バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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グリムリーパーの倒し方

 

 バロアの森に現れためちゃつよアンデッド、グリムリーパーの剣霊ワットタイラーに賞金が懸けられた。

 おそらく本体は曲剣に取り憑いたアンデッドらしいという話なのだが、それも調査中の人らが遠目から見て判断したということなので実際のところはようわからん。だがギルドがしっかり賞金を出すあたり、ある程度の確証を持ってのことなのだろう。

 

 まあ、こっちは下っ端のギルドマンだ。俺らからすれば、標的を討伐して金さえ貰えりゃ何も文句はねえ。

 へへへ……なにがグリムリーパーだ。所詮はゴブリンがちょっと強くなっただけだろ? チョロい任務だぜ。報酬はいただきだァ!

 それじゃあ早速バロアの森に……行く前に。

 

「グリムリーパーについて復習しておこう……」

 

 俺はギルドの資料室に来た。バロアの森に直行はしません。いや怖いし。よく知らん魔物と戦いたくねえもん俺……。

 ファンタジー世界の魔物とかわからん殺しの塊だからな。ちょっとでもわからなかったりうろ覚えだったりする魔物が相手になる場合、自分の手の届く範囲で良いから可能な限り下調べしておくべきだ。世の中にはパワーやタフネスだけじゃどうにもできない能力を持った魔物もいるんでね……。

 

「……とはいえ、情報は少ないな」

 

 アンデッド。それはスケルトンをはじめとする、不死者たちのカテゴリーである。

 スケルトンやウィスプなんかは比較的ポピュラーなので、大して珍しくもない。特にウィスプ、人魂の魔物は町中ですら見ることがある。墓地なんかだと時々フワフワと浮いてるしな。

 しかしその反面、グリムリーパーなんていう俺でもあまり聞いたことのない種類ともなると、ギルドの資料室でもほとんど情報が得られない。魔物の研究だってされてはいるのだろうが、いまいち曖昧というか、そのくせ所々客観的じゃない情報も多い……。

 

「あら、モングレルさんもグリムリーパー退治?」

 

 そんな感じで資料を読み漁っていると、若い女から声をかけられた。

 長く艷やかな黒髪に美しい容姿。近頃ギルドのアイドル的存在になりつつあるルーキーだ。

 

「おお、ダフネか。それと愉快な仲間たち」

「俺らは愉快な仲間扱いか……」

「“ローリエの冠”の盾に対してひどい物言いだな、モングレルさん」

 

 ダフネ率いる男二人はかつてギルドマンとしてはちょっと……かなりアレなところのある奴らだったが、ダフネを団長とするパーティーに所属してかなり馴染んでいるようである。多分それはダフネが肝っ玉母ちゃん気質な美女だからってだけではないだろう。単純にダフネの舵取りが相当に上手いのだ。悪い話とか全然聞かねーしな。

 しかし……“ローリエの冠”もグリムリーパー討伐に参加するつもりなのか?

 

「グリムリーパーは強いらしいぞ。お前らには早いんじゃないか?」

「らしいわねー。だからちょっと資料を確認しようと思って」

「俺の盾ならグリムリーパーの一撃を受け止められるぜ?」

「ローサー、黙ってろよ」

「なんでだよロディ、さすがに今回ばかりは俺の盾の出番だろ」

 

 魔物の下調べをする姿勢は実にグッドだ。ギルドマンの長生きの秘訣をよくわかっている。

 だがチャレンジ精神を燃やしすぎるのは短命の秘訣だぞ。

 

「ダフネたちはサイクロプスと戦ったことあるか?」

「……ないわねぇ。強いっていうのは聞いてるけど」

「俺もない。会ったこともない」

「イメージトレーニングでは勝ってる」

 

 根拠のない自信に満ち溢れすぎてるローサーはまぁ無視するとして……。

 

「簡単に言うと、ちょっとしたパンチがクレイジーボアの突進級の人型魔物な」

「お、おおお俺の盾なら突進くらいなら受け止められる!」

「問題はそのパンチとかが直線的に来るとは限らないのがミソでな、たとえばこんな感じで」

 

 俺は右フックをゆるーく放ち、ダフネの側頭部の寸前で止めてみせた。

 

「大振りで攻撃してくるんだが、これがまぁ剣とか盾を迂回して直接攻撃してくるわけだ。身体がでかいから俺のこんなフックよりもずっと大げさに来るわけよ。場合によっちゃ左右からな。人なんて簡単に吹っ飛ぶぞ」

「……ええー……厳しいわねそれは……」

 

 サイクロプスは三メートルの巨人だ。そして攻撃方法は人型魔物そのままである。左右からガッと掴みかかってくるだけでもかなり対処の厳しい相手だ。そして当然力も強い。“若木の杖”のメンバーであっても不意打ちとはいえ一方的に怪我をする相手だ。本当に振りでもなんでもなく油断できる相手ではない。

 

「そんなサイクロプスのパワーとやりにくさがそのまま小型化して武器を持ったような感じ……が、グリムリーパーだそうだ。しかもアンデッドのくせして武器の扱いも上手いから、サイクロプスよりもずっと強敵だって書いてあるぜ。この本にな」

「……本当だ、書いてある」

「挿絵もあるな……けどこれはゴブリンじゃないのか。人間のグリムリーパーか……」

 

 本の挿絵ではゴブリンでも曲剣でもない、大鎌を持ったゾンビみてえなやつが描かれている。こうしてみると今回の剣霊ワットタイラーは相当特殊なようだが、カタログスペックを見るに全く安心はできない相手だ。

 とはいえ、完全に勝機がないとまでは言わない。

 

「今回の場合は、剣を持ってるのがゴブリンの死体だってのが救いかもしれないけどな。人間と比べたら多少は戦いやすくはなってるだろう。サイクロプスほど無軌道な攻撃も、多分しない……はずだぜ。俺の個人的な見立てだけどよ。だからまあ、ローサーのデカい盾も有効っちゃ有効ではあるな」

「だよな? ゴブリンのアンデッドなら勝てる気がしたんだよ俺らは」

「報酬も美味いし、実績作りとして悪くない相手ではあるんだよな……俺達とダフネで話し合って、前向きに考えてはいるんだ」

 

 ローサーとロディは乗り気だ。ダフネの顔色を見るに、こっちもあまり変わりはない。

 

「まぁなぁ。どっかしらで金星は飾りてえもんなぁ……危ないぜって俺も言いたいけど、どっかしらで活躍しておきてえもんな」

「そうなのよ」

 

 ギルドマンは派遣労働のようでありながら、同時に人気商売でもある。

 腕っぷしの強さをアピールしていかないとなかなか良い仕事にありつけないし、昇級も遅い。当然真面目にコツコツやっていくのは何よりも重要なのだが、それはそれとして誠実さと強さを両立させなければいけないのである。ミレーヌさんも真面目なギルドマンに優しいように見えて、ちゃんと腕の立つギルドマンに優先的に良い仕事を割り振ってるしな。

 だからまあ、低ランクで長々と足踏みしたくないギルドマンが功を求めるのもわかる。焦るなって頭ごなしに言えるもんでもないのもわかる。

 実際、今回のグリムリーパーは強さ的にもなんとかなりそうな感じがするしな……。

 

 俺? 俺はもちろんそういう戦功には全く靡かないタイプなんでね……。

 今回だけ特別ってやつだ。

 

「……ダフネの装備は? 何持って行く予定なんだ?」

「私は手斧ね。アンデッド相手だとダートや投げナイフじゃ怯まないでしょうし、何本か用意して……あとはアンデッドに効きそうな油壷に、神殿で聖別してもらった効くかどうかわからない聖水と……あとはその他色々ってとこよ。かなり大荷物になりそうだわ。いくつかはロディとローサーにも持ってもらうつもり。特にロディには色々持ってもらわないとね」

「はいはい……わかってますよ。そういう役目だ、俺は」

 

 おお、しっかり用意してる。その辺りちゃんとわかってるならまあ平気か……。

 投げナイフを大量に用意するとかだったらツッコミ入れてたところだぜ。

 

「それだけ入念に準備してれば問題ないだろう。あとは気をつけて探索するだけだな。頑張れよ」

「ええ! モングレルさんに先を越されないようにしないとね!」

「お、よくわかってるじゃないか。今回は早いもの勝ちの仕事でもあるからな。……ダフネもついにこの俺と同じ土俵に立ったってわけか……感慨深いもんだぜ」

「同じギルドマンとして話せるのも嬉しいわね。そうだ、じゃあモングレルさんも“ローリエの冠”に入らない?」

「ローサーがいるから……じゃなくて俺はソロの方が性に合ってるから遠慮しとくよ」

「今俺がいるからって言わなかった!?」

「はははは」

 

 段階を踏んで成長を続けてきた“ローリエの冠”も、ついにジャイアントキリングに挑戦だ。

 まあだだっ広いバロアの森でそう都合よくネームドモンスターに会えるわけもないんで、いつかかち合った時のための予行演習と思って挑むと良いんじゃないかね。

 今回はゴブリンゾンビっていう字面の弱さも相まって、競合他社が多そうだからな……本当に数日以内に討伐されそうな気がするわ。

 

 

 

 ちなみに“アルテミス”の連中はというと、貴族街の梁だか庇だかに住み着いた鳥を駆除する仕事がポツポツと入っているせいで本格的な討伐には出られないのだそうだ。

 後から聞いた話ではあるが、ライナもウルリカも討伐に出られないことを非常に悔しそうにしていた。

 まあ、あらかじめ指名依頼が入っていたらなかなかね……時間かけて討伐任務に臨むことはできないからな……。

 

 




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マスクザJ様によるコミカライズ第2巻が発売されています。ウルリカとライナの表紙が目印です。
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