バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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野薔薇の種蒔き

 

 春の精霊祭で結構なイベントが予約されたが、平凡なブロンズ3ギルドマンのモングレルとしてやっていくことは変わらない。それまでの間はただただひたすら、これまでと同じような日々を過ごしていくばかりである。

 一方サリー率いる“若木の杖”は思いついたように王都行きの任務を受注し、さっさと遠征していった。ケイオス卿の所在を撹乱するためだけの遠征だ。やってくれたサリーには本当に頭が上がらないぜ……。まぁ元を正せばサリーが発端のバレかけイベントではあるんだけどさ。

 

 そんなわけで、今日も今日とて任務日和だ。

 と、何か良い任務がないかとギルドに顔を出そうとしてみたのだが……。

 

「よお、モングレル」

「……ようバルガー。馬上から失礼ってやつかい?」

「ははは。どうだ、俺のこの馬捌きは」

「コメントに困るクオリティだが……乗れてるは乗れてるって感じか。進歩したじゃねーか」

 

 ギルドの近くで、馬に乗ってパカパカと歩くバルガーに遭遇した。

 軍馬から競走馬になり、そこからも転げ落ちて売りに出された微妙な癖馬……ダブルヒットに乗っての登場である。

 前に会った時は集中力もなく人を舐めたような態度の多かったダブルヒットだったが、今バルガーを乗せている状態ではそこまで……まぁ乗りこなしていると言うには妙にフラついて落ち着きのなさが見えるが、しっかり行きたい方向に舵取りできているようである。どうやら馬肉コースは回避できたようだな……。

 

「バルガー、これから伝令でも届けにいくのかよ?」

「ああ、隣村という名の最前線までちょっくらな」

「責任重大だな。死ぬなよ」

「モングレルもついてくるか? 走って」

「さっさと行ってこいよ、バルガー伝令兵」

「伝令兵! 楽できそうな兵科だな! それなら国に仕えてみるのも悪くねえや!」

 

 そんな感じで笑いながらパカパカと去っていった。

 ……別に伝令兵って楽じゃねえと思うけどなぁ。しかし実際にそんな役職に誘われたとしてもバルガーだったら何かと理由つけて断りそうな気がするな。どうせ口だけなんだあいつは。面倒臭そうなことは絶対にやるわけねえ。

 

「まぁ俺も似たようなもんだけど……さーて、ギルドで楽な任務でも探すか……ワワワ都市清掃~……」

「ローザ団長、これは俺らへの明確な宣戦布告ですよ!」

「おわっ」

 

 ギルドに一歩踏み入ってみると、何故か空気が張り詰めていた。

 酒場にいる面々も少なくはないのに、一部が醸し出す空気に飲まれて黙っている。

 どうやら隅のテーブルにいる“報復の棘”のメンバーたちが苛立っているらしい。……結構珍しいな。

 まぁ俺は関係ないから……すんませんね変なタイミングで来ちゃって……へへへ……あ、俺のことは気にしなくていいんで。ただ任務受けに来ただけなんで……。

 

「……おーいエレナ、何か報酬が多めでレゴール内で完結する楽な任務ってあるかい?」

「モングレルさん……そんなのあるわけないでしょ。というか、今この場の空気それどころじゃないの見てわかるでしょ?」

 

 エレナに空気を読めって言われたらいよいよだな……そんなにやばいのか?

 “報復の棘”は一体どうしちゃったんだよ。殺伐としてはいるが、仲間内で喧嘩するようなパーティーじゃないはずだが。

 

「街中で人が殺されたんですよ。今朝死体が見つかって……」

「……それが“報復の棘”のメンバーだったのか?」

「いえ、他所から来た知らない人。出稼ぎに来た作業者だそうですけど……見つかったその死体に、その、……たくさんの針が刺さっていて」

「……ああ。それでローザが疑われているのか」

 

 ローザは“報復の棘”を率いるゴールド2の女ギルドマンである。

 真っ赤な長髪のレイピア使いといえば、レゴールのギルドマンなら誰もが彼女をイメージするはずだ。

 しかしローザの武器はレイピアだけではなく、棘状の暗器を体中に仕込み隠しているという。俺はローザが直接それで何かを攻撃しているところを見たことはないんだが、ローザにやられた賞金首が全身を針で貫かれた状態で運ばれてくるところは何度も見たことがある。

 そういう特徴的な仕留め方をするものだから、まぁわかりやすいよな。模倣だってしやすいだろう。

 

「もちろんローザさんはやってないですよ。捜査はされましたけど、無実であることは証明されてますからね」

「ローザに恨みを持つ何者かが模倣して殺人を犯したってことか。……といっても、ローザに恨みを持ってる奴なんてごまんといそうだな」

「そうなんですよね……犯人はまだ見つかっておらず、ローザさんに関する嫌な噂だけが広まっています。……誰かがわざと悪い噂を流して、ローザさんを追い詰めようとしているんですよ、きっと」

 

 “報復の棘”は対人討伐をメインとするパーティーだ。犯罪者や賞金首など、人間相手の任務を中心に受けて活動している。

 知恵の働く人間相手は危険だし、恨みも買う。事実、“報復の棘”は何度も無法者の組織からの襲撃に遭ってきた。

 しかしそれと同じ数だけ彼らは報復をしてきたし、力と技によって敵を黙らせている。都市内でのなんでもありのバトルだったら、“報復の棘”のメンバーは下手するとそこらの兵士よりも腕が立つんじゃないだろうか。

 

「“報復の棘”は動かないわ。犯人探しは衛兵の仕事よ」

「ローザ団長! しかし……」

「私達は判明した犯人を追い詰めて、刺し殺すだけ……独断専行も許さないわ。単独で下手に動けば狙われやすくなるもの」

「……俺は、ローザ団長が謂れなき不名誉を被っているのが我慢ならねえんです」

 

 さっきからローザに反発している男は、確かアザムっていったかな。向こうが社交的なタイプじゃないから詳しくは知らないんだよな。

 

「アザム。私は名誉も不名誉もどうでもいい。罪には罰を。裏切り者には報復を。咎人の命を棘で刺し貫ければ、それで良いの。……私達は崇高なものではない。これはただの真鍮の板切れよ」

 

 ゴールドのプレートを指で弾きながら、ローザは鼻で笑う。

 

「衛兵の働きに期待しておきましょう。そうでなくとも、今動くのは愚策。でしょ」

「……ああ、わかった。頭が冷えたよ」

「それは何より。……けど、そうね。他のギルドマンから情報を募るくらいだったらアリじゃないかしら」

 

 ローザが酒場を見回し、怪しく微笑んだ。こいつも美人ではあるんだけどな。雰囲気が怖すぎてモテるとかそういう目で全く見られないんだよな……。

 

「私達が率先して動き回ったのでは向こうの思う壺だけど、他のギルドマンだったら危険も少ないし……何か掴めるかもしれない。情報料として、そうね……総額として、金貨一枚くらいだったら出してもいいかもね」

「おお、金貨……」

「聞いたか今の。情報料で金貨って……」

「“報復の棘”、本気だぜ……」

「殺人なんて危ねえやつなのは間違いないが、それだけの金がもらえるなら……」

 

 おいおい、金貨一枚ってお前、内心滅茶苦茶ブチ切れてるじゃんローザ。

 いやまぁ殺人の濡れ衣着せられかけたらそのくらいしなきゃ収まらないか……。

 

「ローザ団長……!」

「アザム、これはあくまで情報を募るだけ。今はそれで我慢なさい」

「……わかってる。ありがとう、すんません。ローザ団長」

「ロレンツォ、この金貨を受付に持っていって依頼として出してきなさい。それと、屯所に任務概要も伝えてきて」

「俺はこういう役目かよ団長……まあ、良いけどな。情報料の割り振りは俺が勝手に考えて良いか?」

「貴方のセンスに任せるわ」

「言い方が卑怯だぞ……わかった」

 

 殺人の真犯人探し。報酬は最高金貨一枚……良いねぇ、胸が高鳴るぜ。

 これこそあれじゃないのか? 上手く事が運びさえすれば報酬が多めでレゴール内で完結する楽な任務ってやつじゃねえか?

 乗るしかないぜ、このビッグウェーブに……!

 

「悪いなエレナ、やっぱり今日は任務の受注はやめておく。俺らの仲間に冤罪を被せた野郎を突き止めなくちゃならないからな!」

「どうせお金に目が眩んでるだけでしょうに……はいはい、行ってらっしゃい。どうせだったら何か役立つ情報を掴んできてくださいね。ローザさんを悪者にする連中なんて、本当に一秒でも早く捕まってほしいもの」

 

 ……しかしエレナ、お前ギルドマンが好きじゃない割にローザとかそこらへんのバリバリ仕事できる女に対しては甘いとこあるよな。

 その優しさをもうちょっと男に向けてやれないもんかね……?

 






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