バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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二つ返事のライセンス

 

 新しい家を手に入れたらまず何をするか?

 荷作りだろうか? いいや、それは正しくない。

 まず、そもそもの家が自分好みになるようリフォーム……工事するところから始める必要があるのだ。

 

 具体的には、氷室と風呂だ。

 風呂は勝手口の方にちょっとした裏庭スペースがあるので、そこに目隠し用の柵を建てて……浴槽や湯沸かし器を設置すればいいだろう。それと排水溝の工事。

 問題はその排水溝を含む、氷室の工事だ。

 

 俺もライナも狩りは好きだし肉を食うのも好きだから、常に新鮮な肉を食べられるようにしたい。いや俺としては果物とか野菜もできれば常に食いたい。もっと言えば氷を入れて冷えた酒を飲みたい。だから家の地下に氷室を設置したいのである。

 しかしこの工事が結構難物で、さすがにそこそこ以上の費用がかかるのだ。

 金自体は俺のへそくりなり“偶然メガヒットした発明品”を生やせばどうとでもなるのだが……。

 どこもかしこも工事ばかりやってるレゴールでは、なかなかこの手の工事を請け負ってくれるところは見つからないんじゃないだろうか。

 

 

 

「モングレル、ライナから聞いたわよ。ついに覚悟を決めたんですってね」

 

 工事の話をギルドにしようと思ったら、ギルドに入った瞬間にこれである。

 入口付近でのシーナのお出迎えだ。なんかデジャブだぞこれ……。いや、別に今回はライナに口止めもしてなかったけど……昨日の今日だぜこれ。

 

「おい聞いたぞモングレル……お前ついにライナちゃんの気持ちに応えたんだってなぁ」

「てっきりずっとライナさんの好意を躱し続けるんじゃないかと思ってましたよ、モングレルさん」

 

 バルガーとアレックスの耳にも入っていた。というよりギルドのそこかしこで“モングレルおめでとう”とか“浮気するなよ”とか言われてる。まぁ……わかるぜ。こういう噂は超速で回るもんだからよ……俺だって他人事だったら同じことしてるしな。

 

「お前らみんな耳が早いというか……ライナが早いのか」

「昨日の夜クランハウスで聞いてね。まあ、うちのジョナさんたちも噂好きだもの」

 

 おお……そういや“アルテミス”は半分引退した奥様ギルドマンの巣窟でもあったな。奥様ネットワークに流出したらそりゃもう無理だわな。フリー素材待ったなしだ。

 

「いやぁ……エヘヘ……この人私の旦那さんなんスよぉ……」

「ライナの惚気方が無料素材配布サイトみてえだもんな……お前ひょっとして昨日からずっとそんな感じなのか……?」

 

 シーナの後ろではライナが頭を掻きながらデレデレ笑っている。男だったら許されないタイプの惚気レベルだ。

 

「いえ、今日は結構マシね」

 

 もっと酷かったのか……。

 

 そして俺はこの時点で、ライナにはあまり重要な秘密を話さないようにしようと固く決意した。

 シュトルーベの亡霊は当然、ケイオス卿のこともちょっとね……ライナには秘密保持が難しそうだからね……。

 

「……まぁ、色々とあって……聞いてはいるだろうけど。ブレーク爺さんからポーションの代金代わりに家を貰っちまったからさ。良い機会だろってことで、ライナを誘ったわけだよ」

「聞いた聞いた。……想い合って結ばれるなんて、とても幸せなことなのよ。ライナを悲しませないようにしなさいね」

「わかってるって」

「困ったことがあれば私たちにも相談しなさいよ」

 

 人の恋愛話になると、シーナでもちょっとはしゃぎ気味というか、テンションが高くなるようである。いつも以上に優しげな感じで応援されてしまった。

 

「よし、幸せ者のモングレルの面も拝めたことだし、俺は仕事に出てくっかぁ。今夜は酒だな!」

「僕も任務に行かないと。今夜、お付き合いしますよ、バルガーさん」

 

 そしてバルガーとアレックスの二人はわざわざ俺の出待ちをしていたらしい。お節介な暇人がよ。……良く見たら他にも同じようなギルドの連中がいたようだ。何人かゾロゾロと動いてやがる。暇だねぇ……。

 

「……全く、人の色恋にはほんと食いつき良いよな……そういう嗅覚の鋭さでいうと、ウルリカとかは真っ先に反応しそうなもんだが……ライナ、ウルリカは任務か?」

「みたいっスね。ちょっと前からレオ先輩と一緒に森に出てるっス。泊りがけっスけど、そろそろ戻るんじゃないスかね」

「泊まりか。……そろそろ秋も近づいてきたし、討伐に集中するにはいい季節かもな」

「っスね。……モングレル先輩とも二人で一緒に行ってみたいっス!」

「ああ、今度行こうぜ」

 

 任務の話はまあそんなところで。

 今日ギルドに来た要件は、任務よりは相談である。

 

 

 

「話はエレナから聞いたよ、モングレル。結婚おめでとう」

 

 副長のジェルトナさんは、ギルド長室で認識票の刻印用ハンマーを掃除しているところであった。ギルド長の不在が多いので、ジェルトナさんがこの部屋を使う機会は結構多いらしい。

 

「あざっす。エレナも噂好きだなぁ……」

「ハンカチ噛んで祝ってたよ、彼女。ライナに先を越されたことが無性に悔しいのだとさ」

「大人気ねえなぁ……選り好みしなけりゃあいつも難しくはないだろうに」

「目標が高いのは、それはそれで良いことさ」

「組織としては独り身でいてくれたほうが助かるからって適当言ってやがる」

「はっはっは」

 

 こうして色々な人と話していると、俺とライナが結婚することに関してはさほど驚かれていないのが印象的だった。

 それだけ周りからは“くっつくんだろうな”と思われていたのだろう。俺も薄々気付いてはいたが……正直そこまでとは思っていなかったので驚いている。

 バルガーからはちょくちょく“いつ結婚するんだよ”ってせっつかれてはいたんだが。

 

「で、話ってのは式の話かね? だったら是非ギルドで挙げると良い。モングレルとライナの二人だったらみんな快く祝ってくれるだろう。賑やかなパーティーになる」

「ああ、まぁそれも頼もうと思ってたんすよ。知り合いも多いし、やるならギルドで」

 

 ギルドは相互扶助の一環として、ギルドマンの冠婚葬祭についても格安で請け負ってくれている。まぁギルドの酒場を使って祝ってくれたり、神殿での費用を一部受け持ってくれたりとかそういう感じのだな。

 ライナはレゴールではギルド関係の知り合いが多いのもあるので、二人で話し合ってギルドでやってもらうことにした。

 

「あとは……家の地下工事のために人を雇いたいんだけど。ジェルトナさん、こういうのってどっか詳しい人いる?」

「地下工事?」

「せっかく自分の家を手に入れるんだからさ、最初だし色々やりたいんだよ。だからまず地下に氷室でも作ろうと思ってね」

「……お前はまた大胆というか……地下の工事は安くないぞ?」

「金のことは抜きにして、って話さ」

「まぁモングレルならどうとでもなるんだろうが……氷室は規模によっては排水機構も必要になるからね。大きさによっては物件と下水道の位置関係の確認をしなくちゃならんだろうし、それ含め工事に詳しい人間に聞いてみるしかない。……腕の良い業者なら紹介できるぞ? うちの娘の領分だからね。まあ、今は忙しそうにしてるから、工期がどうなるかはわからないが……」

「へえ、ユリアはそこらへんに顔が利くのか。なんかイメージ通りだ」

 

 ユリアはジェルトナさんの一人娘である。ユリアが商業ギルドに勤めているのは聞いていたが、そうか。土建にも関わっているのか……。

 元々スラムでガキどもを連れてブイブイ言わせてたから、不思議と違和感はない。

 

「話を戻すが、相応の金はかかる。娘が関わる以上、冷やかしは許さんぞ」

「おお怖い。大丈夫大丈夫、俺も貯蓄はあるからな。それにこれから若い奥さんを支えていくんだ。今まで以上に稼いでいかなきゃなんねえからさ……」

 

 俺は首にかけた草臥れたブロンズの認識票を外し、テーブルに置いた。

 

「シルバーの昇格試験を受けさせてくれよ、ジェルトナさん」

「……驚いた。まさかモングレルの口からそんな台詞が聞けるとは……」

「レアだろ。……まぁ、国際情勢も安定してるってのもあるけどさ。家まで持っちまったら、自分の城を守るために……負わなきゃいけないっしょ。責任ってのもさ」

 

 今まで俺がブロンズ3をキープしてきたのは、徴兵の際に前線に回されるのが嫌だったからだ。

 ハーフが前線に送られると何をされるかわかったもんじゃない。

 敵のド真ん中に送り出されるならともかく、後ろから撃たれるのも恐ろしい。

 

 だから今までずっと昇格を拒み続けてきたのだが……今はサングレール聖王国との関係も、かなり落ち着いてきている。

 タカ派の連中も大部分が消え去ったし、融和が進んでいくはずだ。

 だからまあ、色々と丁度いいのだ。別に俺はブロンズって素材に執着したりアイデンティティを持ってるわけじゃない。キャラ付けとしてはかなり長かったけどな……。

 

「ふむ……昇格試験か……」

 

 そう呟くと、ジェルトナさんはおもむろに席を立って部屋から出ていった。

 ……臨時で試験をやってくれんのかな? だとしたらありがてえや。現役シルバー十人抜きくらいなら喜んでやってやるぜ俺は。

 

 なんてことを考えていると、さほど間を開けずにジェルトナさんが戻ってきた。

 その手には一個の認識票が。

 

「はい。シルバー1昇格おめでとう、モングレル君」

「……ええ……?」

 

 シルバー認識票だった。

 ……うわっ。しかも既に裏面に俺の名前刻印されてんじゃねえか!? キモッ! 用意してあったやつかよこれ!?

 

「いやジェルトナさん、試験やれよ! 頼むって、公的機関なんだからちゃんと段階踏んでくれよ! 役所でもそうだったけど怖いんだってこういうの!」

「何をわけのわからないことを言ってるんだ……モングレルにシルバーの試験はいらんでしょ……こっちはずっと前から昇格しろって言い続けてたんだから、元々準備は出来てたんだよ。むしろ言い出すのが遅いくらいだ」

「ていうかこれどこに保管してたんだよ……?」

「ミレーヌの机」

「こええよ……今までの昇格しますかっていうミレーヌさんの軽口全部本気のやつじゃん……」

「ミレーヌも喜んでいたよ」

「嬉しいよりも若干ホラーが上回ってるんだわ……」

 

 こうして俺は申請だけでシルバーランクに昇格したのであった。

 

 ……家を貰ったのとライナと婚約したのとシルバーに昇格したのが全部二十四時間以内に収まってるんだが?

 どういうこったよ……巻きすぎだろ……もしかして既に俺の人生のエンディングが始まってるんじゃないだろうな……?

 





コミックス第4巻が6月26日に発売されるバッソマンが、次に来るマンガ大賞にもノミネートできるようです。
皆さんの清き一票と薄汚い一票を是非ともバッソマンにください。

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