バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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大道芸人の卵

 

 今年の精霊祭では新設された劇場を使った催しが色々と行われるらしい。

 音楽と劇を中心に、色々賑やかにやっていくようだ。

 古臭……伝統を重んじる一部の吟遊詩人たちはグチグチ言っているが、楽しみにしている街の人は多い。レゴールでもサングレール系の芸人が増えてきたから、彼らが披露する芸のクオリティは周知のものとなっているのだろう。

 

 レゴールにはいくつか劇場があるが、どれも小さいし古い箱物ばかり。街の規模に対して、既存のものはあまり褒められた設備たちではなかった。

 実際数年前から新しい劇場が建造されていたのだが、最近レゴールにやってきたサングレール出身の技術者に見せたところ、色々とダメ出しを食らったらしい。設計を一部見直して、大きく作り変えることになったそうである。

 レゴール伯爵によって追加予算をぶち込まれた新劇場は瞬く間に完成。レゴール大劇場は既に使われており、“後ろの席までステージからの音や声が聞こえる”と高い評判を誇っているそうだ。

 この新劇場で演るのは、芸に生きる連中にとっては最高の経験になりそうだ。

 

 俺は客としてこのレゴール大劇場を利用したことはない。高いし、劇とかもあんまり興味なかったからな。けど、ギルドマンの仕事として何度かこの大劇場に入ったことはある。なにせ俺は建築資材の運搬をやってたからな。レゴール大劇場は俺が作り上げたと言っても過言ではない。舞台裏に関しては人よりも詳しく知ってるんだぜ……。

 

 だがちょっとは聴ける音楽があるってんなら、そろそろ劇を見てやっても良いかもな。

 音楽メインの時間帯もあるみたいだし、たまにはそこで知らない曲を楽しむのもアリだろう。

 

 ……それと、バルガーに言われたからってわけじゃないが、演奏する側としてチラッと……一曲か二曲くらい演れたら良いなーって思いも、ちょっとある。

 こう、酒場で飲んだくれてるギルドマンたちに向けてじゃなくてな。概ねシラフで、大勢の観客を前にしてな……そういう機会があるなら、やってみたいじゃんよ。

 サングレールの目新しい音楽たちに紛れれば、俺の発表する音楽だって出所を疑われにくいはずだ。パッと演ってサッと捌ける今回の催しは、その点とても都合が良い。

 うおおおお……元軽音部の魂が騒ぐぜぇ……。

 

 

 

「いや、今回の演奏会は単独の弾き語りは許可してないんですよ」

「えっ、そうなんですか」

 

 レゴール大劇場の精霊祭公演を管理している役場まで足を運んで、受付に言われたのがそれであった。

 なにやら俺一人でギター担いで歌うのはダメらしい。マジかよ。

 

「単独の奏者まで許可すると吟遊詩人とか素人さんとかが際限なく来ちゃいますしね。演奏そのものの質も良くないし、大舞台で演るには地味だしでお断りしてるんです」

「あー、そうなんすか……まぁ確かに、だだっ広い場所で弾き語りするのは寂しそうだよなぁ……」

「参加は必ず二人以上からで、それと軽めの審査に受かってからになります。いざ舞台に上がってつまらないものを見せられては困りますからね」

「審査もあるのか……まぁそれは俺の演奏クオリティならいけるだろうな……」

「……自信がお有りみたいですけど、必ず二人以上揃えてからお願いしますよ?」

「わかりました。まぁそっからですよねー」

 

 どうやらズブの素人や冷やかしをしっかり足切りするだけの基準はあるようだ。それはそれで一観衆としても嬉しい。つまらん一発芸やボソボソ何言ってるかわからん歌は聞きたくないからな……。

 まあ、それはそれとして人数が足りないのをどうにかしないといけないんだが。このままじゃ文化祭で公演するどころか軽音部の存続すら危ういぞ……。

 どうにかして最低一人、バンドメンバーを集めなくては……。

 

 

 

 とはいえ、必死になって募集をかけるほどの熱意があるわけでもないし、メンバーのあてがあるわけでもない。

 最悪参加無理かなーって思いながら、劇場近くの天幕までやってきた。

 

 大道芸人などのパフォーマーが多く活動しているこの通りでは、ちょっと前からサングレール出身の芸人を中心に他所からの芸の人気が高まっている。

 サングレール系の血が入った人々による互助会、ロゼットの会に所属している人なんかも何人かここで演っているらしい。今も天幕の外では、金髪や白髪混じりの若者が呼び込みをしていた。

 ほーん、アマルテア連合国の神話を元にした劇か……向こうの神話はなんか面白げなの多いからちょっとだけ気になるな……。

 

 と、ぼんやり辺りを眺めながらダラダラ歩いている、そんな時であった。

 

「我が名は慈雨の歌姫ミシェル!」

「我が名は蝋翼の道化ピエトロ!」

「「二人合わせて劇団閑古鳥の白い連星、ミシェル&ピエトロ!!」」

 

 なんかものすごく聞き覚えのある声と共に、ものすごく見覚えのある二人組を見つけてしまった。

 白い道化姿の金髪の大男に、白いヒラヒラした舞台衣装を着た金髪の女。キャラの濃すぎる、サングレール人の二人組。

 見間違いか幻覚かと思って立ち止まってガン見してしまったが、間違いではない。見たのは随分前のことだったが、インパクトが強すぎて忘れようのない二人だ。他人ってことはないだろう。いやそもそも、名乗りがほぼ前と同じだし……。

 

 ……え? なんでいるんだ? 

 こいつらサングレールの兵士かなんかだろ? 

 なにしれっとレゴールの中に入り込んでるんだよ。

 

「……お前ら、なんでここにいるんだ」

「……?」

「……ピエトロ、この方はどなた……?」

「さぁ……ちょっと見覚えが……我々のファンではないだろうか……?」

「いやいや」

 

 なんでこいつら俺と初対面みたいな……いや、確かに俺が会ったのは随分前だし、戦争中にちょっと鍔迫り合いした程度だから仕方ないかもしれないが……。

 俺はお前達のこと完璧に覚えてるぞ。

 

「お前ら、変装してるつもりか知らないけどな……あれだろ。サングレール軍の連中だろ。蝋翼の審問官だか、慈雨の聖女だか名乗ってたじゃねえか。俺は忘れてないぞ」

「いかにも! 我が名は慈雨の聖女ミシェル!」

「我が名は蝋翼の審問官ピエトロ!」

「「二人合わせてサングレールの白い連星、ミシェル&ピエトロ!!」」

「あ、隠してはないのかそれ……」

 

 二人は以前も見たようなどこかムカつく決めポーズで堂々と名乗りを上げている。俺か? 俺がおかしいのか……? いや、どう考えてもおかしいのはこいつらの方だろう。

 

「……むむっ!? ピエトロ、良く見たらこの男、以前任務で会敵したギルドマンでは!?」

「……あっ!?」

「ようやく気づいたか。俺はモングレルだ、覚えておけ。……で、お前らはなんなんだ。レゴールの潜入工作員か?」

「ふん、あの時の怪力男とこうして再び出会えるとは……一介の武芸者としてはもう一度腕試しに興じたいところはあるが……今や我々は、潜入工作員でも騎士でもない」

「そう! 我々は騎士でも兵でもなく、もはや流浪の劇団員!」

「その名は!」

「ミシェル!」

「ピエトロ!」

「それはもう知ってるっての」

 

 こいつらはいちいち名乗りを上げて決めポーズを取らないと会話できないのだろうか。

 ……しかし、劇団員だと? 劇団員に扮した工作員じゃねーのかよそれ。

 

「モングレルよ、疑う気持ちはわからぬでもない。だが実際に我ら白い連星は騎士としての身分を解かれ、こうして劇団員となっている……」

「お給金が一気に地の底まで落ちて苦しい生活ですわ……!」

「うむ……! 劇団員としても大成できるだろうと思っていたが、この世界も非常に厳しい……! 特にサングレール国内の巡業が辛かった……!」

「ハルペリアのお客が最も好感触で金払いも良いのが複雑ですわ……!」

「……え、マジでお前ら芸人やり始めたのか……」

 

 かつて戦争中に現れた二人の強力な工作員が、今では売れない芸人として日々の糧を得ているという。にわかには信じがたい話だが、二人の様子を見るに本当らしい。

 

 ……以前出会ったボルツマンのこともあるし、外交官のアーレントさんに向けられた刺客……という線は消しきれないが……。

 

「ヘリオポーズでの巡業も楽しかったですが、ハルペリアで食べるオートミールは格別です!」

「安くて腹に溜まる! 財布と胃に優しい!」

「我々の次なる目標は、日々のオートミールを鳥肉入りのポリッジに変えることですわ!」

「モングレルよ……過去に得物を交わした遺恨はあるやもしれぬが、我々が劇団の人間であることは紛れもない事実。あちらの天幕に同じ劇団閑古鳥の者らもいる。聞けば我らへの疑いも晴れようぞ」

「そう! あの晴天のように!」

「ハーッハッハッハッ!」

「ホーッホッホッホッ!」

 

 ……どうも本当に、騎士から劇団員になったようである。

 

 

 






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