バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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あぶないぜバロアの森

 

 最近、バロアの森でちょっとした事件が起きた。

 “若木の杖”の新入り、ビタリ君が怪我をしたのである。

 

 王都の学園に通っていたビタリは、それまでほとんど実戦経験はなかったことだろう。フィールドワークの経験も浅かったに違いない。俺自身はそんなにビタリと話したことはないので推論でしかないが、眼鏡掛けてるしデータキャラっぽい雰囲気あるし、俺の見立てはおそらく間違っていないだろう。

 だが彼が怪我をしたのは、彼の油断だとか経験不足だとか僕のデータに存在しない何かのせいではない。

 本当にマジでただ単純に運悪く、サイクロプスと遭遇してしまった。それだけなのである。

 

「バロアの森……怖すぎる……もう絶対行きたくない……」

「……もういい加減、切り替えましょうよ。普段はそこまで危なくないんですから……レゴールを拠点にして、森に全く入らないわけにはいかないんですよ」

 

 “若木の杖”はほとんどが魔法使いであり、彼らの任務のほとんどはレゴールの中で完結するものだ。各種魔法を利用した生活の補助。魔法使いにとっての魔法は戦闘用のものも多いが、普段使いできるものこそ、より重宝されるのである。

 かといって、レゴールのギルドマンとして生きていくのであれば、近場のバロアの森くらい散策できるようにならなければよろしくない。実際に食っていけなくなるなんてことはないだろうが、魔法使いの人らも彼らなりの価値観があるようで、戦えない魔法使いを恥だと思う人は多いらしい。だからビタリも、ちょくちょくバロアの森に潜っては少しずつ魔物討伐に慣れていったのだが……。

 

「サイクロプスがあんなところに現れるなんて……危険すぎるでしょう、あの森! 魔法使いがいくべき場所じゃない……」

「……学園の人間ってみんなそうなんですか? 臆病すぎません……?」

「くっ……! お、臆病など! 僕はただ、事実を述べたまでですがね!? 実際、こうなってるんですから!」

 

 ポーションで治したばかりでまだ念の為に固定している腕を掲げて、ビタリはミセリナに反論した。

 ミセリナは不機嫌そうにため息を吐いている。

 

 ビタリは腕を折ってしまった。運悪く森の中から現れたサイクロプスの殴打かなんかが杖に掠ってしまい、軽くふっ飛ばされた上に折れたのだとか。

 幸いにして、サイクロプスはその場に居合わせていたヴァンダールが速やかに鈎爪付きのガントレットで心臓を一突きして仕留めたが、ヴァンダールはサイクロプスに気付けなかったこと、そして後衛のビタリを危険に晒したことにひどくショックを受け、今はちょっと寝込んでいるらしい。なんでお前が寝込むんだって感じではあるが、それだけヴァンダールは繊細で優しいのだろう。それに、近接役の自分が後衛の仲間を守れなかったら……そう思うと強い自責の念に駆られるのも仕方ないかと思ってしまう。

 だがとにかく、サイクロプスとの遭遇は本当に不意のことだったのである。さっきから弱気になっているビタリにずけずけとエールだか詰りだかわからない言葉を送っているミセリナの言は少々辛辣に過ぎるところはあるが、“運が悪かっただけ、切り替えていこう”というのは、俺としても賛成したいところだ。

 

「災難だったなビタリ。まあけど、たまにはそんな日もあるさ。ヴァンダールも索敵をサボってたわけじゃないだろうし、本当に運が悪かったんだよ」

「運が悪いって……そんなことで」

「世の中全部が全部、理由付けできることばっかりじゃねえからなぁ」

 

 ギルドマンとして働いていると、本当にそれを強く実感できる。

 真面目にコツコツやっている奴がある日、意味もなくチャージディアに突き殺されて死んだり。常に迂闊で馬鹿なやつに限って、どういうわけかピンピン長生きしてることもある。不幸は時々、由来も因果もなく頭の上に落ちてくるものだ。

 

「まあ、しばらくは怪我の療養と割り切ってゆっくりして、治ったらまた少しずつやってきゃいいだろ。杖が折れてなくてよかったじゃねえか」

「……はい、ありがとうございます、モングレルさん。それもそうですね。今怯えても勇んでも、何もできませんし」

「……そうですよ。けど、もう二度と森に行かないとか、そういう馬鹿なこと言うのやめてくださいね」

「それはほらっ、勢いというか……言葉の綾ですよ! ちゃんと仕事はします! 治ったら!」

 

 どうやらミセリナはミセリナで、彼女なりにビタリを奮起させようとしていたようである。なるほど、新人も“若木の杖”で結構仲良くやれているようで何よりだ。

 それはそれとして、励まし方がちょい下手すぎるんじゃないすかね……?

 

 

 

 だがしかし、ことはサイクロプス出現だけで終わらなかった。

 数日後、他にもまた別の厄介な魔物が、バロアの森に現れたのである。

 

「森の巨木採取地付近で、グリムリーパー……の、なり損ないのようなアンデッドが出現したとの報告が上がっている」

 

 その日、副長のジェルトナさんはギルドに居合わせた俺達に向けて、ひとまずの速報を伝えてくれた。

 グリムリーパー。ほとんど聞き慣れない魔物の名前に、ギルドマンたちがざわついている。

 

「グリムリーパーってなんだっけな、強いやつだよな……?」

「スケルトンソルジャーみたいなやつだろ」

「なり損ないって?」

「昔先輩から危ないって聞いたぞ」

 

 バロアの森も多様な魔物が生息しているが、アンデッドとなるとそこそこ珍しい。人間がそこまでいないからな。仮に森で果てた人間がいて適当なアンデッドになったとしても、中には機嫌の悪い魔物なんかもいるので、そういう連中に小突かれて二度目の死を迎えるせいだ。戦場なんかだと、あまり珍しくはないのだが。

 

「グリムリーパーについて説明しておこう。グリムリーパーというのはまあ、アンデッドの一種だが……特にハルペリアに多く存在する、強力なアンデッドの一種だ。ほぼ人間由来で、曲剣や鎌などの曲がった刃物を持った死体が極稀にこのグリムリーパーになると言われている。さっきそこの誰かが言ったように、普通のスケルトンなんかとは一線を画す力を持っている。ちなみに、スケルトンソルジャーどころじゃないぞ。力はサイクロプス以上を見ておいたほうが良いし、曖昧にふらつく連中と違って明確に人に敵意を向けて襲いかかってくるからね」

 

 皆がどよめいた。サイクロプス以上と言われると、さすがにビビるのだろう。まあ怖いよなサイクロプス。威圧感あるしな。かく言う俺も、グリムリーパーと戦ったことはない。と、思う。多分。知らない間に倒してたりしたらわからんな。スケルトンソルジャーと見分けられるんだろうか。

 

「遠目に発見した者の報告によると、武器は曲剣タイプ。そしてアンデッドとしての力が宿っているのはどうもその曲剣の方みたいでね。ゴブリンの死体を操って、森の奥で暴れていたのだそうだ」

「ゴブリン……グリムリーパー?」

「なんか弱そうだなそれ……」

 

 剣が本体とかいうレアケースなアンデッドのくせして、取り憑いた対象がよりによってゴブリンの死体かい……当たりなんだか外れなんだかわからんなそれ。

 

「いやいや、油断はやめておいたほうがいい。グリムリーパーは戦いを繰り返すと、そのたびにどんどん強力になっていくという話だ。ゴブリンの死体を使っているとはいえ、放っておくとどのような災いになるかわかったもんじゃない。……実際、発見報告では同族のゴブリンたちを襲っていたという。我々ギルドとしては、静観するつもりはさらさらないよ。早期の討伐を推奨するつもりだ。我々はこのグリムリーパーを変異個体、“剣霊ワットタイラー”として認定し、特別に討伐報酬を設定する」

 

 ジェルトナさんはそう言って、お尋ね者の紙を掲示板にドンと貼りだした。

 ゴブリングリムリーパーがレベルアップしちまう前に、さっさと駆除しとこうぜってことか。わかりやすい任務だぜ。……お、なかなか報酬も美味いじゃねえか。

 

「変異個体か、おっかねー……けど、金はうまいな。危険とはいえゴブリンなら、強くなる前だったらまだ割に合う仕事か?」

 

 バルガーはヒゲを撫でながら、皮算用しているようだ。お前はいい加減歳なんだからこういうブリーフィングの後にちょっとエキサイトしちゃうのやめとけよ。そろそろ安定を取れよ安定を。

 

「なあ、モングレルはどうするよ? ってお前はこういう危険な仕事はやらねえか」

「いや、俺も狙うぜ、このワットタイラーってやつの討伐」

「え? なんか珍しいな。お前がこの手の討伐にやる気になるの」

 

 バルガーは心底意外そうに俺を見ていた。まあ、確かにほとんどこの手の危険そうな仕事は避けてきた俺だ。よく知っている分、驚きもするのかもしれない。

 

「まあ、俺も金が欲しいんだよ。しかも相手はゴブリンだぜ? こんなボロい依頼、狙わないわけにはいかんだろ」

「……油断すんなよぉ? お前……」

 

 うっわ、バルガーにだけは言われたくね~……マジで……。

 




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