも、ありえなくはないからな」

「それに買った以上、まともな使い方を試してみないと……お金がもったいないっス」

「さっさとおしゃれ用品として割り切っちまうのが幸せだと思うぜ……?」

「いやーまだ諦めないっス」

 

 静かに湖の中央に漕ぎ出した舟。波は穏やかで、揺れもほとんどない。

 ここらへんの水底にはフルールクラムがいるらしいと聞くとちょっと物騒な気もするが、そこまで深く沈み込むのにも結構なコツがいる。溺れて沈むにしたって、底につく頃にはもう十分詰みの状態だろう。フルールクラムの脅威を感じるためには結構な工夫が必要になりそうだ。

 

「水の上から狙うのは結構新鮮っス」

 

 舟の中に伏せて弓を構えたり体勢を変えたりするライナは、頭につけた猫耳も相まってゴロゴロと転がって遊ぶ猫を彷彿とさせる。……あざといとか可愛らしいとかの前に、まず狭い舟の中でくるくると体勢を変える器用さがすげぇなと思ってしまう。身体やわらけえな……。

 

「ライナ、あれできるようになったか? パルティアンショット」

「なんスかそれ」

「ほら、結構前に話したことあるだろ。馬に乗ったまま、身を捩って真後ろに射掛けるやつ」

「あー……練習する機会がなくて、全然っスね。できなくはないと思うんスけど。なかなか馬に乗らないし……」

 

 どうやら乗馬しての弓の練習はほとんどやっていないらしい。

 まぁやる必要もないからそんなもんか。弓ならなんだってやるわけもないわな。

 

「ライナは身体が柔らかいからなぁ。何かに活かせんのかなとも思ったんだが」

「柔らかいスかねぇ」

「柔らかいだろ、猫くらい」

「猫はもっと柔らかくないスか?」

 

 よく冗談めかして“猫は液体”とか言われるが、そういう認識はハルペリアの人間たちの間にもあるようだ。

 この国で見る猫はみんな黒猫で、見た目のバリエーションには乏しいが、人々からそこそこ愛されている。ライナも猫を抱き上げたりしたことはあるだろう。

 

「俺は身体が固いから、こんな狭い舟の中じゃそう身動きも取れないが……ライナだったら結構器用に動けるだろ、さっきみたいに」

「こうっスか?」

「お、おおう……やっぱそれだけでも十分すげーよ」

 

 舟の上でゴロゴロ身を捩ったり伏射の体勢を変えたりと、本当に水みたいにドゥルンドゥルン動きやがる……よくよく考えたらこれだけでも十分な特技なんじゃないだろうか。こういう狭い場所で色々なアクションができるだけでも希少技能な気がする。

 

「うーん……褒められるのは嬉しいんスけど……こんな風にゴロゴロできても狩りは上手くならない気がするっス!」

「猫は狩りが上手い生き物なんだけどな……ほれほれ、リードダックの風切羽」

「……なんスかそれ……フシッ、フシッ」

 

 舟の上で仰向けになったライナの前で鳥の羽根を振ってやると、ライナは面倒くさそうな顔をしながら羽根に猫パンチをしてきた。

 遊んでやろうとする人間に渋々付き合う感じはそこそこ歳いってる猫のそれっぽくて逆に完成度高いな……。

 

「まぁでも狭い場所でも自在に動き回れるってのは、色々なところで役立つと思うんだよな……ほーれ、こしょこしょこしょ」

「ゴロゴロゴロ……」

 

 喉をこしょこしょしてやるとゴロゴロ言って満足そうな顔をしている。

 うん。家の狭い場所でも入り込んでネズミとか獲れそうだしな。小柄だからこそできる仕事ってのもあると俺は思うぜ。

 

「……それにしても釣り竿も反応しねーし、水鳥も近くにいねーしで散々だな、この猟は……」

「なーにが駄目だったんスかねぇ……」

「そもそも猫に擬態したところで、魚も鳥も猫は苦手なんじゃねえかって説が出てきたな……」

「ああ……」

 

 まぁ実際のところそういうのとは無関係に駄目だったって可能性が濃厚ではあるんだが。

 上手く自然に擬態できたからってそう簡単に獲れるもんでもないだろうしな。

 

 

 

 せっかく舟を出したので、離れ小島をぐるっと回ってから拠点に戻ることにした。

 あわよくば遠回りしている間に釣り竿に何かヒットすれば……というスケベ心もあるが、こういう時に出すスケベ心は魚はよく見ているものだ。

 あまり期待しすぎないようにするのが良いだろう。

 

「モングレル先輩速いっスね」

「積んでるエンジンがちげぇからな。荷物さえ積載してなきゃスピードも出るってもんよ」

「エンジンてなんスか」

「心臓だよ心臓」

 

 漕ぎ手は俺。ライナは釣り竿を手に遊覧を楽しんでいる。水鳥がいれば即座に射撃に移るつもりではいるだろうが、そんな素振りが全く無いようなので、近くにはいないのだろう。ひょっとすれば離れ小島の向こう側に固まっているかなとも期待していたんだが。

 

「あ、向こうにいるの……昼前に見た別のお客さんじゃないスか」

「おお……あのじいさんばあさんっぽい人たちか」

 

 例のちらっと見えた老人たちは俺達の拠点とは離れ小島を挟んだ反対側の岸辺に拠点を構えたらしく、慎ましいテントが二つあった。

 そして焚き火と……組んだ木に吊るされて丸焼きにされている最中の水鳥の姿が見える。

 

「あー……なんだよ、向こうもめっちゃ水鳥獲ってるじゃねえか……なかなか見つからなかったのはあのせいもありそうだな」

「向こうとこっちで派手に水鳥を焼いてたら、同族は近づこうなんて気持ちは湧かないスね……」

 

 しかも水鳥の丸焼きを作りながらなんか爺さんはリュートを弾き語りしてるし、婆さんの方もなんか横笛っぽいのを吹いている。

 すげぇ湖畔エンジョイしてやがるよあの二人……。

 

「……しょうがねえ。釣りはまだしも弓での狩りはしばらく難しそうだ。戻るか、ライナ」

「それしかないっスね……魚も掛かんないスよ」

「くっそー、ルアーが良くねえのかな。実績はあるんだけどな……アーケルシアで……」

「海の魚が食いつくやつでも同じように釣れるんスかね?」

「目立つ色なら良いと思うんだけどな……ああ、そうだ」

 

 せっかくだしアレだ。さっき遊んだみたいな風切り羽根とか、動物耳のヘアバンドとか色々あることだし。即席のルアーでも作ってみてもいいかもしれない。

 

「拠点に戻ったら毛鉤でも作って試してみるか。それならまた別のアプローチを試せるかもしれん」

「なんスか? その毛鉤って」

「動物の毛とか鳥の羽根をこう、釣り針にぐるぐるーっと巻き付けて固定するだけのシンプルで原始的な疑似餌だよ。だいたい流れのあるところで使うんだけどな」

「はえー……」

 

 針金はあるし釣り針もある。毛や羽根の材料も豊富だから、ちょっと試してみるとしよう。

 




「バスタード・ソードマン」のコミカライズ最新6話が公開されています。
カドコミで掲載されているので、是非御覧ください。ニコニコ漫画はまだ寝てるそうです。


(カドコミ*・∀・)ノシ

(ニコニコメ-∀-).o


2024/4/26に小説版「バスタード・ソードマン」3巻が発売されました。
今回は店舗特典および電子特典があります。

メロブ短編:「シュトルーベで狩りを学ぼう!」
メロブ限定版長編:「シュトルーベでリバーシを作ろう!」
ゲマズ短編:「シュトルーベで魔法を学ぼう!」
電子特典:「シュトルーベで草むしりをしよう!」

いずれもモングレルの過去の話となっております。
気になるエピソードがおありの方は店舗特典などで購入していただけるとちょっと楽しめるかもしれません。
よろしくお願い致します。



書籍版バッソマン第3巻、好評発売中です。
素敵なイラストや時々えっちなビジュアルが盛りだくさんなので、ぜひともこの機会に29万冊ほど手に取っていただけたら幸いです。
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