バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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爺さんの昔話

 

 俺がブレーク爺さんを苦手としているのは、いやそもそもブレーク爺さんが苦手じゃない人なんてほぼいないのだが、俺の場合は特に苦手な事情がある。

 というのも、俺がまだレゴールに来て日が浅い時に、数日程度ではあるがこの人の世話になったからだ。今にして思えば絶対に借りを作っちゃいけない相手から恩を買ってしまったという大チョンボなのだが、当時の俺に誰が地雷かなどわかるはずもなく……。

 そのままフェードアウトしていければ良かったのだが、俺を見かけるとブレーク爺さんはちょくちょく絡んでくるし、俺としても借りがあるとぞんざいな対応ができないといいますかね……まぁ、俺とブレーク爺さんの関係はそんな感じだ。

 もちろん、さすがに最近の俺は立ち位置を確立してきているし、今後守っていかなければならない物も増えてくるだろう。いつまでもズルズルと、ブレーク爺さんの凄みに気圧されたままではいられない。俺は真面目なギルドマンで通ってるんでね……次爺さんが何かやらかしたら、普通にスッと遠ざけますよ俺は。

 

「モングレルよぉ、お前今までユニークぶっ殺したことあるか?」

 

 道中、剣で蔦を払いながら進むブレーク爺さんがそんなことを聞いてきた。

 

「いやー、ないよ俺は。そう簡単に会えるもんでもないでしょ」

 

 確かにユニーク系の魔物を討伐したことはない。と、思う。多分だが。

 でも会ったことはそこそこある。具体的に言えば冬の森でちょくちょく会うし、ホットサンドをシェアしたり一緒にサウナ入ったりもした。

 

「昔バロアの森で“ジャックリー”とかいう厄介なユニークが現れたことがあってな。知ってっか?」

「知らないな。いつの話だい?」

「五十年だか、四十年か?」

「そりゃ知らねえわ……」

 

 ベテランと呼ばれている人だって、必ずしも生まれも育ちもレゴールってわけじゃないからな……当時を知ってる人はかなり少ないんじゃないだろうか。

 

「どの魔物のユニークなんだいそいつは」

「“簒奪竜・ジャックリー”。テリジノゲッコーのユニークだな」

「テリジノゲッコーかよ、そいつは珍しいな。バロアの森じゃほとんど見ないぜ俺」

「昔はちょくちょく見かけたんだがな。まあ、食いでのある連中じゃねえからどこ行っても良いんだがよ」

「テリジノゲッコーのユニークかー……大人しい魔物なんだけどなぁ」

 

 テリジノゲッコーはゲッコータイプ、つまりヤモリ系の魔物だ。

 特徴的なのは戦闘形態になると両足で立ち上がり、両手に備わる長い爪で引っ掻いてくるってことだろうか。農具によく使われている手鎌と同じくらい立派なリーチがあるので、引っかかれると普通に怪我をするタイプの魔物だ。

 しかしサイズはゴブリン程度だし、基本的に気性も温厚な連中である。こちらから手を出さなければ滅多に襲いかかっては来ないし、テリジノゲッコーのメインターゲットは下草に隠れる昆虫類である。両手の爪で草を刈りながら虫を捕食するって感じの生態だな。

 

「大人しいってのは、自分が弱いってわかってるからだろうよ。だがユニークの“ジャックリー”はバカみたいにデカかった。それこそ、サイクロプスくらいはあったな」

「化け物っていうか、もはや別種だなそれは……」

「デカく強くなっちまうと、もうそいつにとっちゃ小さい人間なんざ虫と一緒よ。爪でガッと掻っ捌いて食っちまう。ギルドでも討伐が組まれたもんさ……なあ、そこで何人死んだと思う?」

 

 ブレーク爺さんは何が面白いのかニヤニヤしながら聞いてきた。

 仮にクッソ人が死んでたとしても笑うところじゃなくないっすか? かといって“実は誰も死ななかったんだぜ”っていう真っ当なオチを用意してくれるタイプではないしな……人が大勢死んだらそれはそれで普通に笑うタイプの人だよこの人は。

 

「えーわっかんねぇ。サイクロプスよりも動きは良さそうだけどなぁ……五人くらい死んだの?」

「少ねえよ。十三人も死んだんだ。パーティー2つとソロがポツポツってな。フッヘヘヘ」

 

 すげぇ死ぬじゃん……そしてやっぱ笑いどころじゃないじゃん……。

 

「誰も戦った経験のねえ魔物だかんよ、やっぱ意表を突かれちまうんだろうな。鋭い爪でザックリやられて、生半可な革鎧を着けてる連中はみんなズタボロよ。あの頃は酷かったぜぇ。森の中に肉付きの装備の破片が転がってるんだからよ」

「ひでえ話だ。……ああ、テリジノゲッコーは木の上にも登れるもんなぁ。考えてみると、探すのも大変そうだ」

「そう! それが大変だったんだ! いや、実を言うとその“ジャックリー”を討伐した集団の中に俺もいたんだがよ、森の中を歩いてたら急に上から降ってきやがってよ! あの野郎そん時の切りつけだけで二人も殺してやんの! すげぇだろ!?」

「意外なくらい身近な人が死んでるじゃん……え、でもブレーク爺さん討伐したのか。すげーな」

「もうみんなで半狂乱になって、クッソ硬ェ皮をガンガン切りつけたり刺したりして、そんで殺したんだ。格好の良い討伐では全くねぇな。血腥いリンチみてえなもんだった」

 

 囲んで剣で叩く。まぁ、王道の仕留め方ではあるけどな。確かにスマートではないかもしれない。味方をやられて後手に回ってだとなおさらに。

 

「けどよ、それでも報酬は良いもんだったぜ? それまでにギルドマンが何人も死んじまってたからよ、ギルド側も報酬を引き上げてたんだ。戦いで怪我したやつは治療費に使っても足が出るくらいだったけどな、俺は儲けた。結構な人数で討伐したのにだぜ? 良いもんだぜユニーク討伐ってのは。ハッハッハ!」

「ははは……」

「だからモングレルもシケた面してねぇで楽しめや! ユニーク討伐なんて最高のチャンスだからよ!」

「……あれ? ひょっとして今の話俺のやる気を出させるために言った?」

「当然だろぉ!? 他に何があんだよ!」

「いや人めっちゃ死ぬ話でモチベーション上げろってのは厳しいぜブレーク爺さん……! いや報酬がデカいのは嬉しいけどよ!」

 

 とまぁ、はい。こんな感じでブレーク爺さんの感性はちょっと……結構俺と違うわけなんですわ。

 ジェネレーションギャップというよりはもうちょっと別の言葉が必要な気がする。そしてそれが悪口になりそうな気がするから……深掘りはやめておく……!

 

 ……それに、まぁブレーク爺さんなりに俺を元気づけようとしてくれてたわけだしな。その辺りの気遣いには素直に感謝しておくよ。

 まあそのシケた面ってのもブレーク爺さんと一緒に行動しなきゃいけないって部分が大半なんだけどな!

 

「こっから先は道が荒れるな。モングレル、その“ワットタイラー”ってのはどこに出る?」

「わかんねえ。ただ、アンデッドだから水場に出るってわけでもないだろうな」

「だな。水の必要のねえ連中だ」

「それでもアンデッドは生前の記憶を元に動く部分もあるから……歩きやすい道を歩こうとはするんじゃねえかな。わざわざ斜面を好んで歩こうって連中でもないだろ」

「それもそうだ。……なんだ、結構普通の探索になっちまうか」

 

 ブレーク爺さんは言いながら、さっき焼いた馬の肉を。ムシャリと齧った。

 よく見ると腰に着けたS字フックのような金具に、焼いてカピカピに乾燥した肉を何枚も吊るしている。すっげぇワイルドな行動食だ……。

 

「……あー、爺さん。俺は結構北の方進んでいくつもりだぜ? “ワットタイラー”が出てくるとも限らないし、骨折り損になる可能性も結構ある。それでも一緒に来るつもりか?」

「なんだよオイ、俺がいたら邪魔になるってか? おお?」

「いやそういうわけじゃないけどさ……暇な探索になるぜ?」

「そん時はそん時だろ! ガハハハ!」

 

 おお……そうか……いやまぁ、ブレーク爺さんがそこまで言うなら良いんだけどさ。

 俺としても一人で探索するよりは誰かと話しながらの方が退屈しのぎになるしな。

 魔物との不意の遭遇を減らせるだろうし、悪いことじゃない。そう、悪いことじゃないんだ……今はそう自分に言い聞かせる……。

 

「いくつか作業小屋を中心に回って、獲物がいたらラッキー。いなかったら飯が無くなる前に帰る。ブレーク爺さんもこんなもんでいいだろ?」

「おうよ、悪くねえ。空きっ腹抱えてまでやることじゃねえからな」

「よし。じゃあまあ、ひとまず二、三日ほど探索して様子を見とこうか」

「おう、そうすっか」

 

 そんなわけで、俺とブレーク爺さんの探索行が決定した。

 ……性格に難はすげぇある人だが、行動力は高いし戦闘力もあるから、足を引っ張られるなんてことはあまり考えなくても良いだろう。その点は俺もブレーク爺さんを信頼している。

 

「……ところでブレーク爺さんのそれ、バスタードソードだよな。好きなのかい? バスタードソード」

「ああ? 別に好きでもなんでもねえよ、安いから買ったんだ」

「あ、そう……」

「武器なんてもんはとりあえず折れるまで使うもんだろ、ガハハハ!」

「思ってる以上に愛着ねえなあ……」

 

 バスタードソード使いに悪いやつはいない……という自説を唱え続けてきた俺であるが……うん、例外もあるよな。

 ……いやでも、最近見たバスタードソード使いがローサーとかブレーク爺さんってのがな……ちょっと偏るにしても限度があるだろっていうか。

 もしやこれって逆張り説か……? いやいや……俺だけでも模範的なバスタードソード使いになるから……俺がこの業界を引っ張っていくぜ……。

 

 






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