バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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あんた、嘘つきだね

 

「やあモングレル。何か新しいゲームでも作ってよ」

「……」

 

 それはサリーとギルド前で遭遇したときの、彼女の第一声であった。

 相変わらず話の導入に困らない女だぜ。

 

「突然すぎるのはいつものことだからさておき……なんでまたゲーム?」

「前にモングレルが作ったゲームが面白かったからね。他にも何かあるんじゃないかと思ってさ」

 

 ……サリーには既に俺がケイオス卿だってことはバレてるから、アイデアについて求められるのは別に構わないことではあるんだが……ゲームかい。必要に追われてというよりも暇だから聞いてみた感が強いなこれは……。

 言われてみてちょっとだけ悩んでみたが、タイミングとしてもあまり悪くないように思える。新しいゲーム開発……やってみっか。

 精霊祭の時はケイオス卿絡みで色々と世話になったからな。

 

「……まぁそのくらいなら良いぜ。立ち話もなんだ、中の酒場で会議といこうじゃねえか」

「あ、僕はこれから帰ってご飯食べるから。今度会う時までに考えといてよ。じゃあね」

「おお……」

 

 そう言ってサリーは歩いていったのだった。

 

 ……いやまぁ、良いけどね。どうせ一人で考える部分は多いと思ってたから。

 ただもうちょっとこう……最初の一歩目くらい足並み揃えてくれねえか……? これは俺の贅沢な悩みなんだろうか……?

 

 

 

 そんなわけで、俺はギルドの酒場の隅の方で一杯飲みながらアイデアをまとめている。

 以前バロアソンヌもこのギルドの中で生み出したので、今回も似たような来歴を装うつもりだ。そのためにはサリーが同席していると説得力が出たんだが……まぁ、今更だ。気にしないでおこ。

 

「まあ、パーティーゲームが良いよな……」

 

 バロアソンヌが世間に広まってから、この手のボドゲを自分たちでも作ろうという機運が高まり、まぁ色々なゲームが世に出たものである。出たというか、出ちゃったというか。

 はっきり言ってそのほとんどはクソゲーだったり、すぐにわかる攻略法やらルールの穴があったりと、なかなかインディーズ感が強いものが多かった。

 ただバロアソンヌをパロってるだけのゲームならさほどゲーム性も大きく外れないのであまりクソゲーにはならない。……いや、“プレイヤーを一人選んで財産を全没収する”とかそういうクソみたいなコマのあるようなクソゲーもいくつかあったけどそういうのは別にしてだ。原型があるものに限っては、基本的にそこまで大きく変わることはない。

 対してオリジナリティの高いゲームとなると、これがなかなか香ばしいことになっている。なんか……ゲームを作りたいんだろうねっていうのは伝わるのだが、ルールがゴチャゴチャしてて分かりづらいというか……。

 いやー、まあやっぱあれだよな。素人にゃゲーム作りはわからんもんだよな。素人に限ってゲームを無駄に複雑化させて、プレイヤーを混乱させちまうんだ。全くやれやれですよ。わからないもんですかねぇ、シンプルイズベストっていう概念が……。

 

 新規ゲームは色々と現れたが、世の中を揺るがすような神ゲーはそんなにない。だが、発明のノリで作ろうって奴はそこそこいる。俺は今回のブームによって湧き出たその他大勢に隠れつつ、良いもんを発表してヒット作を出そうかと考えているところだ。

 

「人数は……三人以上くらいで、ギスギスしにくいルールが良いか……」

 

 パーティーゲームなので三人以上推奨。上限は無しが良いだろう。

 短気なやつがキレるタイプのゲームは良くないのでそれは避ける。あと誰かを狙い撃ちにできちゃうタイプのゲームもアウトかな。俺の作ったゲームがきっかけで友情が壊れたり人が死んだりはしてほしくない。

 ここらへんまではバロアソンヌと同じ設計思想だ。

 

「すごろく系が人気なんだよなー……どうすっか」

 

 ボドゲブームみたいなものが起きているが、発端が意識されすぎているせいか世に蔓延っているのはすごろく系ばっかりである。びっくりする話だが、この影響で様々な資材の需要が上がっているそうだ。盤面に使う革や、サイコロなんかもそうらしい。石や牙を使った本格的なサイコロの製造は一個一個手作りなせいで、なかなか注文に追いつけないのだそうな。前にサイコロを専門で作る職人が生まれたなんて話も聞いたが、嘘か本当かちょっと判断がつかない。本当だとしたら真面目に俺のゲームが雇用を生んじまったことになるな……実際、まだブームが続けば食いっぱぐれることもないだろうし……。

 ……すごろく系の製造を専門にやり始めた工房があるなら、またそれ系に寄せたゲームにしても良いか。よし、そうしよう。

 

「ランダムなカード系は難しいんだよな……」

 

 技術的な問題で、トランプみたいに統一された裏面を持つカードの製造は難しい。

 どんな素材でも特有の個性が出てしまうのだ。これをクリアできる素材もなくはないが、コストがとんでもないことになってしまう。大衆向けではない。

 

「シンプルで、必要な道具が少なくて……うーん、まぁ一から考えるというよりは、結局パクリみたいになっちまうが……」

「ようモングレル、なにお勉強なんかやってんだ」

「これからハルペリアを震撼させる最強ゲームを作ろうとしてるんだよ」

「ほーう」

 

 アイデアをまとめていると、暇そうなバルガーがやってきて勝手に相席した。

 そして勝手に俺のアイデアメモを手に取って、知った風に“ふむふむ”とか言っている。本当にわかってんのかお前。

 

「シンプルなゲームが一番ねぇ……まあ俺も難しいゲームは覚えられねえからな」

「バルガーでもわかるくらいのルールにしておかないと子供とか遊べないだろうしな」

「どういう意味だモングレルお前」

「まあとりあえず簡単なゲームってことで、メモに適当なマス目を描いて……よし、こんなもんでいいだろ」

「……なんだ? そんな簡単なボードで完成なのか? モングレルお前、シンプルっつっても限度があるだろ……」

 

 俺がテーブルの上の革に描き記したのは、蛇行しながらゴールを目指すタイプの十二マスほどのすごろくだ。デザインとしては、スタートから山を登り始め、頂上を目指していく感じになる。

 ラトレイユ連峰を意識してちょっとトゲトゲした雰囲気に描いて……ついでに空にはオーロラと、頂上には薔薇を生やしておいた。本当はこんな薔薇ねーけどな。架空の植物だ。

 

「お、それ虹色の薔薇か?」

「色ついてないのによくわかったな」

「ラトレイユ連峰だろ。上手いもんだ。ちゃんと山に見える」

「マジかよ。じゃあもう俺はハルペリアで一番の画家として食っていくか……」

「画家になる前にこのゲームを仕上げてくれよ」

「そうだった。えー、でも二人でやるとあまり盛り上がらないだろうからな……おーいアレックス、こっち来いよ」

「……なんですか?」

 

 呼ばれた時はなんでもない顔だったのが、俺とバルガーが揃っているのを見て露骨になんか面倒くさそうな顔をした。大した用じゃないんだろとでも言いたげだ。よくわかってるじゃねえか……大した用じゃねえよ。一緒にすごろくやろうぜすごろく。

 

「なんですかモングレルさん、今度はまた新しいゲームでも発明したので?」

「シンプルかつ短時間で終わる面白いゲームを作ったぜ。客からの評判も上々だ。次に来るのはこのゲームだぞ」

「まだ1プレイもしてないのにすごい自信だ……」

「こいつ一度当ててるから強く言えねえんだよな……」

 

 財布から三種類の硬貨を3枚ずつ取り出し、テーブルに置く。

 銀貨三枚、大銅貨三枚、小銅貨三枚といったところだ。金貨? そんなもん財布には入れねえよ。

 

「お金賭けるなら僕はやりませんよ……?」

「ちげーって。これは駒の代わりだ。とりあえず今回は銀貨がバルガー、大銅貨が俺、小銅貨がアレックスってことにしよう」

「なんだ、賭けるわけじゃないのか……燃えねえなあ」

 

 金賭けるかどうかで両極端な反応になる二人だが、まあゲーム自体は面白けりゃ楽しめるだろ。

 

「俺達はスタート地点にいる。順番にダイスを振っていって、頂上にある虹色の薔薇を目指して登っていくわけだ」

「……なんだか、別に新しくもなんともない、昔からあるダイスを使った遊びという感じがしますけど……?」

「だな。逆に最近はまるっきり見なくなっちまった。ぐるぐる回るのばっかりだ」

「まあ待てよ。大事なルールはここからだ」

 

 そう言って、俺は残り少ないエールを全て飲み干した。これでジョッキの中は空である。

 俺はそこに、木製の安っぽいダイスを一個、放り入れた。

 容器の中でカランコロンと小気味良い音が聞こえてくる。

 

「ダイスを振る時は必ず、このジョッキみたいに外から見えない筒状の容器の中で振ってもらう。そして、出た目は振った人間だけが確認して、みんなに宣言できる」

「……ん? どういうことです?」

「ピンとこねえよ」

「このゲームでは振った奴が自分で好きな出目を申告していいんだ。ただし、5と6だけは無しでな。1から4までの数字を宣言できる」

 

 出目を自己申告するすごろくゲーム。これは俺が前世で何度か遊んだことのあるタイプのボードゲームだ。

 

「そんなの4を宣言すりゃいいだろ。それが一番早くゴールできる」

「ですよね」

「ただし、他のプレイヤーから“審判(ジャッジ)”を宣言された場合、容器の中のダイスの出目を皆で確認する。本当にそのダイスの目が出たのかをチェックするってことだ。もしもここで、申告した出目が違っていた場合……嘘をついた登山者に天が怒り狂って、ピシャーンと雷を落としてくるわけよ」

 

 俺はマス目の途中に置いていた銀貨を取って、スタート地点横の谷底エリアに移動させた。嘘つき登山者がたどり着く墓場である。……そうだ、ここに骸骨のイラストとか付け加えておこ……。

 

「なるほど。嘘がバレたら進めていた駒が退場になるわけですか」

「俺の銀貨の駒でやるなよぉ」

「いやこれそもそも俺の銀貨だから。……で、逆にこれがもしも嘘じゃなかった場合。審判(ジャッジ)された時にジョッキの中のダイスの目が申告した数値と同じだった場合は……逆に、審判(ジャッジ)を宣言したプレイヤーの駒にコルティナメデューサから天罰が下る。邪な心で疑ってかかった奴にピシャーン、うわー、ゴロゴロゴロ……ドスン。ちーん」

「なんで僕の駒を殺すんですか! 自分のでやってくださいよ!」

「よしよし、だいたいわかったぜモングレル。……ん? けどこれ、ダイスはそもそも1から6まであるだろ。進めるマスの目は4までだったよな。5と6が出たらどうすんだよ。これが出ても進めないんだろ?」

「5と6が出たプレイヤーは必ず嘘をつかなきゃいけない。もちろん、バレたら確実にピシャーンだ」

「……うおお、それはキツいな」

「なるほど……」

「ああそうだ、駒が滑落死したらそのプレイヤーは新しい駒でスタートから登り直しな。だから今回は各々の持ち点三でやる感じだ」

 

 このゲームのダイスは三分の一は必ず嘘をつかなければならない出目になっている。盤面は十二マスもある。よほど妙な幸運を持っていない限り、プレイしていればどこかで嘘をつく必要が出てくるだろう。

 だが、嘘でもなんでも、申告が通ればその出目の数だけ駒を進められる。時に大法螺吹きになるのも悪い戦法ではない。

 

「もしも審判(ジャッジ)で嘘つきに雷を落とせたら、審判を宣言したプレイヤーは1マスだけ無条件で進めることにしよう。ルールはこんなもんだけど、さあどうだ。ふたりともわかったか?」

「難しくはねえな。実際にやってみないとわからんこともありそうだが、まあそこらへんはやってみりゃわかるか」

「とりあえずやってみましょうか。……ちょっと楽しみになってきました」

「よーし、じゃあやるか」

 

 三人でウキウキと卓を囲み、いざテストプレイの始まりだ。

 

「じゃあ最初は発案者がってことで、未来のゲームクリエイターモングレルから振らせていただきます」

「お前は画家になるんだろ」

「運命の……ダイスロール!」

 

 ガラガラとジョッキの中でダイスが跳ね、止まる。俺はその中を覗いて……深く頷いた。

 

「4だ」

「「審判(ジャッジ)」」

 

 俺の駒は登山口で雷に打たれて死んだ。

 





【挿絵表示】

マスクザJ様によるコミカライズ第2巻が発売されました。
発売日は4月25日、ウルリカとライナの表紙が目印です。
[せいろ]∀)
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