バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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平和の守護者

 

 白い連星ミシェル&ピエトロ。

 サングレール聖王国の兵士であり……俺は末端も末端の人間だったから当事者なのに詳しい話も聞かされなかったからよくわからないのだが、多分かなりの手練れだろう。

 そんな二人組が軍をやめて劇団員になったのだという。

 

 ……嘘くせ~……って気持ちも強いんだけど、こいつら二人のキャラが未だにちょっと掴めなくていや本当かもしれねぇ~って気持ちも結構ある。

 けどここでなあなあにして放置して“実は潜入破壊工作員でした”なんてことになって万が一の事が起これば目も当てられない。レゴール伯爵に危害が及ぶだとか、外交官のアーレントさんが殺されたりだとか、そういうやつな。

 ハルペリアとサングレール。せっかく両国が平和に向けて歩み寄り始めたのだ。万が一を起こしてはならないし、起こってはならない。

 

 というわけで、俺なりに裏を取ってみることにした。またの名をチクリともいう。

 仲の良い衛兵の一人に声をかけ、世間話のついでに連中に関することについて尋ねてみたのだ。向こうは衛兵だが、幸い俺のことをよく知っている間柄ではあったので、邪推に近いであろう懸念であっても無下にされることはなかった。サングレール絡みのこういう話は衛兵としてもたくさんあって大変だろうが、どうにか“ちょっと調べてみるよ”という返事をいただけたのである。……はい。俺なりの裏取りはこれで終了です。一介のギルドマンでしかないパンピーにこれ以上は無理よ。変に深く嗅ぎ回って悪目立ちしたくないしな。

 だが衛兵の友達はしっかり調べ物をしてくれたようで、俺がやきもきするのは数日で済んだ。

 

 調査の結果……まぁ、シロだろうとのことである。

 おいおい嘘だろって思ってしまったが、どうも事実らしい。

 

 まず、判明したミシェルとピエトロの素性であるが……なんとこの二人、サングレールの元聖堂騎士なのだそうだ。マジかよ。いやまぁあいつら自身も騎士とは名乗ってたけど、最高峰の聖堂騎士とは思わなかったわ……。

 しかし聞くところによるとこいつらの所属していたヘリオポーズ教区とやらが選出した二人の聖堂騎士は、ほとんど戦働きをしないことで有名だったようである。むしろヘリオポーズ教区における盛り上げ役というか、お飾りというか……そういった役割ばかりが与えられていたようで、武勇らしい武勇は全く広まっていないのだとか。そもそもヘリオポーズ教区のトップを務めるイシドロ神殿長自身、ハルペリアとの戦争にあまり乗り気じゃないお人らしい。トップの気質が配下の二人にも反映されているのかもしれない。

 

 ……で、その二人がちょっと前に聖堂騎士を解任されている。これも連中の言っていた通り、事実だ。

 解任の理由は、神殿長の演説によればヘリオポーズ教区における新たな星とかなんとかかんとかであるらしい。実際のところよくわからない。

 だが解任自体は本当だったそうで、二人はそのままヘリオポーズ教区で劇団に加入。劇団員として活動を続け、前職の知名度もあってそれなりの人気を獲得した。多分、劇団に入ってからの苦労話も事実なんだろう。表裏とかなさそうな奴らだからな……。

 

 ミシェルとピエトロが所属した劇団の名は、劇団閑古鳥。

 なんともアレな名前の劇団だが、一座の名前はちょくちょく変わっているらしい。だが中身に怪しいところはなく、斬新な芸や人員を積極的に取り入れているのが特色っていうくらいの、まあ普通の劇団だそうだ。今はハルペリアに足を伸ばしているが、サングレール各地を巡業して回ることも多いし、時にアマルテア連合国にまで公演の足を伸ばすこともあるらしい。

 フットワークの軽さ、名前がきまぐれに変わるものの無名というほど無名でもない知名度もあり、一定のファンもついている。

 その劇団員に聞き取りをしてみたところ、ミシェルとピエトロの二人が真っ当に劇団員として溶け込んでいることも判明した。というか、二人の持ち前の身体能力を活かしたアクロバティックな芸がなかなか売りになっているそうで、聞き取りをしている時も“今が大事な時期なので二人を取られるのはちょっと困ります”とかそういう風な擁護のされ方をしていたようだ。代えの利かないスターみたいなものなんだろうか……。

 

 聖堂騎士時代に持っていた物騒な武器類も今では所持しておらず、芸で扱う小道具のみ。レゴールにやってきてからの普段の行動も、隠密してどうこうするつもりはまるで無さそうである。オフでは二人で無駄に目立ちながら食堂で粥をドカ食いしたり、四六時中ポーズの確認や芸の練習ばかりをやっているのだとか。まあ……諜報員っぽさは皆無だな……。

 

 逆に怪しいと言ってしまえばそれまでだが、無根拠な逆張りならいくらでもできてしまう。

 だから、まあ前職もあって疑念は拭いきれないけれど、お咎めなどはなし。そういうことになっているのだそうだ。

 

 ……だがまぁ、普段からチェックの対象ではあるらしい。俺としては、それが聞けただけでも十分であった。

 

 

 

 ま、誰それが怪しいなんてことを四六時中考えても仕方がない。俺もそればっかりに気を張っているわけにもいかないしな。

 こっちはこっちでただの貧乏ギルドマンなのだから、日銭を働いて稼がなきゃいけない。

 俺は街の守護者ってわけじゃない。分を弁えて、一般人をやっていかないとな。

 

 つまり、ギルドの酒場で待機ってやつだ。

 うん。仕事請けようかと思ったけどね。ちょっと今良いのがなかったねっていうね。

 小物が多い春の時期はそういうこともあるってことだ。そんな日は仕事を終えた新入りに席を取られないうちに、早いうちから席を取って飲むに限るってわけよ……。

 

「モングレルさん、お暇そうですね?」

「あー、いやいやミレーヌさん。俺は今すっげぇ忙しいよ。確かにぱっと見ると一人で酒を飲んでるだけにしか見えないかもしれないけどな……頭の中では深遠なる智謀を巡らせているんだよ」

「あら、それは忙しいところを失礼しました。しかし、そうなると困りましたねえ」

 

 と、ミレーヌさんはそこで言うのをやめてしまった。

 やめてくれよ、気になるじゃんそういうヒットアンドアウェイは……。

 

「……たった今智謀を巡らせるのが終わったよ。で、どうしたんだい、ミレーヌさん。何かお困りかい」

「あら、相談に乗ってくださるんですか? ありがとうございます、モングレルさん」

「レゴール支部一番の受付嬢に浮かない顔させるわけにはいかねえからな……で、なんだい。仕事か何か?」

「仕事……ええ、仕事ですね」

 

 ミレーヌさんは珍しく受付を離れ、お茶を持って俺のテーブルまでやってきた。休憩ついでらしい。

 

「実はアサーラ村の救貧院から、レゴールに来たいという人がいまして」

「おお? マジか。……ブロングスさんかい?」

「いいえ、レニアです。あの子、一度レゴールでギルド受付の仕事を見てみたいとかで。普段はそんなに、これがしたいだとか、わがままも言わないんですけど」

「わお。成人もまだまだなのに、もう受付に興味があるのか。すごいな」

 

 レニアはアサーラ村の救貧院で暮らしている小さな女の子だ。十二かそこらだったかな……いや、今はもうちょっと育ってるか。初めて会った時から真面目な子だとは思っていたが、そうか。受付嬢に興味を持ったのか。

 

「最近はアサーラの駐在職員のお手伝いなんかもしていたくらいで……」

「熱心だなぁ。将来有望だ」

「ふふ……ですけど、ブロングスさんは手が離せないですし。村からレニアの付き添いを、モングレルさんにやっていただけたらなと思いまして」

「そのくらい朝飯前だよ。任せてくれ」

「ありがとうございます、とても助かります」

「なに、短い期間の護衛任務なら大助かりだよ。……けどせっかくだし、ちょっとだけ色つけてくれよな」

「ええ、それはもちろん。私の権限の及ぶ範囲でとなりますけどね」

 

 言っておきながら、本当にささやかな色しか付かないのはわかっている。

 けど任務自体は楽なのでそれだけでも大助かりだ。護衛対象が知り合いだってのも気楽で良い。ブレイリーの宿場町を経由すること以外のケチは無いぜ。

 

「……しかしミレーヌさん、実際のところどうなんだい」

「はい、何がですか?」

「いや。……娘に自分の仕事を見られるっていうのは、どんな気持ちなんだろうかなと」

 

 俺が声を潜めてそう言うと、ミレーヌさんは奥ゆかしく笑った。

 

「さあ、どうでしょうか。……今はまだわかりませんが……気恥ずかしくもあり、でも、楽しみでもありますよ。レニアが興味を持ってくれたのも誇らしいですし」

「……そっか。良かったね」

「モングレルさんも、いつか子供にそう思える日が来るかもしれませんねぇ」

「いやいやいや」

「ふふふ」

 

 レゴール支部一番人気の美人受付嬢、ミレーヌさん。

 

 彼女からの個人的な依頼とあれば、全力で臨むしかないだろう。

 そういう時くらいだったら、俺も守護者になってやるさ……。

 






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