バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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見てきたからこそわかること

 

 何度かサウナで温まったり湖で冷やしたりしたが、結局俺は整うってやつがわからなかった。霊感とかそういう素養が必要な状態異常だったのかもしれん。俺には整うの才能がなかった。

 対するライナはサウナの良さをしっかりと味わったようで、俺と一緒にあがる頃には大変満足そうな顔をしていた。

 気分良く酒も飲めたし、まぁサウナの奥深さは味わえきれなかったが、俺としてもまぁ大満足だ。

 しかも、風呂上がりには他人が作ってくれた飯までついてくるんだぜ。

 

「あ、おかえりー。もうご飯できてるよー?」

「僕らが頑張って仕上げたから……うん、本当に頑張ってね……」

「ウルリカさんとレオさんのおかげで夕食がより美味しくなりました! 目新しさは少々薄れましたが……」

 

 どうやら調理チームはシーナとモモの創作料理を無難に仕上げてくれたらしい。大手柄だな……。

 

「いやー、思ってたより美味そうな匂いじゃねえか。燻香と、鴨の脂……楽しみだ」

「っス! サウナ楽しんでたらお腹すいてきたっス!」

「うわっ……二人ともお酒臭いよ……? どんだけ飲んできたのさー……」

「そりゃ、飯の前だからちょびっとだけだぜ。なぁ?」

「うっスうっス!」

 

 長い枝がポールのように立てられ、その頂点に光の魔道具が吊るされている。おかげで薄暗くなってきたこのベースでも、快適な明るさで過ごすことができた。どうやらあの魔道具はモモがサリーから借りてきたものらしい。ちらっとナスターシャが零していたが、サリーが光魔法を組み込んだあの魔道具は借りるとなると相当に値が張るものらしい。そう聞くとちょっと気圧されるものもあるが、やっぱり明るいところで食う飯ってのは最高だよ。ありがたい。

 

「あら、私がサウナに入っている間に結構味付けを変えたのね。香草が大分マイルドになってるんじゃないかしら」

「あはは……ごめんね、シーナさん。僕とウルリカで、ちょっとアレンジしちゃったみたいで」

「いえ、良いのよ。これもすごく美味しそうだもの」

「……ほー、こいつは面白い見た目だ」

 

 皿の上に盛り付けられた料理は、タケノコの穂先を使った鴨の肉詰めだった。

 柔らかなタケノコの穂先、そのひだの間に燻製した鴨肉の薄切りを詰めたものらしい。タケノコも鴨肉もそれぞれ味がついているようだ。

 他にもシンプルにタケノコを串焼きにしたものだとか、鴨肉と野菜の炒め物もある。実に豪華だ。

 

「んむんむ……うまっ! 柔らかくて美味しいっス!」

「だな、これはなかなか良いぞ……穂先にハーブの香りがしっかりついてるのもなんだか面白いな。変わり種だがこいつは美味い。酒が進むぜ……」

「あ、私も飲むっス!」

「まだ飲むのー?」

「……はは、本当は香草がもっとぎっしりと詰まってたから、刺激的な味だったんだけどね……無難でちょうどいいところまで落ち着けたよ……」

「鴨肉美味しいですね……! “若木の杖”でもリードダック獲ってくれないかな……」

「どう? ナスターシャ」

「美味い」

「もっと何かないの」

「シーナが私のために作ってくれたものだ。だから、より一層美味い。と、思う」

「……そ。嬉しいわ」

 

 明かりの下、皆で和やかに夕食を楽しむ。

 ……“アルテミス”か。良いパーティだよな。こいつらとの付き合いもなんだかんだ長い。回数も重ねるうちに、お互いのことも少しずつわかるようになってきた。

 この集団の中で過ごしていて、居心地が良いと感じる自分がいる。……まぁ、気心知れた連中と一緒にいるのだ。そりゃ楽しいに決まっている。別に俺は孤高を気取っているわけじゃない。たまーに一人で過ごす時間が欲しいとは思うが、そもそも俺は人と一緒にいるのが好きなタイプだ。だからこうしてワイワイと過ごすのが楽しく感じるのは当然ではある。

 

 でも、だからこそ、これ以上の踏み込みを躊躇ってしまう。

 何か俺の重大な秘密が世間にバレたとして、俺がレゴールを去らなくてはならなくなった時。そんな未来を想像した時、もしも俺が深く入り込むような関係を作っていて……それを手放すことになってしまったとしたら。

 想像するだけでもちょっと……いや、かなり……キツいもんがある。

 

 ……酒の飲み過ぎだな。今更こんなことで悩むような男じゃねえだろ俺は。

 

「……あれ、そういやゴリリアーナさんはどこに?」

「ああ、ゴリリアーナさんは向こうでお魚捌いてるよー。アベイトとか何匹か釣れたからね!」

「おおマジかよ、すげぇな……くっそー、俺今回全然釣れてなかったのにな……」

「ゴリリアーナさん、魚の処理に苦戦してるみたいだね」

 

 湖の近くを見ると、暗い水際でゴリリアーナさんが魚と格闘している姿が見えた。物静かに作業する人だからわからなかったぜ……。

 

「おーいゴリリアーナさん、魚が釣れたんだって?」

「! はい、モングレルさん……! 釣れましたよ、こんなに大きいのが……!」

「おお……? おー、いやデカいな」

 

 タケノコの串焼きを齧りつつゴリリアーナさんの方に歩み寄ってみると、ゴリリアーナさんは釣果を誇るように、珍しくハキハキした声で返事をくれた。

 しかし大柄なゴリリアーナさんが魚を持つと、確かにデカい魚ではあるのだが、ひどく小さく見えてしまう。いや、今回の旅行で最大サイズなんだけどね。不思議だ。

 

「よ、ようやく内臓も取れた……と思うのですが、どうやって調理していこうかな、と……思っていまして……」

「ゴリリアーナさん、何か作るのかい?」

「い、いえ、私はあまり皆さんのように思い浮かばなくて……塩をつけて、焼くくらいしか……」

 

 塩焼きか……まぁ淡水魚ならそれでも十分美味いだろうが……。

 

「だったらその魚、俺が貰って料理しちゃっても良いかい? 」

「! はい、是非……! お、お任せします!」

 

 そんなわけで、俺はゴリリアーナさんから三匹の魚を貰って料理することになった。

 大きめのアベイトが二匹にラストフィッシュが一匹。ラストフィッシュはまぁおまけみたいなもんだな。アベイトをメインに美味く調理していくことにしよう。

 今はタケノコや鴨の料理が出ているが、それだけだと飽きもくるだろうし人数も多いから量の不安もある。ここでもう一品作っといても良いだろう。

 

「ここにある香草とタレ、使わせてもらうな?」

「うん、良いよー。あれ、何か作るんだ?」

「ゴリリアーナさんが釣ってくれた魚でちょっと軽めにな」

 

 鍋の底にゴロンとした石を四個ほど置き、適量の水を入れてから上にアベイトの載った皿を置く。ここで身にしっかりと十字に切れ目を入れておくのがポイントだ。身の上にはローリエや香味野菜。あとは火にかけて蒸しておくだけだ。

 

「あ、モングレル先輩。それあれっスね。蒸し三日月作ってた時と同じやり方っスね」

「おお、なんだライナ。お前も料理に興味が出てきたのか」

「モングレル先輩の作るご飯美味しいっスからね」

 

 ライナが酒の入ったコップを片手に見学に来た。

 そういやライナには屋台で飯を作ろうって時に蒸し餃子を披露してやったっけな。結局屋台では串揚げをやることになったが……こういう野外で調理をする時、蒸し料理ってのは便利なんだよな。

 

「蒸し料理は良いぞ。水がそこそこ汚くても蒸気になっちまえばあまり気にならない。食材の芯まで熱を通して美味く食うには、この蒸すってやり方は効果的だ」

「はえー……ああ、蓋の隙間から蒸気が出てるんスね」

「本当は適度な蒸し加減とかもあるんだけどなぁ……俺も料理人ってわけじゃないから、魚の効果的な蒸し時間やら温度やらなんてのはわかんねえし、どうしても勘になるわ」

「いやいや、こういうことできるだけでも私はすごいと思うっス」

「おいおい……そんなに俺を褒めてもちょっと大きめに切り分けたアベイトしか出てこねーぞ」

「あざーっス」

 

 蒸し上がったホクホクの魚を皿に移し、温めたタレをかける。タレといっても醤油ベースでもなんでもない変わった風味のタレだが、香草が強めに利いているのであっさりした魚料理には結構合いそうな気がする。

 

「……この香草の山、多分ウルリカ先輩たちがいなかったらそのまんまタケノコに入ってたやつっスよね……」

「ファインプレーだよな……こんなたくさん入ってたらエグい香りになってそうだわ」

 

 スパイスやハーブは入れれば良いってもんじゃない。けど創作料理初心者のシーナとモモにはその辺りの加減がわからなかったのだろう……いやでもこの量はさすがに違和感を持ってくれよ。

 けど、これだけあれば十分に魚料理の香り付けに使える。

 蒸した魚に刻んだ香味野菜を散らし、葉物も周りに飾っておく。そして……。

 

「最後にあつーく熱したこの油を上からかけて完成だ」

「あ、これ揚げ物にするんじゃないんスね」

「表面を軽く素揚げにする感じではあるけどな。ほーれ」

「わぁ……!」

 

 ジュワーっと熱い油が魚の表面を焼く音がして、香ばしい香りが辺りに立ち込める。

 清蒸鮮魚(チンジョンシェンユイ)。シンプルだが非常に美味い、魚の蒸し料理だ。

 なぁに、蒸し料理は多少蒸しが長くても大丈夫だ。キッチンタイマーの無い異世界にはもってこいの調理法よ。

 

「ゴリリアーナさんの釣ったアベイトで蒸し魚作ったぞー」

「蒸し魚ですか! モングレルは本当にサウナが好きですね!」

「それ関係あるか……?」

「わっ、美味しそー……これってほじっちゃえばいいのかな? えいっ」

「いい香りがするね。タレも鴨の香りが出てて美味しそうだ……」

「……私の釣った魚が……こ、こんな素敵な料理に……ありがとうございます!」

 

 ちょっとした盲点だったが、こいつらみんなフォークかスプーンがデフォなんだよな。箸じゃないんだ。それだと骨付きの魚はちょっと食いづらかったかもしれない。

 が、食う本人たちはそんな不便さなど全く気にならないようで、切り分けたアベイトの蒸し料理に手を伸ばしていた。

 

「ん……ふっくらしてて、良いわね。これ……」

「ほう……皮目が油で焼けているのか。なるほど……見た目は豪快だが、なかなか上品な仕上がりだな」

 

 フォークやスプーンを使い慣れていると、骨付きの魚料理であっても器用に食えるらしい。地味にすげーな。

 俺はどうしてもこういう料理になると箸になっちまうぜ……。

 

「ラストフィッシュも美味しいっスね。皮がパリパリしてるっス」

「いいなー……ライナのちょっとちょーだい? えいっ」

「あーっ! ウルリカ先輩なに取ってるんスかぁ!」

「こら、行儀悪いよウルリカ!」

「えへへ、代わりに私達の作った鴨肉分けて上げるからー」

 

 大自然のサウナ、美味い鴨肉、美味い魚料理、そして強い酒。

 俺個人の釣果で言うと、“うーん”とならざるを得ないが……それでもやりたかったことをおおよそほとんどクリア出来た。

 気分転換になったかといえば、すげぇなったと思う。

 色々と考えさせられることもあったにはあったが……これから春の仕事に向けて、十分な英気を養えた。

 

 この気分転換の旅行について言い出したのは、そういえばライナだったっけ。

 冬の森で色々あって疲れていた俺に、ライナが提案したのが始まりだった。……俺はライナに、別に何か喋ったわけではなかったんだが。

 

「? なんスか先輩」

「ああ、いや」

 

 それでも俺の小さな変化を見抜けるくらい、普段から俺のことを見てくれている……ってことなのかもしれないな。

 

「最後にもう一杯だけ、ウイスキー飲ませてくれないか?」

「むふっ……しょうがないっスね! はい、一杯だけっスよ! 飲み過ぎはよくないっスから!」

「どの口が言うのよ……貴女もそのへんにしておきなさい」

「えー……っスっス……」

「スは一回!」

「っス!」

 





「バスタード・ソードマン」のコミカライズ最新7話(後半)がニコニコ漫画でも公開されました。シーナ登場の回です。是非御覧ください。


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