バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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放し飼いの犬

 

 重い荷物を背負い、枝葉や魔物をスパスパ斬りながら撤退する。

 やはりサンライズキマイラの咆哮はちょっとしたスタンピードを起こしていたらしく、走っている間も常に慌てふためく魔物たちの姿が見えた。

 サンライズキマイラの恐ろしさを本能的にわかっているのだろう。ゴブリンもボアもディアもラビットも、皆今この一瞬だけは敵を害そうという気もなくただ走ることに集中している感じだ。それでも近付かれたら面倒だし俺はサクッとバスタードソードで斬っちゃうんだけどね。万が一不意打ちとかされたら怖いからね。

 

「って、お前は逃げねーのかよ」

 

 そう思ってたら、正面からこっちに向かって突撃してくる魔物の姿が一体。

 骨でできた多脚生物なのかアンデッドなのかよくわからん見た目をした謎系魔物、クヴェスナだ。こいつだけ特に咆哮もスタンピードも恐れていないのか、まっすぐ俺に向かって走ってきていた。

 数は三体。複数だ。とはいえ。

 

「急いでんだよ」

 

 今は非常事態。丁寧に尻尾の討伐証明部位を回収してやるのも面倒なので、そのまま剣を振りつつタックルしてぶっ壊してやる。

 相手が脆いスケルトンタイプの魔物で助かった。水っぽい肉タイプの魔物だとこうはならない。というかやりたくない。

 適当に突っ込んでぶっ壊してそのまま通り抜けられるから楽でいいぜ。

 

 そのまま駆け抜け、時々並走してるようなちょっと危険度の高い魔物なんかは積極的にこちらで処理したりなんかしつつ、作業小屋を目指す……のだが。

 

「やっべ、迷ったわ」

 

 日が沈んでも作業小屋に着かない。

 そう……森で迷ったのである。

 

「あー最悪。暗いとなんもわかんねえよ。そもそもあの奥地から真っ直ぐ帰るのも難しかったけどよぉ……」

 

 正直、難しいとは思っていた。日が暮れきる前になんとか作業小屋までいけたらなーっていうのはほぼ願望であった。

 しかしそれも分の悪い賭けだった。普通に考えて、普段ほとんどいかないバロアの森の奥地から薄暗い中を一発で目指す場所に向けて帰れるほど俺のレーダーは高性能じゃねえんだよな。

 

「スタンピード中の野営とか最悪だぜ……しょうがねえ、木登りして魔物除け全部使い切ってどうにかするしかねえや……」

 

 スタンピード中は魔物の動きが全く読めない。間違いなく言えるのは、全ての魔物が活発に動くということだけ。分布も推測も全く役には立たない。最悪の状況だ。

 普段は安全な樹上でのやり過ごし策も、こういう時ばかりはパンサーやフェレットに襲われる危険性が高まる。

 だが木の上以外に安全な場所はないので仕方がない。大人しく高い場所に安全地帯を作る以外に術はないだろう。

 

「へいへいへいへい」

 

 幸い、俺にはパワーがある。大荷物を背負いながらでも苦も無くバロアの大木を登り、そのかなり高い場所で枝払いすれば、それなりの野営場所は構築できる。

 ロープワークで即席のハンモック、というよりは身体がずり落ちないようにするだけの命綱を作って、あとはお香を焚いて寝る! 夏場だから正直不快な要素も大きいが、逆を言えば夏だからこそ凍死することはない。

 魔物が怖いが仕方ない……とりあえず、寝る! おやすみ!

 

 

 

「ジュッジュッ!」

「うおおおっ!? なんだこいつっ!? ハルパーフェレットか!?」

 

 夜中、一度ハルパーフェレットが登ってきて荷物に近づいていたが、どうにか寝起きの驚きのままに蹴っ飛ばして撃退できた。

 

「やっぱあの魔物嫌いだわ……」

 

 心臓がすげぇバクバクする。が、それはそれとして眠気と疲れのおかげで即座に寝ることはできたのであった。

 

 

 

「身体がバキバキすぎる……」

 

 朝と呼ぶにはまだ全然暗い時間。薄暗いとも言えない、なんとなく虫とか鳥の気配で朝が近づいてるのがわかるかなぁ程度の頃合いになって、俺は水溜りよりも浅い眠りから目を覚ました。

 さっきまでの睡眠もどきには果たして価値があったのだろうかと自問したくなる疲れの取れてなさだが、夜闇とスタンピードの最盛期をやり過ごしながら仮眠がとれたと思えば、まあかなり賢い選択だったとは思う。

 

「道に迷っちゃいるが、方角そのものはだいたいわかってる。がむしゃらに走っていけば、とりあえず街道には出るだろう」

 

 闇の中で固く結びすぎた命綱をどうにか回収し、木を降りて再び帰還再開。

 暗いからあまりスピードは出せないが、それでも先程まで寝ていたおかげか薄っすらと見えはする。欲を言えばウィスプの一匹でも眼の前を飛び続けてほしいが、今回みたいな事件が起きたタイミングでウィスプに出くわすのはちょっと嫌だな……。

 

「お、知ってる地形か……?」

 

 そしてガンガン走っていると、やがて辺りも薄明るくなり、景色も見覚えがあるような地形が出てきた。

 視界の隅でゴブリンがチャージディアに貫かれたままぶんぶん振り回されている姿が超絶ノイズではあるが……思い出したぜ。こっから小川を沿って歩いて、粘土層のある崖のところを下っていけば作業小屋だ! ひとまずそこまで行けば避難してるギルドマンもいるかもしれん。

 あるいは現在進行形でスタンピードから身を守っているかもしれない。今更ではあるが、急いでおこう。

 ここはバロアの森でも特に離れた作業小屋だが、果たして人がいるのやら。ロレンツォがいるとしたら多分別の所だが……。

 

「おーい、誰かいるかー」

 

 しばらく小走りで移動していると、思った通り作業小屋が見えてきた。

 中に人がいれば警戒しているかもしれないので、外から声をかける。

 ……すると、中から声が聞こえてきた。

 

「誰だ……? 外は安全なのか……!?」

「ブロンズ3のモングレルだ、外は……まぁ、一応今のところは安全だよ。日も出てきたし、安全といえば安全だぜ」

 

 しばらくして、ドア付近でごちゃごちゃと物が動く音が聞こえ、やがて開いた。

 中にいたのは、多分よそ者の……王都出身のギルドマンなのだろう。装備がどこかキッチリとしている、二人組の若い男女であった。

 二人とも疲れ果てた顔をしているが、俺の姿を見るとあからさまにホッとした顔をしていた。

 

「……良かった。人に会えるのがこんなに嬉しいとは……」

「何が起きたの? もしかして、バロアの森でたまにあるっていうスタンピード?」

「ああ、そうだな。森の奥で主のサンライズキマイラが吠えて、森全体が騒々しくなっちまったんだろう。けど今回のは大した事ない規模だから、すぐに沈静化すると思うぜ」

「マジかよ……? これで大した事ないのか」

「なんでもいいから、水飲ませて……」

 

 どうやらこの二人のギルドマンはグリムリーパー討伐のために森の奥深くまで潜っていたパーティーらしい。バロアの森の土地勘などはほぼ無いらしいが、狩猟の腕には自信があるということで深く長く潜っていたのだそうだ。結構無謀なことしてやがる。

 そんなタイミングでキマイラが吠えたもんだからさあ大変。運良く作業小屋までたどり着けたまでは良かったが、外では異種大乱闘が開催されて帰りようがない。

 レゴールにも慣れていないのでいつ頃沈静化するかの目処もわからない中籠城し……俺と出会ったってわけである。

 

「井戸は無事だ、良かったぁ……」

「近くには川もあるぜ。水にはまあ、困らねえよ」

「ありがとう、モングレルさん。助かったわ……やっと帰れるわね、グンター」

「もう懲り懲りだぜ、ヤスミン……あー、腹減った……」

 

 腹が減ったか。それはちょうどいい。

 

「お二人さん、腹が減ってるならひとつ提案があるんだが」

「ええ?」

「何?」

「向こうに新鮮なチャージディアの死体があるから、ちゃっちゃと捌くの手伝ってくれないか?」

 

 俺が親指で指し示すと、二人は怪訝そうな顔をしてみせた。

 

「朝飯にしたいだろ。俺も腹が減ってるんだよ。レゴールに帰還する前に、ちょっとばかし腹ごしらえしていこうぜ」

 

 そういうわけで、邪魔なゴブリンが角に引っかかったチャージディアを三人掛かりで手早く解体し、簡単な焼き肉で腹を満たし、俺達はレゴールを目指し始めた。

 道中も腹が減るし、人間何をするにもカロリーを使う。こんな時に悠長なってのは全く間違った話で、こういった時だからこそしっかり飯を食っておくべきなのだ。

 

 

 

 そんな感じで食料調達をしつつ、人を拾ったり遺物を拾得しながらレゴールに向かい……やがて俺たちは、森入口のベースキャンプへと帰還できたのであった。

 

「おっ、屋上にシーナがいる。急造だろうに、立派な砦になっちまってまぁ……おーい。あ、気付いた」

 

 拠点陣地は俺が出発した時よりもかなり立派になり、土塁や逆茂木が増設されていてかなり物騒な雰囲気になっていた。ここにたどり着くまでの間にも魔物の残滓を埋めて燃やしたであろう穴がいくつもあったので、ここでの激闘ぶりが察せられるというものだ。

 

「帰還者、複数だ! モングレルもいるぞ!」

「良く無事だったなお前たち! さあ、こっちにこい、水も食料も、薬もあるぞ!」

 

 陣地に近づいた俺達はすぐさまギルドと兵士たちに捕捉され、歓迎を受けた。

 ちょっとしたヒーローみたいな扱いだが、まあ実質的に今回の俺はヒーローみたいなもんだから、もうちょっと豪勢に出迎えてくれても良いんだぜ。みんなで拍手しながらおめでとうみたいな……。

 

「モングレルせんぱーい!」

「……おお、ライナ!」

 

 ……と思ったが、まぁ別に豪勢じゃなくてもいいか。

 砦から俺の帰還を知ったらしいライナが飛び出してきて、まっすぐこっちに走ってくる。

 

「先輩無事だったぁ……!」

「おっふ、……危ないからそういう抱きつき方するなって」

 

 胸に飛び込んできたライナが、ほとんど泣きかけた顔でしがみついている。

 

「死んだかと思ってめっちゃ心配してたんスよ!? スタンピードも起きて、森が魔物で大変なことになってるし……!」

「俺はレゴールで一番生存能力の高いギルドマンだぞ? そんな簡単に死ぬかよ」

「強いのは知ってるっスけど……それでも心配は心配なんスよ!」

 

 顔を上げると、ライナは泣いていた。

 

「モングレル先輩、危ない時はいっつもいないから……!」

「……心配させて悪かったよ。ごめんな、ライナ」

 

 ちょっと気恥ずかしい思いもあったが、俺はその場で軽くライナの頭を抱きしめてやった。

 一瞬だけな。周囲の目もあるし恥ずかしいからな。

 

 ……ともあれ、五体満足で無事に帰還はできた。

 あとは……被害の確認と、残りの捜索か。

 

「……ところでモングレル先輩」

「ん? なんだ」

「ダフネちゃん見なかったっスか? まだダフネちゃん、見つかってないみたいなんスよね……」

「……そうなのか」

 

 その捜索も、無限にできるわけではない。

 




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特典付きはメロンブックス様、ゲーマーズ様、BOOK☆WALKER様の電子版となっております。

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