バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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逆転ロンパ

 

 ザヒア湖旅行が終わり、レゴールへと戻る。

 帰りの道中は特に問題もなく、立ち寄ったドライデンで治安の悪さを実感するようなイベントに見舞われることもなかった。行きで体験したんでね。往復両方でやられても飽きるからな。

 “アルテミス”からすると今回の旅行ではあまり水鳥を撃てなかったからか消化不良なとこがあったらしいが、俺個人としてはサウナもできたし良いかなって感じではある。

 

 ……いや、つっても俺も釣果が微妙だったな。せっかく遠出したってのに……。

 まぁいいさ。釣りに関してはレゴールの近場で取り返してやるからよ……。

 

「ボストーク街道を走っていると、レゴールに帰ってきたって感じがするね」

「ねー。帰ったらクランハウスでゆっくりしたいなー」

「っスねぇ」

 

 街道なんて大抵どこを走っていても似たような景色が続くのだが、地元に戻ってくると馴染みのある目印が見えてくるので、なんとなく既にホーム感がある。

 空の台車を曳いて歩くアイアンランクのギルドマンとすれ違っていると、北門に到着する前に既に戻ってきたという安堵を感じてしまう。

 俺も帰ったら今日は土産配って休んでおくか……。

 

 

 

「ああモモさん、おかえりなさい」

「ヴァンダールさん、ただいま戻りました! わざわざ私をお迎えしてくださったんですか!」

 

 馬車駅に到着すると、何故かヴァンダールがいた。

 一応予定通りの帰宅になったとはいえ、この世界で馬車の到着を待つってのは結構博打というか、待ちぼうける可能性の高い行いなんだが……?

 

「ええお迎えと言いますかね……落ち着いて聞いて下さい」

「えっ?」

「サリー団長が今、貴族街で裁判にかけられています」

「ええええっ!?」

 

 ……“マジかよ”とか“嘘だろどうして”よりも先に、俺の頭に浮かんだもの。

 それは、“あいつ……ついにやっちまったか……”という納得であった。

 

 

 

 さすがに知り合いが裁判にかけられているだなんて聞いたら外野の俺達も無視はできず、旅装のままヴァンダールの話を詳しく聞くことにした。

 が、彼の話を聞いていくと、事態は俺が想像するほど悪いわけではないらしかった。

 

「レゴールに滞在している男爵家の一人が、ギルドに照明関係の依頼を出していたようでして。そこで、サリー団長が対応していたのですが……光魔法の腕を見込まれ、かなりしつこく引き抜きされそうになったようで」

 

 貴族は夜でも活動するため、屋内の照明に獣油ランプや蝋燭などを使うこともあるのだが、余裕のあるところは光魔法に頼ることもある。

 サリーほどの光魔法の使い手ともなると、ちょっと広い部屋であっても一晩ずっと照らし続けておくだけの照明を放つことができるため、貴族街からはかなり人気があるのだとか。

 実際、俺もサリーの照明を何度か見たことがあるが、電灯を点けたように明るく感じた。蝋燭を大量に使ったシャンデリアでも再現できない光量は、金持ちにとっては非常に魅力的に映ることだろう。特に夜間の書類仕事が捗るのは、ただの贅沢とは言えない実務的な価値があるはずだ。

 そんなサリーを独占し、光を安価で我が物にしようとしたお貴族様がいたというわけだが……。

 

「母さんは大丈夫なんですか……?」

「それは、きっと問題ないかと。問題の男爵家も言いがかりに近い無理筋で裁判沙汰を起こしたようでして、今は他の貴族家からの擁護も続々と出ています。ギルドも動いていますから、針の筵は男爵家の方らしいですよ。安心してください、モモさん」

「……よかったぁ」

 

 いくらお貴族様とはいえ、そう簡単に一人の人間を好き勝手にやり込めるわけではないらしい。

 というより、ゴールドランクで他の貴族連中からも仕事を請け負っているサリーには味方となってくれる存在も多いらしく、ふっかけてきた男爵家は肩身が狭くなっているところなのだそうな。

 最初こそ威勢よくいちゃもんをつけていたが、今は小声でたじたじになっているといったところだろうか。傍聴席があるならエール片手に見学したいところだぜ……。

 

「ねえナスターシャ。確かサリーさんって勲章持ちだったわよね」

「ああ。貴族とはいえ、おいそれと手は出せない人だ。それを抜きにしても、レゴール伯爵が許すまい。彼女は定期的に灯火任務を請けているはずだぞ」

「はい、伯爵も今回の件については動いているそうでして。形式上裁判が続いてはいますが、それもすぐに終わるかと」

 

 つまり、もうほとんど勝訴は確定しているようなものなのだそうだ。

 いやぁ良かった良かった……下手したらお貴族様を公然と侮辱しかねない奴だから、無罪そうで良かったわ。

 ていうかサリーってなんか勲章みたいなものも持ってるのか。そういうのも有利に働くんだな……知らない世界だわ……。

 

「はー……力抜けた……」

 

 一通り話を聞いて、モモは安心しきったようにその場に座り込んでしまった。

 旅行で疲れきった身体に母親のこんな話だもんな。そりゃ座り込みもするわ。

 

「良かったっスね、モモちゃん」

「びっくりしたねー……でもなんともなさそうで本当に良かったねぇ」

「か、帰ってゆっくり休んだほうが良いですよ、モモさん」

「はい……そうします……」

 

 レゴール到着早々、どっと疲れの増した一幕であった。

 

 

 

 さて、ギルドで帰り道の馬車の護衛任務の報告をしたら後は解散だ。

 ここからは再びソロのギルドマンとしての日々が始まるのだが……。

 

「モングレルよォ……」

 

 とりあえず久々にギルドでエールを一杯だけ……と思っていたところに、来ちまったか……ガラの悪い冒険者のウザ絡みが……。

 相変わらず人相の悪いチャックが俺のテーブルにまで寄ってきやがった。

 

「てめェ~……“アルテミス”の子たちと旅行とは相変わらず恐れ入るぜェ~……なァ!?」

「チャック……久々に顔を合わせといて随分なご挨拶じゃねえかよ……あ? お土産いらねえのか?」

「あんだとォ!? おかえり」

「ただいま。あ、これドライデンで買った小樽入りチーズね」

「おォまじかよありがとう……え、これ一個全部もらっちゃっていいの?」

「“収穫の剣”のみんなで分けといて」

「そうするわ……じゃなくてよォ~!」

 

 なんだよ、もういいだろチーズあげたんだから……。

 

「なんでモングレルばっかり“アルテミス”と一緒に遊びに行くんだよ~!」

「知らねえよ縁があるんだよこういうのは……」

「俺も女の子と一緒に旅行行きてえよォ~!」

 

 行きたい気持ちは伝わってきたけどなチャック、お前の本命っぽいエレナは受付で白い目で見てるぞ。少なくともそういうデリカシーの積み重ねが大事だと俺は思うぜ……。

 

「あのなチャック……よく考えてもみろよ?」

「あァ!?」

「“アルテミス”と一緒に行ったって言ってもな……俺は別に女ばっかりのところについて行ったわけじゃないんだぜ?」

「すぐわかる嘘つくなよ~!」

「嘘じゃねえって。だってよ、今回一緒に行った“アルテミス”のメンバーで女っていうと、シーナとナスターシャとライナとゴリリアーナさんの四人だぞ?」

「……おう」

「そんで、男はウルリカとレオ。そんで俺。これで三人だ。女四で男三。別に俺はハーレム状態で良い思いしてきたってわけじゃないんだぜ?」

 

 一緒についてきたモモはさらっとカウントしないものとする。

 

「お、おお……確かに……? なるほど……?」

「つまりよ、俺はお前から羨ましがられるほどの旅行に行ったってわけじゃないんだぜ?」

「そうかな……? そうかも……?」

「しかもだな……俺はこの肌寒い時期に、ザヒア湖の冷たい水に入って身体を洗ったりなんかもしたんだぞ? お前はこれが羨ましいと思うのか? 違うだろ?」

「逆だったかもしれねェ……」

「だろ? そういうことなんだよ。俺は、そんなに良い思いをしてないってことなんだ」

 

 ぐいっとエールを飲み干して一息。よし、論破完了。フリーズしているチャックは置いといて、今日は他に土産を渡す相手もいないし帰っておくか。あばよ!

 

「……あ~! でもやっぱり普通に結構羨ましい気がする~!」

 

 帰り際にチャックの鳴き声を聞きながら、俺は宿屋を目指して歩いていくのだった。

 

 






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