バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

418 / 426
レゴールに祝杯と献杯を

 

 それから数日して、バロアの森のちょっとしたスタンピードが沈静化した辺りで、ようやく事態の終息が宣言された。

 宣言内容はだいたいこうである。

 

 サングレール聖王国の“日陰者”と呼ばれる過激派が暴走し、バロアの森に侵入した。

 

 多くのギルドマンと一部行商人が被害に遭ったが、現在は“日陰者”の主導者含むほぼ全員が討伐された。

 

 今回の事件によってサンライズキマイラが刺激され小規模なスタンピードが発生したが、ギルドマン中心の活躍によってこれも沈静化している。

 

 全てのレゴールの民と、平和的国交を望むサングレールの穏健派、親善大使アーレント及び元ヘリオポーズ教区神殿長イシドロは、今回の事件を重く見て、再発防止のために尽し、より緊密に連携していくつもりである。

 

 ……ってな感じの公示が、あちこちの掲示板に張られていたわけだ。

 

 ……元ヘリオポーズ教区神殿長イシドロって誰だよって思ったけど、なんでもこの人は文化交流と国交正常化のためにわざわざレゴールまで脚を運んでくれているお偉いさんらしい。

 いつの間にか色々と話が進んでいるようで嬉しくもちょっとびっくりした。タイミング悪く今回の事件が起きたもんだから、レゴールの貴族たちはハラハラしただろうな。

 

 とはいえ、それもついでというか小規模なもので、一面記事ってほどではない。

 ギルドマンからしてみれば超大事件でしかなかった今回の騒動だが、レゴールではそれ以上の大ニュースが街を席巻していたのだった。

 

 なんと、レゴール伯爵の第一子が誕生したのである。

 

 

 

「めでてえ!」

「男児の誕生だ! レゴール万歳!」

「そしてタダ酒だ! タダ飯だ! 伯爵様サイコォー!」

 

 ギルド周辺のちょっと治安の悪目なエリアなんで、街の人々の声も若干ガラが悪くてアレなんだけども、レゴールはお世継ぎの誕生で一気に祝福ムードに変わっていた。

 終息宣言とほぼ同時に男児の誕生が発表されたため、街の人からすると“え、バロアの森? ああ終わったんだ。そんなことより飲め飲めガハハ!”みたいな感じになっている。

 

 まあ……ギルドマンっていうのも、街の人々にとってはそこまで大きな関心事ってわけでもないというか……バロアの森っていうのもね、普通の人は立ち入らない場所だし、レゴールのお隣って意識があるみたいなんでね。街中で刃傷沙汰が起きたってわけでもないなら、大した関心事でもないのだろう。

 もちろん、サンライズキマイラの咆哮に関しては人々も若干肝を冷やしたようではあるが、早期に規模が小さいのはわかったようなので、そこまで混乱もなかったようである。

 比較的平和裏に片付いたと思えば、俺達は最善の仕事をしたと誇って良いんじゃないだろうか。

 

「ライナも今回はバシバシ魔物を倒したんだろ。よくやったな」

「うっス! スタンピード防衛、緊張もしたけど……ひっきりなしにくる魔物を迎え撃つのは、結構楽しかったっス! 周りで護りを固めたり、射線を確保してくれた皆のおかげっス」

 

 街に戻ってきた俺とライナは、一日しっかり休んでから飲み始めた。

 まだ若干身体に疲れが残っているが、外が祝福ムードになっているのだ。繰り出して飲むには最高の日である。

 第一子誕生を祝して色々な店にサービス品が置かれているので、飲まない手はなかった。

 それに、スタンピードで大量に仕留められた魔物の肉もとんでもない量あるんでね……森の恵み亭では肉料理のヤケクソ割引フェアも始まっている。春の精霊祭よりずっと安く飲める夢のような数日間だ。疲れた身体に鞭を入れてでも痛飲する価値はあるだろう。

 夏だから店の外にまで木箱を並べて飲み食いする客がいるほどの盛況ぶり。俺とライナはどうにか店内のちゃんとした席を確保して、二人で慰労会を開いているわけだった。

 

「モングレル先輩はめっちゃ無茶したんスよね……何度も危ない戦い方をしたって聞いたっス」

「まぁ……ブレーク爺さんやロレンツォの仇討ちみたいなもんでもあったからな。男にはやらなきゃいけない時ってのがあるんだよ」

「その二人大怪我はしたけど生きてるじゃないスか……」

「戦線離脱は男にとっちゃ死んでるようなもんだからよ……」

 

 ロレンツォとブレーク爺さんは、その後に容態が急変したということもなく、ちゃんと生きているらしい。良かった。

 他にも大怪我を負ったギルドマンは何人もいるが……後から聞いた話だと、“デッドスミス”の奥さんの方であるイーダも、スタンピード中に深手を負ったそうだ。チャージディアの突進をモロに食らって腕に穴が開いたらしい。そのまま角を掴んでぶん投げてリベンジは速攻決めたそうである。パワフルな奥さんだ。とはいえ、しばらくは怪我の様子を見て安静らしい。

 ソロでやっている娼館用心棒のヴェンジは“日陰者”事件の起こった初日に連中と遭遇し、ナイフでちょっとばかし大きめの裂傷を負ったという。ただ、ソロとはいえ元々強いし、普段から裏の厄介な人間相手に用心棒をやってる男だ。咄嗟の防御と反撃はできたらしく、おかげでその時の“日陰者”は可哀想なくらいズタボロにされたのだという。キレたヴェンジによる執拗な拷問によって情報も搾り取られ、その内容は陣地で行われた尋問によって得られた内容とほぼ同じであったのだそうだ。一人で思いがけない手柄を立てたヴェンジであったが、手傷を負ったのがあまりにも気に入らなかったのか、それ以来森に潜ってはいないのだという。……あいつもぽっと出のユニークモンスターを討伐するために森に潜ったのに、不運だよな。感じの悪い男だが、その点は素直に同情してしまう。

 

 死人は……ブロンズ下位やアイアン、それと他の地域から来てたギルドマンが特に多かった。

 知らない顔もあれば知ってる顔もあった。いつも酒場で馬鹿騒ぎしてるような気のいい奴も、何人かやられている。

 ……スタンピード自体は上手く抑え込めたが、“日陰者”が残した爪痕はあまりにも大きかった。

 

「けど、治療費はほとんどギルドから出るみたいで良かったっスよね」

「ん、そうだな。金の心配してた連中も安心しただろうよ。俺が使ったポーションも、七割くらいは金を出してもらえるそうだしな」

「太っ腹っスね。いつもそのくらいしてほしいスけど……」

「今回だけだろうなぁ。ずっとはさすがに破産しちまうよ」

 

 “日陰者”の対応は、ほとんどギルドマンたちのみで行われた。

 ギルドや街はさすがにその点を申し訳なく思っているのか、今回ばかりはかなり手厚い補償と報酬が出た。

 治療費、見舞金、その他色々。政治的に兵士を動員するのに都合が悪かったってこともあったのだろうが、それでもさすがにギルドマンへの負担が大きすぎた。

 緊急任務に携わったギルドマンにはそれぞれ高額なジェリーが支払われ、“これでどうにか”ってなわけだ。

 

 ……まあ、俺としては金が多くもらえる分にはありがたい。

 怪我人に対して補償してくれるなら言うこともない。

 あとは今回の犠牲者に祈りを捧げて……ギルドマンらしく、こうして何度も献杯してやるだけさ。

 

「ダフネちゃんも見つかってほんとに良かったっス!」

「ダフネな……そうだな……」

「……なんでそんな微妙な感じなんスか。嬉しくないんスか」

「いやいや嬉しいよ。心の底から嬉しい」

 

 一部……本当に極々一部、モヤッとする帰還を果たしたやつもいるが……。

 それについてはちょっと別問題の角度が他と違いすぎるんで、一旦見なかったことにしておきたいのが俺だ……!

 

「あーそういやダフネっていうと、緊急避難の木登りの時に俺が発明した試作品の金具を使ったらしくてな。その点も結構感謝されたんだぜ」

「えっ、マジっスか!」

「作った当初はいまいちかなとも思ったんだが、大荷物がある時は重量の補助になって良かったみたいだ。……まともに開発すれば、売り物になってくれるかもしれないな」

 

 木登り用のちょっとしたアイゼンが地味にダフネの生存に役立ったと聞いて、鼻高々である。そうなんだよ。やっぱ木登りスキルって大事なんだよ、バロアの森は。奥地はともかくそれ以外では初心者の必修にしてもいいくらいだ。

 

「うーん……腕を使わずに脚だけで登れる道具があれば、弓使いにとっては嬉しいんスけどねぇ……モングレル先輩、そういうのないスか?」

「あ、脚だけか……どうだ……いや難しそうだな……けど、確かに脚だけで登れたら……」

「発明できたら使ってみたいっスね!」

「しょうがねえな、後で考えておくよ。色々試しながら……ま、しばらくはバロアの森に潜りたくないから、後々になるけどな!」

「それはそっス。しばらく街でゆっくりしたいっス……」

 

 俺もライナもフィールドワークは結構好きなタイプだが、さすがに今回の事件でうんざりするほど長期滞在したんでね。

 纏まった金も手に入ったし、もうしばらく、十日くらいの間は街でダラダラ過ごしたい。

 俺等だけじゃなく、この店にいる他のギルドマンたちも似たようなことを考えてるのは多いんじゃないだろうか。

 

「……しばらく街で一緒に買い食いしたりして遊ぶか、ライナ」

「いいんスか! 楽しそうっス!」

「あとクランハウスの風呂にもお邪魔したいんでね……その辺りの連絡も頼むよ」

「おっスおっス。おつかれみたいっスからね。温かいお湯でゆっくりすると良いっスよ」

 

 今回ばかりは、さすがの俺も気疲れした。

 それを洗い流すという意味でも、是非“アルテミス”の風呂には入らせていただきたい。

 

 ……故郷への墓参りは……うん。

 まあ……そうだな。今年は忙しかったし……やめておこうか。

 

 元々、必ず毎年ずっと続けてきたってわけでもない。

 サングレール聖王国だって今は余裕はないだろうし、主力となる聖堂騎士も……サルバドールも亡くなった。攻勢のかけようがないだろう。

 墓前に花と酒をやれないのは寂しいが、なに、バロアの森ででっかい焼香が焚かれたんだ。景気のいい煙があの世に届いてもおかしくはない。今年はそれで勘弁してもらうとしよう。

 

「むふ……買い食い楽しみスね」

「だな。お祝いで色々目新しいもの出てるだろうし、探し回ってみようぜ」

 

 ちなみに、レゴール伯爵家の新たなお子さんの名前は“ケルネルス”というらしい。

 ケルネルス・ブラン・レゴール君である。結構かっこいい名前してるじゃねえの……。

 

 




当作品の評価者数が5400人を超えました。とてもおおい。

いつもバッソマンをお読みいただき本当にありがとうございます。

お祝いににくまんが踊ります。


ヾ( *・∀・)ゞ フニフニッ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。