バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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ロックンロールが始まらない

 

 芸術はその大半が特殊な技能である。

 簡単な歌や踊りであれば誰でもできるかもしれないが、本格的な絵画や音階のある楽器にまでなってくると独学で修めるのは非常に難しい。道具があって、技術を教えてくれる師がいてようやくスタートラインに立てるのだ。要するに、生活に余裕のある人々の技能である。

 

 だが、その中でも楽器に関しては間口が広いだろうか。吟遊詩人だったり楽師だったりと、社会的地位が低いながらも芸を見せて日銭を稼ぐ人々は多い。

 もちろん、ハープだの大型の管楽器だのといった仰々しいものになるとさすがにお貴族様的な嗜みになるだろう。一方でリュートくらいだったら庶民でもちょっとお金を払えば中古の物を手に入れることはできるし、最近ではカリンバといった外国の楽器も比較的安価で出回っている。音楽っていうのは親しみやすく、身近な芸術なのである。

 だからこそ、そこらへんのギルドマンでも何かしら簡単な楽器を扱えてもおかしくないのだが……。

 

「いや無理ですよ。僕そういう音楽とか縁が無いですから……」

 

 アレックスは首を横に振った。こいつは俺がなんか言う度に首を横に振る奴である。

 

「元軍人だろ。何かしら音楽齧ってんじゃねーのか」

「軍人だからって皆が皆やるわけじゃないですよ……モングレルさんの言ってるのはもっと大きな、それこそ千人規模の軍の話じゃないですか? 軍歌とかそういう……」

「そうかぁ……アレックスは楽器できねえかぁ」

「というかそもそもの話、こんな精霊祭直前の時期にメンバー集めするのは無茶じゃないですか? やる曲とか練習とか、色々と準備もありますよね」

「リズム隊ともうあと一人くらい簡単なのでも良いから欲しいところなんだけどなぁ……やっぱ俺がヘルプで他のバンドに入って弾き語りするしかねえのかなぁ」

「他の参加者の演奏をぶち壊しにする話してます……? せっかくのお祭りなんですから迷惑のかかることはやめましょうよ」

「アレックスは俺のことをなんだと思ってるんだ。俺はハルペリアで一番リュートの巧みな男だぞ」

 

 今日の俺はバロアの森での討伐を終え、森入口の広場で同じく仕事を終えたアレックスと駄弁っているところだった。

 今他の“大地の盾”のメンバーたちは、土や獲物の血で汚れた装備を手入れしているところなのだろう。アレックスは持ち前の風系スキルのおかげか血糊を吹き飛ばせたようで、あまり時間が掛からなかったようである。俺もそういう便利な属性スキルが欲しいぜ……光と闇が合わさったら最強かもしれんけどもうちょい便利なのくれ。

 

「そっちのフリードはどう? 楽器とかできるか?」

「あー? なんだモングレル、今度は楽団でも作るのか? 俺は歌なら歌えるぞー。逆にそれ以外はなんもできん!」

「歌かー。フリードに歌われたら俺の歌が霞むから駄目だな……」

「はははは。まぁ皆が知ってるような曲をいくつかだけどな!」

 

 フリードは油布で剣を何度も拭いながら朗らかに笑っている。まぁフリードはそういうタイプだよな。聞いた俺にセンスがなかった。

 

「おいおいモングレル、演奏できる奴を探してるのなら俺を無視してもらっちゃ困るぜ?」

「うわ出たな」

「バルガーさん、演奏の話してからずっとこっちをチラチラ見てましたからね……」

「いや俺も気づいてたけどさ……バルガーもどうせ歌いたいんだろ」

「当然だろ。俺の美声を客に聞かせないでどうする」

「客観視って大事ですね……」

 

 バルガーは身支度をしていたというよりも、広場で煮炊きしている連中に小銭を渡してスープをシェアしてもらっていたらしい。同じ“収穫の剣”のブライアンたちと一日ほどじっくり森に潜っていたようだが、成果は芳しくなかったようだ。

 まぁでも、こういう場所で飯を分けてもらうと安くあがって良いよな。俺もたまにやる。美味そうなもん作ってる奴限定だけど。

 

「あのなぁバルガー。あくまでこのバンドは俺がボーカルでギターなわけ。他はドラムとあと一人自由枠もあるけどな、ボーカルはお呼びじゃねえのよ。許せるのはコーラスくらいだぜ」

「固いこと言うなよ。俺とモングレルが一緒に歌えば俺の歌の上手さが映えるだろうが。それに最近俺もな、歌いながら弾いてても全く引っかからなくなったんだぞ」

「みんな歌いたがってばかりでどうしようもないですねえ……」

 

 俺のバンドメンバー集めは暗礁に乗り上げていた。

 メンバーが全く集まらない。集まりそうなのは“歌だけはちょっとできるよ”と自称しているだけのほぼ素人ばかりである。のど自慢大会で予選落ちしてそうなおっさんばかりを寄せ集めたところでどうしようもないだろう。

 俺とバルガーとフリードの三人で真・三人のおじさんにでもなるか? いや、酒場で勝手に盛り上がって歌い始めたようなおっさんのグループはバンドとは言えないだろう。

 うーん……やっぱ高望みしすぎたか……動くならもっと早く動くべきだったぜ……。

 

「相変わらずノリの悪い奴だなモングレルは……そうだ、演奏できる奴と言えば、うちのアレクトラは色々できるみたいだぞ?」

「へえ、アレクトラさん意外と芸達者ですね」

 

 “収穫の剣”副団長のアレクトラは芸達者な女である。喋ったり飲んだくれてる時は姉御肌でガサツな女って感じなのだが、パーティーの経理や調整の大半を担っているというし、シーナやナスターシャなんかとも結構知的な話ができるらしい。失礼ながらイメージ的には全くそんな感じではないのだが、やたらと色々とできる女なのである。

 

「アレクトラの楽器ねぇ。何できるんだよあいつ」

「なんかあれだ。笛のやつ。横にこう吹くやつ」

「あれですね、あれ」

「あれか……」

 

 皆固有名詞が出てこないが、ビジョンはわかる。なんかあれだ……結構高い音の出る横笛である。

 アレクトラあんなの演れるのか……どっちかっていうとああいう楽器はレオとかそこらへんのイケメン枠が映えるやつだろ。って言ったら失礼だな。見た目と楽器は関係ないわ。すまんアレクトラ。

 

「……いやでも笛かぁー。笛とギターって合うのか……?」

「モングレルさんのリュートって改造してるんでしたっけ。何か変わるとギターっていう名前になるんです?」

「こいつリュートに金属弦使ってるんだよな。まぁ音は悪くないんだが」

「指切っちゃわないんですかそれ」

「俺らくらい指が硬けりゃ切れねえよ。ピックを使うって手もあるしな。……んー、絶対に断られそうだが、ギルドで見かけたらアレクトラに声かけてみるか……?」

「あ、すまんモングレル。アレクトラと団長はもう数日遠征から戻ってこねえや。今団長たちはネクタールの方にいるな」

「なんだ、まだ遠征してるのか。じゃあ無理だな……」

 

 男同士で何にもならない話で時間を潰している間に馬車がやってきた。

 うーむ。期日的にも、メンバー集め的にも無理そうだな。全てが無理なやつだ。さっさと諦めてレゴールに帰っちまうか……。

 

 

 

 そんなわけでレゴールへと帰還した俺であるが、東門の解体処理場で場違いな知り合いに遭遇した。

 

 古い麦わら帽子に年季の入ったローブ。魔石のついていない骨董品のような杖。

 装備だけでも十分に特徴的だが、本人の顔ほどではない。

 

「カテレイネ。なにしてんだこんなところで」

「おや。こんな場所で出会うなんて、奇遇だね。少年」

 

 美しい金髪に褐色肌に青と金のオッドアイ。そして横に伸びた長い耳。

 それら特徴にほぼほぼ意味のない農家の女、カテレイネである。

 

「処理場には灰汁抜きや乾燥途中の森の恵みが多いからね。私が大きめの街に寄った時には、処理場にも顔を出すようにしているんだよ。……ああ。心配せずとも、ここの恵みは大丈夫だよ。どれも自然に則した方法で処理されている。良い品質のものが多いね」

「森の守護者じみた言い方してるけど、要するに根菜売りの市場調査ってわけか」

「ウフフ……森の守護者ね。格好良い響きじゃないか、少年」

「相変わらずそういうの好きだなお前は……」

 

 カテレイネとは昔なじみである。再会したのはつい最近だが、十五年くらい前か。その頃はそこそこ長い間一緒に過ごしていた相手だ。今ではすっかり馴染んだレゴールのギルドマンらと同じくらいには見知った仲と言っても良いだろう。

 

「カテレイネはいつからレゴールに? 今年もまた何か売り歩いてるのか?」

「少年、そんなに一気に聞かれても私は困ってしまうよ」

「たった二つだが……?」

「ウフフ。……私はつい昨日来たばかり。売り歩きも、そうだね。去年は良い具合の塵雪が届いたから、豊作だったんだ。おかげで今年の野菜売りは大変そうだよ。ベイスンだけではとても適正価格で売り切れそうもない」

「嬉しい悲鳴ってやつか。まあ、良かったじゃねえの。儲かるならそれが一番だしな」

「そうだね。お金っていうのはとても便利だ。なにせ、どんな生薬よりも日持ちするからね。フフフ」

 

 相変わらず意味もなく意味深な笑い方をする女である。

 しかし実家の稼業が上手くいってるのは良かった。俺も世話になったすげぇ良い人達だしな。

 

「……あ、そうだ。カテレイネ、お前楽器できたっけ? いや、たしか家では何かやってたよな? うっすらと覚えがあるんだが」

「うん? 楽器かい? リュートと横笛だったら、嗜む程度にはやっているけど。収穫祭とかで、色々使うからね。それがどうかした?」

「おっ、マジか」

「……?」

 

 不思議そうに首を傾げているカテレイネ。

 ひょっとすると……俺とお前は音楽性が合ってるかもしれないぞ。

 





『バスタード・ソードマン』が「次にくるライトノベル大賞2024」単行本部門第2位を受賞しました。
また今回、20代読者部門、30代読者部門、男性読者部門でもそれぞれ総合1位を獲得することができました。すごい。
応援してくださった方々、本当にありがとうございます。おかげさまで書籍第1巻が重版になり、嬉しいことだらけです。
これからもバッソマンをよろしくお願いいたします。
(結果発表*・∀・)



バッソマン第5巻は2月28日発売となります。表紙は“若木の杖”です。なかなか分厚い本になっております。
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