バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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ダダ漏れオーラ

 

 想定その1。ライナがクランハウスに戻った時のシーン。

 

『あら、どうしたのライナ。なんだか嬉しそうね』

『……え~? シーナ先輩わかっちゃうっスかぁ~?』

『……詳しく聞かせてもらおうかしら』

 

 と、まぁこうなることが予想されるわけだ。

 

 

 

「なあライナ、もうちょいそういうの隠せないか?」

「何がっスか! 私全然そんなわかりやすい顔してないっスよ!」

 

 そう言うライナはいつもよりちょっとテンション高めで、俺が話しかけるとたまにクネッとしていた。

 確かに表情そのものは普段通りジトっとしてるんだが、ボディランゲージがね……雄弁でね……。

 うん、まぁそういう初々しい感じも良いよな。けどな、もうちょい擬態できん?

 

「まぁ……想いが通じ合った喜びっていうのは……わかるけどな。それを抑えろっていうのも酷な話かもしれないが……」

「っス! 嬉しいっス!」

「ライナ自身のためにも自然体でいてもらえると嬉しいんだがなぁ……」

 

 異性と初めて付き合う時の浮ついた気持ちはまあわかる。

 だが、これからのことを考えるとなるべくその手の幸せオーラの匂わせはしまっておいてほしいというのが俺の本心だ。

 

 ライナと一緒になる前に、一度大きく動いてハルペリア有利の状態で確実に和平条約を結ばせるように働きかける……ってことを考えていた。

 万が一のことがあるとそれで俺の諸々ヤバそうなことがバレるかもしれないんで、それまでの間はライナには俺と親密な繋がりを持ってほしくなかったんだが……。

 

「むふ……」

 

 ……ライナは素直だからな。嘘をついたりだとか、隠し事を抱えたりってことは大の苦手そうだ。

 多分今も本人は浮かれそうになるのを堪えているんだろうが、見る人が見れば普通に“こいつなんかあったな”とわかってしまう。多分ライナを知ってる奴ならみんなわかるレベルだ。あまりにも隠し事に向いてなさすぎる……。

 これは本当に誠意とかそういうの抜きに、ライナの安全を思えばこそ、今後も秘密にしておくべき事情はライナに言わないでおいた方がよさそうだ。

 

 ……うーん。

 この様子だと、多分すぐにバレるな!

 

 二人の秘密とかなんかもうそういう甘酸っぱい関係は無理な気がするわ。

 無理せず最初からオープンでいたほうがダメージは少ないかもしれん。

 

「ライナ、酒飲んでポロっと秘密喋ったりしない自信あるか?」

「むっ……お酒飲んだ時にそうなっちゃうのはむしろモングレル先輩の方じゃないスかね」

「……言われてみれば確かにそうか……」

 

 まぁ酒の勢いでポロリは確かにライナには無縁だったか。

 酒にそこまで強いわけでもない俺の方が危ういってのは、真理だな。失礼したぜ……。

 ……だったらまぁ、ライナにはもうちょい酒入れてもらって、今のこのポーっとした顔を酔いで誤魔化してもらおうか。

 

「よし、ライナ。今日の記念に酒奢ってやるぞ」

「マジっスか! やったぁ」

 

 正直、付き合った記念日に酒奢るのは男女関係としてどうかと思うのだが、俺とライナの関係はこういうもんである。

 

 

 

 街の子供たちが集まって、神輿のようなものを掲げて大通りを歩いている。

 中央を歩く一本の高いポールは大人が掲げているが、その先端には万国旗のように色とりどりの生地を繋げた飾り布が何本も垂れ下がり、その終端を留める小さなポールを子供たちが掲げている形だ。神輿としては軽めで簡素だが、色鮮やかで見栄えは良い。

 中央のポールに備えられた金飾りがシャラシャラと音を立てながら、ゆっくりと大通りを進んでいる。

 俺とライナは通りの端っこにある花壇の縁に並んで腰掛けながら、市場で買った酒をマイカップでグビリとやりつつ、そんな子供たちの様子を眺めていた。

 

「……私の村でもああいうお祭りあったっスね。村の司祭さんはその時だけめっちゃ張り切ってたっス」

「村でもああいうことはするんだなぁ」

「参加した子供にお菓子をくれたんスよ。みんなそれ目当てで集まって、ポールを掲げたりしてたっス。私もやったなぁ」

 

 子供は菓子で釣る。どんな時代でもどんな世界でも、それは共通なんだな。

 

「俺の故郷では司祭とかいなかったから、長老たちと村の爺さん主導でやってたな。つっても、こぢんまりとしたもんで、酒といつもより少し豪華な飯が振る舞われる程度だったんだが」

「はえー……けどお酒はいいっスね。私もお酒が良かったっス」

「お前が村でガキだった頃は酒飲めないだろ」

「なんだかんだで大人になる前から飲んでいい感じだったっスよ?」

「ゆるいなぁ……まぁどこもそういうもんか」

 

 ハルペリア王国での飲酒は十六からということになっているが、それも地域によって守られたり守られなかったりだ。ゆるい地域だと普通に飲ませているんだろう。

 

「……あの頃は、ずっと小さな村の中だけで生きていくんだろうなぁって思ってたっス。けど、段々と村での居心地は悪くなって……友達と一緒に飛び出して、レゴールでギルドマンとして働いてみて、……それもあまり上手くいかなかったりして。すっごい大変な毎日だったっス」

「ライナが新人だった頃は、ボロボロだったもんな」

「宿代、食事代、それに矢の費用……毎日カツカツで厳しかったっス」

 

 しみじみと語るライナだが、その横顔はもう昔の辛さからは解放されているように見えた。思い出しても辛くない思い出になっているのなら、それが何よりだろう。

 

「そんな時にモングレル先輩に助けてもらって……色々なことで世話を焼いてもらって。私、それからもう、ずっと先輩のことが気になってたんスよ?」

「悪い大人に引っかかっちまってまぁ」

「良い大人っスよ。私が今まで生きてきて、一番の」

 

 鼻が痒いぜ……。

 

「……モングレル先輩から見て、私ってどうだったんスか」

「姪」

「めい」

 

 断言しちゃったわ。いやでもしょうがねえよ。

 

「……ここ最近は違うけどな? 最初はまぁ、素直な親戚の良い子ができたなって感じだったよ」

「親戚の子」

「真面目だし熱心に話聞くし、ひねくれたとこもないからな。可愛い後輩だよ。“アルテミス”に拾ってもらえたって聞いた時は、我が子のことのように嬉しかったさ」

「親戚から我が子になっちゃったっス……」

「それでもまあ、長く付き合っていくと考え方も少しずつ変わるもんだよな。意識することは増えていったよ」

「……むふ」

「嬉しいオーラ漏れてるぞ」

「……抑えるの難しいんスけど……」

「……うーん……まぁ今は周りに知り合いもいねーし、別に良いか」

「むふふふ……」

 

 男女で植え込みの縁に座りながら酒を飲むなんて、前世からしたらかなり型破りな初デートだな。

 けどこうして二人で、これまでお互いをどう思っていたのかとか、そういうことを摺り合わせるようなやり取りをするのは楽しいもんだ。

 

「ライナはこれから、どう生きていくつもりなんだ? ちょっとライナの人生設計を聞いてみたくなった」

「え? 今まで通りっスよ?」

「ギルドマンを辞めたりとか、したくは……なさそうだな」

「うーん、別に辞めたくはないっスね。せっかくシルバーになれたし、もっともっと上を目指したいっス! モングレル先輩もお肉好きだし辞めないっスよね?」

「まぁそうだな、身体が動くうちは別に辞める理由もないんだよな」

 

 世間一般からすると、ギルドマンはお世辞にも安定した職業とは言えない。

 だから身を固めたギルドマンなんかは、それを機に街で定職に就くことも多い。それには多分世間体みたいなものもあるのだろう。

 

 けど俺らに関して言えば、魔物の狩猟を楽しんでいる部分もあるからな。

 ライナは狩りが好きだし、俺も魔物の肉を食うのは大好きだ。無理に辞める必要はない。逆にここでライナが“専業主婦やりたいっス”とか言い出したら“お前そんなキャラだったっけ?”ってなるもんな。安心したよ。

 

「……だから、あの。しつこいかもしんないスけど、モングレル先輩が良かったら“アルテミス”に入ってくれたらなぁ……って」

「うーん、気が向いたら入るわ」

「えっ」

「なんだよ」

「思ったより前向きな答えが来て逆に驚いたっス……」

「……本当にその時によるって感じだよ。あんま期待はすんな」

 

 もしまた戦争が起こったりなんかしたら、その時はライナを守るために入るかもな。

 ミレーヌさんに“うーっす、シルバー上げてもらえますかー”とでも言えば多分ノータイムで上げてくれるだろう。そうすりゃ同じパーティー内で守ってやれる。

 逆に言えばそれ以外の時は、無理に入る理由がない。俺にはクランハウスもいらんしな。秘密にしてる色々なことに差し支えてしまう。それは良くない。

 

「……まぁ、入団は抜きにしてもだよ。これからも“アルテミス”とは仲良くお付き合いさせてもらうさ。……前にシーナから“ライナとの関係をはっきりさせろ”って言われて、今回腹を括ったとこもあるし」

「えっ、シーナ先輩そんなこと言ってたんスか!? いつ!?」

「お前がザヒア湖の水風呂で整ってた時だよ」

「……あー」

 

 今回のが本当に不意打ちだったら、俺の答え方もちょっと変わっていた……かもしれない。

 いやどうだろう。それでも結局のところ、あまり変わらなかったかも。弱いからな俺は。

 

「シーナ先輩話しちゃったんすかぁ……むううう」

「まあまあ、そう怒ってやるなよ。あいつはライナのことすっげぇよく考えてるんだからな」

「……わかるっスけどぉ」

「これからもシーナの言うことはちゃんと聞いておけよ」

「それは、もちろんっス」

「……そろそろギルド行って、みんなと飲むか?」

「はい!」

 

 昼から続いた二人のデートも、気付けば夕時に近付いてきた。

 そろそろ出来上がったギルドマンたちと一緒になって、ワイワイ賑やかに楽しむことにしよう。

 もしそこでライナの幸せオーラがバレたら……その時はその時で仕方ないんだが、あいつらにからかわれるのだけはすっげぇ嫌だな……。

 

「また伯爵様がギルドにウイスキー配ってたりしないっスかねぇ」

「ビールとかはあるかもな」

「楽しみっスね」

 

 結局、最初から最後まで酒ばっかりの俺たちなのだった。

 

 

 

「ディックバルトさんの腕相撲大会優勝を祝ってェ~……今年の精霊祭も猥談バトル、開催だァ~ッ!」

「イヤッフゥウウウウウウウウウウウウウッ!」

「やるぞやるぞやるぞやるぞぉおおおお!」

「ババァルクウッ!!」

「あっ、シード権持ちが来たぞ! モングレルだ!」

「よっしゃぁああああ~! かかってこいやモングレルゥウウウ!」

 

 で、ギルドの扉を開けると、はい。

 今年も定例会が始まってるみたいっすね。つーかシード権ってなんだよ。このバトルでかつてトーナメント制だったことがあったか? 運営から何も聞いてねえぞ俺は。

 

「モングレル先輩……」

「いや、ライナ……もはやこれは様式美でな……」

 

 俺の後ろにぴったりついてきたライナがジト目で見つめてくる……。

 さすがにスケベなおじさんと付き合うのは嫌か……。

 

「……チャック先輩が掲げてるの蒸留酒っぽいんで、応援してるっス!」

 

 と思ったら現金なだけだった。

 

 ……やっぱライナお前、酒が絡むと恥じらいなくなるよな。

 いいのか? 初デートの締めがこれで……いやライナが良いなら別に良いけど……。

 

 




当作品の評価者数が5100人を越えました。すごい。
いつもバスタード・ソードマンを応援していただきありがとうございます。
これからも当作品をよろしくお願い致します。

ヾ( *・∀・)シ パタタタタタ…



【挿絵表示】

マスクザJ様によるコミカライズ第2巻が発売されました。
発売日は4月25日、ウルリカとライナの表紙が目印です。
(Amazon*-∀-)
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