バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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焼香と大葬

 

 後光のサルバドールは死んだ。

 出血多量で死亡……の後でしばらくしてから首を踏み砕いたので、間違いはない。これ以上は死んだフリもアンデッド化もできないだろう。

 

 俺は地面に横たわる黄金の鎧姿を遠目に眺めながら、手頃な根っこに座って、一休みした。

 俺の方に傷らしい傷はない。ギフトを使うといつもそんなもんだ。ダメージらしいダメージは魔力が肩代わりしてくれるし、その魔力は簡単に補充できてしまう。

 自分のことではあるが、正直……意味のわからない能力だ。ギフトもそうだし、そこから生えてきたスキルも……なんというか、いざ口に出してみると安っぽくなってしまうんだが、チートじみているというか……。

 

「疎外感。異物感。……サルバドール、これはお前の言うそれとはちょっと違うけどな。俺も感じるよ」

 

 俺が人から色々と話を聞く限り、この世界はスキルに関して言えばそれなりにバランスが良いと思うんだ。バランスというのは、消費魔力と効果が釣り合っているだとか、習得難度とレアさが釣り合っているだとか、そういうやつね。

 けど俺のギフトとスキルに関して言えば、相当やらかしているように思う。

 ちょっと魔力消費してめっちゃ魔力が戻って来るスキルとかな。意味わかんねえんだよなアレ。便利だから使ってるけど……。ゲームバランス的な意味で言うならセンスの悪い強化MODを入れてるようなもんだろう。

 

 何より未だに副作用らしい副作用っぽいものがないのが一番怖いわ。

 発動中のビジュアルは最悪だし、いかにも魂の半分とか寿命一年分くらいは捧げてそうな雰囲気を出しているのに、俺の知る限り全てノーリスクで発動できる。

 段々と人の心を失くしていくとかそういうメンタル的なペナルティもない。一時期“最近しんどくなってきたな……ついに来たか……ギフトの副作用が……”って思ってた時期もあったが、それも普通に気のせいだったしな。普通に俺のメンタルが落ち込んでただけだった。けど釈然としなくて逆に怖ぇんだよ……。

 

「……タカ派が終わると、二国間の融和が確定的になるのかね」

 

 俺が今始末したサルバドールは、今回のバロアの森を騒がせた連中のトップ……少なくとも、実行部隊のトップであることは間違いない。

 引き連れてきた“日陰者”たちも、ほとんど総力戦というか決算セールのような形でまとめてやってきたのだろう。だとすれば、タカ派の勢力は相当に……サルバドールの言を丸っ切り信じるわけじゃないが、決定的に喪失したと見て良い。

 サルバドールの能力自体も、本来は後方でバフ要員として控えておくべきものなはずだ。それを持ち出して無理攻めした。その無理攻めが失敗に終わったなら……向こうさんも腹を括るんじゃないだろうか。まあ、向こうの偉い人らが大人しくそうするかは知らないが。

 ……もしこれ以上ハルペリアが攻められないのであれば……戦争が起こらないのであれば。それが最高なんだけどな……実際のとこ、どうなるのかね……。

 

「……あとは森の中で、行方不明者の捜索をすりゃ終わりだな。サルバドールのギフトが……消えてるのかこれ? どうなんだ……?」

 

 サルバドールの剣が辺りに転がっているのだが……恐るべきことに、未だにそれらの剣の何本かは光り輝いていた。

 俺を対象としたやつと、バロアの森の敵を対象とした二本が特に眩しい。

 辺りもそろそろ薄暗くなってきたから、そいつらの輝きだけで本が読めそうなほどだ。

 

 奴のギフトも全ての仕様が明らかになってるわけじゃないから、あまり迂闊に触りたくはない。

 しかしこのまま放置しておくにはちょっと物騒すぎるとも思えてしまう。

 

 ……ああ、そうだ。サルバドールの討伐証明……というより、死亡証明になる物をひとつ選んでおかないとな。

 剣はさすがに目立ちすぎるから、砕けた金の兜の一部分を拝借すればいいだろう。べっとりと本人の血もついてるし丁度いいはずだ。

 言い訳は……どうすっかな。上手い言い方があれば良いんだが……俺が持っていったらそれだけで怪しいもんな。

 ……もっと浅めの、わかりやすい場所に置いておくか? いやいや、ロレンツォに奥に行くのは見られてるからな……うーん。

 

「……ひとまず、飯食わないとな」

 

 とりあえず地面に埋まったチャクラムを回収し、サルバドールの金面の一部をポケットに入れた俺は、少し離れた場所で休むことにした。考え事は飯食いながらゆっくりしよう。

 戦闘時間は短かったけどそれまでの道中が長くて腹減ってんだわ。

 

 

 

「こういう時に食う洋菓子ってのは美味いよなぁ……」

 

 ケンさんのお菓子を齧りながら、時々ナッツを齧り、たまにスパイスの利いたジャーキーに浮気する。栄養素揃い踏みの携行食たちだが、疲れた身体に一番効くのは甘いお菓子だ。舌の上でジワリと染み出す暴力的な甘さが、喉を通すまでもなく口の中で急速に身体に取り込まれている……錯覚なのは間違いないんだが、そんな気分になるんだよな。

 古いサングレール兵の盾の上で燃える魔物除けのお香の煙を眺めながら、考え事もまとまった。

 

 ……多少苦しいが、サルバドールの仮面はそのまま持って帰ることにしようと思う。

 サルバドールが死んだことは多分遠からず明らかにはなるだろうし、あるいは既にギフトの掛かった剣とかに何かしらの形で出ているかもしれない。

 俺はただ“これ拾った”っつって何食わぬ顔で仮面の一部を提出するだけだ。詳しいことは知らぬ存ぜぬで押し通せなくもないんじゃないだろうか。バロアの森の奥地が危ないことは周知の事実だしな。魔物にやられたってことで納得してくれるはずだ。多分。

 

「……朝になったら動き出して……」

 

 そこまで言って、俺は周囲の異変に気が付いた。

 燻るだけの燃え方をしていたお香が、大きな炎を上げて発火したのである。

 

「……マジっすか」

 

 お香が一瞬で燃え尽きるとほぼ同時に、夕暮れ近い暗さだった周囲が明るさを増す。

 森の中はまるで昼のような明るさだというのに、しかし空を見上げてみれば、枝葉は暗い。空から光が降り注いでいるわけではないのだ。

 俺は、この神秘的すぎる現象に心当たりしかなかった。

 

 

 

 ――ゥルルルルル

 

 

 

 すぐ耳元で響いているかのような唸り声が聞こえる。

 相変わらず距離感のわからない獣の声の出どころは探すだけ無駄だ。

 そもそも相手の姿は何よりも目立つ場所にある。この距離だったら、一番眩しいであろう場所に顔を向けるだけでいい。

 

 

 ――……

 

 

 サルバドールの骸のすぐ傍を、いつの間にか一体の獅子が歩いていた。

 

 花弁のようなたてがみを持つライオンの上半身。

 両性具有の山羊(バフォメット)の下肢。

 羽毛の生えた蛇の尾(ケツァルスネークの尾)

 雄大なパライソバードの翼。

 それら全てを兼ね備えた、純白のキマイラ。

 伝説の魔物、サンライズキマイラである。

 

 体高は三メートルほど。デカいはデカいが、超巨大というほどではない。

 だがこの魔物の異常性は見ればはっきりとわかる。サイズではない。こいつの放つエネルギーの莫大さなど、どんなアホでも一瞬で理解できる。

 

 地面をゆっくりと歩くだけで下草が育ち、近くのバロアの樹木は急成長に軋むような音を上げ、それら成長の恩恵を本体が放つ高熱によって速やかに死に至らしめる。

 サンライズキマイラが歩くと、その周囲は輝きに照らされて影のように黒くなる。きっとそれも間違っていないが、近付きすぎたものは実際に黒く炭化しているのだ。

 

 さて問題です。サルバドールはこいつと出会ってたら勝てたでしょうか?

 答えは無理ですね、はい。まあでも怒らせることはできたとは思うよ……。

 

 だって今まさにこのサンライズキマイラは、サルバドールが遺した剣に敵意を向けているのだから。

 

 

 ――……ゥルルル

 

 

 唸り声を上げ、サンライズキマイラの尻尾が剣に向けられる。

 土の上に放り出されたフランベルジュは今もなお光を放っているが、サンライズキマイラの発するものと比べるとやや見劣りする。

 尻尾の蛇の顔はそんなフランベルジュを見下ろすと、つまらなそうに目を細め、口を開いた。

 

 そして一瞬、蛇の口内から光線が瞬いて剣が破裂した。

 実際どんな壊れ方をしたのかは全然見えなかったが、とりあえずぶっ壊れた。原理はわからない。あんまり知りたくもない……。

 

 

 ――……ゥルルルルルルル……!

 

 

 更に強い唸り声を上げ、今度は獅子の口から発せられた光線がもう一本の輝く剣を破壊する。

 どうやらサンライズキマイラは、自分に敵対的な力を持った剣に強い警戒心を持っているようだ。

 

 ……ああ、俺?

 

 俺はもう既に完全にビビってめっちゃ遠くまで離れてるよ。いつでもギフト起動して全力逃走する準備はできてるぜ。

 いやもう、あれはほんと無理なんでね……どうしようもないんでね……。

 基本的に寛容っちゃ寛容ではあるんだが、“いるな”って思った瞬間には距離取ってないと目を付けられるんでね……。

 

 

 ――ォオオオ

 

 

「やべえ吠えやがった……あの吠え方だと、プチスタンピードくらいなら起きちまいそうだな……」

 

 苛立ったサンライズキマイラがサルバドールの骸を踏み潰した辺りで、俺は観察もやめてすぐさま逃走を始めた。

 どうやらサルバドールのギフトが生み出した剣が森の主の逆鱗に触れちまったようである。俺もそこまでサンライズキマイラが気分を害するとは思わなかったし、この場所までわざわざ出張ってくるとも思わなかった。

 やはり奴は特殊な感知能力を持つ魔物のようだ。まだまだ謎が多いな……藪蛇にしかならないからあまり深掘りはしねえけどさ。

 けど、サルバドールにぶち切れてくれたのはそれはそれでナイスプレーだ。この咆哮を聞けば、サルバドールがやられたんだろうなってことは万人に伝わるだろう。森に連中が潜伏しているという心配をしなくても良くなるのだ。それは普通にありがたい。

 

 もうじき夜だが、近くにサンライズキマイラがいるとなるとおちおち仮眠をとってもいられない。どっかしらの作業小屋まで避難しよう。

 

 ……森入口の拠点は過剰なくらい人がいるし大丈夫だろうが……森の中で捜索してる連中はどうだろうな。

 まだ見つかってないギルドマンの安否も気になるが……俺にそういう連中を捜索するギフトやスキルはない。能力が無いのも今日は嫌というほど思い知らされている。

 だから俺としてはもう、やきもきするしかないのだ。

 

「ダフネも行方不明のままだが、あいつ……大丈夫か。いや大丈夫ではないよな……やべえよな……」

 

 暗い森を走りつつ、特に“ローリエの冠”のダフネが気がかりでしょうがない俺であった。

 




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