バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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意志のある死体

 

 とりあえず、ダフネがはぐれた地点を目指して森を進むことにする。

 道中は真っ直ぐ急いで行こうか、作業小屋をチェックがてら経由して向かうかで悩んだが、結局作業小屋を経由しながら進むことにした。

 というのも、それが一番俺にとって馴染み深いルートだからだ。バロアの森は慣れたもんではあるが、俺でもちょっと知らない場所に入り込むと道に迷うことがある。この大事な時に道に迷うなんてことはしたくない。それに、多少寄り道しようとも道中急いで進めばいいだけの話である。どうせソロなんだから、いつもより身体強化を強めにかけて小走りで行くことにしよう。

 強化さえしっかり掛けてりゃ、仮に日陰者に襲われても一撃死ってことはないだろうしな。

 

 そんな感じで夏の森をサクサクと進んでいるのだが……ブレーク爺さんの言うところのよくねぇ雰囲気が出てるのか、確かに森の空気がちょっと違う……ような気がする。

 魔物もまぁ確かにいないような……気がする……いやどうだろわからん……なんか違うんかな……鳥とか普通にいるしな……魔物の気配がよくわかんねえのはいつものことだしな……。

 

 ひょっとすると既にどこかで眠りこけてる日陰者の気配をスルーしてしまっただろうか……森を駆けながらそう考えていたところ、ようやく人の気配を察知した。

 いや人というか、集団の気配だ。

 

「止まれ! それ以上近付くなら撃つよッ!」

 

 いや気付いたっていうか、制止の声をかけられてから気が付いた。

 だが聞き覚えのある声だ。知り合いに撃たれたくもないので、俺は大人しく立ち止まって手を上げた。

 

「俺だ俺、モングレルだよ」

「……なんだ、モングレルかい……やたらとすばしっこくこっちに近づいてくるもんだから、何かと思ってヒヤヒヤしたよ……」

「うお、モングレルじゃねェかよ~! びっくりさせんじゃねェよな~!」

「悪い悪い。こういう時にモタモタ歩いてるわけにもいかねえからさ」

 

 俺が遭遇した集団は、哨戒中の“収穫の剣”の面々であった。

 ディックバルト、アレクトラ、チャック、バルガーその他大勢。多少の抜けはあるが、ほぼみんないるんじゃないだろうか。普段は結構バラバラな主要メンバーが一丸となり、装備も適当なものじゃなくガチのものを引っ張り出してきての哨戒だ。“収穫の剣”かちょっと疑わしいレベルで普段と違う。

 

 特に団長のディックバルトなんかは、普段あまり装備している姿を見ないツノゼミのヘルムまで装備している。四つの球と角があしらわれた鈍色のヘルムは、ディックバルトの巨躯も相まって非常に威圧的だ。一瞬普段の性格を忘れそうになってしまう。

 

「――モングレルは一人で捜索任務を受けているのか」

「ああ。目をかけてる後輩が森で行方不明になってるからな……そいつの捜索をひとまず念頭に置いてる。ダフネっていう、“ローリエの冠”のリーダーなんだが」

「ダフネちゃんかよぉ~……クッソ~……!」

「“収穫の剣”は誰か見つけたか?」

「俺等は死体を見つけたよ……行方不明だったブロンズが二人だ。防具の上から心臓を刺し殺されてた。モングレル、お前も気をつけろ。その格好じゃ……いや、敵の刺突の鋭さから考えると、いっそ中途半端な防具は必要ないかもしれないけどよ」

 

 会ったついでに情報交換をしておく。が、特にこれといって目新しい情報はない。

 “収穫の剣”は敵と遭遇しておらず、見つけたのは被害にあったギルドマンだけのようだ。

 

「俺は作業小屋経由で北の方に行く。お前ら、集団で動いてるからって油断するんじゃねえぞ」

「うっせぇ~! ブロンズ3が説教垂れてんじゃねェよ! お前こそ気をつけやがれ!」

「はいはいありがとう」

 

 案の定俺の大荷物と軽装備は“収穫の剣”の皆から心配されたし、一緒に行動しないかとも誘われたが、固辞してソロでの捜索を続行する。

 気持ちだけありがたくもらっていくぜ。俺はソロで動いたほうが間違いなくパフォーマンス出るからよ……。

 

 

 

 普段であればもうちょっと自重して進むような森の道を、ちょっと軽挙なくらい早足で進んでゆく。

 右手には抜き身のバスタードソードを握りしめ、ちょっと邪魔そうな枝葉や蔦をサクサク処理しながら、下から上まで見逃さないよう、視点をぐるぐる動かしつつの移動である。それなりに歩き慣れた道じゃなかったら、これだけで簡単に迷ってしまうような激しい視点移動だ。

 しばらくゲームだったら絶対に3D酔いすること間違い無しの首振りを続けていたが、その甲斐もあってか、俺はなんとか茂みの奥にある異物を見逃さず、発見することができた。

 

「おいおい、死体かよ……酷いことしやがる」

 

 それは、茂みに半分埋まるようにして倒れ込んでいたギルドマンであった。うつ伏せに倒れた背中には広く血が滲んでいる。倒れてからそこでまだ息があったのだろうか、近くの土は少し荒れていた。

 

「俺一人で持ち上げられるかな……いや、その前に認識票を確認しないと駄目だな。……すまん、ちょっと身体をひっくり返させてもらうぜ」

「ああ、構わないよ」

 

 俺が死体に近づいたその瞬間、死体だった男は上体を反らし、身体の下に隠し持っていた短剣(クリス)を突き出してきた。

 

「そうか、じゃあ遠慮なく」

「ぐッ……ぁああッ……!?」

 

 だがあまりにも遅い。俺は突き出されたクリスが届く前に、男の横っ腹に遠慮無しの蹴りを叩き込んでいた。

 つま先に骨が折れる感触が伝わると共に、男は枝葉を散らしながら吹き飛んで、近くの大きなバロアの木の根に落下した。握っていたクリスも取り落とし、派手に吐血している。

 

「死体のフリとはご苦労だったな。……いや、もうそのくらいしかできることがなかったのか」

「は、は、っ……ガハッ……!」

 

 男はギルドマンの死体に偽装した日陰者であった。俺が気づけたのはなんとなくってのと、普通に死体のフリを警戒していたからである。悪いな。その手のゲリラ戦法は俺も結構やったことあるんだ。同じ公園でやるかくれんぼって隠れ方がパターン化するだろ? ああいうやつだ。

 

 ……そして、男は既に俺の蹴り以前に手傷を負っていた。結構深い傷が脚にも残っており、応急処置はしているようだが満足に歩けない状態のようである。

 それでも死体のフリを続けてまで俺達ギルドマンを襲おうとする……一体何が目的なんだよ、それは。

 

「せっかく起こしてやったんだ、後光のサルバドールの能力を教えてくれよ」

「……ごふッ……」

「なあ、まだお前喋れるだろ。喋っとこうぜ。知ってんだろ? サルバドールのギフト。そこで転がってるクリスにギフトが掛かってるってのはもうお仲間がゲロってるんだ」

「……」

「なあ、俺あんまり乱暴なことしたくないんだよ。大人しく教えてくれりゃ……おい」

 

 俺がちょっと凄んでやろうと思ったその時、日陰者の男は更に派手に吐血した。身体はガタガタと震え、顔は青ざめている。

 ……さっき悶えている間に何か毒を飲んだな、こいつ。

 

「おい、死ぬな。死ぬ前に言え。死ぬ間際でも痛めつけてやれるんだぜ」

「サン、グレールに……栄光……」

 

 ……尋問する暇もなかった。

 男は速やかに自死を選び、今度こそ本物の死体になってしまった。

 わかったことといえば、持ってる毒がすげぇ強力だってことくらいのもんだな。

 

「悪いな、念の為だ」

 

 俺は死んだ日陰者の男の首を刎ねた。何か俺の知らないギフトで蘇っては困るし、アンデッドになって動き回られても困る。確実に死んでもらう。

 ……持ち物はやっぱり、ろくなもんはないか。せいぜいこのクリス程度なもんだが、ギフトが掛かっている短剣はあまり触りたくない。スルーでいいだろう。

 

「……油断できねえな」

 

 俺は警戒しているからマシだが、こういう罠に引っかかるやつもいるだろう。

 ……それにしたって、自分が死にかけてるのにそれでもまだしつこくギルドマン殺しをするって……本当に目的がわかんねえ。それもギフトの効果絡みか……? そうとしか思えなくなってきたな。

 

 死体はこのままにしておく。一人仕留めていちいち報告に戻ってたんじゃ効率が悪いからな。さっさと奥に進んで、刈れるだけ刈っちまうとしよう。

 





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