バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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猥談と漢の中の漢

 

 つい先日、空き巣が出た。と言っても、現場は俺の宿ではないが。

 人通りの少ない雪の夜に穀物店の倉庫を狙った、まぁありがちな犯行だ。

 

 しかし犯人も手が悴んでいたのか盗みに不慣れだったのか、物音をさせてしまったせいで犯行が発覚。すぐさま逃げようにも夜とはいえ人影を浮かび上がらせる明るい雪の上で、くっきりと足跡を残しながらの逃亡だ。

 

 結局犯人は明け方まで逃げ切ることもできず袋小路で御用となり、朝から俺達ギルドマンの話題になってくれたのだった。

 

 

 

「ったくよ~、それでソイツの動機がアレだぜ~? 色街で女買いすぎたせいだっつゥんだぜ~? 金がねぇくせに通うなんて相当な馬鹿だよなぁ~」

 

 今日、ギルド内の酒場では少々パーティーの比率が偏っていた。

 大手パーティーの「大地の盾」と「アルテミス」のメンバーがほぼごっそり抜けて、「収穫の剣」の面々が15人近く集まっていたのだ。

 ここまでの大所帯となると酒場の中央スペースは彼らに独占され、自然とグダグダとした話題の中心もこいつらに引っ張られることになる。

 普段は統率も薄く団体行動というほどのことをしないパーティーだが、集まる時に集まるとなかなか圧巻だ。

 

「あれ、けどチャックさんも団長と結構そういう店いきますよね?」

「あ~俺は良いんだよ、稼いでるから! 稼いでないくせにそういう店に行く野郎の気が知れねえってことだ!」

「そういうことですか、確かに……」

「金さえ稼げば安いババアしかいないような店でも、高い綺麗なねーちゃんがいるような店でも好きに行きゃいいんだ。無いやつがどうしてそこまで使い込んじまうかね~」

 

 話題の中心はあの赤い短髪の若者、チャックの軽口だ。

 あいつはギルドマンの荒くれ者らしく色々と毒づくし、喧嘩っ早いところがある。世の中の人間のギルドマンに対するイメージを平均化するとなるのがあいつと言ってもいいだろう。そのくらいある意味で模範的なギルドマンだ。

 黒髪黒服の転生主人公が冒険者ギルドに入っていったら真っ先に絡むようなタイプである。

 しかし剣の腕前はシルバー1と普通に強いし、荒っぽい口調で惑わされがちだがよく聞くと普通に正論を言ってる、そういう意味でも模範的なギルドマンだったりする。

 

「そうだ。お前も結構慣れてきた頃だしな。今度俺が良い店紹介してやるよ~。程よい値段で結構良いとこあんだぜ~!」

「ははは……」

 

 しかしそういうギャップ効果もありそうなものだが、何故かモテない。それはやっぱり、普段の軽さ故なんだろうな。

 

「まーたあの人達色街の話してるっス」

「男の人は皆そうなんだよライナ」

「ぁあん!?」

 

 こっちのテーブルにはライナとウルリカがいる。向こうとはたいして距離も離れてない。こういう距離で猥談とか始めちゃうから駄目なんだぜチャック……。

 少なくともギルドの受付嬢を狙っているのであればギルドの酒場でしちゃいけない話なんだ……。

 

「あ、モングレルさんそこチェック。いや、チェックメイトかな? 私の勝ちー、えへへ」

「……お前たちボードゲーム強くない?」

「いや多分モングレル先輩が弱いんだと思うんスけど」

 

 この世界で独自に生まれ発展したボードゲーム、ムーンボート。

 黒っぽい木の駒と白っぽい木の駒に別れて戦う盤面を見た感じでは、前世でいうところのバックギャモンに近いかもしれない。だが俺はバックギャモンのルールを知らないし、このゲームが似てるのかどうかも全くわからない。

 ただひとつわかるのは、俺が今のと合わせて3連続でウルリカに負けたということだ。

 

 ライナが強いのはもう仕方ないとして、ウルリカまで強いってのはどういうことだよ。ルール覚えたのついさっきで俺と一緒だっただろ?

 

「畜生~……モングレルめ~……」

 

 いやなんでこのタイミングで俺に恨めしい目を向けるんだ。

 

「なんだよチャック。こっちボロ負け中だぞ」

「なーにが負けだよ! こっち見ろよ男ばっかだぞ! なんだよそっちのテーブルは! 勝ちだろうが!」

 

 いや別にこっちはこっちでお前たちが真ん中居座ってるから身を寄せてるだけであってな……。

 と言い訳したかったが、チャックだけでなく他の男からも似たような恨めしそうな視線を感じたので黙っておいた。

 

 まあわからんでもないよ?

 こっちはライナとウルリカだからな。綺麗っちゃ綺麗だからな。

 けどライナは俺から見たらまだまだ子供だし、一人はそもそも男だし……。

 ……っていうのも口に出しちゃいけないのは俺はわかってる。男の嫉妬は醜ければ醜いほどすぐに爆発するからな……。

 

「畜生~……良いよなぁモングレルは~……ソロだからいざとなれば他のパーティーの助っ人になりやすくてよ~身軽でよ~……こっちは女なんて皆無だぜ~……? なのに半端に人数揃ってるせいで他との交流も気楽にはできねえしよォ~」

「あの、チャックさん。うちの副団長……」

「あれは女って言わねえだろ~! 女ってのはもっとこう、お淑やかでよ~、そんでひたすら男に対して献身的っていうかよぉ~、奉仕とかしてくれるもんだろ~?」

 

 ほーらまたそうやって無駄に女を敵に回すようなことを言うー! 本当にそういうとこだぞお前!

 

「――いや、違う。それは違うぞ……チャック」

 

 その時、野太く低い男の声が響き、ギルドがわずかに静まり返った。

 

 声の主は今まで岩のように沈黙を守ってきた大男……「収穫の剣」団長、ゴールド2のディックバルトだ。

 

「――女は決して、献身や奉仕するだけの存在ではない――」

「……まあ、団長の言い分もそりゃ……わかるけどなァ~……」

 

 黒い短髪。切れ長の目。身の丈は2メートル10を越え、背負ったグレートシミターは小さく見えるほど。

 そして全身から醸し出される圧倒的強者の気配は、普段からお調子者なチャックを萎縮させるほどだ。

 

「……モングレル先輩、モングレル先輩。あの人って……」

「ああ、収穫の剣の団長さんだ。ディックバルトっていう……デタラメみたいに強い人だよ」

「へー……あの人が……」

 

 ディックバルトは団長だが、普段ほとんどギルドに顔を出さない。

 彼は自分の実力に並ぶメンバーを引き連れて、次々に高難易度の討伐任務を受けるせいだ。結構ゆるくやってる「収穫の剣」で最も精力的なグループと言って良いだろう。比較的新入りのライナが顔を合わせる機会が無かったのも無理はない。これもまた冬ならではだな。

 

「がっしりしてて、すっごい真面目な人っスねー……」

「いや……それは……」

「どうかなぁ……」

「え?」

 

 詳しい事情を知ってる俺とウルリカは口ごもる。

 いや、真面目な人なのは確かではあるんだが……。

 

「――むしろ、時に我々男が女に奉仕することもある……時に跪き、時に鳴き、時に舐める……いや、舐めさせていただく、と言うべきか――」

「……あれなんの話っスか」

「ライナ、良いんだ。お前はまだ気にしなくて良いんだ。いい子だからな」

「いやまぁなんとなくわかってはいるんスけど……」

「だが――」

 

 ディックバルトはそれはもう真面目な顔で、腕を組んで、その上で極めて厳格そうな声色で語り続ける。

 

「――俺達男による奉仕や献身は、それなりの格の店にゆかねば実践(プレイ)できないものだ……昨夜捕まった男も、あるいは――……そんな情熱を間違った形で暴走させてしまった、一人の哀れな奉仕者だったのかもしれんな……」

 

 このクソ真面目に下ネタを語る大男、ディックバルト。

 彼がギルドに顔を出さない理由は、日々の時間のほとんどを娼館の利用に費やしているせいもある。

 長期の遠征や討伐任務を受注し、遠征中は宿場町の娼館に泊まる。娼館のハシゴをし続ける。街に戻ったとしてもそのほとんどを娼館で過ごすという、とんでもないエロモンスターなのだ。

 それだけの稼ぎがあるということではあるのだが、そんな莫大な稼ぎが全て色街に溶けていると考えると凄まじい。

 正直、俺の前世でも会ったことのないタイプだ。ここまで突き抜けてると同じ男としては尊敬する。

 

「まあ……わかるような~……?」

「わからないような……?」

「うん、さすが……ディックバルトさんだ……?」

 

 同じような畏敬の念を抱いているからか、「収穫の剣」の面々も頑張ってフォローしてくれる。

 慕われてはいるんだ。ただ、思考回路が常にエロ方面に結びつくから独特すぎるだけで。

 

「なんか……ちょっと気持ち悪い人っスね……」

「ちょ、ちょっとライナ!」

 

 いかんぞライナ。

 いくらディックバルトがレゴールの全娼婦から“要求してくるプレイから滲み出る性癖がキショい”と言われるような男だからって、相手に聞こえる距離で悪口を言ったら失礼だ。

 

「――アルテミスのライナ……と言ったか。その発言はいただけんな――」

「え、あ……すいませ……」

「――君の罵倒は決して無料(タダ)で受け取って良いものではない――……あまりご褒美(プレイ)を安売りしてはいかんぞ?」

「……モングレル先輩、やっぱこの人なんか気持ち悪いっス! 鳥肌が! 鳥肌がぁー!」

「おーよしよし、怖いかライナ、まぁ怖いよな。でもなんかちょっと気持ち悪いだけでいい人だからな、少しずつ慣れていこうな」

「なんか……ごめんなァ~……うちの団長が怖がらせてよ~……」

 

 ディックバルト。彼は決して悪い男ではない。

 ハーベストマンティスとの戦いでも何度も味方を庇いつつ攻撃を凌いだというし、任務に臨む態度もピカイチだ。

 ただちょっと下半身に正直で、発言がキショいだけのかっこいいおじさんなんだ。

 

「……やっぱりキモ」

 

 ウルリカもそういう顔しながらそういうこと言っちゃ駄目なんだぞ。

 でも罵倒を浴びるディックバルトは喜んでるから良いのだろうか……? 俺にもわからない精神性をしているのでなんもわからん。

 

「――それもまた良い……」

 

 いや、大丈夫そうだな。良かった。

 

 ……冬場はまぁ、そういう自分と合わない人と一緒になる時間の多い季節だから……こればかりは慣れていけ、ライナ……。

 

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