夏。それに加えて最近のしんどい仕事。汗はだくだく、気分は落ち込んで最低最悪な状況だ。
色々な騒動こそ解決はしたが、終わってみれば死んだギルドマンたちの葬儀やら被害報告やらで、さほど気分も上向かない。伯爵様にお子さん生まれてめでたいねえって気持ちだけを柱にするには、俺たち下々の者はちょっとばかし住んでいる世界が遠すぎたのかもしれない。
金はあるから遊び呆けることもできなくはないが、市場を無目的に歩き回ることすら今はちょっと面倒くさい……全体的に低調なメンタルの最近である。空はあんなに高いのになぁ……。
ここから入れる保険があるんですかね……?
なんと、あるんです!
“アルテミス”の風呂にはね!
「お風呂くれー」
「モングレル先輩、おっスおっス」
というわけで、入浴の予約を事前に入れた上でやってきました“アルテミス”のクランハウス。十枚綴りの入浴券も既に半分ほど消滅しているが、まだまだこの夏を乗り切れるだけの枚数は残っている。ケチケチセーブしてきたからな……それでもここぞという時には使っていくぜ。俺は高級ポーションの使い方が結構上手いタイプなんだ……。
「今日もめっちゃ暑いっスねぇ……日陰で作業してても厳しいっスよ」
「夏真っ盛りだもんなぁ。まあ、風があるのとないのとじゃ大違いだけどよ」
ライナは木陰に椅子を置いて矢柄を削っているところだった。
装いはキャミソールに短パンと実に涼し気だが、それでも暑いもんは暑いのか、一部の髪がぺったりと肌に張り付いている。
「けど一番は風呂でさっぱり洗い流すことだぜ。今日はほら、市場で木彫りの船買ったやつ持ってきたんだぜ。スノウコーン号」
「モングレル先輩、いっつも玩具持ち込んで楽しそうっスね……やっぱ好きなんスねぇ」
風呂に入るのと入らないのとでは活力が違うからな……。
今日もじっくり楽しませてもらうぜ。
「既に風呂は沸いているが、細かな調整は水桶があるからそれで勝手にやってくれ。好みの温度は自分で作るといい」
「悪いね、こんな暑い日に湯沸かしなんてやってもらっちゃって」
「こんな日くらい水浴びでもよかろうに。酔狂な男だな」
風呂の支度を済ませたナスターシャは、火を扱ったせいなのだろう、眼に毒すぎる格好をしていた。
普段から胸元を強調するような格好をしているナスターシャだが、今日の彼女はほぼベビードールとかそのレベルの薄い布を身にまとっているだけで、扇情的に長い脚を組んでチェアに座っている。
ただし足は氷水を入れた桶に浸されている。……氷と水を自前で出せるのはやっぱ羨ましいわ。
「あー、モングレルさん副団長のことじっと見てるー。えっちなんだー」
「見てたぜ」
「開き直るんだ……」
来客の気配を感じてやってきたウルリカも薄手の格好だ。
普段外では隠している胸元の薄さも、気心知れた連中の集まるクランハウスでは涼し気なシャツだけに留めている。……なんか唐突に甚平とか涼しい服が欲しくなってきたな。夏とか便利なんだろうけどなー……。
「他人を鑑賞している暇があるなら、湯が冷めないうちに風呂に入ったらどうだ」
「そりゃその通りで」
まあ涼しい格好よりも先にさっぱりした風呂だ。
いくぜスノウコーン号……実物とだいぶ違うディテールしてる気がするけど、“アルテミス”の風呂で処女航海といこうじゃねえか。
「……ねーねーモングレルさん、お風呂一緒に入っていい?」
「おお? またかよウルリカ」
着替えている途中で、ウルリカが脱衣所の入り口から顔を出してそんなことを聞いてきた。
連れションしないとなかなかトイレ行けない子供みてえな奴だな。
「今日の俺はさっぱりしつつスノウコーンの航海を見たいから駄目だぜ。広い湯船ではあるけどな、二人はさすがに狭いだろ」
「えー、そっかぁ」
あとさっきナスターシャのあられもない姿を見たせいで俺の股間がちょっと……アレよ。銃持って膝立ちしてるような臨戦態勢初期段階な感じだからな……。
「ウルリカはなんでそんなに風呂一緒に入りたいんだよ。レオとかいるだろ?」
「ええいやまぁそれはうんなんていうか……」
俺も人と一緒に何かするのは好きだから気持ちはわからないでもないけどな。
「レオはお風呂誘ってもなんか付き合い悪いしさー……けど私もみんなみたいに一緒にお風呂入りたいじゃん?」
「みんなは入ってるのか……」
「ゴリリアーナさんはよくライナと一緒に入ってるし、団長と副団長なんてしょっちゅうだよー」
シーナとナスターシャがか……そうか……。
落ち着けモングレル、ここにお前が撃つべき敵はいない。座れ……。
「私もライナと一緒に入ろうとしたことあったけど団長に止められたし」
「そんなことしてたのかお前……さすがに男女は駄目だろ……」
「ずっと前! ずっと前の話だからこれっ」
ライナと一緒に風呂に入ろうとしたって言葉に俺はもうちょっと危機感を覚えなきゃいけないんだろうけど、なんかウルリカ相手だといまいち湧き上がってこないのが不思議ではある。いやもちろんやめとけとは思うが……。
「さっきも言ったけど、風呂に入りたいならレオを誘えって。それなら全然大丈夫だろ」
「えー、けどレオ恥ずかしがるからなー……」
「大丈夫大丈夫、レオが風呂入ってる時にちょっと強引にでも背中流しに行きゃ良いだろ。そんな口で言うほどじゃねえって」
レオはシャイというか恥ずかしがりなところがあるからな……。
それに、レオはひっそりとウルリカに対して恋心みたいなものを抱いている。だったら別にウルリカと一緒に風呂入っても問題ないだろう。むしろ踏ん切りのつかない流され系主人公なレオへの援護射撃だ。ありがたく受け取っておけよ、レオ……。
まあウルリカにその気があるかは別問題だろうけどな、ガハハハ。
「そっかーレオかぁ……昔は水浴びとかもしたし、大丈夫かなー……うん、やってみよっと」
「ほれ、俺は風呂入るから退散退散」
「はーい。邪魔しちゃってごめんね? あ、これ冷たい飲み物あるから飲んでよ」
「ウルリカ……お前は良いやつだ」
「私も一緒は駄目?」
「それは駄目」
「ちぇっ」
そういうわけで、俺は本当にじっくりと……それこそ湯の温度がぬるくなるまで長時間、久方ぶりの風呂を楽しんだのだった。
「潜水艇スノウコーン……急浮上!」
ざっぱーん。スノウコーン、海底から出現! 船長危険です! クルーが減圧症で全滅しています!
……うん、まあそういう感じで超エンジョイしてましたとさ。
今度は船がもう一隻欲しくなるな……。今度来る時も何か用意しておくか……。
「ねーねーレオー、今お風呂入ってるでしょー?」
「うん、入ってるけど……?」
「じゃあ私も入るねー? お邪魔しまーす……」
「えっ、なっ、なになに!? 駄目だよウルリカ……!」
「えへへ、久しぶりに誰かと一緒に入っちゃったー。たまには良いでしょ? ね?」
「……そ、そんな……格好で入るのは、いや男同士だけどさ、恥じらいとか、そういうのが……」
「いいじゃんいいじゃん。昔に戻ったみたいで……え? あれっ……? レオ、それ……なんでおっきく……?」
「……! ご、ごめんっ、これはその、ちがくて……!」
「え……もしかしてレオ……まさか、私の裸を見てそうなっちゃったの……?」
「ごめん、ごめんウルリカ……! 僕……!」
「……ううん、大丈夫。気にしてないし……それより、ほら……私もね、責任あるからさー……」
「えっ、えっ!? ちょっと、ウルリカ……?」
「だからレオが落ち着けるように、ちゃんと手伝ってあげるね……」
「なに……あっ……!?」
(ワッフル*・∀・)