バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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予約席の同窓会

 

 ギルドが上手いこと調整してくれたようで、ジャッジの量産はサクサク進められ、すぐに本製品版が売り出された。やっぱこういうのは俺が一人で工房を回ったりするよりずっと早いわ。

 前回のバロアソンヌがなかなかのヒットだったこともあってギルドとしても話を進めやすかったのかもしれないが、それにしても早い。

 ラーハルトさんに“なんでこんなちょっ早なんですか”って聞いてみたら、“工房に新しく入ってきた見習いにやらせる仕事にちょうど良いから”とのことであった。

 なるほど、どうやら俺のボドゲ作りは製造業の入門編扱いされているらしい。まあ良いんじゃないか。こういう小さい物から段々とものづくりって上手くなっていくもんだろうしな。

 

「へえ、これがモングレルの新しいゲームというわけだね」

「ご用命通り、ちっとは退屈しないゲームになったんじゃねえかな。アレックスとバルガーも巻き込んで、色々調整しながら一緒に作ったからな、出来は保証するぜ」

「ふうん、山登りするゲームか……」

 

 貴族街の地下灯火任務から戻ってきたサリーに、出来上がった製品版ジャッジの見本を渡す。

 元はと言えばこいつが“なんかゲーム作れよ”と無茶振りしたから始まったものだ。大部分をこっちに丸投げしたんだからな、広告塔にはなってもらうぜ。

 

「そっちにいる“若木の杖”のメンバーと一緒にプレイして話題になってくれよ。ゴールドランクのパーティーのお墨付きとなりゃ俺としても鼻が高いからな」

「モングレルは一緒にやらないのかい?」

「あー悪いな、今日はこの後予定が入ってるんだ。ゲームの説明はちゃんと書いてあるから、読んでやってくれ。そっちで飲んでるバルガーは何度もやってルール知ってるから、入れてやるとスムーズにいくぞ」

「……んっ? 何だモングレル、今俺の話したか?」

「なるほど、じゃあよろしく頼むよ」

「えっ!? なになに!? 何の話だよ!?」

 

 まったりと飲んでいたバルガーが突如“若木の杖”のゲームに巻き込まれたが、得てして闇のゲームとはそういうものだ。

 脱出したけりゃ勝てばいいのさ……頑張れよ、バルガー。

 

 

 

 ボードゲームを断ったのは別にサリーと一緒にゲームするのがしんどいからとかそういうわけではない。本当に予定があったのである。

 せっかくなんだし、暇な日あるなら集まって話そうぜって感じでな。ギルドマンはこういう時予定を作りやすいから助かるわ。俺がギチギチのスケジュールで生きていくのに向いていないってのもある。前世からずっとそうだ。

 

「よう、ケンさん。予約の時間よりちょっと前だと思うけど、大丈夫かい?」

「おやおや、モングレルさん。ええ、もちろん大丈夫ですよ! 既にご一緒のお客様もいらっしゃってますのでね、ぬふふ」

「なんだ、もう勢揃いかよ。俺が遅刻したみてーになっちまったな」

 

 ケンさんのお菓子屋は今日も満員だ。そんなレゴールでも屈指の人気店でも、ケンさんは俺のために予約を受けてくれた。人の多い時間だし、多分貴族とかそこらへんの偉い人のために空けているテーブルにねじ込んでくれたんだと思うんだが……なんだかちょっと申し訳ねえな。

 けどまあ、終身名誉アドバイザーとしてありがたく利用させてもらうんだけどな。

 

「ウフフフ……おやおや。どうやら少年が来たようだよ」

「遅かったじゃないか、モングレル。俺たちは先に一杯やらせてもらっているぞ」

「素晴らしい芳香だ……まるで果実のように芳しく、処女の血のように香しい」

 

 店の隅、パーテーションで区切られた四人掛けのテーブルに座っていたのは、俺の昔の友人たちであった。

 エルフの野菜売り、カテレイネ。

 ドワーフっぽい木こり、ヴィルヘルム。

 吸血鬼僧侶っぽい神学者、グレゴリウス。

 

 相変わらず見た目だけならやり手にしか見えない連中だが、こんなナリでも昔からの友人たちだ。こうして一つの街で一堂に会することができたのは、なんというか、感慨深いものがあるぜ。

 

「いい店だろ? ヴィルヘルムには教えてた店なんだが、とにかくデザートが絶品でな」

「ああ、ここの菓子は素晴らしい。パン屋の出してる焼き菓子が食えなくなるほどだ。……だからほれ、早く注文しないか」

「ウフフッ……ヴィルヘルムは本当に甘いものが好きだね。昔から変わってなくて嬉しいよ」

「お茶が美味しかったので、楽しみにさせてもらいますよ。……私としましては、窓にカーテンを掛けてくれるというのも助かりますねぇ。入口からの光も遮って貰えるのはありがたいものです」

「太陽光に弱い肌ってのはこういう採光がしっかりしてる店でも大変だよな」

「まさしく。貴族の邸宅など特にそうですよ」

 

 早速テーブルにスイーツが運ばれてくる。

 砂糖漬けの花びらが散りばめられた美しいゼリー、芳醇な酒の香りのする小ぶりなケーキ、そして色とりどりの果物のタルトだ。

 さすが、儲かった金を完全に店のために還元しまくっているのが丸わかりのクオリティの高さだ。ケンさん、絶対にプライベートで金使ってねえんだろうな……。

 

「いやあ……せっかくだしどうだって音頭を取ったのは俺だけどよ。この四人が一堂に会するなんて、本当に驚きだよな」

「そうかな? 私はいずれまたこの四人が集まると思って疑っていなかったよ。ウフフ……」

「ええ、私もカテレイネ殿に同じくです。我ら志は違えども、共に旅をし、国を巡り歩いた仲間。再びこうして会い、盃を交わすだろうと確信しておりましたとも」

 

 カテレイネとグレゴリウスは心のそこからそう思っているようで、気取った風にカップを掲げている。こいつら結構形から入るタイプだから、なんだかんだこの店の雰囲気の良さに上機嫌でいやがるな……。

 そしてさっきからヴィルヘルムは甘いものに夢中になっている。美味いか、そのタルトは。俺も食っちゃおう……。

 

「ウフフ……それにしても、グレゴリウスが貴族に雇われているのは少し驚きだったけれどね」

「だよな。言ったら悪いが、こいつの人生がそんなに上手く転がっていくなんて思えなかったぜ俺は」

「フフッ、本当に失礼な方々だ……今や私はテティアエフ家の学術研究を支える正真正銘本物の神学者なのです。昔のように、モグリだの異端だのという言葉は不適格というものですよ、モングレル殿」

「え、お前神殿から異端扱いされてないの?」

「……いえ、まあ神殿とは折り合いの悪い部分もありますがね……それでも、だからこそ今回の件のように助力を願われることもあるわけですから……」

 

 ゴニョゴニョ何か言っているが、どうやらグレゴリウスはあまり神殿からは良く思われてないらしい。

 そりゃそうだよな。グレゴリウスの研究はヒドロア信仰と噛み合わせが悪い。何が噛み合わせが悪いって、ヒドロアの研究を全然しないからなんだが。

 ……周辺国の様々な宗教と比べて明らかに歴史の浅いハルペリア発の月神は、グレゴリウスの研究対象としてはかなり凡庸というか、つまらないものなのだそうだ。当然、神殿勢力としては面白くない。なので神学者として雇ってくれる機関など見つかるわけねーだろうなと俺等は思っていたのだが……どの世界にも物好きはいるもんだよな。こいつの異端研究のパトロンになろうってんだから世界は広いわ。

 

「むぐむぐ……で、なんだったか? グレゴリウスは今回どうしてレゴールに来たんだっけな? 前に聞いたが、すまんな。忘れちまった」

「祭器……わかりやすく言うところの使い捨てのスクロールですかね。それによって、信仰する神を調査する仕事ですよ。詳しくは話せませんが……別の国からいらっしゃったとある方が、己の職務のために改宗を申し出たのです。元々敬虔な方であったのですが、色々あって意地の悪い人々から改宗を迫られたそうで」

 

 ……別の国から来た? 職務のために改宗?

 

「しかしその方は迷うことなく改宗を受け入れ、私の祭器による儀式を受け入れました。……それまでの教えを捨て、俗世のために捧げられる。並大抵の精神でできることではありませんよ。正直、気の進まない仕事ではあったのですが……とても厳かで、素晴らしいものを見させていただきました」

「ふぅん、改宗か。俺にとっちゃその重さはさほどピンと来んが、敬虔な人にとっちゃ違うもんなのか」

「大きなことじゃないかな。私の故郷には敬虔な老人は多いからね。きっと私たちにとっては、想像できないくらい重いことだよ」

「……国によっちゃ、なおさらだろうな。別の国ってのはサングレールか?」

「いえ、モングレル殿。詳しくは話せません」

「おっとそうか、すまんな。……でもどんな人だったのかは知りてえなぁ。それだけ精神力が強い人ってのは、どんな面してるのかね」

 

 グレゴリウスは口の端に垂れた紅茶を上品に拭い、暫し話すかどうかを悩んでみたが、やがて“これくらいならいいか”と頷いた。

 

「屈強なお方ですよ。表情は、どこか寂しそうな雰囲気がありましたが。とてもお優しい印象がありましたねぇ」

 

 ……わかった。多分特定できたわ。それ多分アーレントさんだろ。

 えー、なるほどな。アーレントさんか……。

 

 詳しい話はこれ以上はグレゴリウスもポロリしてくれないだろうが、きっとアーレントさんがハルペリアの特にクソみたいな貴族に圧力を掛けられ、棄教しろとでも迫られたのだろう。

 なんでそんな話になったのかわからないし、外交官相手になにやらかしてんだって感じではあるが、ハルペリアも一枚岩ではない。へんなところでイチャモン付ける奴がいてもおかしくはない。一国民としては存在してほしくないけどな……。

 

「まあ、とにかく私は仕事を果たしたわけです。普段使えないような祭器を起動できて実に心が躍りましたねぇ……ククク……」

「相変わらず魔道具が好きだね、キミは」

「あ、魔道具という表現は正確ではないので訂正していただけますか、カテレイネ殿。以前も言いましたが本来は祭器と呼ぶべきものであって……」

「ウフフ、この感じ懐かしいね」

「ああ、懐かしいな」

「こういう部分で懐かしさを感じたくねえよ俺は」

「まあ聞いて下さいよ。それでですね……」

 

 こういう時こそなっげぇ話の腰を折るためにボードゲームが欲しくなるな……。

 せっかくだし新発売のジャッジをひとつ持ってくりゃ良かったわ。

 




2025/8/29に小説版「バスタード・ソードマン」6巻が発売されました。ウルリカとレオの表紙が目印です。
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特典内容は以下の通り。

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メロブ長編:神殿の聖遺物を見に行こう
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ゲーマーズ長編:爽やかレオと妬ましチャック
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マスクザJ様によるコミカライズ第2巻が発売されています。ウルリカとライナの表紙が目印です。
[せいろ]*・∀)
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