バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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変装の下準備

 

「まずはモングレルに頼まれていたこれを渡しちゃおうか」

「お、新しい変声魔道具か。ありがたい」

 

 個室に入るなり、サリーは一個の首輪を渡してきた。

 ヴァンダール謹製の変声器である。一応一個あるが、型番とか声の変わり方とかでバレるかもわからんからな。複数あって困ることはない。

 貴族の前にケイオス卿として出ていくのであれば、俺を辿れる情報はとことん潰しておきたいものだ。

 

「それとこっちが獣避けのお香だね。王都は色々なお香があるから迷っちゃったよ」

「買ってきてくれたか、すまんなサリー。こいつがあると獣の追跡も振り払えるから重要なんだ」

「ああ、使い魔警戒ね」

「鼻の利く動物を使役してる奴を待機させていてもおかしくねえしな。匂いを辿られて身元バレってのはやりたくない。それに、王都製の匂い消しってのも良い。ケイオス卿の正体を王都出身の人間かもってことにできれば、レゴールでやりやすくなる」

「全力で隠れているんだねぇ」

「そりゃそうだ。ケイオス卿だなんてバレたら何されるかわかったもんじゃない」

 

 王都から戻ってきたサリーから、前もって頼んでいた土産物を受け取る。これがなかなか、レゴールでは手に入りづらい物も多いから助かるんだ。

 

「索敵系のギフトが来るってわかってりゃ、まぁ全力で対策すればどうにかって感じだが……真正面から武力行使されたらさすがにどうしようもねえな……」

「ああ、それはないよ。する貴族もひょっとしたらいるかもしれないけど、そうなればむしろレゴール伯爵やそれに近い人達が守ってくれるだろうね。もちろん、同席する僕も全力で援護するよ」

「そういうもんかね」

「レゴールの発展はケイオス卿によって齎された物も多い。それを好んで潰そうなんて思ったりはしないよ」

 

 サリーはそう言うが、果たしてどうかね。

 貴族ってのはそこまで殊勝な存在か疑わしいもんだ。欲しいものは力尽くで全部奪い取っちまうんじゃねえの。良いものは全て手元にあった方が良いだろうからな。

 

「後はそうだね、ビタリの家財運びかな。それを手伝ってもらおうか」

「あー、あの新入り君な。任せとけ。……彼はやっていけるのかい?」

「結構器用な魔法を使うんだ」

 

 微妙に答えになっていないが、サリーとしては期待をかけていると見て良いんだろうか。まぁこれからだよな……。

 

「ところでモングレル」

「ん?」

「さっき話した王都のお菓子のことなんだけど、もしかしてモングレルだったら作れたりしない?」

「…………その話は最初から聞くところからやらなきゃいけないから、また今度にしようぜ」

 

 ビタリ君が本当にやっていけるのか心配になるが、“若木の杖”には悪い奴はいない。

 独特な性格の連中に慣れさえすれば……きっと大丈夫だろう。

 

 

 

 そうして“若木の杖”のクランハウスで荷運びの手伝いをやった後のことである。

 

「モングレル先輩……なんかサリー先輩と仲良いっスよね」

「お? おお? なんだよライナ」

 

 荷運びの御駄賃をいただいてホクホク顔でギルドに戻ってくると、いつも以上にむすっとした顔のライナにお出迎えされた。

 常日頃からジト目がちなライナだが、今日のジト目は特に際立ってジトっとしている気がする。

 

「もしかして……モングレル先輩って、サリー先輩と……付き合ってたりするんスか?」

「ライナ……人には言って良いことと悪いことがあるだろ……?」

「そのレベルで拒絶するんスか……」

「まぁ何かと話す機会が多いことは確かだけどな……エールをジャカジャカ振って炭酸抜くような女とは一緒に暮らせねえだろ」

「……エールの炭酸を抜くのは確かに……」

 

 サリーは頭良いから、そういう方向で話は合うんだけどな。それ以外が宇宙人だから全然駄目だ。ある日突然サリーが宇宙人カミングアウトしてきたとしてもあまり驚かない自信があるぜ俺は。

 

「でもなんか、サリー先輩ってモングレル先輩とだけはよく話してる気がするんスよね」

「……どうかねぇ」

 

 よく見てるというか、俺がよく見られてるというべきか。

 まあ俺だよな、見てるのは。……本人相手にこうもまあ堂々と探りを入れてくるとは、ライナは真っ直ぐな奴だな。

 可愛い嫉妬というか、ヤキモチというか。俺はこういう、清らかなラブコメ体験をほとんどしたことがないからなんか新鮮だわ。

 

「……ライナ、今年の精霊祭も一緒に回るか?」

「! いいっスね! 回りたいっス!」

「よし。今年も一緒に酒飲んだり店見たりしような。まぁ、俺は俺で途中抜けるかもしれねえけど」

「うっス! ……え、モングレル先輩精霊祭で何かやるんスか?」

「あー、ちょっと演奏会に出場するかどうか決めかねてんだ」

「はえーすっごい……演奏ってことは、リュートっスか」

「舞台で演者を募ってるんだぜ。けどリュートの独奏じゃ駄目らしいから、まだ応募はしてないんだけどな……ひょっとすると当日どっかのバンドのボーカルに欠員が出たら、ヘルプのギターボーカルとしてGod knowsを歌うことになるかもしれん」

「なんなんスかねそれ……いや、モングレル先輩が何か適当なこと言ってるなってのはわかるんスけど」

 

 いやいや、世の少年少女の夢だぜこれは。

 文化祭で演奏して一躍ヒーローになりたい気持ちは誰もが持ってるもんだ。

 んでもって、最後はJohnny B. Goodeを弾きながら熱唱して会場全てを置き去りにするわけよ。夢が広がるなぁおい。

 

「そうだ、ライナは何か楽器できないか? ヘルプで入るよりも自分らでバンド組んだほうが望みはありそうだ」

「楽器っスかぁ……あ、これなら」

「これっておい」

 

 ライナはおもむろに手作りの犬笛を取り出し、それを咥えた。

 

 

 ――ビョ~~~

 

 ……自分で作っといてなんだけど、相変わらず間抜けな音してる笛だよな。

 

「うーん、そいつは楽器とは呼べねえかなぁ」

「まじっスか。じゃあ無理っス」

「諦め早いな……ライナも何か楽器やると良いぜ。楽しいぞ音楽は」

「音楽っスかぁ……今までやったことないからなぁ……」

「トゥーちゃんも歌とか覚えるかもしれないぜ?」

「あ、それはちょっと聞いてみたいっス!」

 

 よし、ライナの機嫌も直ったようだ。良かった良かった。

 

「そういやトゥーちゃんは“アルテミス”のクランハウスで上手くやれてんのか?」

「っスね。思ってた以上にお利口さんっスよ。特にシーナ先輩相手だと絶対服従って感じっス」

「おお……そうか……」

 

 シーナの鋭い眼光を受けて野生の勘が警鐘でも鳴らしてるのだろうか。まあ、躾が楽なのは良かったな……。

 しかし飼育下だと野生よりも心労で寿命が縮みそうだな、トゥーちゃん……。

 




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